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<p>『保守かしら』<br />
２００７年１２月４日<br /><br />
　電話が、かかってきたかしら。カナがとって、相手はレンさんだったわ。あいさつしてすぐに<br />
「水銀燈様にかわっていただけますか」だって。<br />
　レンさんとその時はほとんど話したことがないけれど、すごく声が硬いし嫌な感じがしたかしら。<br />
　おねえちゃんが電話にかわってから、すぐ息をのむような声がしていたからもう、これは何か<br />
あったんだなってカナにもわかったかしら。<br />
　それでも、おねえちゃんが聞いた話はカナの予想をこえてた。<br /><br />
　電話が終わってから、おねえちゃんは真剣な顔をしてた。<br />
　「落ち着いて聞きなさい。…蒼星石が亡くなったわ」<br />
　「え？」<br />
　言葉は聞こえてるけど、頭の中で意味が出てこない感じがして、カナはもう一度聞き返したわ。<br />
　おねえちゃんは噛んで含めるみたいに、ゆっくりともう一度言ったかしら。<br />
　「蒼星石が亡くなったのよ」<br />
　「うそ」<br />
　反射的にカナはそう言ってた。でも、べつにおねえちゃんが嘘をついたと思ってたんじゃない<br />
かしら。ほんとに、ただの反射。<br />
　おねえちゃんは静かに首をふったわ。<br />
　それでもカナは蒼星石が亡くなったって聞かされても、どこかで信じていなかったみたい。<br />
この時もまだぜんぜん実感がわかなかったもの。<br />
　カナが実感したのは、蒼星石にあってから。<br /><br />
　台の上に横たわる蒼星石を見た時、はっきりと蒼星石がもういないことがわかったのかしら。<br />
　蒼星石は布がかかって、顔だけが見えていたかしら。まるで静かに眠っているみたいなのに、<br />
不自然に肌が白くて。息をしてなかった。<br />
　その白い存在感に打ちのめされて、カナは何も言えなかったかしら。<br />
　たぶんおねえちゃんは蒼星石の家の人と色々話してた。聞こえてるけれど覚えてないのは<br />
これが初めてかも。</p>
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<p> </p>
<p>　帰りの車もずっと静か。<br />
　「ねえ、おねえちゃんなんで蒼星石の首には包帯が巻かれていたのかしら？」<br />
　「せめて少しでも綺麗に整えておくのが病院の心遣いなのよ」<br />
　でもカナはそういうことが聞きたかったんじゃないし、おねえちゃんもたぶんわかってた。<br />
　「蒼星石は事故にあったのかしら？」<br />
　おねえちゃんはたぶん深呼吸をしてた。<br />
　「…自殺だそうよ」<br />
　「なんで、なんでなのかしら」<br />
　そう言おうとしたけれど、もう言葉にならなかったかしら。<br />
　おねえちゃんはその日一緒にいてくれて、一緒に寝たかしら。<br /><br /></p>
<hr />