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紅い雨」(2006/11/29 (水) 18:52:21) の最新版変更点

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紅「なにかしら。急に呼び出したりして?」<br> 私は、そういいながらジュンの家の玄関に入る。<br> ジ「やっとドレスが完成してな。<br>   お前に一番に見せたくて」<br> 紅「あら、ようやく、下僕らしくなってきたわね。<br>   何事も主人を一番に考えなさい」<br> ジ「たくっ、いつお前の下僕になったんだよ。だいたい……」<br> 階段を昇りながら、ジュンは、ブツブツ独り言をつぶやく。<br> ジュンは彼の部屋のドアノブに手をかけて、立ち止まる。<br> ジ「本当に、傑作なんだからな。<br>   すごい苦労したんだからな。<br>   まず、素材の――」<br> 紅「苦労話はどうでもいいから、見せて頂戴」<br> 長くなりそうなので、私は口を挟んだ。<br> 彼は、もったいぶって言う。<br> ジ「なぁ、もうちょっとタメを作ってもいいじゃないか?<br>   このドレスを作る時の苦労とか語らせてくれよ?」<br> 紅「ドレスの出来次第では、あとで聞いてあげるから<br>   もったいぶらずにさっさと見せなさい」<br> ジ「ちぇ、はいはい」<br> そういいながら、ジュンはドアを開ける。<br> そこにあったのは、美しいそして、どこか優しい感じがする紅のドレス。<br> 紅に、様々な赤が複雑に絡み合っている。<br> 赤は、それぞれ微妙に彩度や明度、透明度が異なっていて、<br> それは一層紅を引き立てている。<br> なんとなく懐かしい、と感じる。<br> どこかで、見たことがあるのだろうか?<br> ジュンのオリジナルといっていたから、それはないか。<br> <br> ジ「名前は、“紅い雨”」<br> 彼は自信満々の声でそういったが、私は眉をひそめた。<br> 紅「ちょっと、ジュン。あなたセンスないのではなくて?」<br> ジ「な、なんでだよ?いきなり」<br> 紅「“紅い雨”なんて、惨劇みたいな名前なんて、<br>   ちょっとおかしいわよ?」<br> ジ「な、なんだよ。お前覚えてないのか?」<br> 紅「覚えてない?……何を?」<br> いきなり、覚えてないのかといわれても困る。<br> 私は、何を問われているのだかわからない。<br> 彼は苛立ったように言った。 <br> ジ「いいよ、もう。<br>   お前にドレスあげようと思ってたけど、お前にはもったいない。」<br> 紅「あら、そんな不吉そうな名前のドレスこっちから願い下げだわ。」<br> ジ「お前なんかにわかってたまるか!<br>   ああ、そうだ、雛苺に上げよう。<br>   そうと決まれば、胸のサイズも変更しておかなきゃな。<br>   お前と違って、まな板じゃないし!」<br> 私は気付いたら、ジュンを思いっきり殴って家の外に出ていた。<br> <br> 雛苺は、彼の通う専門学校の絵画コースに所属する女の子だ。<br> 子どもっぽい思考とは裏腹に、非常に……その……グラマーなのだ。<br> 正直なところ……うらやましいほどだ。<br> ジュンとは、道は違うけれども、同じ芸術家ということで、<br> お互い芸術に関することを相談していると、彼は言っていた。<br> 銀「あらぁ、真紅ぅ。どうしたの?浮かない顔して?」<br> 幼馴染の水銀燈が声をかけてきた。<br> 私は、さっきのことを話した。<br> すると、彼女は、意外そうな顔で言った。<br> 銀「あらぁ……赤い雨、覚えてないの?<br>   うそでしょう、あなたが在ると証明したじゃなぁい?」<br> 紅「私が?