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『退魔の戦乙女達』七章」(2006/05/15 (月) 21:14:37) の最新版変更点

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『退魔の戦乙女達』 ~世界樹を育む巫女と戦いの乙女~<br> <br> 世界樹、それは断片的な世界と世界を繋ぐもの。<br> その枝は弧を描く蒼穹となり、根は地平の彼方よりも続く大地となる。頂に上れば世界の凡てを知ることが可能とも言われている。<br> <br>  J「やっぱり大きいなぁ…こんなの上ろうだなんて誰も思わないだろ。」<br> <br> 大樹を見上げて世界にとって僕らはどれだけ小さいかを思い知らされる。暫くねを越えながら歩いていると何か歌声のようなものが聞こえた。<br> <br>  「健やかに~、伸びやかに~」<br> <br> 栗毛のとても長い髪を心地よい風になびかせ華やかな意匠の施された如雨露から世界樹の根に水をやっている美しい少女がいた。<br> 少女の顔は驚くほど蒼星石にそっくりだった。しかしよく見るとオッドアイが逆で右目が赤で左目が緑色をしていた。<br> ふと、水やりをしていた彼女と目が合った。<br> <br>  J「あ、えっと…」<br>  「ひっ!?」<br> <br> 少女の顔が青ざめたかと思うとすぐさま世界樹の根に隠れてしまう。僕ってそんなに怖い顔とかしてるのか…?<br> <br>  J「オイ、そんなあからさまに避けなくっても…」<br>  「だ、誰です?ど、どどどどうしてお前みたいな魔物がこんなところにいるですか?<br>   も、もしも世界樹を狙ってるんだったらこ、この翠星石が黙っちゃいねぇーです!」<br> <br> 物陰からちょっこりと顔だけ出してやや震えながら口調だけは強く出ている。<br> 取り敢えず僕は此処へ来た経緯を話した。<br> <br> <br>  翠「お、お前が真紅と契約をした魔物…ですか。………思ったよりチビです(ボソ)」<br>  J「ち、チビって言うな!そういうお前こそ僕と殆ど背が変わらないだろう!?」<br>  翠「翠星石は女の子なのですからこれが当たり前ですぅ。そんなこともわからんのですかこのチビ盗賊は。」<br>  J「お、お前…言わせておけば…」<br>  翠「や、やるですかぁ?翠星石に手を出したら蒼星石が黙っちゃいねぇーですよ!?」<br> <br> 僕が少し怒っただけで彼女はずっとこの調子だ。どうやらこの子は人見知りが激しい方らしい。それに加えて怖がりでもある。<br> なんだか小動物みたいな奴だなぁ…などと思ってしまう。話すことがなくなった僕と翠星石は沈黙する。彼女は思い出したように世界樹とその根に咲く花や根付く木の水やりに戻る。<br> <br>  J「なぁ…この辺に咲いてる花とかは全部お前が世話してるのか?」<br>  翠「そうですよ、偶に蒼星石が手伝ってくれるですけれども世界樹の管理は『緑薔薇』である翠星石の仕事なのですよ。」<br> <br> 得意げに、そして誇らしげに彼女は言った。きっと元々植物の世話が好きなのだろう。女の子っぽい一面もあるんだなぁなどと感心してしまう。<br> 彼女の水やりは優雅なものだった。水をやった部分に一時的にではあるが何もない場所から花が咲き誇ったり如雨露の水がまさしく雨の如く草木に降り注ぐと緑色の光を発する。<br> そんな幻想的な景色の中で水をやる彼女はまるで神楽を踊る巫女のようだった。<br> 僕は暫く彼女に見惚れてしまっていた。長く綺麗な栗毛と水を振り撒きながら翠星石は楽しそうに舞っている。<br> やがて僕の視線に気付いた翠星石は再び物陰に隠れてしまった。