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「1-5」(2009/01/11 (日) 23:25:34) の最新版変更点
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1-5<br />
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「ふむふむ。なるほど」<br />
<br />
割り箸を手に、したり顔で呟くのは、柏葉巴。<br />
ジュンたちと相席して夕食を摂りつつ、互いの簡単な紹介を済ませた後のことだ。<br />
目下の話題は、ここに至った経緯と、今後の目的へと移っていた。<br /><br />
「桜田くんは、ココロの樹を探す旅をしているのね」<br />
「まだ、始めたばかりだけどな」<br />
「……それでも、扉を閉ざしたままよりは、ずっといいと思うよ。<br />
ひたむきな人って好きだな、私。応援したくなっちゃう」<br /><br />
言うと、巴は優しい眼差しを、ジュンに注いだ。<br />
思いがけず温かな言葉をかけられたことに感激して、テーブルの下のポニョ――<br />
もとい、ジュンの暴れん坊天狗が、ビクビクッ! と反応する。<br />
その気まずさから、つい、目を逸らせてしまうジュンだった。<br /><br />
「……で、みつさんは――」そんなコトは露しらず、巴は右へと視線を滑らせる。<br />
「どう言った理由で、桜田くんと同行を?」<br /><br />
口調こそ平静だが、険のある瞳。<br />
汚れを知らないウブな娘にありがちな潔癖さが、声音にも滲んでいた。<br /><br />
「まさか、桜田くんを若いツバメにしようと……」<br />
「やぁねえ。モエモエったら、想像力が豊かね。ぜ~んぜん違うから」<br /><br />
みつは苦笑って、ひらひらと手を振って不定したが、巴の態度は和らぐことがない。<br /><br />
「やめてくれませんか、その呼び方。なんだかバカにされてるみたいで、キライです」<br />
「あー、ゴメンゴメン。じゃあ、巴ちゃん……で、いいかな?」<br /><br />
こくりと頷く間も、巴の瞳は揺らぐことなく、みつを射たままだった。<br />
あからさまではないにしても、敵愾心みたいな気配も、仄かに感じられる。<br />
ジュンは、どこで口を挟むべきか模索しつつ、結局、とっかかりを掴めずにいた。<br /><br />
「巴ちゃんが考えてるような、やましい関係なんかじゃあ、決してないから」<br />
「そう言われて、ホイホイ信用すると思いますか?」<br />
「んー。若いのに、割と頑ななんだ」<br /><br />
揶揄する風でもなく呟いて、みつは続けた。<br />
「ワケありの独り旅をしてたのよね、あたしも。<br />
細かいことは、あんまり詮索しないで欲しいんだけどー」<br /><br />
「つまり、旅は道連れ、と」<br />
「そういうコト。やっぱり、なにかと心強いじゃない。男の子にいてもらうと」<br />
「……ですね。解ります、それ」<br /><br />
ようやく表情を和らげた巴は、「失礼しました」と会釈した。<br />
その折り目正しい態度に、ジュンは現実の柏葉巴を、脳裏に思い描いた。<br />
学級委員長を務め、剣道に打ち込む、しっかり者の幼なじみを。<br /><br />
「柏葉も、旅をしてるのか?」<br /><br />
この世界の彼女も、面倒見のよい性格で、大勢の人間をまとめているのだろうか。<br />
ジプシーと言えば、キャラバンでの移動。そんな連想から発せられた質問だった。<br />
巴は、料理を口に運びながら、コク、と首肯した。<br /><br />
嚥下して、ふたたび巴が言葉を紡ぐ。<br />
「実を言うと、私も独り旅の途中なの。<br />
食事のついでに、一緒に旅してくれる人を探すつもりだったのよ」<br /><br />
生きていく以上、飲食と休養は、必要不可欠だ。<br />
畢竟、旅をする者は、酒場や食堂、宿へと集うこととなる。<br />
道連れを探すのに、これほど適した場所はない。<br /><br />
