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『パステル』 -14-」(2008/11/22 (土) 00:40:20) の最新版変更点

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<p align="left"> <br />  <br /> めぐを救いたい――<br /> 水銀燈の切々たる願いには、まったくもって同情を禁じ得ない。<br /> 彼女の境遇に立たされれば、同じことを考えただろうと、雛苺は思った。<br /> だが、しかし、それは子供がオモチャをねだるほどに気安いことではない。<br />  <br /> 結論を先に言えば、どうしようもない。<br /> 外傷ならば、いざ知らず……めぐの病気は、心臓にあるのだ。<br /> しかも、雛苺はこれまで、正常な心臓とやらを見たためしがない。<br /> そんな状況で、どんな絵を描いたら治せるのかなんて、判ろうはずもなかった。<br />  <br /> 「めぐは、この数年、人並みの生活さえ許されなかった。<br />  その彼女に、やっと、ささやかな幸せが訪れようとしているわ。<br />  だから、お願い。なんとか、善処してあげて」<br /> 「そ、そうは言われても……困っちゃうのよ」<br />  <br /> できることなど、なにもない。ココロに浮かぶのは、その台詞だけ。<br /> しかし、言葉にはできない。言ってしまえば、楽になると解ってはいても。<br /> 口の中に広がる苦さに顔を顰め、雛苺は水銀燈の視線から、眼を背けた。<br />  <br /> 「ヒナ、分かんない。どうしたらいいのか、解らないなの」<br /> 「とりあえず……明日にでも、その娘に会って話してみたら?」<br />  <br /> そう助け船を出したのは、真紅。至極もっともな意見だ。<br /> たとえ描くにしても、本人の意思は確認しておくべきだろう。<br /> 答えの繰り延べに過ぎないのかも知れないけれど、雛苺は、その案に飛び付いた。<br />  <br /> 「うん……そうするの。銀ちゃんも、それでいい?」<br /> 「もちろんよぉ。私のワガママを、聞き入れてくれるんだものね。<br />  たとえ嬉しくない結果になっても、恨んだりしない。これも運命と諦めるわ」<br /> 「話は決まりね」<br />  <br /> スパッと締め括るように言って、真紅は雛苺の左手を握り、手繰り寄せた。<br /> なにごとかと思えば、どうやら腕時計に用事があったらしい。<br />  <br /> 「あら、いけない。9時を6時間も過ぎてしまったわ。もう寝ないと」<br /> 「……そうね。お休みなさぁい」<br />  <br /> また水銀燈が小馬鹿にするかと思いきや、彼女は、くすっと笑うだけだった。<br /> 傷病人である真紅を、気づかったのだろう。<br /> スツールから腰を浮かせた水銀燈は、足音を忍ばせ、病室を出ていった。<br /> 雛苺は、その様子を黙って見ていたが、真紅に手振りで促され、後を追いかけた。<br />  <br /> 水銀燈は、ナースステーションの前で立ち止まっていた。<br /> なにやら小声で、夜勤の看護士と、話をしている。<br /> 夜の静けさもあって、間近に行かなくとも、会話の内容は聞き取れた。<br />  <br /> 「ねえ、桑田さぁん。今夜だけ、真紅の病室に泊まらせてぇ。ね……お願ぁい」<br /> 「ダメです。病室は患者さんのためにあるのよ。ホテルじゃないんだから。<br />  どんなに頼まれても、規則なので――」<br /> 「私ぃ、そういうアタマ固いのって嫌ぁい。今ここで暴れたっていいのよぉ?」<br /> 「…………まったく。貴女たちは有言実行だから、困ったものね。<br />  仕方ありません。もう遅いし、今夜だけ特別よ。あと、婦長さんには内緒にね」<br /> 「ふふ……ありがとぉ♪」<br />  <br /> なにやら、とても親しげな2人。いや……その割に、桑田さんは憂鬱そうだが。<br /> 状況が分からず、雛苺が戸惑っていると、水銀燈が戻ってきて病室へと促した。<br />  <br /> 「ねえねえ、あの看護士さんと知り合いなの?」