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「『第1章 鎖と鍵』」(2006/04/04 (火) 17:57:42) の最新版変更点
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<p><a title="eiennohana1syou" name=
"eiennohana1syou"></a>『第1章 鎖と鍵』<br>
<br>
「・・・ご馳走様。」<br>
カチャ、という音と共に自分の箸をお椀の上に置く。<br>
何度となく来てもらったことがあるので、箸や椀等は区別できるらしい。<br>
「はい、お粗末様ですぅ」<br>
昔は、とても食べられた物じゃなかった覚えがあるが…<br>
「・・・何ボーッとしてるですか?早く食器片付けるですぅ」<br>
当の本人が怪訝そうな顔をしている。<br>
「あ、ああ」<br>
立ち上がって椅子を引き、食器をまとめ、流し台に持っていく。<br>
ガチャガチャ、と自分が食器を置き終わるとすぐ、真横に翠星石が残りの食器を置きに来た。<br>
「今までずっとこんな時間に起きてたですか?生活習慣悪すぎですぅ。」<br>
と悪態をつきながら、腕を捲くっている。<br>
「ほっとけよ・・・食器洗い手伝うよ」<br>
「!・・・あったりまえですぅ。そもそもこっちは手伝いにきてやってるんですからね。<br>
これで手伝わなかったら3回まわってワンと言わせてやるところですぅ」<br>
(・・・この口の悪さはいつになっても変わらないな・・・)<br>
「うるさいな、さっさと洗うぞ」<br>
「わかってるですよ!」<br>
そうして二人は洗い始めた。途中、幾度となく悪態をつき合いながら。<br>
</p>
<p>
ジュンと翠星石が洗い物をしている家の外に、ある二人の影があった。<br>
「ふふ・・・二人はうまくいってるのかしらねぇ?」<br>
「・・・・・・銀ちゃん・・・何も・・・家にまで来なくても・・・」<br>
「なに言ってるの薔薇しぃ。せっかく久しぶりに面白いものを見つけたんだから、ちゃんと見届けなきゃぁ」<br>
水銀燈と薔薇水晶である。<br>
二人はジュンとは幼馴染というほどでこそなかったものの、比較的早くから友達になった。<br>
最も、学園ではジュンを抜いた3人と他の数人の少女を幼馴染として『薔薇乙女』と総称されているが。<br>
特に幼い頃から大人びていた水銀燈には、よくからかわれていた仲である。<br>
(引きこもりから直ってそうそう翠星石の訪問、ね・・・からかうには丁度いいかしらねぇ)<br>
「入るわよぉ、薔薇しぃ。」<br>
「・・・・・・怒られないと、いいね」<br>
ガチャ・・・と、扉を開け、入っていった。<br>
<br>
「やーっと終わったですぅ。チビがチビチビうるさいから時間かかりまくったです」<br>
「あのなー、人のせいにするな」<br>
濡れた手をタオルで拭き、翠星石に渡す。その時、微かに互いの手が触れ合った。<br>
「あっ・・・」<br>
タオルを持ちつつ慌てて手を引く翠星石。<br>
「どうした?」<br>
「・・・何でもないです」<br>
顔を少し赤くし、プイとそっぽを向いている。<br>
「言いたいことがあるならちゃんと言えよ。」<br>
「何でもないって言ってるのにしつこいですよこのチビチビ!」<br>
「なっ!なんだとこの・・・」<br>
言い終わらないうちに、バン!と乱暴にドアを開かれる。<br>
「相変わらず仲がいいのねぇ、お二人さぁん?」<br>
「・・・・・・ポッ・・・妬いちゃいます・・・・・・」<br>
見れば、堂々と胸を張って歩いてくる水銀燈、それとは対照に頬を赤らめて手まで添える薔薇水晶。<br>
翠星石もそうだが、私服を見るのは久しぶりで、改めて見ると新鮮である。<br>
<br></p>
<p>「水銀燈に・・・薔薇水晶?なんでうちに・・・?」<br>
突然の顔ぶれに驚いた。<br>
そもそもこの二人が家に来る事自体が稀なのである。<br>
幼い頃は彼女らの家に自分が行くのがきまりだったのだから。<br>
「それはもちろん、大事な友達が毒牙にかけられていないか確かめるためでしょぉ。<br>
・・・まぁ、ジュンにそんな度胸があるかはわからないけどぉ。若気の至りっていうのもあるしねぇ?」<br>
ふと、夢が脳裏によぎる。薄く朱に染まった頬、艶のある唇・・・<br>
(だ、だめだ考えるな考えるな・・・)<br>
「なっ・・・何バカなこと言って・・・」<br>
「そ、そうです!こんなチビチビがそんな甲斐性あるわけねぇです!<br>