<br> <br>  J「そ、そんなに僕が怖いのか…」<br>  翠「ま、魔物は怖いから大嫌いですぅ…」<br>  J「そうか…」<br> <br> 翠星石の言葉を聞いて最近忘れていたこと、自分が魔物であることを思い出す。どうして忘れてたのだろう。きっとアイツが僕のことを軽蔑せずに接してくれたからだろう。<br> 魔物である僕に対してアイツはいっつも命令口調であれをしろ、これをしろと言って来た。<br> 退魔士だからだと言われればそれでお終いだが僕はアイツの性格であると信じたい。<br> その頃、私はずっとお父様と意見をぶつけていた。私以上に頑固なことは重々承知していたので長期戦の覚悟はしていた。<br> しかし、中々お父様の意見は動かない。どうしたものかと考えていたところ、突如として大きな揺れが『赤薔薇の園』を、いや『nのフィールド』を襲った。<br> <br>  「一体これは…まさか世界樹に何かが!?」<br> <br> 床から無数もの緑の蔓が現れる。蔓は鞭のようにしなっては建物の中を壊し始める。やがて蔓の一つが真紅の父親めがけて振り下ろされた。<br> 真紅は蔓をステッキで斬りそのほかの蔓をしなる前に全て掴み取り斬り離した蔓で結んで纏め上げた。<br> 身動きの取れなくなった蔓は陸に上がった魚のように跳ねてどうにかしようとしている。<br> 次に纏めた蔓を再び掴み一気に引き抜くと球根のような物が地面から引き抜かれた。<br> 球根は緑色をしておりその上のほうには同じく緑色の人間の上半身があった。<br> <br>  真紅「ドライアド…?どうしてこんな所に…」<br> <br> 地上に引きずり出されたドライアドはその屈辱に激昂し新たな蔓を伸ばそうとする。しかしそれを真紅が許すわけもなく近場にあった蝋燭を投げつけ花弁を纏った風を送り込み一気に燃やし尽くした。<br> ドライアドは黒こげになり絶命する。<br> <br>  真紅「お父様、私は世界樹を見て来ます、後のことは頼んだわ!」<br>  「お、おい…」<br> <br> 娘の名前を呼ぼうとするが記憶にフィルターが掛けられ口から出て来ない。そう、娘の名前はあいつが『真紅』の名を継いだときに誰の記憶からも消去されたのだ。<br> 心配をしても娘の名前を呼ぶことが出来ないのがとても歯がゆい。<br> 結局、止める術もなく娘はそのまま屋敷を後にした。<br> <br> <br> 外が騒がしい気がする。気配を察するにどうやら魔物がこの聖域に紛れ込んだらしい。<br> 私は膝枕にしていたお父様の膝から頭を離す。<br> <br>  「魔物…」<br>  「どうやらそうらしいね。無粋な…君の力で蹴散らして来るといい。そして見せてやるんだ、他の退魔士達に。」<br>  「ハイ…では行ってきます。」<br> <br> 左目に眼帯をつけ紫の退魔士のコートを羽織って、屋敷を出ようとする。玄関でお父様が見送りをしてくれた。<br> お父様は私の右目にキスをして奨励してくれた。私は滅多に変えない表情を微笑みに変え紫の薔薇園に躍り出る。<br> 薔薇園では4体のドライアドが既に待ち構えていた。地面に根を張り巡らしていたらしくいたる所から蔓が襲い掛かる。<br> 自分を中心として波状に魔力を解放する、魔力に続いて薔薇園は紫の水晶の苑へ姿を変えた。<br> 根を張っていたドライアド達はその醜い姿を晒し悪あがきにもまだ抵抗する。短い溜息を吐いて飛び込んできた蔓を左手で掴み引き寄せる。<br> 勢いよく此方に飛んでくる本体に向けて右手を翳し水晶の雨を当てる。<br> 此方へ近づくたびにドライアド自身はボロボロになり最終的には全身に水晶が突き刺さった針鼠のような姿になった。<br> 残りのドライアドは玉砕覚悟でまとめて此方へ特攻をしかける。針鼠となった息絶えたドライアドをまるでモーニングスターのように振り回し残りの三体も駆逐する。<br> 更にドライアド達に突き刺さった水晶に魔力を送り込むと水晶達は細かな粒子となって破裂し本体達も光となって朽ち果てた。<br> <br>  「弱い…」<br> <br> 気配から察するに世界樹の方から不穏な空気が流れているのがわかる。早急に敵は殲滅しなければ世界樹に影響を与えてしまう。<br> 紫の退魔士は戦場へ躍り出て行った。<br> <br>
