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「「あなたを呼ぶ」五話」(2006/05/11 (木) 20:17:02) の最新版変更点
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<p>私は、ジュンが好きだわ。<br>
ジュンがいないと、私はなにもできない。<br>
さびしくて、不安でしかたがなくなるわ。<br>
でも、私は知ってしまった。<br>
ジュンにそばにいて欲しいと、呼びかける声が届かなくなったことを。<br>
けれども、違う声は届くはず。<br>
わがままな私に付き合ってくれた、<br>
笑わない私に笑顔を教えてくれた、<br>
ひとりぼっちになった私のそばにいてくれた、<br>
私の名を呼んでくれたのは、ジュン、あなただったわね。<br>
だからこそ、彼には幸せになってほしいとも思ってる。<br>
そう、ジュンの幸せを願い喜ぶ声なら届くはず。<br>
彼が彼女を選んだというのなら、ジュンと彼女のこと、笑って喜ぶべきだわ。<br>
今はまだ、無理だけれど、<br>
でも、今度会うときには、私は、笑えるようになってみせるわ。</p>
<p> </p>
<p>太陽がビルの間に沈もうとしている。<br>
今頃、水銀燈は、オヤジさんと飯でも食ってるのかな。<br>
僕は、少し水銀燈に嫉妬をしているみたいだ。<br>
よろこんでやらなきゃならないのに。<br>
本当に自分で、自分が嫌になる。<br>
……紅茶、飲もうかな。<br>
僕が、やかんに火をかけようとすると、<br>
ノックの音が聞こえた。<br>
ジ「はいはい。」<br>
どこの宗教勧誘だ。<br>
そう思って、出た僕は意外な人を目にした。<br>
ジ「水銀燈?どうしたんだよ?」<br>
銀「……ご飯作りすぎちゃったの?<br>
よかったら食べる?」<br>
ジ「じゃあ、お言葉に甘えて……。<br>
というか、時間、大丈夫なのか?<br>
オヤジさんと会うんだろ?」<br>
銀「大丈夫。<br>
お父様来れなくなったから」<br>
ジ「……そっか、……残念だったな。」<br>
当然だけど、かなり落ち込んでる。<br>
いつもの口調じゃないし。<br>
<br>
水銀燈の部屋に上がるのも始めてだな。そういえば。<br>
テーブルの上には、綺麗に盛り付けられた料理が並んでいた。<br>
ジ「いただきます」<br>
銀「はい。召し上がれ」<br>
料理は冷めていたけれども、<br>
ジ「……うん。おいしいよ」<br>
水銀燈は心ここにあらずって感じで、話を始めた。<br>
銀「ねぇ、ジュン。やっぱり私って壊れた子なのかな。<br>
こんな変な髪で……。<br>
だから、お父様は私のこと嫌いなのかな…?」<br>
僕は、彼女が髪の色を気にしてるなんて、少しも思わなかった。<br>
けれども、言われてみれば、<br>
フードつきの服。小さな会社の事務職、それらしい点はある。<br>
ジ「違う。水銀燈は、嫌われてなんかいない」<br>
銀「嘘よ。なら、なんで会いに来てくれないの?<br>
ずっと、ずっと、待ってたのに。<br>
前も、その前も、来るっていって結局来なかった。<br>
そうよ、私のことなんてどうでもいいのよ!」<br>
僕のことなんてどうでもいいんだ、僕が親に対して思ったことと一緒だ。<br>
けれど、否定しなくちゃ……。<br>
僕は、こんな水銀燈見てられない。<br>
ジ「違う……。」<br>
僕からやっと出た言葉は、彼女の意見を否定するのに足りなかった。<br>
銀「……ねぇ、ジュン。<br>
この人形ね。お父様がプレゼントしてくれたものなの。<br>
どこの店にいっても、売ってなかったくんくんのぬいぐるみが<br>
欲しいってせがんだら、仕事先から送ってきてくれてね。」<br>
そういって、くんくんの人形を手にとった。<br>
銀「私は、すごく喜んだわ。<br>
離れていても、お父様は私のことを愛してるって思えたもの。<br>
けれども、だれでも持ってるようなただの人形。<br>
たまたま売ってたから、うるさいわたしを<br>
黙らせるために買ったに過ぎないただの人形。<br>
私は、こんなの喜んで、ずっと大切にして……<br>
でも、お父様は私のことなんてどうでもよくて、<br>
ホント、馬鹿みたい。」<br>
ジ「水銀燈……」<br>
僕は、彼女の名を呼ぶしかできなかった。<br>
僕も、両親は僕のこと嫌いなのでは、と思っているから。<br>
僕に否定できるわけがなかった。<br>
けれども、水銀燈のこの姿を見ているのは、辛い。<br>
僕は、どうすれば、彼女を慰めることができるんだ?<br>
そんなことを考えてると、ふいにブチッという音が聞こえた。<br>
水銀燈は人形をバラバラにちぎってゆく音だ。<br>
ジ「お、おい」<br>
僕は水銀燈のそばによる。<br>
銀「ジュンも、私のことなんてめんどくさい奴って思ってるんでしょ?<br>
もう、私のことなんて、放っておいて!<br>
私なんて、要らない子なのよ」<br>
そういいながら、彼女は僕を突き飛ばして外に出て行く、<br>
目には涙が浮かんでいた。<br>
ジ「おい、待てって、水銀燈。僕はそんなこと」<br>
僕は言いながら追いかけるが、とても追いつけない。<br>
なんであんなに足が速いんだよ?<br>
ジ「水銀燈っ!」<br>
僕は彼女を呼ぶけれど、水銀燈はそのまま闇に消えていった。<br>
僕は、自分の不甲斐なさを呪った。</p>