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寝過ごし蒼と翠1」(2006/05/27 (土) 10:53:55) の最新版変更点

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……ん?<br>  僕はふと目を覚ます。<br>  瞼が開ききらないままゆっくりとあたりを見回す。<br> <br>  電車の中のようだ。<br>  窓の外は暗く、車内にはほとんど人がいない。<br>  ロングシートの座席には僕を含めて2・3人が座っているだけだ。<br>  座席の横を見ると、そこには翠星石が僕にもたれかかるようにして眠っていた。<br> <br>  ――確か家に帰る途中で電車に乗って……そのまま寝ちゃったのか……。<br> <br>  夕方、僕と姉の翠星石で高校時代の同窓会に行った。<br>  会場は横浜の飲み屋で、10時半まで盛り上がってそれなりに楽しかった。<br>  ただ、翠星石が調子に乗ってポン酒を一升近く一気にあおったものだから、完全に酔いつぶれてしまった。<br>  もっとも僕も悪酔いした翠星石にワインだの、ビールだの一気に飲まされて、思わず吐きそうになるまで酔ったが。<br>  その後にカラオケ屋で2次会に行くはずだったのだが、僕らは二人ともそんな状態だったので当然パスだった。<br>  変な奇声をあげたり、ふらついて道に寝込みそうになったりする姉を抱えながらなんとか駅までたどり着き、<br> 5駅先の自宅まで帰ろうとして、電車に乗り込んだのだ。<br> <br>  そこまではなんとか覚えているのだが、そこから先の記憶がまったくない。<br>  どうやら席に座ると同時に眠ってしまったようだった。<br>  それは姉も一緒で、僕の横で静かに寝息を立てている。<br> <br> 『……まもなく、み……です。お出口は……』<br> <br>  車内のアナウンスがおぼろげに聞こえる。酔いが残っていて意識がぼんやりしているのか、完全には聞き取れない。<br>  窓の外を見ると、駅の照明が瞼に差し込んでくる。ただ、目がまだ霞んでいるため駅名の看板まではよく見えない。<br> <br>  ――どこだろ……ここ……。<br> <br>  やがて電車が停まり、ドアが開く。<br>  その先に広がっているのは暗いのでよく分からないがあまり見慣れない建物が立ち並んでいるのが見える。<br>  ふと駅の柱が目に入り、そこには駅名を示す看板が見えたと思ったら、途端にドアが閉まった。<br> <br>  そこに書かれていたのは……『みしま』という文字列。<br> <br>  ――みしま?降りる駅の途中にそんな駅は……?<br>  僕は途中にそんな駅があったかを寝ぼけた頭で思い返す。<br> <br>  ……って!三島?思い切り寝過ごしてるよ!<br> <br>  気付いた時には時既に遅し。<br>  電車は次の駅に向かって動き出していた。<br>  その時、窓の外をゆっくりと駅名の看板がゆっくりと進行方向とは逆に流れるのが見えたが、『みしま』<br> と書かれた文字の下に小さく『静岡県三島市』と書かれていたのを見逃さなかった……。<br> <br> 『次は終点沼津です。お出口は……』<br> <br>  慌てる僕に追い討ちを掛けるように、次の駅を案内するアナウンスがはっきりと聞こえた。<br> <br> 「ふぇ~、やっちまったです!って、ここどこですか?」<br> 「沼津だよ。まだ寝ぼけてるのかい?」<br>  翠星石は電車を降りて、ようやく事の重大さにはある程度気付いているものの、いまだに<br> 自分のいる場所が分かっていない。<br>  僕は丁度頭上にあった『ぬまづ』と書かれた駅名の看板を指差す。<br> 「うぇ~、頭いてえですぅ~……」<br>  だが、当の翠星石は看板に目をやるどころか、酔いによる頭痛で頭を抱えながら、時折ふ<br> らついているときている。<br> 「もう、しっかりしてよね」<br>  そんな彼女に肩を貸して、僕は反対方向へ向かう列車のホームに行こうと階段を下りた。<br> 「ううっ!何か気持ち悪いですぅ……てか、吐きそう……ですぅ……」<br>  咄嗟に口を手でふさぐ翠星石。<br> 「ちょっと!こんな所で吐かないでよね」<br>  僕はやや急ぎ足で階段を下りきった。そしてトイレの案内を見つけると半ば駆け足でその<br> 方向へと向かう。<br> 「は、走らねえでほしいです……我慢できねえです」<br> 「もうちょっとだから我慢して!」<br>  抗議の声をあげる翠星石を半ば引きずるようにして、トイレに駆け込む。<br>  個室に入った途端に……彼女は吐き戻した。<br> 「うえええ……」<br>  彼女の体の中に溜まっていたアルコールや胃の消化物が一気に便器に向かって吐き出される。<br>  僕はただ翠星石の背中をさすりながら、彼女がそれらを出し切るまで見守ることぐらいし<br> かできなかった。<br> <br>  十数分後。<br>  ようやくそれが収まるのを見届けてトイレを出た。ただ、翠星石自身は先程よりかましに<br> なったとはいえ、いまだに気持ち悪いらしい。時たま、えずきかけたりしている。<br> 「口の中が酸っぺえですぅ~」<br>  あんなに出したのだから口の中は酸っぱい胃酸が残っているはずだ。