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「【戦闘妖精natukaze】」(2009/09/03 (木) 20:33:49) の最新版変更点
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<p>『接近してくる機影を確認。一機のみ』<br />
<br />
突如、僚機の叫びが無線に飛び込んできた。<br />
私たちの小隊が、このステルス機を駆って敵の領空に侵入してから、まだ30分と経っていない。<br />
これは細心にして最大限の注意を払って実行された、完全な極秘ミッションだったはず。<br />
<br />
時刻は早朝。敵の迎撃にしては、いくらなんでも対応が早すぎる。<br />
そもそも、たった一機で迎撃に上がってくるというのもナンセンスだ。<br />
<br />
「増援?」<br />
<br />
そんな訳はないと分かっているけれど、冗談めかして希望的観測を口にしたのは、<br />
私が戦闘機を飛ばせるというだけの、普通の女の子だから。<br />
戦闘は、いつだって怖い。私の全身を容赦なく粟立たせ、汗を迸らせる。<br />
それがたとえ、AAMを発射するボタンを押すだけの、一方的な戦闘であっても。<br />
<br />
「方位と距離は?」<br />
<br />
本作戦のために索敵能力を強化した二番機に訊ねれば、すぐに返答がある。<br />
<br />
『10時方向です、隊長。まだ900kmは離れていますが』<br />
「朝日を背に近づくつもりかしらね。日の出には、まだ時間があるというのに」<br />
<br />
本当に、敵の迎撃機? それとも、ただの民間機?<br />
とても目視では見えない距離だけに、判断に迷う。二番機の【眼】だけが頼りだ。<br />
<br />
「機種は判別できないの?」<br />
『照合中…………データに無いタイプです』<br />
『撃墜しますか、隊長?』 <br /><br />
さては、新鋭機のテスト飛行にでも出くわしてしまったのか。<br />
三番機からの問いに、私は柄にもなく逡巡する。<br />
こちらが3対1で優勢だし、おそらく【眼】も、こちらが優秀に違いない。<br />
現在の距離でも、AAMの一発で撃墜できるだろう。<br />
<br />
けれど、それをすれば私たちの存在を、敵に知らしめることとなる。<br />
ミッションの遂行上、大きなマイナス要因となり得た。<br />
敵機の撃墜に固執して、今までの労力を不意にするのは愚かに過ぎる。<br />
<br />
「落ち着きなさい。正体不明機との距離は?」<br />
『およそ600km。AAMの射程外です』<br />
「だったら、無理に仕掛けることもないわ。まだ、こちらに気づいてないかもしれない。<br />
高度を下げてやり過ごすわよ。私に着いてらっしゃい」<br />
<br />
機を下方へ向け、加速する。僚機もフォーメーションを組んだまま着いてくる。<br />
――が、次の瞬間!<br />
<br />
至近での爆発。二番機が撃墜されたと悟るのと同時、私は機を横滑りさせていた。<br />
回避行動で目まぐるしく廻る景色の中、更なる閃光が明け方の空を染め上げる。<br />
三番機が爆散したのだ。どちらの機からもベイルアウトした形跡は見られなかった。<br />
<br />
「気づかれていたのね。こちらより高性能のレーダーを持っているというの?」<br />
<br />
考えながらも、私の身体は訓練どおりに回避行動を繰り返していた。<br />
こんな所で散ってたまるかという意地も、多分に影響していただろう。<br />
愛機に描いた紅蓮の薔薇のエンブレムにかけて。<br />
<br />
「信じられない。まだ600kmは離れていたのに、ミサイルの直撃ですって?<br />
そんな足の長いAAMを持っているなんて、聞いていないわ」 <br /><br />
もちろん、こちらのデータには無い兵装だ。<br />
新鋭機ともども、短期間で自国開発したとは考えにくい。<br />
<br />
「どこぞの同盟国か、死の商人から仕入れたのね」<br />
<br />
軽口を叩きでもしていないと、恐怖で気が変になってしまいそう。<br />
生き延びるには、狩られる前に、敵を落とすしかない。<br />
<br />
「どこ? 敵は、どこなの!」<br />
<br />
紫に染まった明け方の空に目を走らせ、敵機を探す。<br />
開きっぱなしの目が痛くても、瞬きだって我慢して、探す。<br />
そして……見つけた。想像もしていなかったほどの至近距離で。<br />
<br />
漆黒に塗装された、Su-47を彷彿させる機影。けれど、ベルクトではない。<br />
その鋭利な機首には、存在を誇示するような逆十字のエンブレム。<br />
敵機は、まるでヨットに戯れるイルカみたいに、私の機体に身を寄せてきたのだ。<br />
常識はずれな機動性を、これでもかと、ひけらかしながら。<br />
<br />
「……からかっているの? 馬鹿にして!」<br />
<br />
私の頭に、血が昇ってくるのが実感できた。<br />
けれど、激しく敵愾心を燃やす一方で、私の思考は奇妙に醒めていった。<br />
