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[ビギナーズ]」(2006/04/04 (火) 23:53:39) の最新版変更点

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<p><a title="barabigina-" name="barabigina-"></a>[ビギナーズ]<br> <br> 「……」<br>  鏡を前に薔薇水晶は眉を吊り上げ、眉間に皴を寄せる。<br>  ……どこかおかしいところはないだろうか?<br>  髪、眉毛、服装、香水、その他諸々。<br>  準備に抜かりはない―――はず。<br> 「……うー」<br>  考えれば考えるほど見落としがあるような気がして、<br> 「あぅ、どうしよどうしよー」<br>  こんな風に、出発時間になっても家の中で走り回ってしまうのであった。<br> <br> 「……」<br>  ジュンは鏡を前に考える。<br>  髪型に乱れはないか。服装におかしな箇所はないか。<br>  財布、携帯、ハンカチ、ティッシュ。<br> 「……大丈夫、だよな?」<br>  誰に問いかけるわけもなく、問う。<br>  一瞥した壁掛け時計を見ると、もうそろそろ出なければいけない時間。<br> 「やっべー」<br>  洗面所を急ぎで出て、玄関へと走る。<br>  すると何かが引っかかったような、嫌な感触。<br> 「……うわー」<br>  眼に映るのは、ドアノブと、裂けた上着。<br>  絶望感に浸っている間に、無情にも出発時間は過ぎ去っていた。<br> </p> <p> 『マッダーイワナーイデー十時メーイターソノコトバー』<br>  やる気が抜ける時報が鳴り響く駅前のロビー。<br>  薔薇水晶の視界にはもう、目的地が映り込んでいる。<br> ―――もう少し!<br> 「はっ、はっ」<br>  走れー走れー薔薇水晶ー。本命穴馬掻き分けてー。<br>  そんな電波ソングが彼女の脳内に奔る。<br> ―――どうしよう、遅れちゃった。<br>  九時半に駅前ロビーが到着時間。結局、三十分の遅れが出てしまった。<br> (あぁ、せっかくジュンが誘ってくれたのに……)<br>  嫌われたらどうしよう―――。<br> (……あ、あれ?)<br>  そこで彼女は、前方から走ってくる、見覚えのある人影に気が付いた。<br> 「ジュ、ジュン?」<br> 「あ、あれ。薔薇水晶!?」<br>  顔を見合わせたところが、丁度集合場所だった。<br>  互いに息が切れ、うっすらと汗が浮かんでいる。<br> 「……ぷっ」<br> 「は、はは……」<br>  そして無性におかしくなり、無意識に笑い声が上がっていた。<br> <br> 「結局、どっちも三十分遅れちゃったってわけだな」<br> 「うん、なんか焦って損したかも」<br>  混み合った街中を、二人で歩く。<br>  注意し合わないとはぐれてしまいそうである。<br> (……)<br> (……)<br>  同時に気付く。そして互いに顔を見て、<br> 「……!」<br> 「……っ」<br>  頬を紅潮させ、あさっての方向を向いてしまう。<br> 『あ、あの!』<br>  抑揚さえも一致する言葉。言いたいことはもう分かり切っている。<br>  ―――どちらが切り出すか、だ。<br> (あぅあぅ、どうしよう)<br> (いや、うん、僕と薔薇水晶は付き合ってるわけでありましていえいえ部長)<br> 『だ、だからっ!』<br> 「……」<br> 「……」<br> 「……手、繋ごうか。薔薇水晶」<br> 「……あ、う、うんっ!」<br> <br> 「ここのクレープが美味しいって評判なんだよ」<br> 「そ、そうなんだ……」<br>  すっかり慣れたジュンと、まだ赤くなっている薔薇水晶。<br> ―――そういえば心なしか周囲の視線が生暖かいような?