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「『初恋の風が吹く頃に』」(2006/02/28 (火) 19:01:06) の最新版変更点
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<p>『初恋の風が吹く頃に』</p>
<p>
生まれてから一度も、恋をしたことがなかった。好きになれる男の子が<br>
いるとか、いないとかそういうことじゃない。ちょっぴり不安で、怖かった。<br>
早い話が、私は子供なのだ。恋に臆病な十七歳の乙女なのだ。<br>
雛「うにゅ~眠いのぉ。でも、お腹もすいたのぉ」<br>
金「どっちかにするかしらぁ~。本当に雛苺は子供かしらぁ」<br>
雛「ぷぅ~、雛は子供じゃないもん!」<br>
金「そうかしらぁ~?お子様の匂いが、プンプンしてくるかしらぁ」<br>
雛「そう言う、金糸雀の方こそお子様なのぉ~。だって雛は今、恋に夢中なんだから!」<br>
金「えっ?」</p>
<p>
私は、とても驚いていた。ずっと、自分よりも子供だと思っていた雛苺の口から<br>
『恋』なんて言葉が出てきたからだ。急に自分が、恥ずかしくなった。<br>
金「恋って……お魚の鯉かしらぁ?」<br>
雛「ち~が~う~のぉ!雛ね、好きな人がいるのぉ。もう夢中なのぉ!」<br>
金「それって、誰のことかしらぁ?」<br>
雛「え~とねぇ、う~んとねぇ、ジュンなのぉ!」<br>
ジュンという人は、眼鏡をかけたさえない男子だ。でも、ちょっと格好良い<br>
と思った瞬間も多々ある。いや、それよりも雛苺に好きな人がいることに<br>
私は、ショックを受けていた。このままだと、置いてかれてしまうような<br>
気がして、不安だった。<br>
思わず私は、その場から逃げるように立ち去った。<br>
雛「う~んとね、後、巴も蒼青石も、真紅もみんな好きなのぉ!…ってあれ?」</p>
<p>
薔薇学園NO1の天才に、不可能の文字はない!でもでも、やっぱり恋は<br>
苦手かしら。こう言う時こそ、大人の意見を聞く時。雛苺には負けてられない!<br>
まず手始めに、水銀燈の意見を聞いてみるかしら。<br>
水「どうしたのぉ?深刻な顔しちゃってぇ。痔にでもなった?」<br>
金「違うかしらぁ!実は、その……恋の仕方を教えて欲しいのかしら」<br>
水「恋の仕方ぁ?急にどうしちゃったのよぉ?」<br>
金「と、特に理由はないかしら。良いから、カナに教えて欲しいかしら」<br>
水「そうねぇ……。まず、トラヴィダ語をマスターしなさぁい」<br>
金「メモしなきゃかしらぁ。(トラヴィダ語…?)」<br>
水「その後ねぇ、少女漫画を最低でも、千冊は読みなさい。学校に来る時は<br>
必ず遅刻寸前で、パンを咥えなさい。後は…」<br>
金「ちょっと、ストップかしらぁー!真面目に応えて欲しいかしらぁ」<br>
やっぱり、冗談だった。昔はクールでちょい悪だった水銀燈も、今は薔薇水晶の<br>
影響で、おかしくなっちゃったかしら。</p>
<p>
気を取り直して、再度聞くと、水銀燈は急に真剣な顔をして、語りだした。<br>
水「恋っていうのはねぇ、簡単に説明すると男と女が(ここからは自主規制)」<br>
水「で、ああなって、(ピーーーーーー)するものなのよぉ?わかりましたかぁ?」<br>
金「ふむふむ……って、こんな卑猥なこと出来るわけないかしらぁ!」<br>
水「はい、授業料として、ヤクルト買ってきてちょうだぁい」<br>
金「おめぇに飲ませるヤクルトはねぇ!かしらぁ!」<br>
水銀燈は、やっぱり私を子供扱いしてる。悔しいけど、私が子供なのは<br>
認めざるをえない。恋って一体なんなのだろう?</p>
<p>
恋人ってなんなのだろう?友達でも、親でも、兄弟でもない。口にするのは簡単だけど、説明するのは難しいかもしれない。<br>
金「はあ……。恋ってなんなのかしらぁ。きゃあ!」<br>
突然、強い風が吹いた。スカートが風で揺れる。とっさに、めくれるスカートを<br>
押さえる。純潔な乙女としては、当然の行為だ。<br>
金「もう!なんてエッチな風かしらぁ!」<br>
蒼「あれ?金糸雀じゃないか。こんな時間まで学校にいるなんて、どうしたの?」<br>
