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白兎とタイムマシンと大切な人と 第十五話 「過去との遭遇」」(2011/03/06 (日) 10:41:41) の最新版変更点

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<p>第十五話「過去との遭遇」 </p> <p> </p> <p>「そういう訳で過去へと戻ってきたのね」<br /> 「ああ、待たされる時間を考えていたんだ。<br />  辛くてたまらないだろう。事実、僕は苦しんでいた。<br />  馬鹿だから気づかなかったけども、金糸雀はそうじゃない。<br />  賢いからね、きっと辛くなっただろうと思うんだ。」</p> <p>実際の所、金糸雀は僕と一度も離れた事が無い。<br /> 未来から来た僕が入れ替わり、彼女の前へと現れたからだ。</p> <p>「自分の作ったレールを歩む人生を送った。<br />  だから今度は作るんだ、歩ませる側さ」</p> <p>難儀で縛られた人生だと思う。<br /> だけども、僕はそれで満足しているし<br /> 現状は幸せであるのだ。</p> <p>「―――という事を金糸雀にも説明したんだ。<br />  お分かり頂いたかな?オディールさん」</p> <p><br /> 「ええ」</p> <p>喫茶店の先の向かいに座っている女性。<br /> それは僕の恋人でなく、オディール・フォッセーなる人物。<br /> 綺麗な瞳に、さらっとした絹のような金髪。</p> <p>「愉快な話ですね」<br /> 「だろう。それを信じる君の頭の中も愉快だ」</p> <p>過去へと戻って数ヶ月が経った。<br /> この時代で出会った少ない人物の一人。<br /> そもそも、出会ったのは今日が初めてなのだ。<br /> 喫茶店で強引に相席してきた。</p> <p> </p> <p>「益々好きになりそうですわ」<br /> 「本当に愉快だな君は、お世辞抜きで」</p> <p>告白されたのだ、急に。<br /> 座ってきた彼女の第一声が「好きです」だ。<br /> 流石にど肝を抜かれた。<br /> 金糸雀という恋人がいる事。<br /> おまけに過去へ来たという事実と事情を話せば<br /> イカれた野郎だと思って離れてくれるかと思いきやだ。<br /> 過去にはとんでもない人物がいるもんだ。<br /> おまけに終始にやけている。</p> <p>「なんでそんなに楽しそうなんだ?」<br /> 「好きな人を目の前にすると楽しいですもの」</p> <p>そうかい。</p> <p>「にしても日本語が達者だね」<br /> 「フランス生まれの日本育ち」<br /> 「成る程、結構なハイスペックだこと」</p> <p>ちなみに何故好きかという事を聞いてみた。<br /> 曰く一目ぼれ、白兎の姿も好きですだと。<br /> うわ恥ずかしい、色々とこっちが恥ずかしい。<br /> これほどに重症だとどうしようもなさそうなのだ。</p> <p>「生憎と、この喫茶店は金糸雀との待ち合わせ場所でね。<br />  立ち去って頂けると助かるのだが」</p> <p>変な誤解をされてしまっては困るし。</p> <p>「随分とはっきりと言うのですね。<br />  そんなんじゃ女性に嫌われますわよ」<br /> 「君に嫌われても僕は一向に困らないのだけども」<br /> 「あら、そういう所私は好きですけども」</p> <p>最早何も思わない。</p> <p><br /> 「そういう事でしたら今日は去らしてもらいますわ。<br />  愛人でも私は良いのですけども?」<br /> 「返事が要るのか?これは」</p> <p>やれやれ、といった感じでオディールは微笑んだ。<br /> そして振り向き、ゆっくりと去っていった。<br /> その姿は、かつての友人が僅かに心に浮かんだ。</p> <p>「随分と好かれるんですね。<br />  この前は別の女性と一緒でしたけども」<br /> 「勝手に寄ってきたんだ」<br /> 「嫌な人ね」</p> <p>水を入れにきた女性店員が茶々を入れる。<br /> 最近顔を見るようになった若い女の子だ。