<br />  <br /> 問うと「そうよぉ」だなんて、悪びれない返事。<br /> 今のは、どう聞いても脅迫だったが……<br /> それが許容されるほど親しいのは、まず間違いない。<br />  <br /> 「あの人ねぇ、実は、私のお姉さんなのよぉ」<br /> 「えっ?!」<br /> 「……なぁんて、ウソ。ビックリしたぁ?」<br /> 「う、うい。思わず、信じちゃったのよ」<br /> 「そんなワケないじゃなぁい。ま、ここに入院してたから、その縁でねぇ」<br /> 「入院って、銀ちゃんが?」<br /> 「聞いてなぁい? 行き倒れてた私が担ぎ込まれたのが、この病院だったのよ。<br />  そして、めぐも、ここに居るわ。フロアが違うけれど」<br />  <br /> 桑田さんが「貴女たち」と言ったのは、そういう意味か。<br /> 有栖川と名乗っていたのも、身元を隠すため、咄嗟にこの病院の名を……。<br />  <br /> 病室に戻ると、眠っている真紅を気づかい、雛苺たちは話を続けた。<br /> 水銀燈が語るには、退院後も、定期的に検査と薬の処方を受けているから、<br /> どうしても医師や看護士とは、顔見知りになってしまうのだとか。<br /> 確かに、水銀燈ほど人目を引く容貌ならば、それも無理からぬことだ。<br />  <br /> 「さ……そろそろ、私たちも眠りましょ。今日は、いろいろあって疲れたわぁ」<br /> 「うん。明日……めぐさんに、ヒナのこと紹介してね」<br /> 「ええ。明日、ね」<br />  <br /> 言って、水銀燈は、真紅の隣のベッドに横たわった。<br /> 雛苺も、空いているベッドに寝転がる。<br /> 病院に寝泊まりするだなんて、雛苺には、初めての体験だった。<br />  <br />  <br />   ~  ~  ~<br />  <br /> 真紅に叩き起こされ、腫れぼったい瞼を、こすりこすり。<br /> 重たい頭を、全力で枕に預けていたい欲求に抗って、雛苺は半身を起こした。<br /> 腕時計を見れば、午前7時を、少し過ぎたところ。<br />  <br /> 「うゆぅ~。あと5分だけ寝させてなの~」<br /> 「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないでしょう、お寝坊さん。<br />  事情を知らない日勤の看護士さんに叩き出されても、知らないわよ」</p> <p align="left">言われてみれば、そのとおり。<br /> 水銀燈は、出てきたときのパジャマにカーディガンを羽織っただけの格好だから、<br /> まあ、入院患者と誤魔化せなくもない。<br /> しかし、私服姿の雛苺がベッドで寝ていたら、怒られること間違いなかった。<br />  <br /> 「あふ……起きますなの」<br /> 「いい子ね。早く、身だしなみをしていらっしゃい」<br />   <br /> 言われるがまま、デイパックを引っ掴んで、洗面所へと向かう。<br /> その際に、アルバイト先へ休む旨を連絡しておいた。<br /> 当日になってのことなので、主任には少しばかり嫌味を言われたが、仕方がない。<br /> 成り行きとはいえ、柿崎めぐに対する興味は、勤労意欲よりも勝っていたから。<br />  <br /> 顔を洗ったり、髪にブラシを入れたり、諸々……<br /> 身だしなみをして、洗面所を出てきた雛苺を、ちょっとした賑わいが出迎えた。<br /> なにごとかと見れば、入院患者の老人たちが、水銀燈を取り囲んでいた。<br />  <br /> 聞き耳を立てると、老人たちは水銀燈の来院を、歓迎しているようだ。<br /> その姿は、アイドルに声援を送る、熱烈なファンを彷彿させた。<br /> 実際のところは、孫娘のように可愛がっているだけかも知れないけれど。<br />  <br /> 一応、にこやかに受け答えしているが、水銀燈の笑顔は、微妙に引きつっている。<br /> さすがに辟易していたらしく、雛苺を眼にするや、これ幸いと近づいてきた。<br />  <br /> 「あらぁ、身支度は終わったぁ?」<br /> 「うーい! このとーり、バッチリ済ませたのよー」<br /> 「じゃあ、食事の調達に行きましょぉ。