金「蒼星石…。あの、その、たそがれていたのかしらぁ」<br>
蒼「クスッ。そうなんだ」<br>
どうしてだろう?彼女の笑顔を見た瞬間に、胸の奥が、ズキズキして<br>
それと同時に、ぽわぁん、ってする。もしかして、これが恋というものなのだろうか?<br>
蒼星石が私の隣に来る。部活が終わったあとだからか、ほんのりと汗の匂いがする。<br>
でも、なんだかとても良い匂い……。</p>
<p>
蒼「ねえ、見て?あの夕陽、とても切なくて、綺麗じゃない?」<br>
金「本当…かしらぁ…」<br>
夕陽なんかより、私は蒼星石を見ていた。夕陽に照らされるその整った顔は<br>
より一層、綺麗に映えていた。<br>
蒼「金糸雀、どうしたの?顔がなんか紅いよ?」<br>
金「ゆ、夕陽のせいで、そう見えるだけかしらぁ~」<br>
恋をする相手は、男の子は女の子にする。女の子は男の子にするものだと思っていた。<br>
でも、女の子が女の子に恋をしても、良いよね?<br>
蒼「もう、帰ろうか?このままいたら、夜になっちゃうし」<br>
金「も、もうちょっとだけ……こうしていたい。…かしらぁ」<br>
蒼「……金糸雀がそうしたいなら、もうちょっとだけいようか?」<br>
金「お願いします、かしらぁ~!」<br>
恋がなんなのか、わかった気がした。強い風が吹いたあの日、初めての恋をした。<br>
…完</p>
<p>「ついに……ついに恋しちゃったのかしらー!」<br>
バイオリンケースを右手にもったまま、両手でガッツポーズをとる。<br>
そして、体を上下左右にくねくねとねじった。<br>
――――でも。<br>
ぴた、と足が止まり、笑顔は徐々に憂いをおびていく。<br>
「相手は女の子、なのかしら……」<br>
項垂れると、今度は大きくため息を吐く。<br>
「で、でもでも、それでも……」<br>
そこで、言葉は途絶えた。<br>
金糸雀は、街灯が照らす道を再び歩き出す。<br>
今呟いてしまったことは、忘れてしまおう……。<br>
ふと空を見上げれば、そこには闇が広がっていて。<br>
さっき見た夕陽は、無い。<br>
当然のことなのにどこか虚しさを感じて、俯く。</p>
<p><br>
「ふっふっふ……この薔薇乙女一の才女、金糸雀もついに初恋しちゃったのかしらー!」<br>
「かなりあもなのー?」<br>
「だからやっぱり雛苺のほうが子供なのかしら!」<br>
「ぅぅー違うもんー」</p>
<p>
勝ち誇った笑みを浮かべていると、ふいに額に衝撃が与えられる。</p>
<p>
「痛……っ水銀燈! いきなりでこぴんするなんて酷いのかしらー!」<br>
「初恋ぐらいで自慢してるからよぉ。どうせ自慢するなら私ぐらい経験豊富じゃないとねぇ……?」<br>
「な……」<br>
「大体、自慢してる暇があったら実らせる努力でもしたらどぉ?」<br>
「み、実らせる……?」<br>
「うふふ、どうアタックすればいいのかわからないんでしょぉ? 私が教えてあげてもいいわよぉ」</p>
<p><br>
「ほ、ほん」とう? と言いかけて、昨日の嫌な記憶が甦る。<br>
「……その手にはひっかからないのかしら!」<br>
「あらぁ……そう。じゃぁまぁ、頑張ってねぇ」<br>
<br>
ひらひらと手を振り去っていく水銀燈。</p>
<p> ――――まずいかしら。<br>
お弁当箱を抱えたカナリアは俯いたまま廊下を歩く。<br>
と、ふいに肩がぶつかった。<br>
「あ、ごめんなさいかしら……って薔薇水晶」<br>
「金糸雀……お姉ちゃんどこだか知らない……?」<br>
「お姉ちゃ……? あ、水銀燈のこと? カナは知らないかしらー」<br>
「そう……」<br>
ふらふらと別のところへ行こうとする薔薇水晶。<br>
――――あ!<br>
「ちょ、ちょっと待つかしら。聞きたいことがあるのかしら」<br>
「聞きたい……こと……?」<br>
薔薇水晶の足が止まる。金糸雀は心の中でガッツポーズを決めた。<br>
「何……?」<br>
しかし、そのガッツポーズも一瞬で崩れる。<br>
「その、えと、うー……」<br>
――――か、カナ! さっさと聞くのかしら!<br>
いざとなったら切り出し難く、言葉が出て来ないのだ。<br>
「あ、"アタック"ってどうやるものなのかしら……?」<br>
「アタック……」<br>