『退魔の戦乙女達』 ~世界樹を育む巫女と戦いの乙女~<br> <br> 世界樹、それは断片的な世界と世界を繋ぐもの。<br> その枝は弧を描く蒼穹となり、根は地平の彼方よりも続く大地となる。頂に上れば世界の凡てを知ることが可能とも言われている。<br> <br>  J「やっぱり大きいなぁ…こんなの上ろうだなんて誰も思わないだろ。」<br> <br> 大樹を見上げて世界にとって僕らはどれだけ小さいかを思い知らされる。暫くねを越えながら歩いていると何か歌声のようなものが聞こえた。<br> <br>  「健やかに~、伸びやかに~」<br> <br> 栗毛のとても長い髪を心地よい風になびかせ華やかな意匠の施された如雨露から世界樹の根に水をやっている美しい少女がいた。<br> 少女の顔は驚くほど蒼星石にそっくりだった。しかしよく見るとオッドアイが逆で右目が赤で左目が緑色をしていた。<br> ふと、水やりをしていた彼女と目が合った。<br> <br>  J「あ、えっと…」<br>  「ひっ!?」<br> <br> 少女の顔が青ざめたかと思うとすぐさま世界樹の根に隠れてしまう。僕ってそんなに怖い顔とかしてるのか…?<br> <br>  J「オイ、そんなあからさまに避けなくっても…」<br>  「だ、誰です?ど、どどどどうしてお前みたいな魔物がこんなところにいるですか?<br>   も、もしも世界樹を狙ってるんだったらこ、この翠星石が黙っちゃいねぇーです!」<br> <br> 物陰からちょっこりと顔だけ出してやや震えながら口調だけは強く出ている。<br> 取り敢えず僕は此処へ来た経緯を話した。<br> <br> <br>  翠「お、お前が真紅と契約をした魔物…ですか。………思ったよりチビです(ボソ)」<br>  J「ち、チビって言うな!そういうお前こそ僕と殆ど背が変わらないだろう!?」<br>  翠「翠星石は女の子なのですからこれが当たり前ですぅ。そんなこともわからんのですかこのチビ盗賊は。」<br>  J「お、お前…言わせておけば…」<br>  翠「や、やるですかぁ?翠星石に手を出したら蒼星石が黙っちゃいねぇーですよ!?」<br> <br> 僕が少し怒っただけで彼女はずっとこの調子だ。どうやらこの子は人見知りが激しい方らしい。それに加えて怖がりでもある。<br> なんだか小動物みたいな奴だなぁ…などと思ってしまう。話すことがなくなった僕と翠星石は沈黙する。彼女は思い出したように世界樹とその根に咲く花や根付く木の水やりに戻る。<br> <br>  J「なぁ…この辺に咲いてる花とかは全部お前が世話してるのか?」<br>  翠「そうですよ、偶に蒼星石が手伝ってくれるですけれども世界樹の管理は『緑薔薇』である翠星石の仕事なのですよ。」<br> <br> 得意げに、そして誇らしげに彼女は言った。きっと元々植物の世話が好きなのだろう。女の子っぽい一面もあるんだなぁなどと感心してしまう。<br> 彼女の水やりは優雅なものだった。水をやった部分に一時的にではあるが何もない場所から花が咲き誇ったり如雨露の水がまさしく雨の如く草木に降り注ぐと緑色の光を発する。<br> そんな幻想的な景色の中で水をやる彼女はまるで神楽を踊る巫女のようだった。