と言うワケだからぁ、まったねぇ~」<br />  <br /> と、老人たちに別れを告げて、雛苺の手を握り、そそくさと歩きだした。<br /> 「すっごい人気なのねー」雛苺が話しかけると、彼女は前髪を掻き上げながら、<br />  <br /> 「なんだかねぇ……目立つのも考え物だわぁ。まったく」<br />  <br /> だなんて、さも迷惑そうな口振り。<br /> けれど、言うほど嫌がってはいないらしく、目元は笑っている。<br /> 素っ気なく振る舞うけれど、その実、面倒見のいい姉御肌なのだろう。<br /> 薔薇水晶の家での、かいがいしい姿を思い浮かべて、雛苺は独り合点した。<br />  <br />  <br />   ~  ~  ~<br />  <br /> 購買コーナーのある2階、および1階は、矢庭に騒がしさを増していた。<br /> 月曜日の朝だと言うのに、多くの老若男女が、眼下のロビーに屯している。<br /> 目を丸くする雛苺に、外来の受付が始まったのだと、そっと水銀燈が耳打ちした。<br />  <br /> パンや飲み物、間食用のお菓子などを買い揃え、雛苺たちが病室に戻ると――<br /> 真紅はもう、ベッドに備え付けのテーブルに、病院食を並べて待っていた。<br />  <br /> 「遅いわよ。どこで寄り道していたの」<br /> 「ごめんねぇ、お店が混んじゃってたからぁ。はい、紅茶」<br />  <br /> 水銀燈の差し出す、紙パックのオレンジティーを見て、露骨に嫌な顔をする真紅。<br />  <br /> 「もっと、ちゃんとした紅茶が飲みたいのだけれど」<br /> 「あのねぇ……病院で売ってるわけないでしょぉ。ホぉント、おバカさん。<br />  イヤなら、別に飲まなくたっていいのよ」<br /> 「…………仕方ないわね。それで我慢してあげるわ」<br /> 「あぁら、無理しちゃって。イヤなんでしょ? ゴエモンにしときなさぁい」<br />  <br /> と、水銀燈は薄ら笑い、緑茶のPETボトル――『午後の伊右衛門』を突きだす。<br /> なにもコトを荒立てなくたっていいのに。雛苺が内心ハラハラしていると……<br /> 案の定、真紅は、いつもの淑女然とした形振りも忘れ、ムッと唇を突きだした。<br />  <br /> 「もう! 意地悪ね」<br /> 「うっふふふ……怒った顔も、相変わらずブサイクぅ」<br /> 「ぐ……うるさいわねっ。誰のせいだと思っているの!」<br /> 「あら怖ぁい。私のせいじゃないもぉん」<br />  <br /> 向けられた憤りも、まともに受けなければ、柳に風というもので。<br /> 水銀燈は、ひょいと肩を竦めて、パックの紅茶を差し出す。<br /> そんな張り合いのなさに気疲れしたのか、真紅は無言で、それを受け取った。<br />  <br /> けれど、彼女が難しい顔をしていたのも、食事が始まるまでのこと。<br /> 病院食が物珍しいらしく、真紅は「優しい味だわ」とか、意外に楽しそうで。<br /> その様子を見て、雛苺の胸を占めていた緊張も、やっと和らいだ。<br />  <br /> 「ねえねえ。真紅って、左利きだったなの?」<br />  <br /> ふと、雛苺が訊ねた。と言うのも、真紅が箸を使っていたからだ。<br /> スプーンもあるのに、敢えて、箸。しかも、とても慣れた手つきで、器用に。<br />  <br /> 「いいえ」真紅は、煮豆を摘み、口に運んで嚥下すると、また続けた。<br /> 「元々は、右利きだったわ。これは練習の賜物よ」<br />  <br /> 左利きにならざるを得なかった理由は――<br /> 水銀燈の表情が、サッと翳るのを、雛苺は見逃さなかった。<br /> もちろん、真紅とて、それを言えば旧友を不快にさせると解っていよう。<br /> でも、それなのに……。彼女は冗談めかした声音で、友人たちに話しかけた。<br />  <br /> 「そうそう。左手を頻繁に使うようになってからね、色々な発見もあったのよ。<br />  インスピレーションと言うのかしら。いいアイディアが、よく浮かんでね。<br />   右脳が刺激されて、新たな能力開発になっているのかも知れないわ」<br />  <br /> そうかも知れない。