<br /> ……若いって表現を使うふけた自分が少し少し悲しい。<br /> この喫茶店は“オーベルテュ-レ”という。<br /> クラシックな雰囲気の純喫茶であり<br /> どことなくトロイメントに似た雰囲気を出している。<br /> 僕はこれからトロイメントを作っていかなければならない。<br /> その参考にと通い詰めている。</p> <p> </p> <p>未来の僕こと、あの白兎は<br /> 色々と部屋(タイムマシン)に便利なものを置いてくれていた。<br /> この時代の宝くじの当選番号やら、競馬情報やらと。<br /> それは時を遡った僕ならではの金の稼ぎ方が出来て<br /> 実に楽に生活を営む事が出来ているのである。<br /> 楽勝に人生を歩んでいるように見えてはいるが<br /> 結構ちゃんとした生活を送っている。<br /> かつて大学生だったように、忍び込んでだが<br /> 僕は聴講したりと勉強しに行っている。<br /> 何故か。<br /> 白兎の残したものの一つにタイムマシンの設計図があった。<br /> その中身は実に難解なものであった。<br /> しかしながら、それを理解するための手解きとして<br /> 様々な学問のすすめなど、勉強法まで<br /> 几帳面にノートに記してあったのだ。<br /> 中々やるじゃないか白兎。</p> <p><br /> 「お待たせかしら」<br /> 「やあ、金糸雀」</p> <p>ようやく金糸雀が喫茶店に来た。<br /> と言っても、金糸雀は中学校に通っているのだから<br /> 仕方が無い訳であるし、僕は個人的な考えででも<br /> オーベルテューレへと来訪しているのだ。</p> <p>「学校はどうだったんだい?」<br /> 「ジュンがいないと退屈かしら」</p> <p>昔からずっと金糸雀は、そしてこれからも<br /> 金糸雀はこうであるのだろう。<br /> 僕は過去へ来て正解だったと改めて感じる。<br /> 金糸雀を寂しがらせるだなんて、最早出来はしない。</p> <p>「過去へ遡ってジュンは後悔してないのかしら?」<br /> 「全く、むしろこのまま生きてると金糸雀よりも<br />  早く死ぬ事が出来そうで良いと思うよ」<br /> 「全く馬鹿かしら」</p> <p><br /> 女性は夫に先立たれても強く生きていけるが<br /> 男性は妻に先立たれるとそうではないらしい。<br /> ジョン・レノンだってオノ・ヨーコよりも<br /> 早く死にたいと言っていたが、気持ちはよくわかる。</p> <p>「ねぇジュン」<br /> 「好きかしら」<br /> 「知ってるさ」</p> <p>嫌にはならないが、とてもよく知っている。<br /> そして、僕も同じ程に金糸雀が好きだ。</p> <p>「これからどうしていくの?」<br /> 「どうともしないさ、やる事はやる。<br />  あとは適当に楽しむさ。」</p> <p>やはり住んでいた世界である過去。<br /> 僕自身に関わる縁が尽きる事はない。<br /> 実に因果なものなのだ。</p> <p>「これからタイムマシンにあいつを乗せるまでだ。<br />  とにかく頑張ろう、協力しておくれな」<br /> 「ええ」</p> <p> </p> <p>「またぶらりと買い物でもするか」<br /> 「そうね、トロイメントを開く為にも<br />  色々なものを見て回っときたいかしら」<br /> 「だな、じゃあお勘定」</p> <p>僕は領収書を持ってレジへと向かった。<br /> 腐るほどに金は稼げるし、金糸雀は中学生なので<br /> いつもお代は僕持ちだ。まぁ当然である。<br /> レジにいるのはさっきの女性店員だった。<br /> 無表情だが、僕を胡散臭そうに、どことなく<br /> 冷ややかに見ているのがよくわかる。<br /> 別に軽い男じゃあないのだが。</p> <p>「……またのお越しを」<br /> 「ああ、また来るよ」</p> <p>金糸雀の手を取り、オーベルテューレを出ようとする。<br /> その刹那に、店員のエプロンについている名札の<br /> 名前を確認する事が出来た。</p> <p>――柏葉巴――</p> <p>だ、そうだ。<br /> 全く因果な世の中だと思う。 </p> <p> </p> <p> </p>