勘違いもほどほどにしとけコンチクショー、です!」<br>
「あ~ら・・・何でそこで翠星石がムキになって否定するのかしら?」<br>
「なっ・・・」<br>
「顔まで赤くしちゃって・・・ふふ、可愛いところもあるのねぇ」<br>
見れば、本当に顔が真っ赤になっている。つられて自分まで赤くなりそうなほどに。<br>
「・・・・・・銀ちゃん・・・からかうのはそれくらいにしとこ・・・」<br>
「ん~・・・そうねぇ。翠星石、ちょっとこっちにきなさぁい」<br>
「・・・なんです?」<br>
膨れた表情で水銀燈達の方に近付いていく。<br>
「もう、そんな怒らないの。でね、・・・・・・・・・。・・・・・・」<br>
「っ!・・・・・・!・・・」<br>
部屋の隅で肩を組んでヒソヒソと話し合う水銀燈と翠星石。<br>
なにやら言い合っているのが聞こえるが、うまく聞き取れない。<br>
(何を話してるんだ・・・?もう少し近かったら・・・)<br>
ふと、見張り役として自分の横に立っている薔薇水晶が、<br>
「・・・・・・聞き耳を立てない」<br>
ギクッ!と、思わず肩が飛び跳ねてしまう。<br></p>
<p>「・・・・・・いいわね。うまくやるのよぉ?」<br>
「・・・いらないお節介ですぅ・・・」<br>
「そう言わない。さて薔薇しぃ、帰るわよぉ。遊びにでも行きましょ。じゃあねぇ、翠星石、ジュン」<br>
翠星石の肩をポンポン、と叩き、部屋を出て行く水銀燈。<br>
「・・・・・・仲良くね」<br>
ボソリ、と呟き水銀燈の後を追う薔薇水晶。<br>
その背中を視線で追いながら、見えなくなると、急に静けさを不安に感じた。<br>
「・・・・・・・・・」<br>
翠星石は水銀燈と話してから未だ顔を赤く染め、黙り込んでいる。<br>
(・・・なんでこんなに静かなんだ、どうして何も話さないんだ、いやそれより――・・・)<br>
自分の置かれている状況に戸惑い、ただ先の疑問を口にする。<br>
「水銀燈と、何話してたんだ・・・?」<br>
「!な、何も話してねぇですぅ!変に詮索するなですぅ!」<br>
「な、なんだと!?何も話してないわけないだろ!」<br>
「チビなんかに余計なこと言われる筋合いねえですぅ!」<br>
「だ・・・だったら出て行けよ!もう二度と顔を見せるな!」<br>
「なっ・・・!いいです、こっちからこんなところ願い下げですぅ!<br>
バァン!<br>
蝶番が外れるのではないかと思うほど乱暴に強く扉を閉め、出て行ってしまった。<br>
まさか、本当に出て行くなんて。自分でもそこまで強く責めたつもりではなかった。<br>
(・・・いいか。そのうち戻ってくるだろ・・・)<br>
ふと見上げると、古い造りの時計の短針は真横を指している。<br>
(もう3時か・・・ドタバタしてたから、全然長く感じなかったな)<br>
</p>
<p>カチッカチッカチッ――――――――――<br>
時を刻む音がいつもよりうるさく聞こえる。どうしてこんなに落ち着かないのか。<br>
原因は、わかっていた。<br>
(・・・・・・まだ戻ってこない・・・家に帰ったのか?)<br>
翠星石が家を飛び出してから、時計の長針は既に円盤上の半分を周ろうとしていた。<br>
グイ、と持っていた紅茶を飲み干し、廊下にある電話の元へと向かう。<br>
耳に移る冷たい感触の向こうからコール音が鳴り響く。<br>
トゥルルルル…トゥルルルル・・・ガチャ。<br>
「もしもし?」<br>
「あ・・・蒼星石?」<br>
あの甲高い声を聞けるつもりでいただけに、少し落胆を隠せない。<br>
「うん、そうだけど・・・どうしたの?」<br>
「あ、いや、翠星石そっちに行ってないか?」<br>
「え?姉さんそっちに居るんじゃないの?」<br>
ドクン、と、心臓が跳ねる音がする。<br>
「それが――――――」<br>
自分の言った事、行った行動、全て漏らさず話した。自分が悪い事は、わかっていたから。<br>
「・・・・・・そう、姉さんが・・・」<br>
「ごめん、てっきり僕、家に帰ってると思って・・・」<br>
まさか家にも帰っていないなんて思いもしなかった。胸が、苦しい。<br>
「ううん・・・それより直接姉さんにジュン君がしたことを謝って欲しい・・・<br>
・・・場所の見当はついてるから、迎えに行ってあげてくれる?<br>
姉さんが落ち込んでる時に家に帰らずに行くところは・・・あそこしかないと思うんだ」<br>
「・・・ああ、わかってる。で、どこに行けばいいんだ?」<br>
「・・・それはジュン君がわかるべきじゃないのかな。昔にもあっただろう?こんな事が。<br>
