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【薔薇水晶とジュン】しあわせのはなし。中編」(2006/03/30 (木) 14:31:03) の最新版変更点

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<p><a title="barazyunnsiawasenohanasi2" name= "barazyunnsiawasenohanasi2"></a>【薔薇水晶とジュン】しあわせのはなし。中編</p> <p><br> <br> 「ねえ、一応聞くけど、あれは誰?」<br> 「ふん、私が聞きたいわよ」<br>  真紅と水銀燈の会話。悟ったのだ。二人は。彼女が、違う存在であることに。<br> 「これは、ジュンから聞いた話よ」<br> 「…………?」<br> 「薔薇水晶の話。薔薇水晶と、最初に会った時の話だって」<br> 「……薔薇水晶が、ジュンの家に居候した時の話?」<br> 「そうよ。薔薇水晶が、身寄りがなかったときの話。――まあ、それって、私がジュンを解放したときなんだけど」<br> 「ふぅん」<br> 「何よ、慰めるとかしないの?」<br> 「また泣くのなら、慰めてあげてもいいわよ?」<br> 「……は、冗談よ、そんな顔しないでよ。悪かったわよ」<br> 「それで?」<br>  真紅は、続きを促す。<br> 「……あれは、強い雨が降っていた日だったっけ?」<br> 「さあ、どうだったかしらね」</p> <p><br> <br>  ――でも、とても寒かった日の、話。</p> <br> <p>「あ――」<br>  声が漏れた。打ち付けるような強い雨。それは、まるで存在をも打ち消してしまうような雨だった。<br> 「僕、は?」<br>  そんな中で、ジュンは傘もささずに、ぼうっと、ただ立っていた。何もしたくない。何も出来ない。それが、ジュンの心だった。<br> 「そっか。泣いてたもんなぁ、水銀燈」<br>  その名前を思い出すだけで、心が痛む。あんなにも傷ついた水銀燈。そうしたのは、他ならぬ自分。誰もが否定するが、少なくともジュンはそう信じていた。<br>  自分がもっとうまく立ち回れば、きっと違う結末があった、と信じていた。<br>  それは、事実だ。ジュンの責任ではないにしろ、少なくとも、水銀燈が壊れる世界は回避できたかもしれない。もしかしたら、水銀燈と笑いあう世界があったのかもしれない。<br> 「……ホントに、どうしようもなくて」<br>  自己嫌悪、というのは、一人でするものだ。一人だから、自己嫌悪する。耐えられないのだ。心が優しい人間であればあるほど、自分の罪に。罪を感じる心は、自身の良心だ。<br>  その点において、ジュンは優しかった。それだけは、疑いようのない事実だった。<br> 「どうしたら、いいんだろうな――」<br>  呟く声すら、雨音に消える。誰も答えてくれる人はいない。いや、この世界には、誰も居ない。</p> <p><br> <br>  ――うわあああああああああ。</p> <p><br> <br> 「……え?」<br>  そう、居ないはずだったのだ。誰も。ジュン以外には。<br> </p> <p>  ジュンは、声のするほうに行く。それが、聞き覚えのある声だったから、だろうか。本当に悲しい、感情をむき出しにした泣き声。<br>  ――そして、ジュンはその声の主を見つける。<br> 「うわああああああああ――」<br>  少女は、泣いていた。誰も居ないその場所で一人、天を仰ぐように。親とはぐれた幼子のように、心細げに、ただ、慟哭をあげる。<br> 「あの……」<br>  ジュンは、自然に声をかけていた。それは、もしかしたら、一人で居たくないという気持ちもあったのかもしれない。水銀燈のように、涙を流す少女が居ることが耐えられなかったのかもしれない。</p> <p><br> <br>  だけど。