「でも、探してみると、これがなかなか難しくて。<br />
私も女の子だから、可能なかぎり、人は選びたいし」<br />
「解るわー。見ず知らずの人を誘うのって不安よねー。それが男の人だと、特に」<br />
「ええ。だから、女性をメインに探そうと――」<br /><br />
なるほど。ジュンは、ついさっきのやり取りを思い出して、即座に理解した。<br />
みつが同僚の女性を呼んだと勘違いして、ジュンという響きに反応したわけだ。<br /><br />
「ところが、期待して振り返って見れば、僕だったんだな」<br /><br />
――『なぁんだ』<br />
てっきり、嘲りだとばかり思われた、あの一言。<br />
けれど本当は、溜息混じりに吐きだされた、落胆の呟きだったのだ。<br />
ジュンが訊ねると、巴は、ほんのりと頬を上気させた。<br /><br />
「失礼な真似しちゃったわね。ごめんなさい」<br />
「確かに、カチンとはきたけど、もういいよ。間違いは、誰にでもあるしさ」<br />
「でも、私の気が済まないし……あ、それなら」<br /><br />
ポン! と手を打って、喜色を露わにする巴。<br />
「ココロの樹の在処を、占ってあげる」<br /><br />
なんという棚ボタ展開。ジュンにしてみれば、渡りに船だ。<br />
これで有力な手懸かりを得られれば、7日間も苦しまなくて済む。<br />
<br />
だが一方で、こんなに簡単でいいのか? と自問するジュンがいた。<br />
そもそもが占いだ。百パーセント的中なんて、期待できない。<br />
鵜呑みにして右往左往した挙げ句、タイムアップで成果なしという可能性も――<br /><br />
「あ、いや……気持ちは、ありがたいんだけど」<br />
「私なんかの助力は、必要ないかな?」<br />
「自力で探さなきゃいけないものだしな。<br />
それに経験上、横着すると、大概よくない結果になるから」<br /><br />
「そのかわりに」ジュンが、切り出す。<br />
「呪いの解き方とか知ってたら、教えてくれないか」<br /><br />
呪い、とは無論、暴れん坊天狗のはずし方についてだ。<br />
鬱陶しいアレが取れるだけでも、ジュンのココロは、晴れ晴れとする。<br />
人目を気にして、コソコソ歩き回らなくたって済むのだから。<br /><br />
しかし、巴の表情は浮かなかった。<br />
「呪術系は、お役に立てないかも。専門外だし」<br /><br />
ごもっとも。一縷の望みは、身勝手な期待にすぎない。<br />
穿った見かたをすれば、畑違いの依頼をするなど、悪意を疑われても仕方のない行為だ。<br />
巴を不快にさせてしまっただろうか? ジュンは頭を掻き掻き、眉を曇らせた。<br /><br />
「……だよな。ごめん」<br />
「気にしてないよ」<br /><br />
素っ気ない言葉のやり取り。少しだけ重量を増した空気。<br />
周囲のテーブルから届く喧噪が、ひどく白々しい三文芝居みたいに感じられた。<br /><br />
そんな中で貫禄を見せたのは、3人の中で一番の姉貴分である、みつ。<br />
彼女が指を鳴らした途端、凝固点寸前だった彼らの時間が、再び緩やかに流れだした。<br /><br />
「だったらさー、あたしのお願いを聞いてくれない?」<br /><br />
言うが早いかテーブルに身を乗り出し、返事をする暇も与えず、巴の手を握る。<br />
いきなりのコトに面食らった巴が、小さな悲鳴をあげて、箸を取り落とした。<br /><br />
「な、なんですか?」<br />
「あなたなら知ってるでしょ。クラスチェンジについて」<br />
「ええ……それは、もちろん」<br /><br />
また、妙な設定が出てきたぞ。<br />
ジュンは内心でボヤきながら、2人の会話に割り込んだ。<br /><br />
「ちょっと待った。なんだよ、クラスチェンジって」<br />
「あたしも他人から聞いた話だから、よく解らない。巴先生、ご教授よろしく」<br />
「ええと……端的に言うと、ぬるぽ」<br /><br />
――省略しすぎなので、ジュンが巴の話を聞いて、把握できた内容を整理すると、<br />
クラスチェンジとは、ロールプレイングゲームによくある転職のシステムらしい。<br />