ちょっと待ちなさい。私は、血みどろの争いなどしたことがないわ」<br> 銀「……ほんとに、忘れているのねぇ。ジュン、かわいそうぉ」<br> 水銀燈は、かわいそうという割には少し笑ってる。<br> 紅「あなたは、赤い雨を知ってるのね。教えなさい」<br> 銀「やぁよ。仲直りしたいのなら、<br>   真紅自身で、もう一度証明しなおすことねぇ。<br>   幸いに、すぐ見れるかもねぇ?<br>   天気予報では、夕立があるそうだしぃ」<br> 紅「私は、別に仲直りなんて……」<br> <br> 銀「素直じゃないわねぇ。<br>   真紅がいらないのなら、ジュンは水銀燈にちょうだぁい?」<br> 水銀燈は、怪しく微笑んだ。<br> 私は、水銀燈の質問には答えず、質問を返す。<br> 紅「……本当に、赤色の雨は降るの?」<br> 銀「だから、あなたが過去に証明したわよ。<br>   雨の中、色々探してみることね。<br>   じゃあねぇ、真紅」<br> そういって彼女は立ち去った。<br> 私が、赤い雨の存在を証明した?<br> すくなくとも、私の記憶には存在していない。<br> 彼女が言うとおり、本当に忘れてしまったのだろうか?<br> はたまた、彼女に担がれているだけなのだろうか。<br> いや、彼女は人をからかうのが大好きだけれども、<br> こんな嘘をつく人でもない。<br> 探してみようかしら。赤い雨。<br> そうと決まれば、傘を取ってこなきゃ。<br> <br> ジ「イテテ……まだ痛むよ。ったく、本気で殴りやがって」<br> しかし、アイツが忘れてるなんて……。<br> 真紅にとってどうでもいい日常の一コマだったのか?あの時のことは。<br> 真紅のために作った、ドレス“紅い雨”。<br> 本当に、綺麗に作れたのに……。<br> どこが気に入らなかったんだよ。アイツは。<br> 雛苺に聞いてみようか。<br> 僕は雛苺に電話をかける。<br> 雛「もしもしなのー」<br> ジ「もしもし。雛苺か。ジュンだけど」<br> 雛「ジュン。あのドレス完成したの?<br>   どうだったの?真紅気に入ってくれたの?」<br> ジ「それがさ、気に入ってくれなくて……。<br>   本当に、すごいいい出来のはずなんだけどな」<br> 僕は、視線をドレスに移す。<br> うん。どうみても傑作だ。作者の色眼鏡は入ってないよな。<br> 雛「真紅、帰っちゃったの?」<br> ジ「ああ、ちょっと喧嘩しちゃって……。<br>   本気で殴られた。まだ痛む」<br> 雛「ジュン、余計なこと言ったりしなかったのー?」<br> ジ「なんだよ?余計なことって?」<br> 雛「真紅を怒らせるようなことなの」<br> ジ「う……言った」<br> 雛「真紅、赤い雨覚えてたの?」<br> ジ「……いや、覚えてなかった」<br> あの時はカッとなったけど、今そのことを思うと悲しくなる。<br> 僕にとっては大切な記憶だったのに……。<br> <br> 雛「ジュン、ちゃんと聞いてね。<br>   作品を作る人は、思いを込めて作品を作るの。<br>   見る人は、作品からその思いを読み取るの」<br> ジ「……でも、僕のドレスの思いは読み取ってもらえなかった。」<br> 雛「ヒナもジュンもまだまだヘタなの。<br>   だから、わかってもらえないの。<br>   だけど、真紅に思いを伝える方法は、<br>   なにも作品を見てもらうことだけじゃないの」<br> ジ「言葉で直接……か?」<br> 雛「そうなの。大切な思いはちゃんと伝えないといけないの!」<br> ジ「でも、真紅は――」<br> 真紅は、僕にとっては大切な記憶を忘れた。<br> それが、仕方のないことなのは、分かる。<br> けれども僕は、それでも悲しい。<br> 彼女がそんなこと思っていないのも知ってるのだけれど、<br> 記憶のないということは、僕に興味のないといってるように聞こえる。