<br> 僕は暫く彼女に見惚れてしまっていた。長く綺麗な栗毛と水を振り撒きながら翠星石は楽しそうに舞っている。<br> やがて僕の視線に気付いた翠星石は再び物陰に隠れてしまった。<br> <br>  J「そ、そんなに僕が怖いのか…」<br>  翠「ま、魔物は怖いから大嫌いですぅ…」<br>  J「そうか…」<br> <br> 翠星石の言葉を聞いて最近忘れていたこと、自分が魔物であることを思い出す。どうして忘れてたのだろう。きっとアイツが僕のことを軽蔑せずに接してくれたからだろう。<br> 魔物である僕に対してアイツはいっつも命令口調であれをしろ、これをしろと言って来た。<br> 退魔士だからだと言われればそれでお終いだが僕はアイツの性格であると信じたい。<br> その頃、私はずっとお父様と意見をぶつけていた。私以上に頑固なことは重々承知していたので長期戦の覚悟はしていた。<br> しかし、中々お父様の意見は動かない。どうしたものかと考えていたところ、突如として大きな揺れが『赤薔薇の園』を、いや『nのフィールド』を襲った。<br> <br>  「一体これは…まさか世界樹に何かが!?」<br> <br> 床から無数もの緑の蔓が現れる。蔓は鞭のようにしなっては建物の中を壊し始める。やがて蔓の一つが真紅の父親めがけて振り下ろされた。<br> 真紅は蔓をステッキで斬りそのほかの蔓をしなる前に全て掴み取り斬り離した蔓で結んで纏め上げた。<br> 身動きの取れなくなった蔓は陸に上がった魚のように跳ねてどうにかしようとしている。<br> 次に纏めた蔓を再び掴み一気に引き抜くと球根のような物が地面から引き抜かれた。<br> 球根は緑色をしておりその上のほうには同じく緑色の人間の上半身があった。<br> <br>  真紅「ドライアド…?どうしてこんな所に…」<br> <br> 地上に引きずり出されたドライアドはその屈辱に激昂し新たな蔓を伸ばそうとする。しかしそれを真紅が許すわけもなく近場にあった蝋燭を投げつけ花弁を纏った風を送り込み一気に燃やし尽くした。<br> ドライアドは黒こげになり絶命する。<br> <br>  真紅「お父様、私は世界樹を見て来ます、後のことは頼んだわ!」<br>  「お、おい…」<br> <br> 娘の名前を呼ぼうとするが記憶にフィルターが掛けられ口から出て来ない。そう、娘の名前はあいつが『真紅』の名を継いだときに誰の記憶からも消去されたのだ。<br> 心配をしても娘の名前を呼ぶことが出来ないのがとても歯がゆい。<br> 結局、止める術もなく娘はそのまま屋敷を後にした。<br> <br> <br> 外が騒がしい気がする。気配を察するにどうやら魔物がこの聖域に紛れ込んだらしい。<br> 私は膝枕にしていたお父様の膝から頭を離す。<br> <br>  「魔物…」<br>  「どうやらそうらしいね。無粋な…君の力で蹴散らして来るといい。そして見せてやるんだ、他の退魔士達に。」<br>  「ハイ…では行ってきます。」<br> <br> 左目に眼帯をつけ紫の退魔士のコートを羽織って、屋敷を出ようとする。玄関でお父様が見送りをしてくれた。<br> お父様は私の右目にキスをして奨励してくれた。私は滅多に変えない表情を微笑みに変え紫の薔薇園に躍り出る。<br> 薔薇園では4体のドライアドが既に待ち構えていた。地面に根を張り巡らしていたらしくいたる所から蔓が襲い掛かる。<br> 自分を中心として波状に魔力を解放する、魔力に続いて薔薇園は紫の水晶の苑へ姿を変えた。<br> 根を張っていたドライアド達はその醜い姿を晒し悪あがきにもまだ抵抗する。短い溜息を吐いて飛び込んできた蔓を左手で掴み引き寄せる。<br> 勢いよく此方に飛んでくる本体に向けて右手を翳し水晶の雨を当てる。