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【薔薇水晶とジュン】しあわせのはなし。前編」(2006/03/30 (木) 14:30:05) の最新版変更点

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<p><a title="barasuisyoutozyunarusyouzyono" name= "barasuisyoutozyunarusyouzyono"></a><a title="barazyunsiawasenohanasi1" name= "barazyunsiawasenohanasi1"></a>∽</p> <p><br> <br>  ……夢を、見た。<br> 『あは……』<br>  何で、あなたの夢なんて、見なきゃいけないのか。<br> 『違うでしょう。あなたが、私の夢を見ないほうがおかしいのよ』<br>  白い世界。水晶は私の名前。白い水晶の世界。<br> 『……そうね、水晶はあなたの名前。じゃあ、あなたはだぁれ?』<br>  私は薔薇水晶。みんなの姉妹。ジュンの、恋人。<br> 『ふーん。そうなの? ねえ、それなら』<br>  ――それは、本当にうるさい欠片で。</p> <p><br> <br> 『わたしは、だぁれ?』</p> <p><br> <br>  ……覚えてもいないことを聞く。わからないことを聞く。どうでもいいのに。</p> <p><br> <br> /ある少女の混濁</p> <br> <p>「薔薇水晶」<br>  ジュンの声がする。だけど、その声は遠い。<br> 「朝だよ……」<br>  優しい声。うっかり、その声の心地よさに意識を手放してしまいそうだった。<br> 「……ジュン」<br>  でも、起きる。手放してはいけないもの。それは、その声のはずだった。<br> 「おはよう」<br>  いつもと変わらぬジュンの優しい声。微笑んでくれる、温かさ。すべては、いつものことだった。<br>  いつもの――まどろみのような、やわらかいもの。<br> 「……ねえ、ジュン」<br> 「ん?」<br> 「私は、だぁれ?」<br> 「薔薇水晶だろ?」<br>  何の戸惑いもなく、ジュンは言ってくれた。何の、戸惑いもなく。<br> 「ねえ、ジュン」<br> 「?」<br> 「……私が、どんな姿になっても、ジュンは私をわかってくれる?」<br> 「何か、変な薔薇水晶だな」<br>  ジュンは困惑気味に呟いた。<br></p> <br> <p>「お願いだよ。教えて?」<br> 「よく、わからないけど……、僕は薔薇水晶が好きだから。僕が好きな人が、きっと薔薇水晶だよ」<br>  ジュンの言葉を聞いて、少し安心する。そう、信じられること。ジュンは、私の信頼できる人。<br> 「うん。それなら、きっと大丈夫だよね」<br> 「……なあ、やっぱり、何かあったのか?」<br> 「ちょっと――夢見が悪かっただけ、かな」<br>  嘘ではなかった。夢見。不安が心を覆った時に見る夢。……ああ、確かにそう考えると、おかしい。<br>  だって今、私は不安になんて囚われていなくて――<br> 「好きだよ、ジュン」<br> 「ん、僕も、好きだよ」<br>  ――ただただ、幸せなはずなのに。<br>  それは、怖かった。何が怖いのかよくわからないけど、怖いもの。<br>  ……なんだろう。嫌な予感がした。とても、嫌な予感。</p> <br> <p><br> <br>  それは――別れの予感。<br></p> <br> <p>『ジュンは誰にでも優しい』<br>  知ってる。<br> 『だから、別に貴方だけに優しいわけではない』<br>  知ってる。<br> 『ならさ、……あはは』<br>  何が、おかしいの?<br> 『ねえ、薔薇水晶。愛しい愛しい薔薇水晶。ジュンは――』<br>  …………。<br> 『ジュンは、貴方のことを、同情しているだけだったりしてね』<br>  そんなこ、と、ない。<br> 『本当に、そう思う? だって、おかしいじゃない。蒼星石の想いを聞いたでしょう。真紅の苦悩を感じたでしょう。水銀燈との思い出、聞いたでしょう?』<br>  それは、<br> 『なのに、何故貴方なんだろうね。ジュンは優しいから。ジュンはとてもとても優しいから』<br>  やめて。<br> 『だから、ジュンを縛っているのは、』<br>  やめて……っ!