<br> 雛「ジュン、あのね、記憶も、かすれることがあるの。<br>   けれども、大切な記憶はきっと思い出すの。<br>   ジュン、赤い雨の証拠持ってるの?」<br> ジ「あぁ、持ってる」<br> 真紅がくれた大事なものだ。ちゃんと保管している。<br> 雛「真紅に見せるの!きっとそれをみたらドレスも気に入ってくれるの!」<br> ジ「……思い出すかな?」<br> 雛「ジュンもあの時証拠見て思い出したの!真紅もきっと思い出すの!」<br> ジ「そっか。そうだよな。雛苺、ありがとう」<br> 雛「さ、真紅のところに行ってくるの。<br>   ヒナがお手伝いしたドレス、ちゃんと着せてくるの!」<br> ジ「あぁ、行ってくる」<br> <br> 赤い雨を探すといっても、直接的な手がかりはなにもない。<br> 水銀燈との会話から分かってるのは、雨が降っている時と、<br> 過去に経験しているということぐらいだ。<br> とりあえず、小学校のほうに行こうか。<br> 昔の記憶が甦るかもしれない。<br> 久々に小学校に向かう。<br> 懐かしいな。よくあそこの中庭で、ジュン達と集まって遊んだっけ。<br> 色々な、懐かしいことを思い出すけれど、<br> 肝心の赤い雨については、さっぱり思い出さない。<br> ジュンが怒ったのも、その記憶が大事なものだったからだろう。<br> 私は、そんな記憶を忘れてしまったのかと思うと、少し悲しくなる。<br> そうこうしているうちに雨が降ってきた。<br> 雨の眺めてると、小さいころ、雨の中を必死に走り回ってる記憶が戻ってきた。<br> 必死で続きを思い出す。そう、向かったのは小学校の裏山。<br> <br> 真紅を探すといっても、どこにいるかさっぱりわからない。<br> ケータイにかけても、電源を切ってるし、<br> 家を訪ねても、傘を持って出かけたというし。<br> ふいにケータイがなる。<br> ジ「真紅?」<br> 銀「あら、残念。水銀燈よぉ」<br> ジ「水銀燈か。ゴメン。今忙しいんだ。<br>   あとでかけ直す。」<br> と、電話を切ろうとすると、意外な言葉が聞こえた。<br> 銀「真紅の居場所、知ってるわよ」<br> ジ「本当か?教えてくれ」<br> 銀「今ごろ、小学校の裏山に向かってるはずよぉ。<br>   運がよければ、赤い雨、見れるかもね」<br> ジ「ありがとう、水銀燈」<br> 銀「がんばってきなさい。じゃあねぇ」<br> <br> 私は、裏山の展望台についた。<br> けれども、赤い雨については何も分からない。<br> あの記憶は、違う記憶だったの?<br> 急に不安になる。<br> 空を見上げると、雲間に空が見える。<br> 夕立が止みそうだ。<br> 結局私は、赤い雨を見つけることができなかった。<br> ジュンは、許してくれるだろうか?<br> 彼にとって大切な思い出を忘れた私を。<br> そんなことを考えてると<br> ふいに、赤い光が差した。そちらを見ると、<br> 紅を中心として、さまざまな赤が折り重なった、幻想的な展望があった。<br> そう、夕日に照らされて、雨が赤色に染まる。<br> 雨の赤は、夕日の紅を一層引き立てる。<br> 凛とした光、けれども、どこか優しい光。<br> そうか、これが赤い雨。<br> <br> 僕は、裏山を駆け上る。<br> 普段、運動をしていないので、かなりキツい。<br> 心臓が痛い。足が折れそう。<br> けれど、真紅に早く会いたい。<br> 展望台に付き、あたりを見回すと真紅がいた。<br> 僕の荒い呼吸に気付いたのか、真紅がコッチにくる。<br> 紅「ジュン」<br> ジ「真紅……思い出したか?」<br> 紅「あなたは、まず、呼吸を整えなさい。」<br> 僕と真紅は黙って、赤い雨を眺める。