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【ゆめまぼろし】~プロローグ~」(2006/05/14 (日) 10:56:34) の最新版変更点

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【ゆめまぼろし】<br> <br>  私はいつものように、彼に紅茶を淹れてもらう。初めて淹れさせ<br> たときは、それはそれは"なってなかった"のだが。今はなかなかど<br> うして、私の教えをよく守っているようである。<br> <br>  紅茶をひとつ淹れる所作にも、思いやりを込めて。ほんの僅かな<br> 温度の違いで、香りは損なわれてしまうのだから。<br> <br> <br> 「ほい、お待たせしました」<br> <br> 「有難う、ジュン」<br> <br>  口をつける前に、香りを楽しむ。<br> <br> 「台所にあるやつ、勝手に使ったぞ。何であんなに種類が多いんだ……」<br> <br> 「あら。英国人は一日十回のティータイムを楽しむのよ。いくらあって<br>  も足りない位なのだわ」<br> <br> ぶちぶち文句を言い始める彼を一蹴。男の癖に愚痴っぽいところだけは<br> 頂けない。<br> <br> 「じゃあ、用は済んだからな」<br> <br> 「ええ。次も宜しくね」<br> <br> <br> "はいはいはい"なんて捨て台詞を残して、彼は居なくなった。<br> <br>  広い屋敷。長い坂をのぼった先にひっそりと佇むここは、ご近所<br> さんには薔薇屋敷と呼ばれている。<br>  庭には、立派な薔薇園が。窓を覗くと、庭師として働いている娘<br> が薔薇の剪定をしているのが見えた。<br> <br>  部屋だけは無駄に余っているけど、ここに住んでいるのは三人。<br> 私と、あとは庭師の姉妹が二人。<br> <br>  では、さっきの彼は?<br> <br>  ちょっとそれは説明に困る。少なくとも、赤の他人においそれと<br> 話せることでは無いので。<br>  <br>  私は、彼が"居なくなった"先にある壁を見つめる。<br>  ここ最近、この薔薇屋敷についたもうひとつの異名は、幽霊屋敷。<br> その名前は、薔薇屋敷よろしくここの名前としては酷く相応しい。<br> <br>  彼、桜田ジュンは。ここに"住んで"いる、幽霊なのだから。<br>  <br> <br>

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