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【乙女の涙を拭えるもの】」(2009/09/28 (月) 20:57:40) の最新版変更点

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<p>ジュン「……うぁー、今日も終わった終わった。<br />     ベジータ、今日もジムか?」<br /><br /> ベジータ「ああ。戦士は常日頃、体を鍛えねばならない。」<br /><br /> ジュン「そうか。……じゃあ、頑張れよな。また明日。」<br /><br /> ベジータ「おうっ」バシュ<br /><br /><br />  僕の名前は桜田ジュン。ごく普通の中学2年生だ。<br /> 強いて言えば裁縫が得意ってところかな……<br /><br />  ――もう6時を回ってしまったな。5組の真紅から頼まれてた「コレ」を作ってたら、<br /> もうこんな時間になってしまった……さて、体育館に自販機があったな。<br /> ジュースでも買って帰るかな……。 <br /><br /> ジュン「ふぅ……もう9月にもなると、夜は少し冷えるな……<br />     日が落ちるのも早くなってきてるな……」<br /><br />  ――僕の教室、2年6組から体育館までは、結構距離がある。<br /> 校舎から体育館に行くまでには、ちょっとした渡り廊下があって<br /> そこから夕闇に染まる街の姿を見ることが出来る。<br /> なかなか綺麗だ……針仕事の後に見るこの風景は。<br /><br /> ◆体育館横<br /> ガコン<br /> ジュン「よし、出てきたな。今日はコーヒー牛乳の気分だ。」<br /><br /> ジュン「さーて、帰りますかね……」<br /><br /> 梅岡「お、桜田、まだいたのか。」<br /><br /> ジュン「はぁ……ちょっと、用があって」<br /><br /> 梅岡「ちょうどよかった。ひとつ頼まれてくれないかな?」<br /><br /> ジュン「いいですけ……ど」<br /><br /> ◆<br /><br />  梅岡ってのは僕の担任だ。訳あってあまり好きじゃない。<br /> まあ、学校に行き始めた今となっては、そんなことどうでもいいんだけどさ。<br /> ……で、梅岡が僕に押し付けたものっていうのが……<br /><br /> ジュン「プロジェクターですか……明日使うんですかこれ」<br /><br /> 梅岡「ああ。道徳でな。私はビデオを持っていくから、桜田はこれをたのむ。」ポム<br /><br /> ジュン「わかりまし……」<br /><br /> ズシッ<br /> ジュン「重ッ……」<br /><br /> 梅岡「ハハハ。ちゃんと鍛えないとだめだぞー。」<br /><br /><br />  ……チクショー。なんなんだ、この敗北感は。<br /> 薄暗く伸びる廊下、職員室のある1階から、26段の階段を上り、<br /> 2年6組がある2階までの道のり、<br /> 僕と梅岡、二人の足音と、制服の右のポケットに入った<br /> コーヒー牛乳の缶の中身が立てるタポタポという音以外、<br /> 何の音もしなかった。<br /><br /> ◆2年6組<br /><br /> ジュン「よっ……と。」<br /><br /> 梅岡「ありがとう、助かったよ。」<br /><br /> ジュン「い、いいえ……」<br /><br /> 梅岡「じゃあ、戸締りと消灯よろしくな。」<br /><br /> ジュン「はい。」<br /><br /> ◆<br /> ガラガラッ<br /> ジュン「ふぅー……腰が。あいててて……<br />     真紅の奴に明日『コレ』を渡して……任務完了ってとこだな」<br /><br />  <br />  僕が教室を後にして、ドアを閉めようとしたその時だった。<br /> 左隣の7組のほうから、何かの音が聞こえてきた。<br /><br /><br /> ジュン「……? なんだ?」<br /><br /> ◆2年7組<br /> カラ……カラ……<br /> ジュン(失礼しま~す……。)<br /><br /> ジュン(あっれ~……おかしいな、誰もいないのか?<br />     いやでも確かに音がしたような……)<br /><br /> ……グスッ……<br /><br /> ジュン(! ……後ろか)<br /><br /> ジュン(誰かが泣いているな。