違うのかも知れない。<br /> ここは愛想笑いするところ? 雛苺は戸惑い、水銀燈は、相も変わらず暗い顔。<br /> なんとなく、いたたまれない空気。真紅は咳払いして、箸を動かし始めた。<br />  <br /> 「それにしても……こうして、また一緒にお食事ができるなんてね。<br />  本当に、夢のようだわ。ねえ、水銀燈?」<br />  <br /> しみじみと。<br /> 感慨深げに紡がれた真紅の心情は、偽りない想いだろう。<br />  <br /> 「大袈裟ねえ。バカみたい」例によって、水銀燈は木で鼻を括るように応じる。<br /> 真紅は唇に笑みを湛えながら、そんな彼女の瞳を、ひたと見据えた。<br />  <br /> 「そんな風に言わないで。貴女が行方不明になってから、心配で、不安で――<br />  新聞やニュースで、身元不明の遺体が発見されたと聞かされる度に、<br />  私の胸は、張り裂けそうに痛んだわ。ずっと、生きた心地がしなかったのよ」<br />  <br /> 幼なじみに注がれた蒼眸から零れる、一筋の雫。<br /> 真紅は、泣いていた。見苦しく噎び泣いたりは、意地でもしないだろうけれど。<br /> 震える肩と、唇と。こみ上げてくる感情は、留めようもなく。<br />  <br /> 「本当に、無事でよかった。……おかえりなさい、水銀燈」<br />  <br /> 涙まじりの掠れ声に、水銀燈は柳眉を八の字にして、笑みを浮かべた。<br />  <br /> 「ああ……まだ、言ってなかったわね。えぇっと…………ただいま、真紅」<br />  <br /> 真紅も、指先で目元を拭って、微笑みを返す。<br />  <br /> 「順序が逆だけれど、まあ、いいわ。それよりも、ひとつだけ誓いなさい」<br /> 「はぁ? いきなりね。なにを誓わせようって言うのよ」<br /> 「もう絶対に、黙って居なくならないで。それから、隠し事もなしにしてね」<br /> 「……ひとつだけって言ったじゃない」<br /> 「『居なくならないで』が約束。『隠し事なし』は、友人としてのお願いよ」<br /> 「ふぅん? いいのぉ? 私はホントに、疫病神かも知れないわよぉ」<br /> 「そんな……もう、そんなに苛めないで……」<br />  <br /> 眉を曇らせ、真紅は、長い睫毛を伏せた。<br /> そんな彼女の様子に、少しばかり、胸の痛みを覚えたのだろう。<br /> 水銀燈は徐に腰を上げると、ベッドの脇に寄って、俯く真紅の頭を抱き寄せた。<br />  <br /> 「ごめん。私って、ひねくれ者だから」<br /> 「知っているわ。昔から、貴女って、そうだもの。<br />  でも、解ってはいてもね……やはり、悲しい気持ちになるものよ」<br /> 「そうね。お詫びってワケじゃないけど、さっきの話……約束、してあげるわ」<br /> 「本当に?」<br />  <br /> 訊ねながら、真紅は確かなものを求めるように、水銀燈の胸に頭を預けた。<br /> そして、水銀燈は想いに応えるように、ちょっとだけ抱く腕の力を強めた。<br />  <br /> 「ホントよぉ。もう蒸発なんてしないわ。<br />  私は……水銀燈は、気高く生きてゆくための誇りを、取り戻したんだもの」<br /> 「きっと、約束よ」<br />  <br /> 真紅は消え入りそうな声で言って、水銀燈のカーディガンを掴んだ。<br /> 白い指が、更に白くなるほど強く、握りしめた。<br />  <br /> 「うんうん。よかったのよー」<br />  <br /> 2人の優しい抱擁を、微笑ましく思いながら、雛苺は想いを口にしていた。<br />  <br /> 人生とは、変幻自在にして縹渺たる迷宮のようなもの。<br /> そこでは、なまじ常識や教養があるばかりに、混迷し、臆してしまうことがある。<br /> 真紅も、水銀燈も、おそらく誰であっても例外なく、だ。<br /> その時、子供のように泣き喚いたところで、助けてもらえるとは限らない。<br />  <br /> でも、彼女たちなら――<br /> 手を取り合って、歩いてゆける人を見つけた真紅たちならば、もう平気だろう。<br /> どんなに道を間違えても、正しいほうへと向かってゆけるはずだ。