あの時姉さんがどこに行ったのか・・・」<br>
「!あの時は・・・確か―――――――」<br>
テーブルの上には、ティーカップが2つ、置かれていた。<br>
</p>
<p>「グスン・・・」<br>
ギィ と、錆びたブランコが軋む。<br>
誰も居ない公園に一人佇むその姿は、普段の彼女から誰が想像できるだろうか。<br>
幼馴染の面々でなければ知らないその内面は、決して簡単に表れないはずなのに。<br>
「ジュンの大バカヤロー・・・ですぅ・・・」<br>
本当の事が言えなくて。口から出た強がりは、あまりに脆くて。<br>
どうしようもない気持ちが、胸を満たしてしまって・・・。<br>
<br>
ニャーニャー<br>
<br>
パッ、と顔を上げると、目の前に黒い猫が座っている。<br>
いつの間にか頭が垂れて、下を向いてしまっていたらしい。<br>
本当に目の前のはずなのに、まったく視界に入っていなかったことに驚きを隠せない。<br>
「それにしてもこの猫、人懐っこいですねぇ・・・首輪もついてないのに・・・」<br>
ふ・・・、と手を小さく差し出すと、自分の首を押し当ててくる。<br>
久しぶりに触る猫の毛はフワフワで、温かかった。<br>
(?この猫、前にも見たような・・・)<br>
そう、自分がまだ今の学校に入って居なかった頃に・・・<br>
「・・・もしかしてお前、あの時のチビ猫ですぅ?」<br>
ニャー、<br>
と応えるように、自分の記憶より一回り大きくなっている黒猫は鳴く。<br>
「まだここに居たんですか・・・お前もなかなかしぶとい奴ですぅ。」<br>
そう、確かに昔もここに来た事があった。<br>
昔来た原因は・・・そう、今日のようにごはんを作りに行った日だ。<br>
当時は全く料理の経験がないのに、その時も強がりを言って・・・<br>
</p>
<p>『さぁ!たーんと食べるです!』<br>
《・・・・・・グッ、ま、まずい・・・こんなの食えたもんじゃないだろ!》<br>
『な・・・なんてこと言うですか!翠星石が頑張って作ったですよ!?』<br>
《そんなの知るか、食えないんだからしょうがないだろ!――――》<br>
<br>
確か、そんな会話だった気がする。何年も前だからうろ覚えではあるものの、ぼんやりと覚えている。<br>
あの時もここに来て、同じようにブランコに座って・・・<br>
ニャーン、<br>
と、真っ黒なチビ猫が人懐っこくやってきた。悲しくて一緒に遊んでいると、<br>
ジュンが、迎えに来てくれた。<br>
息を切らせながら、それでも必死に走って・・・<br>
《っ・・・!翠星石!何でこんなところに居るんだよ!<br>
もう夜だぞ!?何かあったらどうするんだ!》<br>
『・・・あ・・・ごめんなさい・・・ですぅ・・・・・・」<br>
<br>
「本当に・・・ちょっと大きくなっただけで何も変わってないですね、お前は」<br>
首を撫でながら、猫に話しかける。<br>
周りから見ればおかしいかもしれないけれど、それだけ悲しい。寂しい・・・<br>
(ジュン・・・)<br>
「す・・・翠星石!」<br>
(え・・・?)<br>
「・・・ジュン・・・?」<br></p>
<p>やっぱり、居た。<br>
昔と同じ、この場所で。<br>
夕日が傾く中、同じように俯き、黒猫と一緒に。<br>
「・・・翠星石・・・翠星石!」<br>
着く前に、声が先に出る。<br>
「え・・・ジュン・・・?」<br>
こっちに気付いたらしい。顔を上げ、驚いたような顔をしている。<br>
そこに、一筋の雫が光った。<br>
(・・・まさか・・・)<br>
「ハッ・・・ハッ・・・・・・翠星石・・・泣いてる・・・のか・・・?」<br>
走ってきたので息も途切れ途切れに、疑問をなげかける。<br>
<br>
どうしてだろう、心が、痛い。<br>
<br>
「な・・・泣いてるわけねえですぅ!ちょーっと眠くなって、アクビが出ただけですぅ・・・」<br>
そっと手をやり、ゴシゴシと擦る翠星石。<br>
平気な風を装ってはいるが、やはり声が上擦っている。<br>
自責の念に、押しつぶされそうだった。<br>
(僕は一体何をしてるんだ・・・?僕は、何より大事な人を、傷つけて・・・)<br>
「翠星石・・・ごめん、僕が言い過ぎたんだ・・・」<br>
「な・・・なーに謝ってやがるです!翠星石はただ、久しぶりにこの公園に・・・っ!?」<br>
<br>
・・・考える暇なんて、なかった。考えるより先に、体が動いていた――――<br>
胸の辺りに、微かな吐息を感じる。<br>
「・・・ごめん・・・」<br>