きっと、ジュンは――<br> 「え……?」<br>  ――その、か弱い少女の、そばに居たいと、ただ自然に思ってしまった。</p> <p><br> <br>  それは、何てひどいことなんだろう。ジュンは、自分を責める。水銀燈を、あんなにしておいて。それなのに、この少女の傍に居たいなんて。<br>  だけど、それだけは本当のこと。だって、どうしようもないんだ。目の前に居る少女を見たら、どうしても、その考えしか浮かばなくなってしまった。水銀燈のことさえ、霞んでしまうくらいに――</p> <p><br> <br>  ただ、少女の笑顔を、見たいと思った。<br></p> <p><br> 「あなた、だぁれ……?」<br>  ――それが出逢い。【薔薇水晶とジュン】の物語の始まり。</p> <br> <p>「僕は、桜田ジュン」<br> 「……あなたは、なぁに?」<br> 「僕は、……きっとひどいヤツだ」<br> 「わたしに、なんのよう?」<br>  少女の言葉は、幼さなかった。どうしてだろう。何故か、初めて使った言葉のように、ジュンには思えた。<br> </p> <p><br> 「君の、笑顔が見たい」<br>  赤面してしまうような台詞を、何の迷いもなくジュンは言った。それだけが真実だとでも言わないばかりに、言った。<br> </p> <p><br> 「……えがお? えがおって、なに?」<br> 「笑顔――」<br>  笑顔とは、何か。ジュンは、水銀燈を思い出す。真紅を思い出す。想い出を、想い出す。<br> 「笑顔って言うのは、」<br> 「うん」<br> 「――幸せなときに、やってくるもの」<br> 「しあわせ?」<br>  きょとん、と少女は聞き返す。それはまるで、夢物語を語られたような。<br> 「ジュン」<br> 「え?」<br> 「あなたは、わたしにしあわせをくれるの?」<br>  少女は、ただ純真な瞳で聞いた。<br> <br></p> <br> <p>「……僕、が?」<br> 「あなたが、わたしに」<br> 「幸せを?」<br> 「そう、しあわせを」<br>  とても陳腐で、使い古された言葉があった。今この時のために用意された言葉のような気さえする言葉がある。その言葉は――<br> 「いいよ」<br> 「ほんとう?」<br> 「ああ、本当だ」<br>  すんなりと、とんでもないことを言うものだ、とジュンは思った。でも、自分の心に嘘偽りがない。それだけは、胸を張って言えた。<br> 「……じゃあ、ジュンと一緒に居る」<br> 「僕で、いいのか?」<br> 「やさしくしてくれるなら。いっしょにいてくれるなら。わたしを、しあわせにしてくれるなら」<br> 「誓おう」</p> <p><br> <br>  そして、ジュンは誓う。この、あまりにも物語りじみて、出来すぎた世界に。<br>  ――この、【運命】という言葉がぴったりと当てはまる、出逢いに。</p> <p><br> <br> 「あは……うれしい」<br>  そして、少女は笑う。初めて、ジュンの前で、笑った。それはとても、綺麗な微笑で。<br> </p> <br> <br> <p>「……つまり、どういうことなの?」<br> 「薔薇水晶に、身よりは居ないわ。……それどころか、ジュンと出会う前の記憶がない」<br> 「そう。それは、知らなかったわ」<br>  真紅は、嘆息する。<br> 「薔薇水晶に身よりは居ないことは知っていたけど……どうして、水銀燈は知っているの?」<br> 「ジュンが教えてくれたわ。……まあ、仲直りみたいなものよ。そういう意味で、薔薇水晶に感謝しているわ。あの子が居なければ、私、もしかしたら壊れていたかもしれないわけだし」<br> 「そういう理由もあって、あの子は、貴方に懐いているわけね。でも、その話がさっきの薔薇水晶とどういう関係があるの?」<br> 「真紅ぅ、人の話は聞きなさぁい? あの子は、薔薇水晶じゃないわぁ」<br> 「? 解せないわ。何を言っているの?」