<br />  <br />   ――涙の乾いた後には、夢への扉がある。<br />  <br /> いつだったかに聴いた歌のフレーズが、雛苺の胸に谺していた。<br />  <br />  <br />   ~  ~  ~<br />  <br /> もうひとつ、解かなければならない難問が残されている。<br /> 他でもない、柿崎めぐ、の件だ。<br /> 雛苺は、彼女の病室を訪ねるべく、水銀燈と連れ立って歩いていた。<br /> その、途中――<br />  <br /> 「ねえねえ、銀ちゃん。訊いてもいーい?」<br /> 訊いておきながら、雛苺は返事も待たずに続けた。<br />  <br /> 「ばらしーたちに保護されるまで、どこに隠れてたの?<br />  真紅は、銀ちゃんのこと、手を尽くして探したって言ってたわ。<br />  かかりつけの病院にも当たったけど、やっぱり見つけられなかったって。<br />  それに、銀ちゃんのご両親だって、必死になって探したんじゃあ――」<br />  <br /> 「ああ……その話」場所を憚ってか、水銀燈は声を潜めた。<br /> 「私ね――最初は、死のうと思ってたのよ。どこか山奥で、独りっきりで。<br />  だから、余計な荷物なんか、持っていかなかったわ」<br />  <br /> 消えゆこうとする者は、多くの物を持たない。<br /> 愛着のあった物との繋がりを自ら絶つことで、この世への未練も捨てるからだ。<br /> もう要らない世界、もう要らない命――そんな迷妄に囚われたまま。<br />  <br /> 「それで、小銭と『ドクトル・ジバゴ』の小説しか持ってなかったのね」<br /> 「ええ。だけど、山に向かう途中、発作で倒れてね。そのまま意識を失って……<br />  気づいたときには、この有栖川大学病院に、搬送されてたのよ。<br />  それで、病状から治療歴を辿られて、私の身元は早々にバレちゃったわけ」<br />  <br /> 雛苺は、素っ頓狂な声をあげた。薔薇水晶から聞いた話と、違う。<br /> 身寄りがないから、一時的に、槐邸で身柄を預かっていたのではなかったのか?<br /> それを雛苺が訊ねると、水銀燈は、スッと眼を細め、首肯した。<br />  <br /> 「つまりね、こういうことよ――」 <br />  <br />  <br />  <br />   -<a href="http://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/4069.html">to be continued</a>-<br />  <br />  </p>
<p align="left"> <br />  <br /> めぐを救いたい――<br /> 水銀燈の切々たる願いには、まったくもって同情を禁じ得ない。<br /> 彼女の境遇に立たされれば、同じことを考えただろうと、雛苺は思った。<br /> だが、しかし、それは子供がオモチャをねだるほどに気安いことではない。<br />  <br /> 結論を先に言えば、どうしようもない。<br /> 外傷ならば、いざ知らず……めぐの病気は、心臓にあるのだ。<br /> しかも、雛苺はこれまで、正常な心臓とやらを見たためしがない。<br /> そんな状況で、どんな絵を描いたら治せるのかなんて、判ろうはずもなかった。<br />  <br /> 「めぐは、この数年、人並みの生活さえ許されなかった。<br />  その彼女に、やっと、ささやかな幸せが訪れようとしているわ。<br />  だから、お願い。なんとか、善処してあげて」<br /> 「そ、そうは言われても……困っちゃうのよ」<br />  <br /> できることなど、なにもない。ココロに浮かぶのは、その台詞だけ。<br /> しかし、言葉にはできない。言ってしまえば、楽になると解ってはいても。<br /> 口の中に広がる苦さに顔を顰め、雛苺は水銀燈の視線から、眼を背けた。<br />  <br /> 「ヒナ、分かんない。どうしたらいいのか、解らないなの」<br /> 「とりあえず……明日にでも、その娘に会って話してみたら?」<br />  <br /> そう助け船を出したのは、真紅。