「・・・・・・」<br>
彼女は黙りこくったままでいた。<br>
ただ、ギュ、と弱い力で抱き返しながら。<br></p>
<p>
少し間をおき、落ち着いてきた所で、今まで言えなかった言葉を、紡ぐ。<br>
「・・・翠星石・・・僕はお前が・・・好きなんだ」<br>
抱きしめているから顔は見えない。<br>
が、彼女が息を呑んでいる様子が直に伝わってくる。<br>
「っ!・・・ジュン・・・・・・翠星石は・・・翠星石は・・・っ」<br>
彼女が一呼吸置き、告げた。<br>
「ずーっと前から・・・ジュンの事が・・・好きで・・・ひぐっ、グスッ・・・じゅぎで・・・」<br>
最後の方は言葉にならなかった。<br>
けれど、彼女の気持ちはいやというほど伝わってきた。<br>
<br>
「・・・・・・もう一回言わせてくれ。・・・愛してるよ、翠星石・・・」<br>
不器用な、不慣れな手つきで頭を撫でてやる。<br>
今はただ、目の前の彼女が恋しかった。愛しかった。何よりも、彼女が。<br>
幾度目だろうか、脳裏によぎる、今朝の夢。<br>
しかし今回は違った。気恥ずかしさ、気後れ等といった負の感情を伴ったものではなかった。<br>
ただ目の前の大切なものに対する、どうしようもない気持ち。<br>
(ああ、そうか・・・)<br>
彼女が何よりも好き。その気持ちに向き合った今、その行動に対する負の感情など持ちようがないのだ。<br>
「・・・翠星石・・・」<br>
彼女の名を呼び、顔を向ける。<br>
<br></p>
<p>
既に泣き止んでいた彼女は、ほんのりと朱の差している顔を上げた。<br>
視線が交差する。<br>
<br>
――――この気持ちに、言葉は、要らない―――――<br>
<br>
二人はどちらからともなく、口付けを交わしていた。<br>
唇と唇が重なり、世界の時が止まる。<br>
永遠のような一瞬。<br>
ゆっくりと惜しむように互いの唇が離れ、目を開ける。<br>
「・・・これからもずっと、僕と一緒に居てくれるか?」<br>
「っ・・・!」<br>
コクコク、と、言葉とならず仕草で表す。<br>
「ありがとう・・・翠星石・・・」<br>
もう一度ギュ、とかたく抱きしめる。すると、<br>
「あっ・・・」<br>
翠星石が、声を上げた。<br>
「?どうした?」<br>
「あの・・・・・・もう・・・一回・・・・・・」<br>
そこまでで言葉は途切れ、これ以上にないほど赤面する。<br>
思わずこっちまで恥ずかしくなり、顔が熱くなってくる。<br>
「・・・それ・・・じゃ、目・・・瞑ってくれ・・・・・・」<br>
「・・・んっ・・・」<br>
1度目以上に、緊張したキス。唇の感触がわかるほどに、濃厚に。<br>
「・・・ずっと、一緒だからな・・・」<br>
<br>
そう、僕は、決めたんだ。腕の中に居る彼女と共に、歩いていくって。<br>
</p>
<br>
<p>『エピローグ』<br>
「銀ちゃん・・・あれでよかったの?翠ちゃんにあんな事言ったら、またジュン君と喧嘩するんじゃ・・・」<br>
左目に眼帯を巻いた少女・薔薇水晶は、隣でクレーンゲームに熱中している少女・水銀燈に問いを投げる。<br>
<br>
「いいのよぉ、あれで。<br>
あの二人は今までもチャンスがあったのに全部フイにしてきたんだから。<br>
ちょっとくらい気恥ずかしいくらいが丁度いいのよぉ。」<br>
と、探偵人形劇の探偵役の犬のヌイグルミを見定めながら喋る水銀燈。<br>
これでは言っている内容と関わらず説得力が欠けるのも当然である。<br>
<br>
「そうかなぁ・・・」<br>
「そうよぉ。・・・他人の事もいいけど、薔薇しぃも自分の事考えなくきゃじゃないのぉ?」<br>
いい性格してるな、と自分で思いつつ、<br>
隣でクレーンの動きをじっと見ている薔薇水晶にからかいを入れてみる。<br>
「えっ、えっ・・・そ、そんなことないもん・・・そういう銀ちゃんはどうなの?」<br>
(あらぁ、結構脈アリかしら?・・・)<br>
「私はその気になればいつでも男が言い寄ってくるもの。心配されなくても大丈夫よぉ。」<br>
事実、背が高く容姿も美々端麗であった彼女にファンは多かった。<br>
学園で有名な『薔薇乙女』達の中でも特に有名な美少女ということになる。<br>
<br>
「まあ、あとは、あの子達次第ね。<br>
・・・ふふ、明日から学校が楽しみねぇ」 <br>
<br>
≪いいこと?翠星石。本当にジュンの事が好きで、気持ちを確かめたいなら・・・<br>
<br>
一度キスでもしてみなさぁい。そうしたら、全てハッキリするから・・・≫<br>