誰だろう……)<br /><br /> ジュン「……おい、どうしたんだ?」<br /><br /><br />  泣いていたのは、紫がかった白い髪の女の子だった。<br /> 初めて見る顔だ。2学期からの転校生だろうか。<br /> 左目には、薔薇の花の刺繍が入った眼帯をしているようだ。<br /> ふむ、なかなかいい仕事をしている……って、そんな場合じゃないな。<br /><br /><br /> ジュン「えと……僕は6組の桜田ジュンっていうんだ。」<br /><br /> 「ジュン……桜田、ジュン……。ろっくみの桜田ジュン……」 <br /><br /> ジュン「……名前は?」<br /><br /> 「わたしは……薔薇水晶……。その、よろしく……」<br /><br /> ジュン「ばらすいしょう、か。覚えたぞ。<br />     ところで、何で泣いてるんだ?」<br /><br /> 薔薇「…… ……うぅ、…… ……」<br /><br /><br />  マズい、しくじったか?<br /> こうなったら…… ……<br /><br /> ジュン「…… よかったら、飲むか?」<br /><br /> 薔薇「あ……ありがと……」チビチビ<br /><br /> 薔薇「あ……ありがと……あの、あのね、えっと……」<br /> ホロホロ<br /> 薔薇「……あれ、どうしたんだろ……」<br /> ボロボロ<br /><br /> 薔薇「…… ……安心したら……うう……」<br /><br />  薔薇水晶は、涙が止められなくなってた。<br /> 僕に出来ることは……あと僕に出来ることは……<br /> そうだ、"コレ"を……あ、真紅の名前を入れてたっけ……<br /><br /> ジュン「えいっ!!」ビリビリッ!!<br /><br /> 薔薇「な……なに……!?」<br /><br /> ジュン「……こ、"コレ"、ハンカチだ、使えよな。涙、拭けよ。」<br /><br /> 薔薇「ありが……と……」 <br /><br /> 薔薇「わたし……みんなと……なかよくやって……いけるかなぁ……」<br /><br /> ジュン「ああ、それで悩んで泣いてたのか……。大丈夫だ、僕もそうだったけど、<br />     友達ならたくさんいるぞ。」<br /><br /> 薔薇「わたし……こっちに……来たばかりだし……それに……<br />    舌足らずだから……うまくしゃべれなくて……友達が……」<br /><br /> ジュン「……よし、じゃあ今日から僕が友達だ。そんじゃ、暗くなってきたから帰るぞ。」<br /><br /> 薔薇「……ばいばい」<br /><br /> ジュン「……何やってんだ、早く来いよ。一緒に帰るぞ。」<br /><br /> 薔薇「ほんとう……!? 桜田……くん……、わたしと、帰ってくれるの……!?」<br /><br /> ジュン「当たり前だ、友達だろ? あ、僕のことは『ジュン』でいいから。」<br /><br /> 薔薇「ありがと……ジュン……♪」<br /><br />  かくして、僕は乙女の涙を拭う手助けをすることが出来、<br /> さらには友達が増えた。真紅には、今夜また改めてハンカチを作ってやろう。<br /> 薔薇水晶とは、前にいた学校の話とか、好きなアーティストの話、<br /> 好きな教科の話とか、いろんな話をした。<br /><br /> ◆分かれ道<br /> 薔薇「あの、わたしはここで……。あ、"コレ"は……」<br /><br /> ジュン「ああ、あげるよ。じゃあ、また明日な。」<br /><br /> 薔薇「うん……またね。ばいばい……今日は、ありがと。」<br /><br /> ジュン「ああ。いいってことよ。またな!」<br /><br />  彼女が、また僕があげたハンカチで涙を拭う後姿を、<br /> 僕は見届けながら家路についた。<br /><br />  次の日の昼休み、6組で談笑していた僕や真紅たちのところにやってきた薔薇水晶は、<br /> 穏やかな笑顔を見せてくれた。彼女は、真紅たちに歓迎され、またもやあのハンカチでうれし涙を拭っていた。<br /><br />                             【乙女の涙を拭えるもの 完】</p>

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