至極もっともな意見だ。<br /> たとえ描くにしても、本人の意思は確認しておくべきだろう。<br /> 答えの繰り延べに過ぎないのかも知れないけれど、雛苺は、その案に飛び付いた。<br />  <br /> 「うん……そうするの。銀ちゃんも、それでいい?」<br /> 「もちろんよぉ。私のワガママを、聞き入れてくれるんだものね。<br />  たとえ嬉しくない結果になっても、恨んだりしない。これも運命と諦めるわ」<br /> 「話は決まりね」<br />  <br /> スパッと締め括るように言って、真紅は雛苺の左手を握り、手繰り寄せた。<br /> なにごとかと思えば、どうやら腕時計に用事があったらしい。<br />  <br /> 「あら、いけない。9時を6時間も過ぎてしまったわ。もう寝ないと」<br /> 「……そうね。お休みなさぁい」<br />  <br /> また水銀燈が小馬鹿にするかと思いきや、彼女は、くすっと笑うだけだった。<br /> 傷病人である真紅を、気づかったのだろう。<br /> スツールから腰を浮かせた水銀燈は、足音を忍ばせ、病室を出ていった。<br /> 雛苺は、その様子を黙って見ていたが、真紅に手振りで促され、後を追いかけた。<br />  <br /> 水銀燈は、ナースステーションの前で立ち止まっていた。<br /> なにやら小声で、夜勤の看護士と、話をしている。<br /> 夜の静けさもあって、間近に行かなくとも、会話の内容は聞き取れた。<br />  <br /> 「ねえ、桑田さぁん。今夜だけ、真紅の病室に泊まらせてぇ。ね……お願ぁい」<br /> 「ダメです。病室は患者さんのためにあるのよ。ホテルじゃないんだから。<br />  どんなに頼まれても、規則なので――」<br /> 「私ぃ、そういうアタマ固いのって嫌ぁい。今ここで暴れたっていいのよぉ?」<br /> 「…………まったく。貴女たちは有言実行だから、困ったものね。<br />  仕方ありません。もう遅いし、今夜だけ特別よ。あと、婦長さんには内緒にね」<br /> 「ふふ……ありがとぉ♪」<br />  <br /> なにやら、とても親しげな2人。いや……その割に、桑田さんは憂鬱そうだが。<br /> 状況が分からず、雛苺が戸惑っていると、水銀燈が戻ってきて病室へと促した。<br />  <br /> 「ねえねえ、あの看護士さんと知り合いなの?」<br />  <br /> 問うと「そうよぉ」だなんて、悪びれない返事。<br /> 今のは、どう聞いても脅迫だったが……<br /> それが許容されるほど親しいのは、まず間違いない。<br />  <br /> 「あの人ねぇ、実は、私のお姉さんなのよぉ」<br /> 「えっ?!」<br /> 「……なぁんて、ウソ。ビックリしたぁ?」<br /> 「う、うい。思わず、信じちゃったのよ」<br /> 「そんなワケないじゃなぁい。ま、ここに入院してたから、その縁でねぇ」<br /> 「入院って、銀ちゃんが?」<br /> 「聞いてなぁい? 行き倒れてた私が担ぎ込まれたのが、この病院だったのよ。<br />  そして、めぐも、ここに居るわ。フロアが違うけれど」<br />  <br /> 桑田さんが「貴女たち」と言ったのは、そういう意味か。<br /> 有栖川と名乗っていたのも、身元を隠すため、咄嗟にこの病院の名を……。<br />  <br /> 病室に戻ると、眠っている真紅を気づかい、雛苺たちは話を続けた。<br /> 水銀燈が語るには、退院後も、定期的に検査と薬の処方を受けているから、<br /> どうしても医師や看護士とは、顔見知りになってしまうのだとか。<br /> 確かに、水銀燈ほど人目を引く容貌ならば、それも無理からぬことだ。<br />  <br /> 「さ……そろそろ、私たちも眠りましょ。今日は、いろいろあって疲れたわぁ」<br /> 「うん。明日……めぐさんに、ヒナのこと紹介してね」<br /> 「ええ。明日、ね」<br />  <br /> 言って、水銀燈は、真紅の隣のベッドに横たわった。<br /> 雛苺も、空いているベッドに寝転がる。<br /> 病院に寝泊まりするだなんて、雛苺には、初めての体験だった。<br />  <br />  <br />   ~  ~  ~<br />  <br /> 真紅に叩き起こされ、腫れぼったい瞼を、こすりこすり。