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<p>9ページめ<br /> しばらく止まっていた時間は、翠星石の「あ!スイカが流れてきたですぅ…」という声で<br /> 再び動き出しました。確かに、真紅と雛苺が流されてきた上流から、わずかに水面に顔を出して、<br /> 大きなスイカがゆっくりぷかぷかと流れてきています。このスイカは言うまでもなく真紅が<br /> 冷やしておいたもので、雛苺を助けようとしたときに蹴とばしてしまっていたのが今になって<br /> ここまで流されてきたのです。とはいえ、体中が重く疲れていた真紅は、そのことを口にはしませんでしたが。<br /> 一同は、川原で輪になり、砕いたスイカを皆で食べ終えたのち、壮絶な川下りで疲れ切った<br /> 姉妹を水銀燈が送っていく、ということになりました。<br /> 手を振って四人と別れた真紅は、眠っている雛苺を背負う水銀燈のそばをゆっくりと歩いて行きました。<br /> まだまだ日は高く、田んぼのあぜ道を、陽炎が盛んに立ち昇っています。<br /><br /> 真紅は、自分が水銀燈の名前を言い当てた時から、今日初めて出会った少女達の雰囲気が微妙に<br /> 変化したことに、敏感に気づいていました。…少女達は、私が知りようもない何かを共有している。<br /> それが何かは分からないけど…。妹を背負って歩いてくれている水銀燈の銀色の髪が揺れているのを、<br /> 真紅は不安げに眺めていました。<br /><br /> …この子は、私達が特別な事情下にあることを知っている。あの模試の通知表で…と、水銀燈は<br /> 歩きながら考えていました。他の四人も瞬時にそれを悟ってからは、スイカを食べている時も<br /> あまり口を開く事はありませんでした。それも、自分たちの事情を、いや自分自身を卑下しているからか…。<br /> 私達は自分たちを知られる事を恐れすぎているのだろうか。無言のまま歩いている自分を横から<br /> 恐る恐る見つめている真紅の視線を感じつつ、水銀燈は歩きます。<br /> 真「あ…そこが私達が滞在しているお家なんですけど…」<br /> 真紅の声に、水銀燈は足を止めました。<br /> 銀「!!…ここだったのねぇ…」<br /> 水銀燈は、少し離れた所に建つ洋館を驚いた様子で見ています。<br /> 真「あの…今日は本当にありがとうございました…」<br /> 銀「…どういたしましてぇ…それじゃあ、私…」<br /> おぶっていた雛苺を真紅に渡した水銀燈は、しばらく迷った末、そのまま帰ろうとしました。が…<br /> 真「あっあの!!…また会えますよね!?」<br /> 銀「!!…また…会う…?」<br /> 水銀燈は、目を大きく開いたまましばらく黙りこんでいました。<br /> 真「あの…迷惑でしたか?」<br /> 迷惑…じゃない。意外だ。水銀燈はそう思いました。<br /> 銀「貴女…不思議に思わなかったのぉ?」<br /> 真「…何を?」<br /> 銀「成績欄の私達の所属中学校のところ…何も書かれてなかったって言ってたでしょぉ?」<br /> 真「…」<br /> ああ、やっぱりこのことだったんだ。真紅はそう思いました。確かに、彼女達の所属中のスペースは、<br /> いつも******となっていて、何も書かれていませんでした。真紅はそれをいつもいぶかしんでいたのも事実です。<br /> 銀「…」<br /> 真「…でもここに来て、お友達になれそうな人たちに会えたんだから…」<br /> 銀「!! お友達…私と…私達とぉ?」<br /> 真「はい…」<br /> 水銀燈はしばらく固まっていました。この洋館が、あの結菱財閥の所有するものだという事はこの辺りでは有名な話でしたが、<br /> まさかこの姉妹が…結菱家の令嬢であるという事に、もはや疑いはありませんでした。…そして目の前にいる少女、真紅は、<br /> 私たちの素性に疑問を感じている…財閥の令嬢なら、私達の素性を知ってしまえば、尚更私達を避けるだろう…いや、<br /> でも、果たして、本当に避けるだろうか?少なくとも、私達と同じ、この混血の姉妹が。<br /> 銀「あなた…」<br /> 真「はっはい」<br /> 銀「あなたが私達と同じ模試を受けてるって事は、私達同い年ってことなのよぉ。だから敬語はやめなさぁい」<br /> 真紅の顔がほころびました。<br /> 真「はい…じゃなくて、分かったわ」<br /> 銀「ふふ…私は明日もあの川原にいるから、会いたければ来なさぁい」<br /> 真「ええ…」<br /> 銀「じゃあねぇ」<br /> 真「ありがとう…水銀燈」<br /> 真紅に背中を向けて歩き出した水銀燈は、名前を呼ばれて一度立ち止まりましたが、すぐに再び歩き出しました。<br /> 真紅なら、私を、私達を受け入れてくれそうな気がする。なぜかそう感じる。水銀燈は、「友達になりたい」と言われ、<br /> 加えて名前を呼ばれたことを嬉しく思っていました。<br /> …真紅には隠さなくても良い気がする。<br /> 何だかウキウキした様子の水銀燈は、20分ほど歩いたのち、山の中に隠れるように建っている、すでに仲間の四人が<br /> 帰っているであろう古い建物へと入って行きました。<br /> その門には『NPO法人 薔薇十字児童養護施設』と書いてありました。<br /> 一台の黒い車がその様子を遠くから伺っていた事に、彼女は気づきませんでした。<br /> つづく</p>

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