<br> 紅「ジュン、さっきは悪かったわね。<br>   赤い雨が惨劇みたいとかいったりして」<br> ジ「いや、別にかまわない。<br>   知らない人が聞けば、そうだろうし。<br>   僕も悪かったよ。<br>   覚えてないってだけでカッとなって。」<br> 少しの間、雨音だけが流れる。<br> 紅「ねぇ、ジュン。<br>   赤い雨自身は思い出したのだけれども、<br>   私が赤い雨を証明したこと思い出せてないのよ。<br>   教えてくれるかしら。」<br> 赤い雨で思い出してくれないのは、少し悲しいけれども、仕方がない。<br> <br> ジ「小学校のころ、僕が図工の時間になんとなく覚えてた赤い雨を書いてさ、<br>   それで先生に、雨が赤いわけないだろ、真面目にやれって怒られて、<br>   真紅が、赤い雨の証拠写真、撮ってきたって話。」<br> 紅「ああ、そういえばあったわね。<br>   思い出してきたわ。」<br> ジ「僕は、感謝してるんだぞ?<br>   誰も信じてくれなかったけど、真紅だけは信じてくれたから。」<br> 紅「そう。」<br> 彼女は、少し頬を赤らめた。<br> 僕は一番聞きたかったことを聞いてみた。<br> ジ「真紅は、あのドレスもらってくれるか?」<br> 紅「私に似合うかしら?」<br> ジ「お前のために作ったドレスだから、きっとよく似合うよ。」<br> 紅「じゃあ、あなたの家にいきましょうか」<br> そういいながら、傘を閉じて、こっちへくる。<br> ジ「なんだよ?」<br> 紅「傘を差すのに、疲れてしまったのだわ。<br>   下僕として、主人のために、傘をさしなさい」<br> ジ「はいはい」<br> 僕は真紅と、一緒に僕の家へ向かった。<br> ドレス“紅い雨”は、真紅にとてもよく似合っていた。<br> ジ「よく似合ってるぞ」<br> 僕が声をかけると、将来、結婚式で使うことになる“紅い雨”を<br> 着た真紅は幸せそうに微笑んだ。<br> <br>
紅「なにかしら。急に呼び出したりして?」<br> 私は、そういいながらジュンの家の玄関に入る。<br> ジ「やっとドレスが完成してな。<br>   お前に一番に見せたくて」<br> 紅「あら、ようやく下僕らしくなってきたわね。<br>   その調子でこれからも主人のことを一番に考えなさい」<br> ジ「たくっ、いつからお前の下僕になったんだよ。だいたい……」<br> 階段を昇りながら、ジュンは、ブツブツ独り言をつぶやく。<br> ジュンは彼の部屋のドアノブに手をかけて、立ち止まる。<br> ジ「本当に傑作なんだからな。<br>   すごい苦労したんだからな。<br>   まず素材の――」<br> 紅「苦労話はどうでもいいから見せて頂戴」<br> 長くなりそうなので、私は口を挟んだ。<br> 彼はもったいぶって言う。<br> ジ「なぁ、もうちょっとタメを作ってもいいじゃないか?<br>   このドレスを作る時の苦労とか語らせてくれよ?」<br> 紅「ドレスの出来次第ではあとで聞いてあげるから。<br>   もったいぶらずにさっさと見せなさい」<br> ジ「ちぇ、はいはい」<br> そういいながら、ジュンはドアを開ける。<br> そこにあったのは美しく、そしてどこか優しい感じがする紅のドレス。<br> 紅に、様々な赤が複雑に絡み合っている。<br> 赤は、それぞれ微妙に彩度や明度、透明度が異なっていて、<br> それは一層紅を引き立てている。<br> なんとなく懐かしい、と感じる。<br> どこかで見たことがあるのだろうか?<br> ジュンのオリジナルといっていたからそれはないか。<br> <br> ジ「名前は、“紅い雨”」<br> 彼は自信満々の声でそういったが、私は眉をひそめた。<br> 紅「ちょっと、ジュン。あなたセンスないのではなくて?」