</p>
<p><a title="eiennohana1syou" name=
"eiennohana1syou"></a>『第1章 鎖と鍵』<br>
<br>
「・・・ご馳走様。」<br>
カチャ、という音と共に自分の箸をお椀の上に置く。<br>
何度となく来てもらったことがあるので、箸や椀等は区別できるらしい。<br>
「はい、お粗末様ですぅ」<br>
昔は、とても食べられた物じゃなかった覚えがあるが…<br>
「・・・何ボーッとしてるですか?早く食器片付けるですぅ」<br>
当の本人が怪訝そうな顔をしている。<br>
「あ、ああ」<br>
立ち上がって椅子を引き、食器をまとめ、流し台に持っていく。<br>
ガチャガチャ、と自分が食器を置き終わるとすぐ、真横に翠星石が残りの食器を置きに来た。<br>
「今までずっとこんな時間に起きてたですか?生活習慣悪すぎですぅ。」<br>
と悪態をつきながら、腕を捲くっている。<br>
「ほっとけよ・・・食器洗い手伝うよ」<br>
「!・・・あったりまえですぅ。そもそもこっちは手伝いにきてやってるんですからね。<br>
これで手伝わなかったら3回まわってワンと言わせてやるところですぅ」<br>
(・・・この口の悪さはいつになっても変わらないな・・・)<br>
「うるさいな、さっさと洗うぞ」<br>
「わかってるですよ!」<br>
そうして二人は洗い始めた。途中、幾度となく悪態をつき合いながら。<br>
</p>
<p>
ジュンと翠星石が洗い物をしている家の外に、ある二人の影があった。<br>
「ふふ・・・二人はうまくいってるのかしらねぇ?」<br>
「・・・・・・銀ちゃん・・・何も・・・家にまで来なくても・・・」<br>
「なに言ってるの薔薇しぃ。せっかく久しぶりに面白いものを見つけたんだから、ちゃんと見届けなきゃぁ」<br>
水銀燈と薔薇水晶である。<br>
二人はジュンとは幼馴染というほどでこそなかったものの、比較的早くから友達になった。<br>
最も、学園ではジュンを抜いた3人と他の数人の少女を幼馴染として『薔薇乙女』と総称されているが。<br>
特に幼い頃から大人びていた水銀燈には、よくからかわれていた仲である。<br>
(引きこもりから直ってそうそう翠星石の訪問、ね・・・からかうには丁度いいかしらねぇ)<br>
「入るわよぉ、薔薇しぃ。」<br>
「・・・・・・怒られないと、いいね」<br>
ガチャ・・・と、扉を開け、入っていった。<br>
<br>
「やーっと終わったですぅ。チビがチビチビうるさいから時間かかりまくったです」<br>
「あのなー、人のせいにするな」<br>
濡れた手をタオルで拭き、翠星石に渡す。その時、微かに互いの手が触れ合った。<br>
「あっ・・・」<br>
タオルを持ちつつ慌てて手を引く翠星石。<br>
「どうした?」<br>
「・・・何でもないです」<br>
顔を少し赤くし、プイとそっぽを向いている。<br>
「言いたいことがあるならちゃんと言えよ。」<br>
「何でもないって言ってるのにしつこいですよこのチビチビ!」<br>
「なっ!なんだとこの・・・」<br>
言い終わらないうちに、バン!と乱暴にドアを開かれる。<br>
「相変わらず仲がいいのねぇ、お二人さぁん?」<br>
「・・・・・・ポッ・・・妬いちゃいます・・・・・・」<br>
見れば、堂々と胸を張って歩いてくる水銀燈、それとは対照に頬を赤らめて手まで添える薔薇水晶。<br>
翠星石もそうだが、私服を見るのは久しぶりで、改めて見ると新鮮である。<br>
<br></p>
<p>「水銀燈に・・・薔薇水晶?なんでうちに・・・?」<br>
突然の顔ぶれに驚いた。<br>
そもそもこの二人が家に来る事自体が稀なのである。<br>
幼い頃は彼女らの家に自分が行くのがきまりだったのだから。<br>
「それはもちろん、大事な友達が毒牙にかけられていないか確かめるためでしょぉ。<br>
・・・まぁ、ジュンにそんな度胸があるかはわからないけどぉ。若気の至りっていうのもあるしねぇ?」<br>
ふと、夢が脳裏によぎる。薄く朱に染まった頬、艶のある唇・・・<br>
(だ、だめだ考えるな考えるな・・・)<br>
「なっ・・・何バカなこと言って・・・」<br>
「そ、そうです!こんなチビチビがそんな甲斐性あるわけねぇです!<br>
勘違いもほどほどにしとけコンチクショー、です!」<br>
「あ~ら・・・何でそこで翠星石がムキになって否定するのかしら?」<br>
「なっ・・・」<br>
「顔まで赤くしちゃって・・・ふふ、可愛いところもあるのねぇ」<br>
見れば、本当に顔が真っ赤になっている。つられて自分まで赤くなりそうなほどに。<br>
