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「『バレンタイン、ありがとう』」(2006/02/27 (月) 21:07:57) の最新版変更点
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<p>今日は二月十四日。<br>
バレンタイン牧師の命日。<br>
十字架に磔で、焼かれたとも、槍で貫かれたとも言われる。<br>
理由は知らない。<br>
その何世紀かあと。<br>
日本のお菓子メーカーが『バレンタインデー』と称して、チョコの売り上げを稼ごうと画策し、<br>
ものの見事に釣られた日本人。<br>
一見バレンタイン牧師をバカにしてるとしか思えない。<br>
そんな日。<br>
でも僕は別にいいと思う。<br>
一つだけ貰えたから。<br>
義理だけど。</p>
<p>『バレンタイン、ありがとう』</p>
<p>
学校では朝からどこもかしこも、チョコレートの匂いで充満していた。<br>
「カカオくせー」<br>
ジュンはボソっとつぶやきながら校舎をブラブラする。<br>
もしかしたら、義理のおこぼれにでもありつけるかもしれないからだ。<br>
すると、隣の教室では早くも人だかりができていた。<br>
「水銀燈おねえさまー!チョコもらってえー」<br>
「俺にもくださいー!水銀燈さまー!」<br>
その様子をジュンは廊下から眺めた。<br>
「相変わらず水銀燈は男女共に人気だなあ・・・」<br>
無理か。と思い、ジュンは足を進めた。<br>
「ねえ!なんで蒼星石はいないのー!」<br>
「蒼さまに渡しといてね!あんた姉貴でしょ!」<br>
(うう・・・翠星石の試作のチョコを食わせまくって、のぼせて休みなんていえねーデス・・・)<br>
蒼星石のクラスも人がたくさんいる。彼女は欠席らしい。<br>
その点を翠星石が攻められている。<br>
「去年はチョコいっぱい食わせられて、尿に糖が出たんだっけなあ・・・」<br>
再検査は大変だったと思いながらジュンは足を進めた。<br>
「ジュンー!!」<br>
「お、雛苺!」<br>
「あのねー。今日バレンタインでしょ?雛ね、チョコ一生懸命つくったんだけど、学校くるまえに落としちゃって・・・」<br>
「あ、ああ。いいよ。おっけおっけ。気持ちだけ貰っとくよ。ちゃんとホワイトデーはお返しするからな」<br>
ジュンは雛苺の頭を撫でてから、その場を離れた。<br>
「去年は苺大福にチョコからませるなんて荒技やられて、下痢が止まらなかったからなあ」<br>
おなかをさすりながら、ジュンは気ままに足を動かす。<br>
「金糸雀は・・・べジータと一緒だもんな」</p>
<p>「薔薇水晶は・・・いないか」</p>
<p>結局一つも貰えなかった。</p>
<p>
帰宅すると、リビングではくんくん探偵が上映されていた。<br>
「んふふー。ネコさんー。犯人はー、ぁなたですねぇー」<br>
「さ、さすがくんくん!名推理だわ」<br>
「ただいま、姉貴」<br>
真紅はいつからいたの?という表情で、おかえり、といった。<br>
「またくんくん探偵かよ。何回見れば気が済むんだよ・・・まったく」<br>
「そういうあなたは、こんなに夜遅くまで粘ったのに、チョコは貰えなかったみたいね」<br>
真紅は紅茶を飲みながら、ジュンの心の中を当ててみせる。<br>
実際、ジュンは部活が終わるまで校内を徘徊していたし、バイト先のお好み焼き屋にも行ったりしていた。<br>
「う・・・なんでわかるんだよ。そういう姉貴だって、チョコあげたのかよ?」<br>
胸の中をグサリと刺されたジュンにはそれがいっぱいいっぱいだった。<br>
カチャリ、とカップを置く音がした。<br>
「出来の悪い弟のことだもの。なんだってわかるわ。それに今年は私のお眼鏡にかなう男子はいなかったのよ・・・よって作ってないわ」<br>
「あ、そ」<br>
ジュンは適当に相槌を打つと自分の部屋に戻った。</p>
<p>「あーあ、チョコ・・・欲しかったなあ・・・」<br>
机の上の時計に目をやる。<br>
くんくん探偵オリジナル時計は、八時半を過ぎていた。<br>
ふいに涙が、ホロリと落ちる。<br>
「あ、あれ?なんで涙出てくるんだ?アホくさ・・・」<br>
袖口で目をゴシゴシ擦っていると、ドアがノックされた。<br>
「入るわよ・・・」<br>
「姉貴」<br>
「ふふ。ジュンが一人でメソメソしてることなんてお見通しなのよ。これでも飲んで落ち着きなさい」<br>
真紅はジュンの机に大きめのマグカップを置いた。<br>
「ココア?」<br>
「そうよ。でもそれは砂糖やミルクの入っていない苦いココアだから、これを一緒に食べなさい」<br>
机の上に小さな皿が置かれた。その上には、店で売っているチョコと遜色ない手作りのチョコが数個置かれていた。<a title="sinku"
name="sinku"></a><br>
「義理よ。ありがたくいただきなさい」<br>
真紅は風呂に入るから、片しておきなさい。と言い残すとジュンの部屋から出て行った。<br>
「ありがとう・・・姉貴・・・」<br>
ジュンは心優しい姉に感謝すると、ココアを一口飲み、チョコを一つ頬張る。<br>
「あれ・・・?このチョコとココア、なんか塩味がする」<br>
もう一口ココアを飲む。今度は少し、塩が濃かった。<br>
自分の涙のせいだと気づいたとき、苦笑してしまった。</p>
<p>
台所に食器を片付けにいったとき、ジュンは己の目を疑った。<br>
「・・・カカオかよ」<br>
テーブルの上にはどこから仕入れたのか、カカオの実がまるごと一つ。それにたくさんの資料、レシピが置いてあった。</p>
<p>トントン。<br>
「なに?女の子の風呂を堂々と覗くつもり?スケベね」<br>
「いや・・・そのままでいいんだ。覗くつもりはないから」<br>
シャワーの音が止まった。<br>
「バレンタイン、ありがとう。俺、姉貴のこと、好きだから」<br>
「・・・バカね」<br>
再び、お湯がバスマットを叩く音がした。</p>
<p>今年は一つ貰えたな。</p>
<p>
義理だったけど、自分の気持ちは本当だから、まあいっか。</p>
<p>『バレンタイン、ありがとう』 ~完~<br></p>