<br> <br></p> <br> <p> 『――ジュンを不幸にするのは、貴方よ、薔薇水晶(わたし)』</p> <br> <br> <p>「……薔薇水晶が、居なくなった」<br>  ジュンが、ひどくつらそうな口調で、言う。<br> 「それは、どういうことなの?」<br> 「居ないんだ。朝、迎えに行って、学校に来ても居なくて、それで、それで、」<br> 「ジュン! 落ち着きなさい」<br>  真紅は、ジュンを叱咤する。しかしこんなジュンを見るのは、幼なじみの真紅でさえ初めてで、どうしたらいいのかわからない。<br>  もちろん、真紅が知らないのなら、誰も知らなかった。水銀燈は、過去の嫌な記憶から真紅よりは知っていたが、それでも、こんなに泣くジュンを見たことはなかった。<br> 「とりあえず、探しましょう。話はそれからだわ」<br> 「そうね」<br>  真紅と水銀燈が言う。それは、これ以上こんなジュンを見ていたくなかったから。<br> 「……ジュンは、どうする?」<br> 「探さなきゃ、探さなきゃ――」<br> 「ジュン……」<br>  二人は、何も言えない。<br> 「探さないと――薔薇水晶が、」<br>  そして、ジュンは何と言ったのだろう。</p> <p><br> <br>  ――薔薇水晶が、壊れてしまう。<br></p> <br> <p>  二人は、とりあえず歩き出した。探さなければならない。ジュンが、あそこまでの怯えを見せるのなら。<br> 「それで、水銀燈。もちろん、心当たりはあるんでしょう?」<br> 「それは、もちろんあるけど……でも、居るとは思えないわ」<br> 「? それは何故?」<br> 「だって、真紅、あのね――」<br>  水銀燈が、何かを言いかけた、その時。</p> <p><br> <br> 「あははっ、見つけた!」<br>  そこに、彼女が現れた。何の脈絡もなく、唐突に。</p> <p><br>  <br> 「薔薇水晶……? いえ、」<br>  違う、と直感で悟る。何が違うのか、それはわからなかった。<br> 「貴方――」<br> 「こんにちわ、銀姉さま」<br> 「返しなさい」<br>  水銀燈は、短く、だけどその中にとてつもない激情を込めて言った。<br> 「わかったわ。思い出した。通りで、ジュンがああなるわけね」<br> 「水銀燈?」<br> 「この子は薔薇水晶じゃないわ」<br> 「いやだなぁ。薔薇水晶ですよ?」<br> 「……虫唾が走る」<br>  ぎり、と水銀燈は、貫くような視線を見せる。<br> <br> <br></p> <p> 「あははっ! そんなだから、貴方はジュンに捨てられる!」<br> 「――――ッ!」<br> 「水銀燈! 貴方は、ジュンと近すぎる! ともすれば一つになってしまう関係は、この世では決して許されない!」<br> 「薔薇――水晶!」<br>  真紅が、誰も聞いたことのないような声をあげる。それは、怒り。親友を傷つけたことに対する怒り。<br> 「真紅! 貴方もそう! 貴方は勘違いしている! 縛ることが愛なら、縛られている側は、縛る側を決して愛することが出来ない! だから貴方の愛は一方通行なんだ!」<br> 「……うるさい!」<br> 「ほら、皆そう言う! 皆図星だから! だからそう、拒否するんだ! 私を、薔薇水晶を! あはは、あはははははははははははは!」<br>  狂っていた。世界が狂い始めていた。<br> 「ジュンは、水銀燈を見捨てたわけではない!」<br> 「そうだね、そうかもしれない。ジュンは優しいから! それが傷になろうとも受け入れるでしょう! でも真紅貴方はどうなの! 貴方は、水銀燈とジュンが恋人だった時、本当に何も思わなかったの!」<br> 「それ、は、」<br> 「……あなた、いい加減にしなさぁい」<br> 「あはは、強くなったんだ、水銀燈! 昔の貴方なら、きっとここで壊れてたよ! ジュンの名前を呼びながら泣いていた!」<br> 「貴方は、誰」<br>  真紅が呟く。敵意を持って。<br> 「私? 私は薔薇水晶。でも――」</p> <p><br> <br> 「わたしは、だぁれ?」</p> <p><br> <br> 「…………っ」<br>  二人は、何も言えなかった。狂気。そうだ、この感じは、狂気だ。<br> 「さあ、ジュンに会いに行こう。きっと待ってる。ジュンが待っている! 貴方たちなんか関係ない。――ジュンが、私を待っている」<br>  そして彼女は歩き出す。未だ、強い意志を持つ彼女たちを残して。<br> </p> <br> <p>続く</p>