<br> 此方へ近づくたびにドライアド自身はボロボロになり最終的には全身に水晶が突き刺さった針鼠のような姿になった。<br> 残りのドライアドは玉砕覚悟でまとめて此方へ特攻をしかける。針鼠となった息絶えたドライアドをまるでモーニングスターのように振り回し残りの三体も駆逐する。<br> 更にドライアド達に突き刺さった水晶に魔力を送り込むと水晶達は細かな粒子となって破裂し本体達も光となって朽ち果てた。<br> <br>  「弱い…」<br> <br> 気配から察するに世界樹の方から不穏な空気が流れているのがわかる。早急に敵は殲滅しなければ世界樹に影響を与えてしまう。<br> 紫の退魔士は戦場へ躍り出て行った。<br> <br> <br> <br> <br> 世界樹の根元で翠星石は異変を感じ取っていた。<br> <br>  翠「何か…変です。」<br>  J「どうかしたのか?」<br>  翠「翠星石の知らない植物の匂いがするです。それと何だか…背筋が寒くなるような怖い何かが来るです…」<br> <br> 翠星石に言われて気付いたが確かにこの辺りで何か魔力に近いものを感じる。それだけではない。何か桁外れな力を感じる…。<br> 僕は翠星石を守るように臨戦態勢に入った。地響きがする、やがて世界樹の根を突き破って何か岩のような巨大な物体が地面から現れた。<br> 球根の上にある人型の肉体…それはドライアドであると一瞬でわかったのだがそれにしてはとても邪悪な魔力を放っている。それに大きさもこれほど大きいものは見たことがない。<br> 激昂したかと思えば先が槍のように尖った蔓を出し此方に向けて放つ。僕は翠星石を抱えて跳躍して回避する。<br> <br>  翠「お、降ろすです!このままだと世界樹が…ッ」<br>  J「バカ言うな!世界樹も大切だろうけど自分の命を大切にしろ!」<br>  翠「ジュン…」<br> <br> 蔓を回避されたドライアドは、今度は口から幾つもの種を吐き出す、種は地面に潜りすぐに根を張って別のドライアドに成長した。<br> 数が多すぎる、それにいちいち小さいドライアドを倒していてもまた増殖されてキリがない。<br> 僕が攻めあぐねていると小さなドライアドが根付いている地面から紫色の水晶の柱が生えドライアド達を串刺しにした形で天に捧げている。<br> それと同時に巨大なドライアドの上空から無数の巨大で鋭利な水晶が降りかかってきた。ドライアドは蔓で弾き飛ばしたが幾つかの水晶はその巨大な体に突き刺さった。苦痛に再び激昂する、大気が震えて邪悪な魔力は更に力を強めた。<br> <br>  「コイツが親玉…倒す!」<br> <br> 左目に眼帯をした紫の退魔士のコートを羽織った少女が巨大なドライアドに向けて突進する。<br> <br> <br> 蔓で威嚇するが逆に蔓を伝って彼女はドライアドの懐まで進んで来た。<br> あれだけの巨躯では接近戦は苦手だろう、そして彼女は水晶の剣をドライアドに突き立てる。<br> しかし奴は傷口から毒の花粉を撒き散らす、思わず眼帯の少女は距離を取る。怒り狂ったドライアドは根を足のような形に絡ませ猛進する、少女は水晶を飛礫打ちのようにして猛進するドライアドに抵抗する。<br> それでも止まる気配がないので彼女は広範囲に向けてその絶大な魔力を開放する。放射線状に広がった魔力の波の後には大地を裂くように水晶が発生する。<br> 更に波に巻き込まれたものは例外なく水晶漬けにされドライアドの足も水晶に侵され使い物にならなくなっていた。<br> <br>  J「す、凄い…これだけの広範囲に影響を出すなんて…」<br>  翠「何が凄いですか!あの子が魔力を放った後を見るです!!」<br> <br> あれほど綺麗に咲き誇っていた花園はなくなり水晶に蹂躙された荒廃とした世界が広がっている。