<br> 「あの子は、薔薇水晶よ。でも、私たちの知っている薔薇水晶ではない」<br>  水銀燈は、彼女が走って消えて行った方向を見て言う。<br> 「あの子はね――」</p> <p><br> <br>  ……それは、とても悲しいことだった。<br> <br></p> <p>「あは」<br>  彼女は笑う。何故か、どうしようもなく楽しくて。<br> 「こんなに雨が降っているからかな」<br>  そう。知らない間に、雨が降り始めていた。それは、いつだったかの記憶。薔薇水晶とジュンが出逢ったときのような、強い雨のよう。<br> 「雨、好き」<br>  雨は、薔薇水晶にとっての、幸せの象徴だった。傘も持たずに外に出て、ただ濡れたいと思うくらいに、薔薇水晶は好きだったのだ。<br>  それはもちろん、ジュンとの思い出。ジュンとの出逢いがあるからだ。雨の日には、いいことがある。そう信じられるくらいの、ジュンとの出逢いがあったから。<br> 「だけど――」<br>  しかし、“彼女”にとって、雨とは――。<br> 「あはは、早く、早く逢いたいなぁ。ジュン。ジュン。薔薇水晶(わたし)の大好きな、ジュン!」<br>  歌うように、踊るように、彼女は駆け出した。居ても立っても居られない。どうすることも出来ない感情。逢いたい。ただそれだけ。<br>  それは、恋のよう。熱く燃えあがる、恋のよう。<br>  ――だけど気をつけて。恋とは、つまり、堕ちることに他ならない。フォール・イン・ラブ。恋に、堕ちる。</p> <p><br> <br> 「早く、初めましてが言いたい! この鬱陶しい雨が、どうでもよくなる、素敵な初めましてを!」</p> <p><br> <br>  そして。彼女は走り出す。薔薇水晶が大好きな雨を、嫌悪した表情で、楽しそうに、おかしそうに、とてもつまらなそうに。<br> </p> <p><br>  それは、当たり前のことだった。――だって、“彼女”にとって雨なんて、ただの忌むべき記憶を呼び起こす触媒に過ぎなかったから。<br> <br></p> <p>続く<br></p>
<p><a title="barasuisyoutozyunsiawasenohanasii2" name= "barasuisyoutozyunsiawasenohanasi2"></a>【薔薇水晶とジュン】しあわせのはなし。中編</p> <p><br> <br> 「ねえ、一応聞くけど、あれは誰?」<br> 「ふん、私が聞きたいわよ」<br>  真紅と水銀燈の会話。悟ったのだ。二人は。彼女が、違う存在であることに。<br> 「これは、ジュンから聞いた話よ」<br> 「…………?」<br> 「薔薇水晶の話。薔薇水晶と、最初に会った時の話だって」<br> 「……薔薇水晶が、ジュンの家に居候した時の話?」<br> 「そうよ。薔薇水晶が、身寄りがなかったときの話。――まあ、それって、私がジュンを解放したときなんだけど」<br> 「ふぅん」<br> 「何よ、慰めるとかしないの?」<br> 「また泣くのなら、慰めてあげてもいいわよ?」<br> 「……は、冗談よ、そんな顔しないでよ。悪かったわよ」<br> 「それで?」<br>  真紅は、続きを促す。<br> 「……あれは、強い雨が降っていた日だったっけ?」<br> 「さあ、どうだったかしらね」</p> <p><br> <br>  ――でも、とても寒かった日の、話。</p> <br> <p>「あ――」<br>  声が漏れた。打ち付けるような強い雨。それは、まるで存在をも打ち消してしまうような雨だった。<br> 「僕、は?」<br>  そんな中で、ジュンは傘もささずに、ぼうっと、ただ立っていた。何もしたくない。何も出来ない。それが、ジュンの心だった。<br> 「そっか。泣いてたもんなぁ、水銀燈」<br>  その名前を思い出すだけで、心が痛む。あんなにも傷ついた水銀燈。そうしたのは、他ならぬ自分。誰もが否定するが、少なくともジュンはそう信じていた。