私という存在が、戦闘機の1パーツに変貌してゆく。<br />
<br />
機体を駆る。急激なG。ストラップが身体に食い込み、呻きが漏れてしまう。<br />
でも、私の関心は目前の敵を撃墜すること。ただ、それだけ。<br />
踊るように逃げ回る漆黒の敵機を、無心に追いかけていた。<br /><br />
そして、パッシブホーミングでAAMを撃とうとした矢先――<br />
漆黒の敵機は、またも驚くべき機動性で私の下に潜り込んで見せた。<br />
<br />
背筋を駆け抜ける、生まれて始めて感じた戦慄。<br />
いけない! そう思った時にはもう、私はベイルアウトしていた。<br />
その1秒と経たない後、私の機はミサイルの直撃で炎に包まれていた。<br />
<br />
シートごとパラシュート降下する私の横を、あの漆黒の機体が駆け抜けてゆく。<br />
けれど、そのまま遠ざかるかと思いきや、また戻ってきた。<br />
まっすぐに、私めがけて飛んでくる。まさか、機関砲で私を?!<br />
私は身を竦めて、両腕を前に翳した。<br />
<br />
「やめて! 撃たないで!」<br />
<br />
だが、撃ってきた。30mmらしい機関砲で、パラシュートを。<br />
私を嬲り殺しにして、面白がっているの? ふざけた真似を!<br />
私はヘルメットを脱いで、反転してくる敵機に向かって投げつけた。<br />
もちろん、届くはずもないけれど。<br />
<br />
<br />
私の、そんな見苦しい仕種を、敵のパイロットはどう思ったのか……<br />
漆黒の機体が、ゆっくりと近づいてくる。<br />
失速で墜落するのではと、こちらが危ぶんでしまうほど、ゆっくりと。<br />
そして更に驚くべきことに、敵機は私の15mほど距離を開けて停止、ホバリングした。<br />
<br />
キャノピーが開き、敵のパイロットが、ヘルメットを取るのが見えた。<br />
溢れるように流れ出た、鮮やかなプラチナブロンドも。<br />
紛れもなく、敵のパイロットは私と同い年くらいの、悔しいけれど美しい女の子だ。 <br /><br />
空中で、私たちはどのくらい見つめ合っていたのだろう。<br />
不意に、向こうからハンドサインを送ってきた。<br />
<br />
<br />
《また遊びましょ、おばかさん。……ばいばぁい》<br />
<br />
<br />
それだけ。<br />
それだけ言って、プラチナブロンドの乙女はキャノピーを閉ざし、群青色の空に消えていった。<br />
<br />
<br />
*<br /><br />
<br />
敵地深くで不時着した私は、それこそ死ぬ思いで三日を走り続け、味方の部隊に拾われた。<br />
空軍基地まで後送されるトラックの中で、私は死んだように眠り続けた。<br />
<br />
到着するや、基地の病院に放り込まれて、休養を取らされる羽目となった。<br />
隣のベッドには、顔の左半分を包帯で覆った娘が横たわっている。<br />
この娘の名前は、薔薇水晶。エンジュ基地指令の愛娘で、一流のパイロットだ。<br />
その彼女が、左眼を失明するほどの負傷をしたことは、ちょっとした衝撃だった。<br />
<br />
<br />
私が地を走り続けているとき、薔薇水晶たちも、あの漆黒の敵機と闘ったという。<br />
一個中隊、18機をもって空中戦を演じた結果が、この有り様。<br />
被弾しながらも命辛々逃げ帰ったのは、この娘を含めた3機だけだった。<br />
<br />
夢に見るのか、薔薇水晶は眠っている間ずっと、魘されている。 <br /><br />
<br />
<br />
『漆黒の機体に十字架を描いた敵に遭ったら、祈りながら逃げな』<br />
<br />
『あいつは化け物だ。黒翼の死天使なんだよ』<br />
<br />
<br />
そんな馬鹿なと、一笑に付すことなんて、できない。<br />
私には、恐怖に顔を引きつらせて語る彼らの気持ちが、痛いほど理解できたから。<br />
<br />
<br />
僅かに傍受できた敵の通信で発覚した新鋭機のコードネームは【natukaze】。<br />
<br />
これが、私と“黒翼の死天使【natukaze】”との邂逅。<br />
そして、これから数年に亘って繰り広げられる私達の、死闘の幕開けでもあった。<br /><br /><br /><br /><br />
【戦闘妖精natukaze】 ~プロローグ~<br /><br />
次回 第1話「Dances with Angel」 に続く。<br /><br /><br />
な / ______<br />
ぁ 訳/  ̄ヽ<br />
ぁな / \<br />
ぁ い レ/ ┴┴┴┴┴| \<br />
ぁ じ / ノ ヽ | ヽ<br />
ぁ ゃ> ―( 。)-( 。)-| |<br />
んぁ > ⌒ ハ⌒ | / <br />
!ぁ> __ノ_( U )ヽ .|/<br />
ん |ヽエエエェフ | |<br />
\ | ヽ ヽ | | |<br />
√\ ヽ ヽエェェイ|/<br />
\ `ー― /ヽ<br /><br />
【夏風邪に】【注意せよ】<br /><br />
要するに、前スレのスレタイネタでした。<br />
もちろん続かない。</p>