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湾岸 "Maiden" Midnight SERIES 1 「悪魔と天使と人間 Part 3」」(2009/02/09 (月) 03:22:53) の最新版変更点

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そして、僕は悪魔のZのキーを回した。 湾岸 "Maiden" Midnight SERIES 1 「悪魔と天使と人間 Part 3」 エンジンの鼓動が聞こえる。 ジュンの心臓の鼓動が高鳴る。 暖機運転は完了した。重たいクラッチを踏みこみ、ギアを1速に入れる。 クラッチを離しつつアクセルを踏み込もうとする。 悪魔のZは、エンストした。 チューニングカーに乗りなれているジュンも、さすがに緊張してしまった。 今度は、慎重にクラッチをつなぐ。 悪魔のZが、動き出した。 真っ赤なボディが街頭に照らし出され、夜の街の彩りに華を添える。 周りの車と溶け合い、光の渦に飲み込まれるように、悪魔のZは案外素直であった。 深夜の湾岸線を、300km/hオーバーで疾走するチューンドカーの、その本質はまだ現れていない。 悪魔のZは、光の渦から抜け出し、首都高のランプへと入っていった。 ―――――――――― 車体が暴れるッ! さっきまでの素直な悪魔はどこへ行ったんだ。 ……いいや、これが悪魔の本質なんだ。深夜の首都高で踏み込んでいって、はじめて悪魔の本質に触れられる。 ステアリングから伝わる感触、アクセルから伝わる鼓動、ボディから伝わる挙動。 すべてが全身に語りかけてくる、もっと踏み込んで行けと。 9号線じゃ狭すぎる、湾岸でなければとても踏み込んで行けない。 早く、湾岸へ……、そうしなければ、僕はこの悪魔に飲み込まれてしまう。 もうすぐ辰巳JCTだ。早く、早く……。 湾岸、合流……ッ! さあ、お前の本質を僕に見せてみろ、悪魔のZッ! アクセルを踏み込む右足が、張り付いたように離れようとしない。 ステアリングに否応なく力が入る。心拍数があがっているのがわかる。 少し静かにいていてくれ、僕の心臓。 もっとこの悪魔を感じていたいんだッ! エンジンの音が、聞こえる。 まだまだ、踏んで行けると呼びかけている。 でも、僕の心臓が、僕の脳みそが、これ以上は危険だと警鐘を鳴らす。 全身に悪寒が走る。悪魔に飲み込まれそうになっていた僕の体が悲鳴をあげている。 まだ、ここなら後戻りができる。お願いだ、落ち着いてくれ、僕の心よ。 やっとアクセルを抜くことができた。 僕の心が冷静さを取り戻してくれた。 この悪魔を手の内に入れることなんて、できない。 スピードの魔を体現したようなマシン。 真紅は、こんなマシンを操っていたのか、あの華奢な体で。 これ以上は息が続かない。 大井でUターンして帰ろう。 羽田線をC1方面へと進む。 浜崎橋JCTから、C1内回りに合流したそのとき。 新宿方面からの合流車両のなかに、異質なオーラをまとった一台の車がいた。 漆黒のボディ、大きく張り出したブリスターフェンダー、あれはポルシェ911ターボだ。 そして、本物のマシンと乗り手だけが放つ狂気。 間違いない、湾岸の黒い怪鳥、ブラックバードッ! よりによって厄介な車に出会ってしまった。 ブラックバードもこちらに気がついたらしい。 減速してこちらに近づいてくる。 ブラックバードはこちらの前について、様子をうかがっているようだった。 そのまま、C1を駆け抜けていく。 江戸橋JCTを右に、丁寧に車線変更をしている、つまり6号、9号、湾岸方面だ、ついて来いって意味か。 そのまま、僕はブラックバードの後を追いかけていた。 辰巳JCTから湾岸、有明JCTから台場線へ、そして、芝浦PAへと入って行った。 ―――――――――― 「貴方、いったい誰?」 芝浦PAの駐車場で、ジュンはブラックバードから開口一番に尋ねられた。 「このZのオーナーに、オーバーホールを依頼された人間だ」 「あらァ、てっきりオーナーが代替わりしたのかと思ったわァ」 そう言って、ブラックバードはけらけらと笑っていた。 ジュンは、湾岸で、首都高で、一番速い乗り手の持つオーラに圧倒されるばかりで、何も答えられなかった。 「で、貴方はどこのお店の人間なのォ?」 笑うのをやめたブラックバードは、真剣な顔つきで、そしてあまり真剣には聞こえないしゃべり方で、ジュンに質問する。 「桜田オートエンジニアリング、……って聞いたことないかもしれないけれど」 「そうねェ、聞いたことないわァ」 そう言って、ブラックバードはしばらく黙りこんでしまった。 本線を走る車の走行音が妙にやかましいと、ジュンは感じていた。 普段は気にもならない音であるのに、今日はひときわ耳に張り付いてしかたない。 PAの沈黙と、本線の騒音が、ジュンに突き刺さる。 「どのくらいでオーバーホールは終わるのかしらァ?」 「えっ?」 沈黙と騒音を突き破って、ブラックバードが話しかけてきたため、ジュンは一瞬たじろいだ。 「だから、どのくらいでオーバーホールは終わるのかって聞いてるのよ、何度も言わせないで」 「ああ、だいたい3、4週間くらいかな、パーツの発注やセッティングを含めて」 「そう、じゃあ3週間後に市川PAでと、水銀燈が言っていたと真紅に伝えなさい」 「はい?」 「言いたいことはそれだけよォ、桜田オートのメカニックさァん」 そう言って、ブラックバードこと水銀燈は、首都高の波間へと消えていった。 ―――――――――― 3週間後に市川PAで。 この言葉の意味はなんとなくわかる。 つまり3週間で車を仕上げろってことか。 別に無茶な注文ってわけじゃないけど、Zに全力を注がないといけないな。 全く、商売あがったりだよ……。 それなのに、顔がにやけてしかたない。楽しいのか?僕は、この状況が。 さて、戻ってオーバーホールを始めるとするか。 いったいどんな怪物エンジンなのだろう? 心が躍ってしかたない。はやる気持ちを抑えなければ本当に事故ってしまう。 ―――――――――― そして、深夜の仕事場に戻ったジュンは、エンジンが冷えるのを待って、エンジンを車体から下ろすことを始めた。

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