<br>  自分がもっとうまく立ち回れば、きっと違う結末があった、と信じていた。<br>  それは、事実だ。ジュンの責任ではないにしろ、少なくとも、水銀燈が壊れる世界は回避できたかもしれない。もしかしたら、水銀燈と笑いあう世界があったのかもしれない。<br> 「……ホントに、どうしようもなくて」<br>  自己嫌悪、というのは、一人でするものだ。一人だから、自己嫌悪する。耐えられないのだ。心が優しい人間であればあるほど、自分の罪に。罪を感じる心は、自身の良心だ。<br>  その点において、ジュンは優しかった。それだけは、疑いようのない事実だった。<br> 「どうしたら、いいんだろうな――」<br>  呟く声すら、雨音に消える。誰も答えてくれる人はいない。いや、この世界には、誰も居ない。</p> <p><br> <br>  ――うわあああああああああ。</p> <p><br> <br> 「……え?」<br>  そう、居ないはずだったのだ。誰も。ジュン以外には。<br> </p> <p>  ジュンは、声のするほうに行く。それが、聞き覚えのある声だったから、だろうか。本当に悲しい、感情をむき出しにした泣き声。<br>  ――そして、ジュンはその声の主を見つける。<br> 「うわああああああああ――」<br>  少女は、泣いていた。誰も居ないその場所で一人、天を仰ぐように。親とはぐれた幼子のように、心細げに、ただ、慟哭をあげる。<br> 「あの……」<br>  ジュンは、自然に声をかけていた。それは、もしかしたら、一人で居たくないという気持ちもあったのかもしれない。水銀燈のように、涙を流す少女が居ることが耐えられなかったのかもしれない。</p> <p><br> <br>  だけど。きっと、ジュンは――<br> 「え……?」<br>  ――その、か弱い少女の、そばに居たいと、ただ自然に思ってしまった。</p> <p><br> <br>  それは、何てひどいことなんだろう。ジュンは、自分を責める。水銀燈を、あんなにしておいて。それなのに、この少女の傍に居たいなんて。<br>  だけど、それだけは本当のこと。だって、どうしようもないんだ。目の前に居る少女を見たら、どうしても、その考えしか浮かばなくなってしまった。水銀燈のことさえ、霞んでしまうくらいに――</p> <p><br> <br>  ただ、少女の笑顔を、見たいと思った。<br></p> <p><br> 「あなた、だぁれ……?」<br>  ――それが出逢い。【薔薇水晶とジュン】の物語の始まり。</p> <br> <p>「僕は、桜田ジュン」<br> 「……あなたは、なぁに?」<br> 「僕は、……きっとひどいヤツだ」<br> 「わたしに、なんのよう?」<br>  少女の言葉は、幼さなかった。どうしてだろう。何故か、初めて使った言葉のように、ジュンには思えた。<br> </p> <p><br> 「君の、笑顔が見たい」<br>  赤面してしまうような台詞を、何の迷いもなくジュンは言った。それだけが真実だとでも言わないばかりに、言った。<br> </p> <p><br> 「……えがお? えがおって、なに?」<br> 「笑顔――」<br>  笑顔とは、何か。ジュンは、水銀燈を思い出す。真紅を思い出す。想い出を、想い出す。<br> 「笑顔って言うのは、」<br> 「うん」<br> 「――幸せなときに、やってくるもの」<br> 「しあわせ?」<br>  きょとん、と少女は聞き返す。それはまるで、夢物語を語られたような。<br> 「ジュン」<br> 「え?」<br> 「あなたは、わたしにしあわせをくれるの?」<br>  少女は、ただ純真な瞳で聞いた。<br> <br></p> <br> <p>「……僕、が?」<br> 「あなたが、わたしに」<br> 「幸せを?」<br> 「そう、しあわせを」<br>  とても陳腐で、使い古された言葉があった。今この時のために用意された言葉のような気さえする言葉がある。