<p>第十五話「過去との遭遇」 </p> <p> </p> <p>「そういう訳で過去へと戻ってきたのね」<br /> 「ああ、待たされる時間を考えていたんだ。<br />  辛くてたまらないだろう。事実、僕は苦しんでいた。<br />  馬鹿だから気づかなかったけども、金糸雀はそうじゃない。<br />  賢いからね、きっと辛くなっただろうと思うんだ。」</p> <p>実際の所、金糸雀は僕と一度も離れた事が無い。<br /> 未来から来た僕が入れ替わり、彼女の前へと現れたからだ。</p> <p>「自分の作ったレールを歩む人生を送った。<br />  だから今度は作るんだ、歩ませる側さ」</p> <p>難儀で縛られた人生だと思う。<br /> だけども、僕はそれで満足しているし<br /> 現状は幸せであるのだ。</p> <p>「―――という事を金糸雀にも説明したんだ。<br />  お分かり頂いたかな?オディールさん」</p> <p><br /> 「ええ」</p> <p>喫茶店の先の向かいに座っている女性。<br /> それは僕の恋人でなく、オディール・フォッセーなる人物。<br /> 綺麗な瞳に、さらっとした絹のような金髪。</p> <p>「愉快な話ですね」<br /> 「だろう。それを信じる君の頭の中も愉快だ」</p> <p>過去へと戻って数ヶ月が経った。<br /> この時代で出会った少ない人物の一人。<br /> そもそも、出会ったのは今日が初めてなのだ。<br /> 喫茶店で強引に相席してきた。</p> <p> </p> <p>「益々好きになりそうですわ」<br /> 「本当に愉快だな君は、お世辞抜きで」</p> <p>告白されたのだ、急に。<br /> 座ってきた彼女の第一声が「好きです」だ。<br /> 流石にど肝を抜かれた。<br /> 金糸雀という恋人がいる事。<br /> おまけに過去へ来たという事実と事情を話せば<br /> イカれた野郎だと思って離れてくれるかと思いきやだ。<br /> 過去にはとんでもない人物がいるもんだ。<br /> おまけに終始にやけている。</p> <p>「なんでそんなに楽しそうなんだ?」<br /> 「好きな人を目の前にすると楽しいですもの」</p> <p>そうかい。</p> <p>「にしても日本語が達者だね」<br /> 「フランス生まれの日本育ち」<br /> 「成る程、結構なハイスペックだこと」</p> <p>ちなみに何故好きかという事を聞いてみた。<br /> 曰く一目ぼれ、白兎の姿も好きですだと。<br /> うわ恥ずかしい、色々とこっちが恥ずかしい。<br /> これほどに重症だとどうしようもなさそうなのだ。</p> <p>「生憎と、この喫茶店は金糸雀との待ち合わせ場所でね。<br />  立ち去って頂けると助かるのだが」</p> <p>変な誤解をされてしまっては困るし。</p> <p>「随分とはっきりと言うのですね。<br />  そんなんじゃ女性に嫌われますわよ」<br /> 「君に嫌われても僕は一向に困らないのだけども」<br /> 「あら、そういう所私は好きですけども」</p> <p>最早何も思わない。</p> <p><br /> 「そういう事でしたら今日は去らしてもらいますわ。<br />  愛人でも私は良いのですけども?」<br /> 「返事が要るのか?これは」</p> <p>やれやれ、といった感じでオディールは微笑んだ。<br /> そして振り向き、ゆっくりと去っていった。<br /> その姿は、かつての友人が僅かに心に浮かんだ。</p> <p>「随分と好かれるんですね。<br />  この前は別の女性と一緒でしたけども」<br /> 「勝手に寄ってきたんだ」<br /> 「嫌な人ね」</p> <p>水を入れにきた女性店員が茶々を入れる。<br /> 最近顔を見るようになった若い女の子だ。<br /> ……若いって表現を使うふけた自分が少し少し悲しい。<br /> この喫茶店は“オーベルテュ-レ”という。<br /> クラシックな雰囲気の純喫茶であり<br /> どことなくトロイメントに似た雰囲気を出している。