<br> ジ「な、なんでだよ?いきなり」<br> 紅「“紅い雨”なんて、惨劇みたいな名前なんて、<br>   ちょっとおかしいわよ?」<br> ジ「な、なんだよ。お前覚えてないのか?」<br> 紅「覚えてない?……何を?」<br> いきなり覚えてないのかといわれても困る。<br> 私は何を問われているのだかわからない。<br> 彼は苛立ったように言った。 <br> ジ「いいよ、もう。<br>   お前にドレスあげようと思ってたけど、お前にはもったいない。」<br> 紅「あら、そんな不吉そうな名前のドレスこっちから願い下げだわ。」<br> ジ「お前なんかにわかってたまるか!<br>   ああ、そうだ、雛苺に上げよう。<br>   そうと決まれば、胸のサイズも変更しておかなきゃな。<br>   お前と違って、まな板じゃないし!」<br> 私は気付いたら、ジュンを思いっきり殴って家の外に出ていた。<br> <br> 雛苺は、彼の通う専門学校の絵画コースに所属する女の子だ。<br> 子どもっぽい思考とは裏腹に、非常に……その……グラマーなのだ。<br> 正直なところ……うらやましいほどだ。<br> ジュンとは、道は違うけれども、同じ芸術家ということで、<br> お互い芸術に関することを相談していると、彼は言っていた。<br> 銀「あらぁ、真紅ぅ。どうしたの?浮かない顔して?」<br> 幼馴染の水銀燈が声をかけてきた。<br> 私は、さっきのことを話した。<br> すると、彼女は、意外そうな顔で言った。<br> 銀「あらぁ……赤い雨、覚えてないの?<br>   うそでしょう、あなたが在ると証明したじゃなぁい?」<br> 紅「私が?ちょっと待ちなさい。私は、血みどろの争いなどしたことがないわ」<br> 銀「……ほんとに、忘れているのねぇ。ジュン、かわいそうぉ」<br> 水銀燈は、かわいそうという割には少し笑ってる。<br> 紅「あなたは赤い雨を知ってるのね。教えなさい」<br> 銀「やぁよ。仲直りしたいのなら、<br>   真紅自身で、もう一度証明しなおすことねぇ。<br>   幸いに、すぐ見れるかもねぇ?<br>   天気予報では、夕立があるそうだしぃ」<br> 紅「私は、別に仲直りなんて……」<br> <br> 銀「素直じゃないわねぇ。<br>   真紅がいらないのなら、ジュンは水銀燈にちょうだぁい?」<br> 水銀燈は、怪しく微笑んだ。<br> 私は、水銀燈の質問には答えず、質問を返す。<br> 紅「……本当に、赤色の雨は降るの?」<br> 銀「だから、あなたが過去に証明したわよ。<br>   雨の中、色々探してみることね。<br>   じゃあねぇ、真紅」<br> そういって彼女は立ち去った。<br> 私が、赤い雨の存在を証明した?<br> すくなくとも、私の記憶には存在していない。<br> 彼女が言うとおり、本当に忘れてしまったのだろうか?<br> はたまた、彼女に担がれているだけなのだろうか。<br> いや、彼女は人をからかうのが大好きだけれども、<br> こんな嘘をつく人でもない。<br> 探してみようかしら。赤い雨。<br> そうと決まれば、傘を取ってこなきゃ。<br> <br> ジ「イテテ……まだ痛むよ。ったく、本気で殴りやがって」<br> しかし、アイツが忘れてるなんて……。<br> 真紅にとってどうでもいい日常の一コマだったのか?あの時のことは。<br> 真紅のために作った、ドレス“紅い雨”。<br> 本当に、綺麗に作れたのに……。<br> どこが気に入らなかったんだよ。アイツは。<br> 雛苺に聞いてみようか。<br> 僕は雛苺に電話をかける。<br> 雛「もしもしなのー」<br> ジ「もしもし。雛苺か。ジュンだけど」<br> 雛「ジュン。あのドレス完成したの?<br>   どうだったの?真紅気に入ってくれたの?」