<br>  近くに自販機を見つけると、ミネラルウォーターを買って彼女に飲ませた。<br> <br>  ベンチに腰掛けてちびりちびりとミネラルウォーターを飲んでいる翠星石を横目にして、あたりを見回すと、時刻表が目に入った。<br>  僕はすかさず東京方面行きの列車の案内を見た。<br> <br>  最終列車は0時35分発の三島行き。<br>  今の時刻は1時47分……どう見ても即座に家に帰るのは無理に近かった。<br>  もっとも、2時56分に東京行きのムーンライトながらが発車するのだが、全車指定席の上、<br> 僕らの家の最寄駅には停車しない。しかも改札に聞いてみたものの、あいにく満席だということだった。<br>  ふと、JUM君か真紅か水銀燈か雪華綺晶あたりに迎えに来てもらおうかとも思ったが、距離<br> が遠すぎる。それ以前に時間が時間だ。迷惑極まりないだろう。<br>  どうやらタクシーで帰るか、4時55分の始発まで待たなければいけないようだ。<br> <br> <br> <br> <br>  でも、タクシーで帰るとなると……どれだけの金が掛かるか計り知れない。<br>  財布の中には一応1万円近くの現金とクレジットカードがあったが、正直払いきれるか分からない。<br> 「うう……汗ばんで気持ち悪いですぅ~。シャワー浴びてえですぅ」<br>  いまだに酔いが醒めないながらも、時折シャツの袖で額の汗をぬぐう翠星石。<br>  確かに今はかなり蒸し暑い時期だ。正直僕も彼女と同じ気分だ。<br>  コンビニか漫画喫茶あたりで夜を明かそうという気にはなれない。<br> 「ホテルに泊まろうか。ビジネスホテルだったら開いてるところもあるかもしれないし」<br> 「そうするですぅ」<br>  翠星石はペットボトルの水を一気に飲み干すと、ゆっくりと立ち上がり駅の外に出るように促す。<br>  改札で乗り越した料金を精算する。かなりの金額だったがそんなことは気にしていられない。<br> <br>  駅の外にはタクシーが数台停まっているだけで人の姿は見られない。<br>  周囲のビルの灯りもほとんど消えている。<br>  駅前にあった周辺の案内図を元に数件のビジネスホテルを回ってみたものの、やはり深夜<br> ということで受付を終了していたか、開いていても満室で泊まれなかった。<br> 「どうしよう。ホテルは全部だめだったね……始発までどこかで待つ?」<br> 「嫌ですぅ!早くシャワー浴びてえですぅ!」<br>  まるでお菓子を買ってもらえずにだだをこねる小さい子みたいだった。夜中に大声でわめき散らすからたまらない。<br> 「静かにしなよ。今何時だと思ってるの」<br> 「だってぇ~……」<br>  今にも泣き出しそうな顔で僕をただじっと見つめる翠星石。<br>  子供っぽい一面が彼女にはあるが、酔っぱらっている影響でそれが余計に出ている。<br>  酒の力は本当にすごいものだと思ってしまう。<br>  とにかく他に泊まれる所は無いかととおりを適当に歩くことにした。<br> <br>  すると、数軒のホテルが立ち並んでいるのが見えた。駅の案内図には無かったやつだった。<br>  一見した感じ、営業しているようだった。<br>  しかし、外見が何となくビジネスホテルとは違っていた。やや派手な感じのネオンがあったり、<br> 宿泊料金の他に休憩料金、さらにサービスタイムなんかが記された案内看板があったりする点で<br> 違和感を誘う。<br>  だがこれ以上歩き回らせたら暴れるぞとでも言いたげな翠星石の視線を目にすると、四の五も<br> 言ってられない雰囲気なので、僕らはさっさとそれらの建物の内の一つに入る。<br> <br>  玄関の奥はロビーらしき広い部屋になっていた。<br>  観葉職ブチとか待合用のソファーやテーブルとかが整然と置かれている。<br>  フロントらしきカウンターはあったのだが……これまでまわったビジネスホテルと違って、<br> 従業員の姿が無い。<br> <br>  そして何より、カウンターの横には部屋の内部を写した写真のパネルが並んでいる。<br>  そのパネルは後ろから照明で照らされて明るくなっているやつとそうでないやつがあって<br> ……その右下隅には押しボタンが付いている。<br>  これらを見た途端、この建物が何か分かった。<br> <br>  ラブホテルだよ、これ!<br> <br> 「さすがにラブホテルは気まずいよ」<br>  僕は思っていることを即座に口にする。そして入口の方へ引き返そうとした。<br> 「もうラブホでもなんでもいいですぅ!とにかく行くですぅ!」<br>  思わず翠星石の方を振り返ると、彼女はすでに……ボタンの1つを押していた。<br>  パネル群の上には部屋への案内の矢印の電光看板が点滅していた。<br>  どうやら空室になっているボタンを押したらしかった。<br>  仕方ないな、まったく。<br>  僕は翠星石に引っ張られるようにして、彼女が押した部屋のある階までエレベーターで行き、<br> 電光看板の案内に従ってその部屋に入った。<br> <br>                            - to be continued -<br>

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