言うと薔薇水晶はちょいちょい、と手を動かす。こっちにきてという意味だろう。<br>
その通りに近くまで行き、<br>
「それで、どうするのかしら?」<br>
と言った途端、金糸雀の体が崩れ、廊下に手をつく。<br>
「どーん……」<br>
どうやら薔薇水晶に体当たりされたせいらしい。<br>
「い、痛いのかしら薔薇水晶……!」<br>
「だって……これ……アタック……」<br>
「そっちの意味じゃないのかしらぁー!!」</p>
<p> ――――とりあえず、順調かしらっ。<br>
金糸雀は鼻歌混じりで廊下を歩く。<br>
あれから結局雑誌を頼り、最近は良く話し掛けるようにしている。<br>
時々押し寄せる"何か"は、気付かないふりをすればどうってことなかった。</p>
<p>
そんなことを思いながら教室へ向かっていると、ふいに階段で男子と話している蒼星石の姿が映る。<br>
片方は桜田ジュン。二人して笑って、とても仲が良さそうに話している。<br>
心なしか、蒼星石の頬が赤く染まっているようにみえて……。<br>
「――――っ」<br>
自然と早足になっていく。<br>
<br>
――――蒼星石のあんな顔、見たこと無かしら。<br>
<br>
笑い声が耳に入ってきて、頭の中で響く。<br>
<br>
――――でもそうよ。蒼星石だって、恋をしてるかもしれなかったのかしら。<br>
<br>
視界が歪んで、早足はいつの間にか駆け足になっていた。<br>
<br>
――――それに、もしいなくたって、カナにあんな顔は……。</p>
<p>「あらぁ……どうしたのぉ……?」<br>
金糸雀は、教室に入るなりしゃがみこむと、両手で顔を覆った。<br>
「蒼星石って……桜田君のことが好きなのかし……ら」 <br>
あの光景が目に焼き付いて離れず、頭の中ではいまだにあの笑い声が響く。<br>
「金糸雀……あなたの好きな人って」<br>
金糸雀の身体が一瞬、震えた。<br>
水銀燈は歩み寄り、金糸雀の前に座る。<br>
顔を覆っていた両手をそっと離すと、ぽろぽろと涙が零れた。<br>
そこで気持ちが溢れ出したらしく、水銀燈に抱きついた。</p>
<p>
「今まで不安で、怖くて、恋なんてできなかったの……かしら……。<br>
でも、蒼星石の傍にいると……どきどきするけど<br>
何だか安心できて……胸があたたかくなって……」<br>
鼻水がでてきて、ぐずっとしている金糸雀に、水銀燈はそっとハンカチを差し出した。<br>
「ほら……」<br>
金糸雀はハンカチを受け取ると涙を拭き、次に鼻をかむ。<br>
それでも涙は溢れ出して止まらない……。<br>
「一歩踏み出せたと思って……この薔薇乙女一の才女が、大事なことも忘れて……」<br>
水銀燈の腕が、そっと金糸雀を包む。<br>
なんだかんだいって、根は優しいのだ。</p>
<p>
「蒼星石だって……恋してるかもしれないのに……してなくても、蒼星石は……」<br>
夕陽が沈んでゆく。あの日みた夕陽はこんなに胸が痛くなるものではなかったのに……。<br>
「カナと同じ……女の子……で……。あんなふうには……笑ってくれない……かしら……」<br>
「……おばかさぁん」</p>
<p>
水銀燈は、落ち着くまではこのままでいてあげる、と言って、金糸雀の頭を撫でた。<br>
「実らなかった……かしら」<br>
バイオリンケースを右手にもったまま、上を向く。<br>
俯けば、また涙がでてきそうで。<br>
――――でも。<br>
ぴた、と足が止まり、憂いをおびた表情は徐々に優しいものへと変わる。<br>
「水銀燈も言ってたのかしら。まだしばらく、カナはこれからも蒼星石のことを好きでいるかしら……」<br>
そっと胸に手を置いて、大きく深呼吸をする。<br>
「今はまだ苦しいし、つらいけど……いつかこの"好き"がもっともっと――」<br>
そこで、言葉は途絶えた。<br>
金糸雀は、街灯が照らす道を再び歩き出す。<br>
呟きを聞いているのは木々だけだ。<br>
ふと空を見上げれば、そこには闇が広がっていて。<br>
あの日見た夕陽は、無い。<br>
当然のことなのにどこか切なく感じて……それでも、俯かない。<br>
「――もっともっと優しい感情になればいいなぁ、かしら……」</p>
<p>
<br>
終わり。</p>