<br>  ふと考える。周りに自分たちの姿はどう映っているのだろうか。<br> 「いらっしゃいませえ……って」<br> 「あ、はい……っと」<br> 「……あ」<br> 「あらぁ、あなたたちだったのぉ」<br> 「水銀燈じゃないか。バイトか?」<br> 「そぉよぉ。悲しくクレープを焼くのが独り身の休日の過ごし方なのぉ」<br> 「そ、それは、ご愁傷様……」<br> (……水銀燈……)<br>  薔薇水晶は知っている。彼女がジュンを好きだという事を。<br>  でも薔薇水晶とジュンが付き合い始めた時、一番におめでとうと言ってくれたのも水銀燈。<br> 「あら薔薇水晶、どうしたのかしらぁ。そんな暗い顔して」<br> 「あ、う、ううん。なんでも、ないよ」<br> (……複雑だなぁ)<br> <br> 「じゃあ、料金はサービスしちゃうわぁ。いいモノ見れたしぃ」<br> 「なんだよそれ」<br> 「うーん、初々しくて見てるこっちが照れちゃうわぁ」<br> 「か、からかうなよ……」<br> 「うう……」<br>  水銀燈の言葉は軽口であり、冗談めいていた。<br>  しかしジュンと薔薇水晶は真に受けてしまい、先程の様にりんごになった。<br> 「じゃ、じゃあ僕たち行くから。ありがとな」<br> 「どういたしましてぇ。明後日、学校でねぇ」<br>  眩しい笑顔で手を振る水銀灯に別れを告げ、二人は公園を歩く。<br> 「……ねえ、ジュン。知ってる?」<br> 「ん、何を?」<br> 「わたしがジュンを大好きってこと」<br> 「知ってるよ。僕もだしね」<br> 「ん」<br>  その言葉だけで安心できる―――。<br>  薔薇水晶は一層強く、ジュンの手を握った。<br> (きっと、ジュンも知ってるんだろうなぁ。水銀燈のこと……)<br>  でも彼女は晴れやかな笑顔で、二人を祝ってくれた。<br> 「次、どこ行こうか?」<br> 「んー……」<br> <br> 『生きる事は、戦う事なのだわ!』<br> 『人、それを愛と呼ぶ!』<br> 『貴様何奴! 俺様をサイヤ人の王子と知っての事か!』<br> 『てめぇに明日を生きる資格はねぇですぅ!』<br>  薔薇水晶が希望した次のスポットは、映画館だった。<br>  薔薇水晶がこういった作品が好きな事は知っているし、ジュンもこういう物は好きである。<br>  しかしやはり、その台詞回しは力が抜ける。<br> (まあ、いいけど)<br>  隣をちらと見ると、瞳が輝いている薔薇水晶がいる。らんらんと。<br> (まったく、かなわないよなぁ)<br> <br> 「面白かったか?」<br> 「うん……すっごく、とっても、滾るように」<br> 「そうか、良かったな」<br>  映画も終わり、時刻は十三時。そろそろ昼時である。<br> 「じゃあお昼ご飯でも食べようか? 腹減ったし」<br> 「うん」<br> <br>  昼食を済ませた二人が移動した先は、街一番の賑わいを見せるゲームセンターだった。<br>  薔薇水晶が指す方向には、格闘ゲームの筐体がある。<br> 「ジュン、これやろ」<br> 「……よーし、手加減しないからな」<br> 「うん」<br>  張り切って、ジュンは硬貨を投入する。<br> 『レディ、ファイッ!』<br>  <br> 「……うわ!」<br> 「まだまだ……」<br>  薔薇水晶の周りにはいつしかギャラリーが出来上がっていた。<br>  巧みなレバー捌きと、目にも留まらぬコマンド入力。<br>  ジュンのキャラは空中に浮かされ、コンボを叩き込まれる。<br>  あっという間に、勝負はついてしまった。<br> 「強いな薔薇水晶ー」<br> 「え、えへへ……」<br>  ジュンが褒めると薔薇水晶は照れてしまい、顔を俯けた。<br>  そこで彼女は気付く。繋がっている手と手。<br> (……手、の次は……)<br>  ―――それは、腕しかないかしらー。