「・・・・・・銀ちゃん・・・からかうのはそれくらいにしとこ・・・」<br>
「ん~・・・そうねぇ。翠星石、ちょっとこっちにきなさぁい」<br>
「・・・なんです?」<br>
膨れた表情で水銀燈達の方に近付いていく。<br>
「もう、そんな怒らないの。でね、・・・・・・・・・。・・・・・・」<br>
「っ!・・・・・・!・・・」<br>
部屋の隅で肩を組んでヒソヒソと話し合う水銀燈と翠星石。<br>
なにやら言い合っているのが聞こえるが、うまく聞き取れない。<br>
(何を話してるんだ・・・?もう少し近かったら・・・)<br>
ふと、見張り役として自分の横に立っている薔薇水晶が、<br>
「・・・・・・聞き耳を立てない」<br>
ギクッ!と、思わず肩が飛び跳ねてしまう。<br></p>
<p>「・・・・・・いいわね。うまくやるのよぉ?」<br>
「・・・いらないお節介ですぅ・・・」<br>
「そう言わない。さて薔薇しぃ、帰るわよぉ。遊びにでも行きましょ。じゃあねぇ、翠星石、ジュン」<br>
翠星石の肩をポンポン、と叩き、部屋を出て行く水銀燈。<br>
「・・・・・・仲良くね」<br>
ボソリ、と呟き水銀燈の後を追う薔薇水晶。<br>
その背中を視線で追いながら、見えなくなると、急に静けさを不安に感じた。<br>
「・・・・・・・・・」<br>
翠星石は水銀燈と話してから未だ顔を赤く染め、黙り込んでいる。<br>
(・・・なんでこんなに静かなんだ、どうして何も話さないんだ、いやそれより――・・・)<br>
自分の置かれている状況に戸惑い、ただ先の疑問を口にする。<br>
「水銀燈と、何話してたんだ・・・?」<br>
「!な、何も話してねぇですぅ!変に詮索するなですぅ!」<br>
「な、なんだと!?何も話してないわけないだろ!」<br>
「チビなんかに余計なこと言われる筋合いねえですぅ!」<br>
「だ・・・だったら出て行けよ!もう二度と顔を見せるな!」<br>
「なっ・・・!いいです、こっちからこんなところ願い下げですぅ!<br>
バァン!<br>
蝶番が外れるのではないかと思うほど乱暴に強く扉を閉め、出て行ってしまった。<br>
まさか、本当に出て行くなんて。自分でもそこまで強く責めたつもりではなかった。<br>
(・・・いいか。そのうち戻ってくるだろ・・・)<br>
ふと見上げると、古い造りの時計の短針は真横を指している。<br>
(もう3時か・・・ドタバタしてたから、全然長く感じなかったな)<br>
</p>
<p>カチッカチッカチッ――――――――――<br>
時を刻む音がいつもよりうるさく聞こえる。どうしてこんなに落ち着かないのか。<br>
原因は、わかっていた。<br>
(・・・・・・まだ戻ってこない・・・家に帰ったのか?)<br>
翠星石が家を飛び出してから、時計の長針は既に円盤上の半分を周ろうとしていた。<br>
グイ、と持っていた紅茶を飲み干し、廊下にある電話の元へと向かう。<br>
耳に移る冷たい感触の向こうからコール音が鳴り響く。<br>
トゥルルルル…トゥルルルル・・・ガチャ。<br>
「もしもし?」<br>
「あ・・・蒼星石?」<br>
あの甲高い声を聞けるつもりでいただけに、少し落胆を隠せない。<br>
「うん、そうだけど・・・どうしたの?」<br>
「あ、いや、翠星石そっちに行ってないか?」<br>
「え?姉さんそっちに居るんじゃないの?」<br>
ドクン、と、心臓が跳ねる音がする。<br>
「それが――――――」<br>
自分の言った事、行った行動、全て漏らさず話した。自分が悪い事は、わかっていたから。<br>
「・・・・・・そう、姉さんが・・・」<br>
「ごめん、てっきり僕、家に帰ってると思って・・・」<br>
まさか家にも帰っていないなんて思いもしなかった。胸が、苦しい。<br>
「ううん・・・それより直接姉さんにジュン君がしたことを謝って欲しい・・・<br>
・・・場所の見当はついてるから、迎えに行ってあげてくれる?<br>
姉さんが落ち込んでる時に家に帰らずに行くところは・・・あそこしかないと思うんだ」<br>
「・・・ああ、わかってる。で、どこに行けばいいんだ?」<br>
「・・・それはジュン君がわかるべきじゃないのかな。昔にもあっただろう?こんな事が。<br>
あの時姉さんがどこに行ったのか・・・」<br>
「!あの時は・・・確か―――――――」<br>
テーブルの上には、ティーカップが2つ、置かれていた。<br>
</p>
<p>「グスン・・・」<br>
ギィ と、錆びたブランコが軋む。<br>