その言葉は――<br> 「いいよ」<br> 「ほんとう?」<br> 「ああ、本当だ」<br>  すんなりと、とんでもないことを言うものだ、とジュンは思った。でも、自分の心に嘘偽りがない。それだけは、胸を張って言えた。<br> 「……じゃあ、ジュンと一緒に居る」<br> 「僕で、いいのか?」<br> 「やさしくしてくれるなら。いっしょにいてくれるなら。わたしを、しあわせにしてくれるなら」<br> 「誓おう」</p> <p><br> <br>  そして、ジュンは誓う。この、あまりにも物語りじみて、出来すぎた世界に。<br>  ――この、【運命】という言葉がぴったりと当てはまる、出逢いに。</p> <p><br> <br> 「あは……うれしい」<br>  そして、少女は笑う。初めて、ジュンの前で、笑った。それはとても、綺麗な微笑で。<br> </p> <br> <br> <p>「……つまり、どういうことなの?」<br> 「薔薇水晶に、身よりは居ないわ。……それどころか、ジュンと出会う前の記憶がない」<br> 「そう。それは、知らなかったわ」<br>  真紅は、嘆息する。<br> 「薔薇水晶に身よりは居ないことは知っていたけど……どうして、水銀燈は知っているの?」<br> 「ジュンが教えてくれたわ。……まあ、仲直りみたいなものよ。そういう意味で、薔薇水晶に感謝しているわ。あの子が居なければ、私、もしかしたら壊れていたかもしれないわけだし」<br> 「そういう理由もあって、あの子は、貴方に懐いているわけね。でも、その話がさっきの薔薇水晶とどういう関係があるの?」<br> 「真紅ぅ、人の話は聞きなさぁい? あの子は、薔薇水晶じゃないわぁ」<br> 「? 解せないわ。何を言っているの?」<br> 「あの子は、薔薇水晶よ。でも、私たちの知っている薔薇水晶ではない」<br>  水銀燈は、彼女が走って消えて行った方向を見て言う。<br> 「あの子はね――」</p> <p><br> <br>  ……それは、とても悲しいことだった。<br> <br></p> <p>「あは」<br>  彼女は笑う。何故か、どうしようもなく楽しくて。<br> 「こんなに雨が降っているからかな」<br>  そう。知らない間に、雨が降り始めていた。それは、いつだったかの記憶。薔薇水晶とジュンが出逢ったときのような、強い雨のよう。<br> 「雨、好き」<br>  雨は、薔薇水晶にとっての、幸せの象徴だった。傘も持たずに外に出て、ただ濡れたいと思うくらいに、薔薇水晶は好きだったのだ。<br>  それはもちろん、ジュンとの思い出。ジュンとの出逢いがあるからだ。雨の日には、いいことがある。そう信じられるくらいの、ジュンとの出逢いがあったから。<br> 「だけど――」<br>  しかし、“彼女”にとって、雨とは――。<br> 「あはは、早く、早く逢いたいなぁ。ジュン。ジュン。薔薇水晶(わたし)の大好きな、ジュン!」<br>  歌うように、踊るように、彼女は駆け出した。居ても立っても居られない。どうすることも出来ない感情。逢いたい。ただそれだけ。<br>  それは、恋のよう。熱く燃えあがる、恋のよう。<br>  ――だけど気をつけて。恋とは、つまり、堕ちることに他ならない。フォール・イン・ラブ。恋に、堕ちる。</p> <p><br> <br> 「早く、初めましてが言いたい! この鬱陶しい雨が、どうでもよくなる、素敵な初めましてを!」</p> <p><br> <br>  そして。彼女は走り出す。薔薇水晶が大好きな雨を、嫌悪した表情で、楽しそうに、おかしそうに、とてもつまらなそうに。<br> </p> <p><br>  それは、当たり前のことだった。――だって、“彼女”にとって雨なんて、ただの忌むべき記憶を呼び起こす触媒に過ぎなかったから。<br> <br></p> <p>続く<br></p>

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