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「とある夏休み」11ページめ」(2009/08/16 (日) 15:25:35) の最新版変更点

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<p>11ページめ<br /> 七月最後の今日も、とっても暑いのです。<br /> 薔薇十字児童養護施設の施設長室は空っぽ。佐原先生はどこかへ出張です。<br /> 職員室では、先生たちがお話しています。<br /> 柿「そう…一昨日そんな事があったんですか…」<br /> 桜「そうなのよぉめぐちゃん。確かに佐原先生の言う事も分かるんだけど…」<br /> 柿「でもあの娘たちが友達になりたいと思ってて、ええと、財閥令嬢でしたっけ、<br /> その姉妹の子たちもそう思っているんなら、もう任せとけばいいと思いますけどね…あの娘たちはどうしてます?」<br /> 桜「みんな何だか元気がないのよぅ…特に水銀燈ちゃんは…ね」<br /> 柿「あの娘は…他の娘のように、双子でここにいる訳じゃないですからね…<br /> とりわけ寂しいんでしょうね、お友達を取り上げられて」<br /> 桜「そうねぇ…でも水銀燈ちゃん、さっきから姿が見えないんだけどぉ」<br /> 柿「…もしかして、その姉妹に会いに行ってるんじゃないですか?」<br /> 桜「…!!」<br /> 柿「…」<br /> 桜「…私は何も知らないわよぅ。だって夏休みですもの」<br /> 柿「私だって。夏休みですから、別にあの娘がどこに行こうと詮索は不要ですよね」<br /> 桜「例え佐原先生の言いつけを破っていた…としてもね」<br /> 柿「ふふっ。ところで柏葉先生は?」<br /> 桜「さっきから外で木刀の素振りをしてるのよぅ。元気ねぇ」<br /> 柿「桜田先生だって、たまにラクロスのラケットの素振りしてるでしょう?」<br /> 桜「もう年なのよぅ」<br /> その頃、水銀燈は、あの川原の日陰で体操座りをして、真紅と雛苺姉妹が来るのを待っていました。昨日も、真紅達は来ませんでした。<br /> 今日も…もうすぐ11時になろうかという時間ですが、人の姿は見えません。ただ陽炎が立ち昇っているだけです。<br /> …やっぱり、あの娘、私の…私達のことなんて、どうでもよくなったのかな…。<br /> そんな考えを振り払うかのように、水銀燈は手元にあった石を川に投げ込みました。<br /> 結局、その日も真紅達は現れませんでした。<br /><br /> 夜。消灯間近の九時半、施設の少女達は、自分のベッドの上で、思い思いに単語帳を開いて勉強したり、ぼうっとしたりしていました。<br /> 頭で社会を生き抜く。それが薔薇十字院の掲げるスローガンです。<br /> 水銀燈は、壁の方を向いて横になっています。<br /> 翠「水銀燈…起きてますか?」<br /> 単語帳を見ていた翠星石が、水銀燈のジャージの背中に声をかけます。反応はありません。<br /> 翠「もう…諦めるです。今日も、あの姉妹は来なかったんでしょう?」<br /> 他の少女達も、一様に水銀燈に目を向けています。<br /> 水銀燈の背中が、少しぴくっとしたように見えました。<br /> 翠「期待するのって…裏切られたらそれだけ傷つくんですよ…」<br /> 少女達には、また少し、水銀燈の背中が震えたように見えました。<br /> やがて、消灯の時間が訪れました。<br /><br /> 深夜。水銀燈はむっくりと起き上がりました。<br /> 他の少女達は完全に眠りの世界に行っているようです。<br /> 窓の網戸を音がしないように開けた水銀燈は、ジャージのままゆっくりと外の地面に降り立ちました。目指す場所は一つ。<br /> 覚悟を決めて歩き出した水銀燈は、自分を見据えて立っている、月明かりに照らされた人影を見つけてその足を止めました。<br /> 銀「柏葉先生…?」<br /> 木刀を持ったその人影は、柏葉巴先生のものでした。<br /> 巴「…水銀燈ね」<br /> 銀「…ちょっと散歩に行くだけですから…」<br /> 見つかってしまうとは水銀燈には予想外の出来事でした。<br /> 巴「…裸足で?」<br /> 銀「…」<br /> 柏葉先生はしばらく黙っていましたが、不意に、自分のサンダルを脱いで水銀燈に手まねきしました。<br /> 巴「貸してあげるわ。これ履いて行きなさい」<br /> 銀「えっ…?」<br /> 巴「お友達の所に行くんでしょう?」<br /> 銀「!!」<br /> 巴「一昨日の事は、他の先生方から聞いてるわ…。」<br /> 銀「あのぉ…ありがとうございます」<br /> 巴「佐原先生は会うなって言ったみたいだけど…<br /> あなたがどうしたいかについては、私は口を出すつもりはないわ」<br /> 銀「先生…」<br /> 巴「じゃ、行きなさい」<br /> 水銀燈は走り去りました。月明かりの下、柏葉先生は、何ごともなかったかのように白樫の木刀の素振りを再開しました。<br /> つづく</p>

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