<br /> 重たい頭を、全力で枕に預けていたい欲求に抗って、雛苺は半身を起こした。<br /> 腕時計を見れば、午前7時を、少し過ぎたところ。<br />  <br /> 「うゆぅ~。あと5分だけ寝させてなの~」<br /> 「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないでしょう、お寝坊さん。<br />  事情を知らない日勤の看護士さんに叩き出されても、知らないわよ」</p> <p align="left">言われてみれば、そのとおり。<br /> 水銀燈は、出てきたときのパジャマにカーディガンを羽織っただけの格好だから、<br /> まあ、入院患者と誤魔化せなくもない。<br /> しかし、私服姿の雛苺がベッドで寝ていたら、怒られること間違いなかった。<br />  <br /> 「あふ……起きますなの」<br /> 「いい子ね。早く、身だしなみをしていらっしゃい」<br />   <br /> 言われるがまま、デイパックを引っ掴んで、洗面所へと向かう。<br /> その際に、アルバイト先へ休む旨を連絡しておいた。<br /> 当日になってのことなので、主任には少しばかり嫌味を言われたが、仕方がない。<br /> 成り行きとはいえ、柿崎めぐに対する興味は、勤労意欲よりも勝っていたから。<br />  <br /> 顔を洗ったり、髪にブラシを入れたり、諸々……<br /> 身だしなみをして、洗面所を出てきた雛苺を、ちょっとした賑わいが出迎えた。<br /> なにごとかと見れば、入院患者の老人たちが、水銀燈を取り囲んでいた。<br />  <br /> 聞き耳を立てると、老人たちは水銀燈の来院を、歓迎しているようだ。<br /> その姿は、アイドルに声援を送る、熱烈なファンを彷彿させた。<br /> 実際のところは、孫娘のように可愛がっているだけかも知れないけれど。<br />  <br /> 一応、にこやかに受け答えしているが、水銀燈の笑顔は、微妙に引きつっている。<br /> さすがに辟易していたらしく、雛苺を眼にするや、これ幸いと近づいてきた。<br />  <br /> 「あらぁ、身支度は終わったぁ?」<br /> 「うーい! このとーり、バッチリ済ませたのよー」<br /> 「じゃあ、食事の調達に行きましょぉ。と言うワケだからぁ、まったねぇ~」<br />  <br /> と、老人たちに別れを告げて、雛苺の手を握り、そそくさと歩きだした。<br /> 「すっごい人気なのねー」雛苺が話しかけると、彼女は前髪を掻き上げながら、<br />  <br /> 「なんだかねぇ……目立つのも考え物だわぁ。まったく」<br />  <br /> だなんて、さも迷惑そうな口振り。<br /> けれど、言うほど嫌がってはいないらしく、目元は笑っている。<br /> 素っ気なく振る舞うけれど、その実、面倒見のいい姉御肌なのだろう。<br /> 薔薇水晶の家での、かいがいしい姿を思い浮かべて、雛苺は独り合点した。<br />  <br />  <br />   ~  ~  ~<br />  <br /> 購買コーナーのある2階、および1階は、矢庭に騒がしさを増していた。<br /> 月曜日の朝だと言うのに、多くの老若男女が、眼下のロビーに屯している。<br /> 目を丸くする雛苺に、外来の受付が始まったのだと、そっと水銀燈が耳打ちした。<br />  <br /> パンや飲み物、間食用のお菓子などを買い揃え、雛苺たちが病室に戻ると――<br /> 真紅はもう、ベッドに備え付けのテーブルに、病院食を並べて待っていた。<br />  <br /> 「遅いわよ。どこで寄り道していたの」<br /> 「ごめんねぇ、お店が混んじゃってたからぁ。はい、紅茶」<br />  <br /> 水銀燈の差し出す、紙パックのオレンジティーを見て、露骨に嫌な顔をする真紅。<br />  <br /> 「もっと、ちゃんとした紅茶が飲みたいのだけれど」<br /> 「あのねぇ……病院で売ってるわけないでしょぉ。ホぉント、おバカさん。<br />  イヤなら、別に飲まなくたっていいのよ」<br /> 「…………仕方ないわね。それで我慢してあげるわ」<br /> 「あぁら、無理しちゃって。