経験値を稼いで、レベルを上げ、上級職に進化するというアレだ。<br /><br />
だが、クラスチェンジはプレイヤーの任意ではなく、自動で行われるのだという。<br />
この世界での様々な行動がパラメーター化されていて、それが反映されるらしい。<br /><br />
「てことは、盗みや悪事を働いてばっかりいると」<br />
周囲の目を気にして、ジュンがテーブルに身を乗り出し、声を潜める。<br />
「盗賊とか、ヤクザみたいなクラスにされるのか?」<br /><br />
なにを分かり切ったことを。巴の瞳が、そう語りかけてくる。<br />
もちろん、ジュンとてベジータに襲われ、盗賊がいることぐらい承知していた。<br />
それでも訊いてみたのは、一応の確認としてだ。<br /><br />
「やっぱり、命の危険に曝されることも、有り得るんだな」<br /><br />
装備は貧弱。持ち金も少なく、下手をすれば野垂れ死に。<br />
夢世界のクセに、なんともまあ、変なところだけ現実そっくりだ。<br />
チートコードとか、ないのかよ。それか、プロアクションリプレイでもいい。<br />
ジュンは口を噤むと、憂鬱な気持ちで、椅子に座りなおした。<br /><br />
「それで本題なんだけどさ、巴ちゃん」<br />
みつが会話を継ぐ。「あたしの、現在のクラスチェンジ予想をしてくれない?」<br /><br />
「いいですよ。それでは」<br /><br />
にこりと朗らかに微笑んで、巴は懐から、タロットカードの束を抜きだした。<br />
詳しくは、大アルカナと呼ばれる22枚のカードを、である。<br /><br />
「夢とか、あるんですか?」カードをシャッフルしつつ、みつに訊ねる巴。<br />
「叶うなら、裕福になりたいわ」みつは胸の前で両手を合わせ、夢見ごこちに呟く。<br /><br />
「ああ……お金持ち。ステキ……。逆玉サイコー! お宝ゲットだぜっ」<br />
「おーい、みっちゃーん。どこ行くんだー。帰ってこいよー」<br /><br />
ジュンが脇から茶化すけれど、馬耳東風。<br />
ほわわ~ん、なんて擬音が聞こえてきそうなほど、みつは妄想に耽っている。<br />
巴はクスッと笑みを零しながら、一枚のアルカナを提示した。<br />
「こんなん出ましたけど」<br /><br />
テーブルに置かれたのは、【女教皇】。巴から見て、正位置。<br /><br />
「ふぅん……なるほどね」<br />
「これって、なに?」<br /><br />
さも面白そうに眼を細めた巴に、みつが、不安の滲んだ声で訊ねる。<br />
「まさか、よくない意味があったり……する?」<br /><br />
「いいえ」巴は笑みを崩すことなく、答える。<br /><br />
「逆です。正位置ならば、いい暗示よ」<br />
「そうなんだ? よかったぁ」<br />
「知性面が優勢で、研究職が向いているみたい。<br />
いまの行動パターンを続けていけば、サモンマスターにクラスアップできそう」<br />
「えー? 研究職って、地味で泥臭いからイヤなのよねー」<br /><br />
地道な研究職こそ、民衆の生活向上において、最も重要な仕事なのだが……<br />
みつの言いたいことも、ジュンは解らないでもなかった。<br />
研究に明け暮れ、そこそこに高給を得ても、使える時間がなければ宝の持ち腐れ。<br />
愚かな浪費は慎むべきコトだけれど、やはり、お金は使ってこそ価値があるのだ。<br /><br />
「じゃあ【女教皇】なんだしさ、新興宗教の教祖にでもなれば?」<br /><br />
ジュンが、肩を竦めて笑いながら言う。無論、冗談のつもりで。<br />
しかし、みつは「それだわ!」と、メガネのレンズを輝かせた。<br /><br />
「悟りを開いた――は古いわね。超能力系なら、まだ通用するかな。予言とか。<br />
んー、燃えてきたわ。あたしだけの宇宙を創っちゃうわよー。おーほほほほ!」<br /><br />
ダメだこりゃ。ジュンが、顰めっ面を横に振る。<br />
その正面では、巴が黙々とアルカナを捲って、「あ、変わった」。<br />
彼女が手にしていたのは【女帝】の正位置。<br /><br />