<p><a title="barasuisyoutozyunsiawasenohanasi"></a><a title= "barasuisyoutozyunsiawasenohanasi" name= "barasuisyoutozyunsiawasenohanasi"></a>∽</p> <p><br> <br>  ……夢を、見た。<br> 『あは……』<br>  何で、あなたの夢なんて、見なきゃいけないのか。<br> 『違うでしょう。あなたが、私の夢を見ないほうがおかしいのよ』<br>  白い世界。水晶は私の名前。白い水晶の世界。<br> 『……そうね、水晶はあなたの名前。じゃあ、あなたはだぁれ?』<br>  私は薔薇水晶。みんなの姉妹。ジュンの、恋人。<br> 『ふーん。そうなの? ねえ、それなら』<br>  ――それは、本当にうるさい欠片で。</p> <p><br> <br> 『わたしは、だぁれ?』</p> <p><br> <br>  ……覚えてもいないことを聞く。わからないことを聞く。どうでもいいのに。</p> <p><br> <br> /ある少女の混濁</p> <br> <p>「薔薇水晶」<br>  ジュンの声がする。だけど、その声は遠い。<br> 「朝だよ……」<br>  優しい声。うっかり、その声の心地よさに意識を手放してしまいそうだった。<br> 「……ジュン」<br>  でも、起きる。手放してはいけないもの。それは、その声のはずだった。<br> 「おはよう」<br>  いつもと変わらぬジュンの優しい声。微笑んでくれる、温かさ。すべては、いつものことだった。<br>  いつもの――まどろみのような、やわらかいもの。<br> 「……ねえ、ジュン」<br> 「ん?」<br> 「私は、だぁれ?」<br> 「薔薇水晶だろ?」<br>  何の戸惑いもなく、ジュンは言ってくれた。何の、戸惑いもなく。<br> 「ねえ、ジュン」<br> 「?」<br> 「……私が、どんな姿になっても、ジュンは私をわかってくれる?」<br> 「何か、変な薔薇水晶だな」<br>  ジュンは困惑気味に呟いた。<br></p> <br> <p>「お願いだよ。教えて?」<br> 「よく、わからないけど……、僕は薔薇水晶が好きだから。僕が好きな人が、きっと薔薇水晶だよ」<br>  ジュンの言葉を聞いて、少し安心する。そう、信じられること。ジュンは、私の信頼できる人。<br> 「うん。それなら、きっと大丈夫だよね」<br> 「……なあ、やっぱり、何かあったのか?」<br> 「ちょっと――夢見が悪かっただけ、かな」<br>  嘘ではなかった。夢見。不安が心を覆った時に見る夢。……ああ、確かにそう考えると、おかしい。<br>  だって今、私は不安になんて囚われていなくて――<br> 「好きだよ、ジュン」<br> 「ん、僕も、好きだよ」<br>  ――ただただ、幸せなはずなのに。<br>  それは、怖かった。何が怖いのかよくわからないけど、怖いもの。<br>  ……なんだろう。嫌な予感がした。とても、嫌な予感。</p> <br> <p><br> <br>  それは――別れの予感。<br></p> <br> <p>『ジュンは誰にでも優しい』<br>  知ってる。<br> 『だから、別に貴方だけに優しいわけではない』<br>  知ってる。<br> 『ならさ、……あはは』<br>  何が、おかしいの?<br> 『ねえ、薔薇水晶。愛しい愛しい薔薇水晶。ジュンは――』<br>  …………。<br> 『ジュンは、貴方のことを、同情しているだけだったりしてね』<br>  そんなこ、と、ない。<br> 『本当に、そう思う? だって、おかしいじゃない。蒼星石の想いを聞いたでしょう。真紅の苦悩を感じたでしょう。水銀燈との思い出、聞いたでしょう?』<br>  それは、<br> 『なのに、何故貴方なんだろうね。ジュンは優しいから。ジュンはとてもとても優しいから』<br>  やめて。<br> 『だから、ジュンを縛っているのは、』<br>  やめて……っ!<br> <br></p> <br> <p> 『――ジュンを不幸にするのは、貴方よ、薔薇水晶(わたし)』</p> <br> <br> <p>「……薔薇水晶が、居なくなった」<br>  ジュンが、ひどくつらそうな口調で、言う。