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「エイプリルフール短編」(2009/04/07 (火) 10:26:39) の最新版変更点
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四月馬鹿。つまり、エイプリルフール。
僕はこの日が大嫌いだ。
というのも全て、ここ数年のアイツらに原因がある。
本当なら引き篭もってしまいたいけれど……始業式の日でもあるし、僕は仕方なく学校へと向かっていた。
その道中。
「あらぁ?相変わらず冴えない顔で歩いてるわねぇ?」
幼馴染の一人、水銀燈に朝から出くわしてしまった。
「……うるさいな……」
僕は彼女に不機嫌さを隠さない表情でそう告げ、これ以上関わらないように早足で歩く。
背後から「つまんないわねぇ」という声が聞こえてきたが、無視して歩く。
僕と、それから数メートル離れて水銀燈が、通学路を歩く。
嫌な予感が背中からひしひしと伝わってくるのが、何とも最悪な気分だ。
工事中と書かれた看板で封鎖された道を横目に、僕はいつもと同じ通学路を歩く。
途端に、足元が崩れ……僕は大きな落とし穴にはまってしまった。
泥だらけになりながらも、何とか落とし穴から這いだすと……
「あはははは!実は工事中なのはそっちよぉ!」
水銀燈が大爆笑しながら、看板を横道から移動させていた。
―※―※―※―※―
泥だらけのまま教室に着くと、金糸雀が慌てた表情で僕に駆け寄ってきた。
「ど…泥だらけかしら!!一体何がどうしたのかしら!?」
僕はそんな金糸雀に、今朝方の事を説明する。
すると彼女は「それは酷いかしら!水銀燈はやりすぎかしら!」と小さな体から大きな声を上げていた。
「そういう事なら、カナから用務員室の洗濯機を使えるよう頼んであげるかしら!」
金糸雀はそう言ってくれるが……これも嘘かもしれない。
そう怪訝な表情を浮べる僕を尻目に、彼女は返事も聞かずに教室から飛び出していった。
そして数分後。
金糸雀はキラッキラの笑顔で帰ってきた。
「乾燥機まで使わしてもらえる事になったかしら!これも才女・金糸雀の交渉力あっての賜物かしら!?」
屈託の無い笑顔でそう告げてくる金糸雀。
その表情を見てると少しでも嘘かもと疑った自分が恥ずかしくなってくる。
僕は体操服に着替え、泥だらけの制服を彼女にお願いする事にした。
泥まみれの服を持って教室から駆け出す金糸雀。
その背中はまるで、お母さんのお手伝いをしている子供を彷彿させ、とても可愛らしい。
でも、金糸雀はそれっきり帰ってこない。
―※―※―※―※―
「……で、何でそんな格好をしてるですか?」
昼休み。
体操服のまま始業式を終えた僕に、翠星石と蒼星石がそう声をかけてきた。
僕は二人に、金糸雀に騙された事を素直に話し……見る見る内に、二人からの視線は同情的なものになっていった。
「それにしてもチビカナ!純情なジュンを騙すとは許せん奴ですぅ!」
「そうだね。いくら暖かくなったとは言え、体操服だけだと寒いだろうしね」
やっぱり、僕の味方はこいつらだけだ。
感動すら覚える程の優しさに触れ、僕は心からそう確信する。
「体操服だけで風邪でもひいたらどう責任とるつもりですか!?」
翠星石は怒り収まらぬといった表情で、地面をジタバタと踏みつけている。
さらに……
「大丈夫ですか?寒かったりしないですか?」
そう言いながら、僕の額に手を当てたりしてくれた。
「……ちょっと熱っぽいですね……」
そう言われてみれば、少し寒気がする気がする。
「それなら確か…鞄の中に風邪薬が入ってたと思うけど……」
蒼星石がすかさず、鞄から白い小さな錠剤を取り出す。
本当に、この二人の『気配り・目配り・心配り』には心から癒される。
僕は蒼星石が手渡してくれた薬の錠剤を、お礼を言いながら口に入れた。
フリスクだった。
―※―※―※―※―
「ジュン…ずっと伝えたかったの……私は…貴方が……」
放課後の教室。
真紅は僕にそう言うと、静かに瞳を閉じた。
何故に告白。
流石にコレは、都合が良すぎる。嘘だろう。
嘘だ。そうに違いない。
そうは思うけれど……
目の前の真紅は目を閉じ、顎を少し持ち上げて来ているし、その肩だって緊張の為か少し震えていた。
きっとこれは……今日という日を選んだのは、万が一、僕から良い反応が得られなかった時には
「嘘にきまってるでしょ」とか言って、プライドと体裁を保つための……真紅なりの意地なのだろう。
きっとそうだ。そうに違いない。
僕は自分にそう言い聞かせて、それからゴクリと唾を飲んだ。
「……真紅……僕も……」
そう言い、彼女の小さな肩に触れた瞬間。
僕の頭にタライが降ってきた。
―※―※―※―※―
そういった、今日一日の一部始終を見ていた雛苺が、僕の傍に駆け寄ってきた。
よく見ると彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「ジュン…可哀想なの……
ヒナもね、よく皆に騙されるから……」
そう言うと雛苺は、悲しそうに視線を伏せた。
何だかその仕草は子供みたいで……それに雛苺は、ずいぶんと背も低い。
庇護欲のような感情が沸々と湧き上がるのが、自分でもよく分かる。
僕は雛苺の頭を、そっと、撫でてあげた。
「ジュンは…優しいのね……」
まだ目の端に涙の跡を残したままの雛苺は、それでも精一杯に明るい笑顔を僕に向けてくれる。
「今度はヒナが、ジュンの頭にいい子いい子してあげるのー!」
雛苺がそう言い、僕の頭に手を伸ばす。
だけれど、背の低い彼女では、どんなに手を伸ばしても僕の頭には届かない。
僕は身を屈め、雛苺でも届く位置まで自分の頭を下げた。
「かかったなアホが!なのー!!」
声と同時に、タライで出来たタンコブの上にチョップが突き刺さった。
―※―※―※―※―
「もう嫌だ!お前ら全員、大ッ嫌いだ!」
感動のフィナーレと言わんばかりの表情で僕の前に登場した水銀燈に金糸雀に翠星石に蒼星石に真紅に雛苺に……
僕はあらん限りの声で、そう叫んだ。
途端に、大爆笑していた彼女達の表情が氷のように硬く、冷たいものになる。
だがそれも……すぐに悲しそうなものへと変わっていった。
「……エイプリルフールだからって、無理して嘘つく必要は無いのよぉ?」
滑ったジョークを慰めるように、水銀燈がフォローを入れてくる。
「その程度の嘘が見抜けない金糸雀ではないかしら!オーッホッホー!」
金糸雀は得意げな表情で高笑いしてる。
「チビ人間のチビチビ脳みそじゃあ、その程度の嘘しか思いつかないですぅ」
「そうだね。実際に、すぐに嘘だって見抜かれてるしね」
翠星石と蒼星石が何か納得したかのように頷いている。
「無様な下僕ね。エイプリルフールだというのに気を利かせた言葉も言えないの?」
真紅がとっても残念そうにため息をつく。
「嘘を嘘だと見抜けないと難しいのー!」
雛苺が大爆笑しながら、転げまわっている。
……チクショウ!!どチクショウ!!
ああ!嘘だよ!!本当は今日一日、騙され続けでとっても嬉しかったさ!!
フヒヒ!!