<br> 更にその影響は世界樹の根にも及んでいて根に水晶の欠片が突き刺さっていた。<br> 翠星石が憤慨するのも頷ける。<br> <br>  翠「可哀想ですよ…木と花たちの悲鳴が聞こえるです…」<br> <br> それでも眼帯の少女もドライアドも戦いを止めようとしない。両者の戦いは更に苛烈を極めるものだった。<br> 突然、翠星石は抱えられながらジタバタと暴れ出す。<br> <br>  翠「降ろすです!こうなったら…二人の喧嘩を止めてやるですよ!」<br>  J「と、止めるってどうやって…お前武器も何もないじゃないか!」<br>  翠「武器ならちゃんとあるです!この『如雨露』さえあれば…」<br> <br> ジュンの制止も聞かず翠星石は無我夢中で彼から離れ眼帯の少女を止めに行くのかと思えば世界樹を登り始めた。<br> <br> <br> 翠星石は着ている服をボロボロに汚しながらも世界樹の少し高い枝のところまで登って来る。<br> <br>  翠(世界樹に登るのも魔物と対峙するのも怖いですけど…それでもお花さん達のためなら!)<br> <br> 枝の先端近くまで来て翠星石は如雨露に自分の魔力を注ぎ込む、すると如雨露の中に入っている水が幻想的な緑色の光を放ち溢れ出す。<br> 翠星石は光の水を力いっぱい辺りに撒き散らす、それはさながら光のシャワーで見ているだけで何故か癒されるものがあった。<br> <br>  翠「おめぇらいい加減に喧嘩は止めるですぅー!!」<br> <br> 彼女の怒号とともに不思議な水は荒廃した世界に降り注ぐ。すると世界樹を中心として様々な種類の花が咲き乱れ水晶に覆われた地面を再び草花が覆う世界へ蘇らせる。<br> そして驚くことに巨大なドライアドは何故か苦しがって地に倒れ臥し大輪の華へと姿を変えたのだった。<br> <br>  J「な、なんだ今のは…あ、あれ?肋骨が…痛くない?」<br> <br> 何時の間にか肋骨の骨が治っている。世界樹の根を見ると刺さっていた水晶がなくなり傷も元通りに戻っていた。<br> どうやらあの光のシャワーは癒しの力を持っているらしい。あのとき感じた心の安らぎは本物だったようだ。<br> 眼帯の少女も突然起こった出来事に暫し呆けている。<br> <br>  J「凄いじゃないかお前!あんなことが出来るなんて…」<br>  翠「と、ととと当然ですぅ。これでも翠星石は蒼星石の双子の姉なのですからー…」<br> <br> <br> 自分のしたことの成果にしては彼女は何故か震えている。どうしたのかと尋ねてみたところ…。<br> <br>  翠「の、登り過ぎて自分じゃ降りれなくなっちまったですぅ…」<br> <br> 本当に小動物みたいな奴だ…寧ろ猫か?と思ってしまう。<br> 仕方ないので僕は翠星石のいる枝まで一気にジャンプして彼女を向かえに行く。おもむろに僕は彼女を抱える。<br> <br>  翠「お、お姫様だっこ…」<br>  J「何か言ったか?」<br>  翠「な、何も言ってねーです!さっさと降りるです!」<br> <br> 何故か顔を真っ赤にして怒り出す。女の子ってイマイチよく分からないなぁ。<br> 少し脅かしてやるつもりで僕は勢いよく枝から飛び降りた。案の定、翠星石はこれでもかと言うほど怖がって大きな悲鳴をあげる。<br> <br>  翠「こ、このチビ盗賊!もっと優しく降りやがれです!!」<br> <br> 半泣きでそんなこと言われても説得力がない。なんだか反応がイチイチ可愛い奴だな。<br> 高いところから降りれたと思ったら翠星石はすぐに眼帯の少女の元へとズンズン進み出る。<br> 眼帯をしている少女の方はと言うと翠星石のことなど特に気にも止めていないようだった。<br> <br>  翠「薔薇水晶!お前も少しは周りのこと考えて戦いやがれです!