<br> (!)<br>  金糸雀口調で解説がされ、薔薇水晶は思わず顔を振り上げた。<br> 「ど、どうしたんだ薔薇水晶?」<br> 「あ、そ、その……なんでも」<br>  ―――さっきは、形はどうでも、ジュンから言ってくれたのだ。<br> (それじゃあ、次は―――)<br> 「ねえ、ジュン。腕、組んでもいい……?」<br> <br> 「やっぱりこの季節の肉まんは美味しいですねぇ」<br> 「翠星石、程々にしなよ。食べてばかりいると太るんだから」<br> 「うぐ」<br>  肉まんを持っている手が止まり、翠星石は言葉にも詰まる。<br> 「大体君は……あれ?」<br> 「ん、どうかしたですか?」<br> 「ほら、あそこ。ジュン君と……」<br> 「……薔薇水晶、ですねぇ」<br>  腕を組んで歩いている二人が目に留まり、翠星石と蒼星石は無意識にその足取りを追い始めていた。<br>   <br> 「……」<br> 「……」<br> (な、なんて気まずい……)<br> (う、腕を組んだ後は、ど、どうすれば……)<br>  <br> 「……初々しいなあ」<br> 「……初々しいですねぇ」<br> 「見てるこっちが恥ずかしくなってくるよ」<br> 「同感です。学校でもあんな調子なのかと思うと、見てらんねぇですぅ」<br> 「まあ、ビギナー同士だし」<br> 「そうですね。二人で勉強すれば、なんとかなるですよ」<br>  <br>  もう陽も暮れて、辺りは真っ暗。ジュンと薔薇水晶はベンチに腰掛けていた。<br> (そろそろ変える時間だよなぁ)<br> 『いい、ジュンくん。デートの後には、女の子を送らなきゃ駄目なのよ』<br> 「……あ」<br> 「?」<br>  前日、姉に言われた言葉を思い出した。瞬間、ジュンは薔薇水晶を見据えて、<br> 「そ、その、薔薇水晶……送ってくよ、家まで」<br> <br> 「……で、どうしたの?」<br> 「うん……、いい雰囲気だったんだけど、雪華おねーちゃんが帰ってきちゃって」<br> 「まったく、あの姉は……」<br> 「『あらあら、わたしはお邪魔だったみたいですねー』って、笑いながら……<br>  で、でもおねーちゃんが部屋を出てった後でジュンが「また今度な」って<br>  だからわたしも頷いて、ああ、今度ー、こんどー、近藤さーん」<br> 「ああはいはい。あなたたちのらぶらぶっぷりはわかったから」<br> 「―――!」<br> 「ちょ、ちょっとやめなさいよぉ、冗談じゃなぁい。いた、いた、いたた」<br> 「うー、うー」<br> 「おーっす、おはよー」<br> 「あらジュン、おはよぉ」<br> 「!」<br> 「ああ、おはよう水銀燈、薔薇水しょ、っていたっ、いたっ、な、なんで叩くんだよ」<br> 「うー、うー!」<br> 「あはは、それじゃあわたしはこれでぇ。薔薇水晶とお幸せにねぇ」<br> 「なっ、ちょっ、おまっ!」<br> 「じゃあねえ」<br>  水銀燈は軽やかに髪を翻し、自分のクラスへと戻っていった。<br> 「……落ち着いた?」<br> 「……うん」<br> 「……まあ、これからだしさ」<br> 「……うん」<br> 「ゆっくり、な」<br> 「うん!」<br> <br>  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄○ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄<br>            O 。<br> 「そして互いの唇が徐々に近付いていき……」<br> 「ん、何書いてんだ薔薇水しょ「ユニバース!」ぐえっ」<br> 「月光蝶であーる……」<br> 「ぼ、僕が何をしたと……」<br> <br>  オチない。<br></p>

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