誰も居ない公園に一人佇むその姿は、普段の彼女から誰が想像できるだろうか。<br>
幼馴染の面々でなければ知らないその内面は、決して簡単に表れないはずなのに。<br>
「ジュンの大バカヤロー・・・ですぅ・・・」<br>
本当の事が言えなくて。口から出た強がりは、あまりに脆くて。<br>
どうしようもない気持ちが、胸を満たしてしまって・・・。<br>
<br>
ニャーニャー<br>
<br>
パッ、と顔を上げると、目の前に黒い猫が座っている。<br>
いつの間にか頭が垂れて、下を向いてしまっていたらしい。<br>
本当に目の前のはずなのに、まったく視界に入っていなかったことに驚きを隠せない。<br>
「それにしてもこの猫、人懐っこいですねぇ・・・首輪もついてないのに・・・」<br>
ふ・・・、と手を小さく差し出すと、自分の首を押し当ててくる。<br>
久しぶりに触る猫の毛はフワフワで、温かかった。<br>
(?この猫、前にも見たような・・・)<br>
そう、自分がまだ今の学校に入って居なかった頃に・・・<br>
「・・・もしかしてお前、あの時のチビ猫ですぅ?」<br>
ニャー、<br>
と応えるように、自分の記憶より一回り大きくなっている黒猫は鳴く。<br>
「まだここに居たんですか・・・お前もなかなかしぶとい奴ですぅ。」<br>
そう、確かに昔もここに来た事があった。<br>
昔来た原因は・・・そう、今日のようにごはんを作りに行った日だ。<br>
当時は全く料理の経験がないのに、その時も強がりを言って・・・<br>
</p>
<p>『さぁ!たーんと食べるです!』<br>
《・・・・・・グッ、ま、まずい・・・こんなの食えたもんじゃないだろ!》<br>
『な・・・なんてこと言うですか!翠星石が頑張って作ったですよ!?』<br>
《そんなの知るか、食えないんだからしょうがないだろ!――――》<br>
<br>
確か、そんな会話だった気がする。何年も前だからうろ覚えではあるものの、ぼんやりと覚えている。<br>
あの時もここに来て、同じようにブランコに座って・・・<br>
ニャーン、<br>
と、真っ黒なチビ猫が人懐っこくやってきた。悲しくて一緒に遊んでいると、<br>
ジュンが、迎えに来てくれた。<br>
息を切らせながら、それでも必死に走って・・・<br>
《っ・・・!翠星石!何でこんなところに居るんだよ!<br>
もう夜だぞ!?何かあったらどうするんだ!》<br>
『・・・あ・・・ごめんなさい・・・ですぅ・・・・・・」<br>
<br>
「本当に・・・ちょっと大きくなっただけで何も変わってないですね、お前は」<br>
首を撫でながら、猫に話しかける。<br>
周りから見ればおかしいかもしれないけれど、それだけ悲しい。寂しい・・・<br>
(ジュン・・・)<br>
「す・・・翠星石!」<br>
(え・・・?)<br>
「・・・ジュン・・・?」<br></p>
<p>やっぱり、居た。<br>
昔と同じ、この場所で。<br>
夕日が傾く中、同じように俯き、黒猫と一緒に。<br>
「・・・翠星石・・・翠星石!」<br>
着く前に、声が先に出る。<br>
「え・・・ジュン・・・?」<br>
こっちに気付いたらしい。顔を上げ、驚いたような顔をしている。<br>
そこに、一筋の雫が光った。<br>
(・・・まさか・・・)<br>
「ハッ・・・ハッ・・・・・・翠星石・・・泣いてる・・・のか・・・?」<br>
走ってきたので息も途切れ途切れに、疑問をなげかける。<br>
<br>
どうしてだろう、心が、痛い。<br>
<br>
「な・・・泣いてるわけねえですぅ!ちょーっと眠くなって、アクビが出ただけですぅ・・・」<br>
そっと手をやり、ゴシゴシと擦る翠星石。<br>
平気な風を装ってはいるが、やはり声が上擦っている。<br>
自責の念に、押しつぶされそうだった。<br>
(僕は一体何をしてるんだ・・・?僕は、何より大事な人を、傷つけて・・・)<br>
「翠星石・・・ごめん、僕が言い過ぎたんだ・・・」<br>
「な・・・なーに謝ってやがるです!翠星石はただ、久しぶりにこの公園に・・・っ!?」<br>
<br>
・・・考える暇なんて、なかった。考えるより先に、体が動いていた――――<br>
胸の辺りに、微かな吐息を感じる。<br>
「・・・ごめん・・・」<br>
「・・・・・・」<br>
彼女は黙りこくったままでいた。<br>
ただ、ギュ、と弱い力で抱き返しながら。<br></p>
<p>
少し間をおき、落ち着いてきた所で、今まで言えなかった言葉を、紡ぐ。<br>
「・・・翠星石・・・僕はお前が・・・好きなんだ」<br>
抱きしめているから顔は見えない。<br>