あんなことをしたら世界樹にまで影響が及んじまうですよ!」<br>  薔薇「………ゴメン。」<br> <br> 怒られた薔薇水晶には戦いのときのような凛々しい面影など微塵もなく翠星石に怒られただけでとても大人しくなってしまった。<br> 青いとても長い髪の毛はまるで水晶のように煌々と光っているかと錯覚してしまうほど綺麗だった。<br> <br> <br> やがて『赤薔薇の園』から真紅が此方へやって来る。よく見ると額が赤かった。<br> <br>  真紅「随分と暴れていたみたいね貴女達…」<br>  翠「真紅!久し振りです~、元気にしてたですか?」<br>  真紅「ええ、お陰様でね。」<br>  薔薇「元気にしては…おデコ打ってる。」<br>  真紅「誰かさんが行き成り水晶を出すから転んだのよ。」<br>  薔薇「う…ご、ゴメン…」<br>  J「にしても…此処に魔物が入るのってよくあることなのか?」<br>  真紅「それは有り得ないわ。此処は聖域、限られた者しか入れない筈…」<br> <br> 真紅の話を聞いて僕は可笑しいと思いあの巨大なドライアドがその姿を変えた大輪の華を調べる。<br> 華の中には何か球体の禍々しい赤く煌く水晶のようなものがあった。<br> <br>  J「これは…けど、どうしてこんなものが此処にあるんだ…?」<br> <br> ジュンは真紅達にそれを見せずに自分の懐の中に隠し持った。そして何食わぬ顔で彼女たちの所へ戻る。<br> それを世界樹の影から覗き見ている者が居た。白い影のようなそれはすぐにその姿を靄のように掻き消す。<br> <br> <br> 夜…真紅と僕は『赤薔薇の園』の屋敷に泊めて貰えることになった。<br> 真紅の親父さん曰く、そんなに魔力も弱らせおって、我が家の恥になる前に『調律』してやるよ、とのことだった。<br> 意地っ張りで素直になれないところは矢張り親子なのだと思わせる。<br> 翠星石も薔薇水晶も各々の屋敷に戻って行った。あの二人は普段はそう思えないがとんでもない力を持っている。<br> 薔薇の退魔士はつくづく退魔士の中でも至高と呼ばれるに相応しいと思い知らされる。<br> そしてジュン達の居なくなった世界樹の麓に一人の人間がいた。<br> <br>  「失敗したか…」<br> <br> 世界樹の麓に広がる花畑を見てこの騒動の元凶は呟く。自分があの鏡を潜るときにこっそり持ち出した特製のドライアドが敗北したのを大輪の華を見て悟ったのだ。<br> 忌々しい世界樹を見上げて腹癒せにその幹にナイフを突き刺す。しかしその程度では世界樹はビクともしない。<br> <br>  「まぁいいか…次はどうしてやろうか…。」<br> <br> 世界樹と同じぐらいに忌々しい薔薇の退魔士達…彼等を、ただ一人を除いて全員消してしまわねば望みは叶わない。<br> そう、そのただ一人のために…。<br> <br>  「やってやるさ、そのための与えられたローザミスティカなんだ。」<br> <br> 左手に先ほどジュンが拾ったのと同じく禍々しい赤い光を放つ水晶のようなものを持っていた。<br> 物語は、いや運命の糸車は更に速く廻る。<br> <br> <br> <br> <br> 薔薇「『退魔の戦乙女達』、今日は此処までで御座います。」<br> 真紅「何だか今回は私の出番が少ない気がするのだわ。」<br> 翠「蒼星石の出番だって少ないですよ!」<br> 蒼「まぁまぁ…それを言ったら雛苺もだし水銀燈と金糸雀なんて一回も出てないよ。」<br> 薔薇「魑魅魍魎なりましたが次回…『しあわせって何?(仮)』です…」<br> <br> <br> <br>

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