<br> ジ「それがさ、気に入ってくれなくて……。<br>   本当に、すごいいい出来のはずなんだけどな」<br> 僕は、視線をドレスに移す。<br> うん。どうみても傑作だ。作者の色眼鏡は入ってないよな。<br> 雛「真紅、帰っちゃったの?」<br> ジ「ああ、ちょっと喧嘩しちゃって……。<br>   本気で殴られた。まだ痛む」<br> 雛「ジュン、余計なこと言ったりしなかったのー?」<br> ジ「なんだよ?余計なことって?」<br> 雛「真紅を怒らせるようなことなの」<br> ジ「う……言った」<br> 雛「真紅、赤い雨覚えてたの?」<br> ジ「……いや、覚えてなかった」<br> あの時はカッとなったけど、今そのことを思うと悲しくなる。<br> 僕にとっては大切な記憶だったのに……。<br> <br> 雛「ジュン、ちゃんと聞いてね。<br>   作品を作る人は、思いを込めて作品を作るの。<br>   見る人は、作品からその思いを読み取るの」<br> ジ「……でも、僕のドレスの思いは読み取ってもらえなかった。」<br> 雛「ヒナもジュンもまだまだヘタなの。<br>   だから、わかってもらえないの。<br>   だけど、真紅に思いを伝える方法は、<br>   なにも作品を見てもらうことだけじゃないの」<br> ジ「言葉で直接……か?」<br> 雛「そうなの。大切な思いはちゃんと伝えないといけないの!」<br> ジ「でも、真紅は――」<br> 真紅は、僕にとっては大切な記憶を忘れた。<br> それが、仕方のないことなのは、分かる。<br> けれども僕は、それでも悲しい。<br> 彼女がそんなこと思っていないのも知ってるのだけれど、<br> 記憶のないということは、僕に興味のないといってるように聞こえる。<br> 雛「ジュン、あのね、記憶も、かすれることがあるの。<br>   けれども、大切な記憶はきっと思い出すの。<br>   ジュン、赤い雨の証拠持ってるの?」<br> ジ「あぁ、持ってる」<br> 真紅がくれた大事なものだ。ちゃんと保管している。<br> 雛「真紅に見せるの!きっとそれをみたらドレスも気に入ってくれるの!」<br> ジ「……思い出すかな?」<br> 雛「ジュンもあの時証拠見て思い出したの!真紅もきっと思い出すの!」<br> ジ「そっか。そうだよな。雛苺、ありがとう」<br> 雛「さ、真紅のところに行ってくるの。<br>   ヒナがお手伝いしたドレス、ちゃんと着せてくるの!」<br> ジ「あぁ、行ってくる」<br> <br> 赤い雨を探すといっても、直接的な手がかりはなにもない。<br> 水銀燈との会話から分かってるのは、雨が降っている時と、<br> 過去に経験しているということぐらいだ。<br> とりあえず、小学校のほうに行こうか。<br> 昔の記憶が甦るかもしれない。<br> 久々に小学校に向かう。<br> 懐かしいな。よくあそこの中庭で、ジュン達と集まって遊んだっけ。<br> 色々な、懐かしいことを思い出すけれど、<br> 肝心の赤い雨については、さっぱり思い出さない。<br> ジュンが怒ったのも、その記憶が大事なものだったからだろう。<br> 私は、そんな記憶を忘れてしまったのかと思うと、少し悲しくなる。<br> そうこうしているうちに雨が降ってきた。<br> 雨の眺めてると、小さいころ、雨の中を必死に走り回ってる記憶が戻ってきた。<br> 必死で続きを思い出す。そう、向かったのは小学校の裏山。<br> <br> 真紅を探すといっても、どこにいるかさっぱりわからない。<br> ケータイにかけても、電源を切ってるし、<br> 家を訪ねても、傘を持って出かけたというし。<br> ふいにケータイがなる。<br> ジ「真紅?」<br> 銀「あら、残念。水銀燈よぉ」<br> ジ「水銀燈か。ゴメン。今忙しいんだ。<br>   あとでかけ直す。」