<br> 「それは、どういうことなの?」<br> 「居ないんだ。朝、迎えに行って、学校に来ても居なくて、それで、それで、」<br> 「ジュン! 落ち着きなさい」<br>  真紅は、ジュンを叱咤する。しかしこんなジュンを見るのは、幼なじみの真紅でさえ初めてで、どうしたらいいのかわからない。<br>  もちろん、真紅が知らないのなら、誰も知らなかった。水銀燈は、過去の嫌な記憶から真紅よりは知っていたが、それでも、こんなに泣くジュンを見たことはなかった。<br> 「とりあえず、探しましょう。話はそれからだわ」<br> 「そうね」<br>  真紅と水銀燈が言う。それは、これ以上こんなジュンを見ていたくなかったから。<br> 「……ジュンは、どうする?」<br> 「探さなきゃ、探さなきゃ――」<br> 「ジュン……」<br>  二人は、何も言えない。<br> 「探さないと――薔薇水晶が、」<br>  そして、ジュンは何と言ったのだろう。</p> <p><br> <br>  ――薔薇水晶が、壊れてしまう。<br></p> <br> <p>  二人は、とりあえず歩き出した。探さなければならない。ジュンが、あそこまでの怯えを見せるのなら。<br> 「それで、水銀燈。もちろん、心当たりはあるんでしょう?」<br> 「それは、もちろんあるけど……でも、居るとは思えないわ」<br> 「? それは何故?」<br> 「だって、真紅、あのね――」<br>  水銀燈が、何かを言いかけた、その時。</p> <p><br> <br> 「あははっ、見つけた!」<br>  そこに、彼女が現れた。何の脈絡もなく、唐突に。</p> <p><br>  <br> 「薔薇水晶……? いえ、」<br>  違う、と直感で悟る。何が違うのか、それはわからなかった。<br> 「貴方――」<br> 「こんにちわ、銀姉さま」<br> 「返しなさい」<br>  水銀燈は、短く、だけどその中にとてつもない激情を込めて言った。<br> 「わかったわ。思い出した。通りで、ジュンがああなるわけね」<br> 「水銀燈?」<br> 「この子は薔薇水晶じゃないわ」<br> 「いやだなぁ。薔薇水晶ですよ?」<br> 「……虫唾が走る」<br>  ぎり、と水銀燈は、貫くような視線を見せる。<br> <br> <br></p> <p> 「あははっ! そんなだから、貴方はジュンに捨てられる!」<br> 「――――ッ!」<br> 「水銀燈! 貴方は、ジュンと近すぎる! ともすれば一つになってしまう関係は、この世では決して許されない!」<br> 「薔薇――水晶!」<br>  真紅が、誰も聞いたことのないような声をあげる。それは、怒り。親友を傷つけたことに対する怒り。<br> 「真紅! 貴方もそう! 貴方は勘違いしている! 縛ることが愛なら、縛られている側は、縛る側を決して愛することが出来ない! だから貴方の愛は一方通行なんだ!」<br> 「……うるさい!」<br> 「ほら、皆そう言う! 皆図星だから! だからそう、拒否するんだ! 私を、薔薇水晶を! あはは、あはははははははははははは!」<br>  狂っていた。世界が狂い始めていた。<br> 「ジュンは、水銀燈を見捨てたわけではない!」<br> 「そうだね、そうかもしれない。ジュンは優しいから! それが傷になろうとも受け入れるでしょう! でも真紅貴方はどうなの! 貴方は、水銀燈とジュンが恋人だった時、本当に何も思わなかったの!」<br> 「それ、は、」<br> 「……あなた、いい加減にしなさぁい」<br> 「あはは、強くなったんだ、水銀燈! 昔の貴方なら、きっとここで壊れてたよ! ジュンの名前を呼びながら泣いていた!」<br> 「貴方は、誰」<br>  真紅が呟く。敵意を持って。<br> 「私? 私は薔薇水晶。でも――」</p> <p><br> <br> 「わたしは、だぁれ?」</p> <p><br> <br> 「…………っ」<br>  二人は、何も言えなかった。狂気。そうだ、この感じは、狂気だ。<br> 「さあ、ジュンに会いに行こう。きっと待ってる。ジュンが待っている! 貴方たちなんか関係ない。――ジュンが、私を待っている」<br>  そして彼女は歩き出す。未だ、強い意志を持つ彼女たちを残して。<br> </p> <br> <p>続く</p>

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