が、彼女が息を呑んでいる様子が直に伝わってくる。<br>
「っ!・・・ジュン・・・・・・翠星石は・・・翠星石は・・・っ」<br>
彼女が一呼吸置き、告げた。<br>
「ずーっと前から・・・ジュンの事が・・・好きで・・・ひぐっ、グスッ・・・じゅぎで・・・」<br>
最後の方は言葉にならなかった。<br>
けれど、彼女の気持ちはいやというほど伝わってきた。<br>
<br>
「・・・・・・もう一回言わせてくれ。・・・愛してるよ、翠星石・・・」<br>
不器用な、不慣れな手つきで頭を撫でてやる。<br>
今はただ、目の前の彼女が恋しかった。愛しかった。何よりも、彼女が。<br>
幾度目だろうか、脳裏によぎる、今朝の夢。<br>
しかし今回は違った。気恥ずかしさ、気後れ等といった負の感情を伴ったものではなかった。<br>
ただ目の前の大切なものに対する、どうしようもない気持ち。<br>
(ああ、そうか・・・)<br>
彼女が何よりも好き。その気持ちに向き合った今、その行動に対する負の感情など持ちようがないのだ。<br>
「・・・翠星石・・・」<br>
彼女の名を呼び、顔を向ける。<br>
<br></p>
<p>
既に泣き止んでいた彼女は、ほんのりと朱の差している顔を上げた。<br>
視線が交差する。<br>
<br>
――――この気持ちに、言葉は、要らない―――――<br>
<br>
二人はどちらからともなく、口付けを交わしていた。<br>
唇と唇が重なり、世界の時が止まる。<br>
永遠のような一瞬。<br>
ゆっくりと惜しむように互いの唇が離れ、目を開ける。<br>
「・・・これからもずっと、僕と一緒に居てくれるか?」<br>
「っ・・・!」<br>
コクコク、と、言葉とならず仕草で表す。<br>
「ありがとう・・・翠星石・・・」<br>
もう一度ギュ、とかたく抱きしめる。すると、<br>
「あっ・・・」<br>
翠星石が、声を上げた。<br>
「?どうした?」<br>
「あの・・・・・・もう・・・一回・・・・・・」<br>
そこまでで言葉は途切れ、これ以上にないほど赤面する。<br>
思わずこっちまで恥ずかしくなり、顔が熱くなってくる。<br>
「・・・それ・・・じゃ、目・・・瞑ってくれ・・・・・・」<br>
「・・・んっ・・・」<br>
1度目以上に、緊張したキス。唇の感触がわかるほどに、濃厚に。<br>
「・・・ずっと、一緒だからな・・・」<br>
<br>
そう、僕は、決めたんだ。腕の中に居る彼女と共に、歩いていくって。<br>
</p>
<br>
<br>
<p><br>
「銀ちゃん・・・あれでよかったの?翠ちゃんにあんな事言ったら、またジュン君と喧嘩するんじゃ・・・」<br>
左目に眼帯を巻いた少女・薔薇水晶は、隣でクレーンゲームに熱中している少女・水銀燈に問いを投げる。<br>
<br>
「いいのよぉ、あれで。<br>
あの二人は今までもチャンスがあったのに全部フイにしてきたんだから。<br>
ちょっとくらい気恥ずかしいくらいが丁度いいのよぉ。」<br>
と、探偵人形劇の探偵役の犬のヌイグルミを見定めながら喋る水銀燈。<br>
これでは言っている内容と関わらず説得力が欠けるのも当然である。<br>
<br>
「そうかなぁ・・・」<br>
「そうよぉ。・・・他人の事もいいけど、薔薇しぃも自分の事考えなくきゃじゃないのぉ?」<br>
いい性格してるな、と自分で思いつつ、<br>
隣でクレーンの動きをじっと見ている薔薇水晶にからかいを入れてみる。<br>
「えっ、えっ・・・そ、そんなことないもん・・・そういう銀ちゃんはどうなの?」<br>
(あらぁ、結構脈アリかしら?・・・)<br>
「私はその気になればいつでも男が言い寄ってくるもの。心配されなくても大丈夫よぉ。」<br>
事実、背が高く容姿も美々端麗であった彼女にファンは多かった。<br>
学園で有名な『薔薇乙女』達の中でも特に有名な美少女ということになる。<br>
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「まあ、あとは、あの子達次第ね。<br>
・・・ふふ、明日から学校が楽しみねぇ」 <br>
<br>
≪いいこと?翠星石。本当にジュンの事が好きで、気持ちを確かめたいなら・・・<br>
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一度キスでもしてみなさぁい。そうしたら、全てハッキリするから・・・≫<br>
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