<br> と、電話を切ろうとすると、意外な言葉が聞こえた。<br> 銀「真紅の居場所、知ってるわよ」<br> ジ「本当か?教えてくれ」<br> 銀「今ごろ、小学校の裏山に向かってるはずよぉ。<br>   運がよければ、赤い雨、見れるかもね」<br> ジ「ありがとう、水銀燈」<br> 銀「がんばってきなさい。じゃあねぇ」<br> <br> 私は、裏山の展望台についた。<br> けれども、赤い雨については何も分からない。<br> あの記憶は、違う記憶だったの?<br> 急に不安になる。<br> 空を見上げると、雲間に空が見える。<br> 夕立が止みそうだ。<br> 結局私は、赤い雨を見つけることができなかった。<br> ジュンは、許してくれるだろうか?<br> 彼にとって大切な思い出を忘れた私を。<br> そんなことを考えてると<br> ふいに、赤い光が差した。そちらを見ると、<br> 紅を中心として、さまざまな赤が折り重なった、幻想的な展望があった。<br> そう、夕日に照らされて、雨が赤色に染まる。<br> 雨の赤は、夕日の紅を一層引き立てる。<br> 凛とした光、けれども、どこか優しい光。<br> そうか、これが赤い雨。<br> <br> 僕は、裏山を駆け上る。<br> 普段、運動をしていないので、かなりキツい。<br> 心臓が痛い。足が折れそう。<br> けれど、真紅に早く会いたい。<br> 展望台に付き、あたりを見回すと真紅がいた。<br> 僕の荒い呼吸に気付いたのか、真紅がコッチにくる。<br> 紅「ジュン」<br> ジ「真紅……思い出したか?」<br> 紅「あなたは、まず、呼吸を整えなさい。」<br> 僕と真紅は黙って、赤い雨を眺める。<br> 紅「ジュン、さっきは悪かったわね。<br>   赤い雨が惨劇みたいとかいったりして」<br> ジ「いや、別にかまわない。<br>   知らない人が聞けば、そうだろうし。<br>   僕も悪かったよ。<br>   覚えてないってだけでカッとなって。」<br> 少しの間、雨音だけが流れる。<br> 紅「ねぇ、ジュン。<br>   赤い雨自身は思い出したのだけれども、<br>   私が赤い雨を証明したこと思い出せてないのよ。<br>   教えてくれるかしら。」<br> 赤い雨で思い出してくれないのは、少し悲しいけれども、仕方がない。<br> <br> ジ「小学校のころ、僕が図工の時間になんとなく覚えてた赤い雨を書いてさ、<br>   それで先生に、雨が赤いわけないだろ、真面目にやれって怒られて、<br>   真紅が、赤い雨の証拠写真、撮ってきたって話。」<br> 紅「ああ、そういえばあったわね。<br>   思い出してきたわ。」<br> ジ「僕は、感謝してるんだぞ?<br>   誰も信じてくれなかったけど、真紅だけは信じてくれたから。」<br> 紅「そう。」<br> 彼女は、少し頬を赤らめた。<br> 僕は一番聞きたかったことを聞いてみた。<br> ジ「真紅は、あのドレスもらってくれるか?」<br> 紅「私に似合うかしら?」<br> ジ「お前のために作ったドレスだから、きっとよく似合うよ。」<br> 紅「じゃあ、あなたの家にいきましょうか」<br> そういいながら、傘を閉じて、こっちへくる。<br> ジ「なんだよ?」<br> 紅「傘を差すのに、疲れてしまったのだわ。<br>   下僕として、主人のために、傘をさしなさい」<br> ジ「はいはい」<br> 僕は真紅と、一緒に僕の家へ向かった。<br> ドレス“紅い雨”は、真紅にとてもよく似合っていた。<br> ジ「よく似合ってるぞ」<br> 僕が声をかけると、将来、結婚式で使うことになる“紅い雨”を<br> 着た真紅は幸せそうに微笑んだ。<br> <br>

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