<br /> 僕はこれからトロイメントを作っていかなければならない。<br /> その参考にと通い詰めている。</p> <p> </p> <p>未来の僕こと、あの白兎は<br /> 色々と部屋(タイムマシン)に便利なものを置いてくれていた。<br /> この時代の宝くじの当選番号やら、競馬情報やらと。<br /> それは時を遡った僕ならではの金の稼ぎ方が出来て<br /> 実に楽に生活を営む事が出来ているのである。<br /> 楽勝に人生を歩んでいるように見えてはいるが<br /> 結構ちゃんとした生活を送っている。<br /> かつて大学生だったように、忍び込んでだが<br /> 僕は聴講したりと勉強しに行っている。<br /> 何故か。<br /> 白兎の残したものの一つにタイムマシンの設計図があった。<br /> その中身は実に難解なものであった。<br /> しかしながら、それを理解するための手解きとして<br /> 様々な学問のすすめなど、勉強法まで<br /> 几帳面にノートに記してあったのだ。<br /> 中々やるじゃないか白兎。</p> <p><br /> 「お待たせかしら」<br /> 「やあ、金糸雀」</p> <p>ようやく金糸雀が喫茶店に来た。<br /> と言っても、金糸雀は中学校に通っているのだから<br /> 仕方が無い訳であるし、僕は個人的な考えででも<br /> オーベルテューレへと来訪しているのだ。</p> <p>「学校はどうだったんだい?」<br /> 「ジュンがいないと退屈かしら」</p> <p>昔からずっと金糸雀は、そしてこれからも<br /> 金糸雀はこうであるのだろう。<br /> 僕は過去へ来て正解だったと改めて感じる。<br /> 金糸雀を寂しがらせるだなんて、最早出来はしない。</p> <p>「過去へ遡ってジュンは後悔してないのかしら?」<br /> 「全く、むしろこのまま生きてると金糸雀よりも<br />  早く死ぬ事が出来そうで良いと思うよ」<br /> 「全く馬鹿かしら」</p> <p><br /> 女性は夫に先立たれても強く生きていけるが<br /> 男性は妻に先立たれるとそうではないらしい。<br /> ジョン・レノンだってオノ・ヨーコよりも<br /> 早く死にたいと言っていたが、気持ちはよくわかる。</p> <p>「ねぇジュン」<br /> 「好きかしら」<br /> 「知ってるさ」</p> <p>嫌にはならないが、とてもよく知っている。<br /> そして、僕も同じ程に金糸雀が好きだ。</p> <p>「これからどうしていくの?」<br /> 「どうともしないさ、やる事はやる。<br />  あとは適当に楽しむさ。」</p> <p>やはり住んでいた世界である過去。<br /> 僕自身に関わる縁が尽きる事はない。<br /> 実に因果なものなのだ。</p> <p>「これからタイムマシンにあいつを乗せるまでだ。<br />  とにかく頑張ろう、協力しておくれな」<br /> 「ええ」</p> <p> </p> <p>「またぶらりと買い物でもするか」<br /> 「そうね、トロイメントを開く為にも<br />  色々なものを見て回っときたいかしら」<br /> 「だな、じゃあお勘定」</p> <p>僕は領収書を持ってレジへと向かった。<br /> 腐るほどに金は稼げるし、金糸雀は中学生なので<br /> いつもお代は僕持ちだ。まぁ当然である。<br /> レジにいるのはさっきの女性店員だった。<br /> 無表情だが、僕を胡散臭そうに、どことなく<br /> 冷ややかに見ているのがよくわかる。<br /> 別に軽い男じゃあないのだが。</p> <p>「……またのお越しを」<br /> 「ああ、また来るよ」</p> <p>金糸雀の手を取り、オーベルテューレを出ようとする。<br /> その刹那に、店員のエプロンについている名札の<br /> 名前を確認する事が出来た。</p> <p>――柏葉巴――</p> <p>だ、そうだ。<br /> 全く因果な世の中だと思う。 </p> <p> </p> <p> </p>

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