「えっ? ちょっとー、天国から地獄パターンはイヤよ?」<br />
「大丈夫。もしかしたら……叶うかもね、夢」<br />
「マジ?! よぉーし、みなぎってきたわー」<br /><br />
グイと拳を握って吼えるお姉さんを後目に、巴は大アルカナの束を差し出した。<br />
他でもない、ジュンの前へと。<br /><br />
「な、なんだよ」<br />
「よく調べて。それから、桜田くんの手で無造作にかき回しちゃって」<br />
「か、かき回すのか?」<br />
「ええ。メチャクチャにしてね」<br />
「メチャクチャ……お、おう、わかった」<br /><br />
なにやら微妙な言葉の響きに、奇妙な胸の高ぶりを覚えるジュン。<br />
またぞろテーブルの下のポ――暴れん坊天狗が、ビクビクッ! と反応する。<br />
なに考えてるんだ、僕は。ジュンは俯き、アルカナの束を混ぜる作業に専念した。<br /><br />
「よし! これでどうだ」<br />
「貸して。それじゃあ、桜田くんのネクストクラス予想をすると……」<br /><br />
巴が抜いたアルカナは、【愚者】の正位置。<br />
続いて、「私のは……これ」と開いた。同じく正位置の【隠者】だ。<br /><br />
「……おい、なんだこれ」引きつり笑いをしながら、ジュンが肩を竦める。<br />
「クラスアップして【愚者】なんて、マジ有り得ないだろ。ダウンしてるって」<br /><br />
しかし、巴は表情を変えない。自信に満ちた瞳で、ジュンを眺め返してくる。<br /><br />
「残念だけど、桜田くん。それが有り得てしまうのよ。<br />
この、タロットマスタートモエのアルカナは、驚異の的中率を誇るわ」<br /><br />
なんなんだ、そのソードマス――もとい、パチスロ機みたいな呼称は。<br />
思いっきり突っ込みたい欲求に駆られながらも、ジュンは喉元で堪えた。<br />
その代わりに、別の台詞を紡ぎだす。<br /><br />
「いや、でもさ……占いじゃん? これがハズレってことも、あるだろ?」<br />
「現実を直視しようとしない、その女々しさが、この結末を招いているのよ。<br />
桜田くんは、扉を開いたんじゃなかったの?」<br />
「だけど、僕は――」<br />
「自力でココロの樹を探すと、言ってたじゃない。その気持ち……向上心を忘れないで。<br />
いまは【愚者】でも、これから努力すれば【皇帝】にだって変われるわ」<br /><br />
確かに、巴の言うとおりだった。<br />
ここで将来を諦めれば、脱落者の烙印を押される。それでは本当に、愚か者だ。<br />
気持ちや意欲を高めることで、意に満たない予想さえも覆すこと――<br />
おそらくは、それも短期集中エクササイズのカリキュラムなのだろう。<br /><br />
「……気に入らない結果でも、現実として受け入れる度量がなきゃ、ダメだよな。<br />
分かったよ、柏葉。自分でも単純だなって思うけど、頑張ってみる」<br />
「うん。それで、いいと思う。私も応援するから」<br />
「え? 応援って――」<br />
「あーもう、鈍いなぁ、ジュンジュンは」<br /><br />
いつの間にか素に戻っていたみつが、ジュンの背中を叩いた。<br /><br />
「巴ちゃんはね、一緒に来てくれるって、申し出てくれてるんだよ。<br />
男の子なら、『黙って僕に着いてこい』ぐらい強引なこと言っちゃいなさい」<br /><br />
みつに促されたからではないが、ジュンは、まっすぐに巴を見つめた。<br />
巴も、動じた風もなく対面する。<br /><br />
「本気なのか?」<br />
「もちろん本気よ。迷惑だって言うなら、諦めるけれど」<br />
「いや、いやいやいや、ぜんぜん。ちっとも迷惑なんかじゃないから」<br /><br />
この先、選択に迷うことは、多々あるだろう。<br />
そんなとき、気軽に相談できる仲間がいてくれたら、きっと心強い。<br />
占いだって、一歩を踏み出すキッカケにはなる。<br /><br />
「僕らと旅をしよう。ただ、万年金欠状態なんで、贅沢はさせられないけど」<br />
「野宿ぐらい、平気よ。狼さんに襲われなければ……ね」<br />
「それこそ無用な心配だっての」<br /><br />
ジュンは悠然と笑って見せたが、ココロの中では、血の涙を流していた。<br />
彼とて健康優良な少年。女の子に興味がないワケではない。<br />
でも、暴れん坊天狗に前面を塞がれている限り、一線は越えられないのだ。<br /><br />
こうなればナニが何でも、呪いの解き方を探し出してやる。<br />
少しばかり斜め方向の決意を固めるジュンだった。<br />
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その後、3人はミーティングのため、上階の一室に場所を移した。<br />
無為無策では、すぐに期日も資金も尽きる。<br />
できる限り効率よく物事を進めるには、それなりに打ち合わせが必要だ。<br />
そう。そのためのミーティングだったのだが――<br /><br />
「わぁ……これが、呪いのアイテムなのね」<br /><br />
巴の熱を帯びた眼差しは、もっぱら、暴れん坊天狗に向けられっぱなしだった。<br />
初めて目にするイチモツに、興味津々らしい。<br /><br />
「ねえ、桜田くん。その……ちょっと試させてもらっても……いいかな?」<br />
「なにをだよ」<br />
「呪いを解く方法。いま、ちょっと閃いたの」<br />
「マジか! それって、どんな?」<br />
「えっと……説明するより、実際にやってみるね」<br /><br />
有無を言わせず、巴は、ジュンをベッドに横たえさせる。<br />
「みつさん。桜田くんの肩を、押さえつけててください」<br /><br />
どういうことだ。不穏なモノを察知して、ジュンが飛び起きようとするも、<br />
そうはさせじと、みつの両腕が彼を押さえつけた。<br />
ばかりか、『お自動さん』とか言う6体の地蔵まで、四肢に乗ってくるではないか。<br /><br />
「男の子なら覚悟を決めなさい、ジュンジュン」<br />
「ちょ、待て、お前ら! なにをする気だ、柏葉!」<br />
「じっとしてて、桜田くん。暴れると危ないよ」<br />
「やめろ! 下手なコトしたら、天狗の祟りで柏葉がっ」<br /><br />
このままでは、梅岡のときと同様、巴がひどい目に遭わされてしまう。<br />
しかし、ジュンの手足は、盤石の重みで固定されている。<br /><br />
ダメだっ!<br />
歯を食いしばって足掻きながら、目を見張ったジュンが見たもの――<br /><br />
「天翔ける巴の閃きっ!」<br /><br />
それは、竹刀を振り翳した幼なじみの姿だった。<br />
閃いたって、そういう意味か! て言うか、その竹刀どこから出した?<br />
胸裡では、怒濤のように言葉が飛び交うものの、なにひとつ吐き出せない。<br />
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空を斬る音。乾いた殴打音。駆けあがってくる激痛。<br />
竹刀が、天狗の鼻を打ち据えたのだと、すぐに解った。<br />
けれども、さすがは伝説の防具――なのかは不明だが、暴れん坊天狗は無傷だった。<br /><br />
「くぅっ! まだまだっ!」<br />
「痛ててててっ! タンマタンマ! やめて柏葉っ! 死むうーっ!」<br /><br />
ジュンは、それこそ必死で制止するも、巴は聞く耳持たず。<br /><br />
「この出っ張りさえ壊せば、はずれるに違いないわ! エブリバディ、プッチン!」<br />
「なるほどっ! プッチンプリンの発想ね。さすがだわ、巴ちゃん」<br />
「バカーっ! お前ら、冗談やめろぉー!」<br /><br />
懸命の叫びは、竹刀が天狗の鼻を打つ、小気味よい破裂音に遮られる。<br />
間断なく与え続けられる激痛。麻酔なしで外科手術されるような、生き地獄。<br /><br />
どうして、こんな目にばかり遭わされるのか……。<br />
植物は踏まれるほど、強く芽を伸ばす、とでも?<br />
苦悶の中で答えを探すうちに、ジュンの意識は、プッチンと途絶えた。<br />
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