イヤなんでしょ? ゴエモンにしときなさぁい」<br />  <br /> と、水銀燈は薄ら笑い、緑茶のPETボトル――『午後の伊右衛門』を突きだす。<br /> なにもコトを荒立てなくたっていいのに。雛苺が内心ハラハラしていると……<br /> 案の定、真紅は、いつもの淑女然とした形振りも忘れ、ムッと唇を突きだした。<br />  <br /> 「もう! 意地悪ね」<br /> 「うっふふふ……怒った顔も、相変わらずブサイクぅ」<br /> 「ぐ……うるさいわねっ。誰のせいだと思っているの!」<br /> 「あら怖ぁい。私のせいじゃないもぉん」<br />  <br /> 向けられた憤りも、まともに受けなければ、柳に風というもので。<br /> 水銀燈は、ひょいと肩を竦めて、パックの紅茶を差し出す。<br /> そんな張り合いのなさに気疲れしたのか、真紅は無言で、それを受け取った。<br />  <br /> けれど、彼女が難しい顔をしていたのも、食事が始まるまでのこと。<br /> 病院食が物珍しいらしく、真紅は「優しい味だわ」とか、意外に楽しそうで。<br /> その様子を見て、雛苺の胸を占めていた緊張も、やっと和らいだ。<br />  <br /> 「ねえねえ。真紅って、左利きだったなの?」<br />  <br /> ふと、雛苺が訊ねた。と言うのも、真紅が箸を使っていたからだ。<br /> スプーンもあるのに、敢えて、箸。しかも、とても慣れた手つきで、器用に。<br />  <br /> 「いいえ」真紅は、煮豆を摘み、口に運んで嚥下すると、また続けた。<br /> 「元々は、右利きだったわ。これは練習の賜物よ」<br />  <br /> 左利きにならざるを得なかった理由は――<br /> 水銀燈の表情が、サッと翳るのを、雛苺は見逃さなかった。<br /> もちろん、真紅とて、それを言えば旧友を不快にさせると解っていよう。<br /> でも、それなのに……。彼女は冗談めかした声音で、友人たちに話しかけた。<br />  <br /> 「そうそう。左手を頻繁に使うようになってからね、色々な発見もあったのよ。<br />  インスピレーションと言うのかしら。いいアイディアが、よく浮かんでね。<br />   右脳が刺激されて、新たな能力開発になっているのかも知れないわ」<br />  <br /> そうかも知れない。違うのかも知れない。<br /> ここは愛想笑いするところ? 雛苺は戸惑い、水銀燈は、相も変わらず暗い顔。<br /> なんとなく、いたたまれない空気。真紅は咳払いして、箸を動かし始めた。<br />  <br /> 「それにしても……こうして、また一緒にお食事ができるなんてね。<br />  本当に、夢のようだわ。ねえ、水銀燈?」<br />  <br /> しみじみと。<br /> 感慨深げに紡がれた真紅の心情は、偽りない想いだろう。<br />  <br /> 「大袈裟ねえ。バカみたい」例によって、水銀燈は木で鼻を括るように応じる。<br /> 真紅は唇に笑みを湛えながら、そんな彼女の瞳を、ひたと見据えた。<br />  <br /> 「そんな風に言わないで。貴女が行方不明になってから、心配で、不安で――<br />  新聞やニュースで、身元不明の遺体が発見されたと聞かされる度に、<br />  私の胸は、張り裂けそうに痛んだわ。ずっと、生きた心地がしなかったのよ」<br />  <br /> 幼なじみに注がれた蒼眸から零れる、一筋の雫。<br /> 真紅は、泣いていた。見苦しく噎び泣いたりは、意地でもしないだろうけれど。<br /> 震える肩と、唇と。こみ上げてくる感情は、留めようもなく。<br />  <br /> 「本当に、無事でよかった。……おかえりなさい、水銀燈」<br />  <br /> 涙まじりの掠れ声に、水銀燈は柳眉を八の字にして、笑みを浮かべた。<br />  <br /> 「ああ……まだ、言ってなかったわね。えぇっと…………ただいま、真紅」<br />  <br /> 真紅も、指先で目元を拭って、微笑みを返す。<br />  <br /> 「順序が逆だけれど、まあ、いいわ。それよりも、ひとつだけ誓いなさい」<br /> 「はぁ? いきなりね。なにを誓わせようって言うのよ」<br /> 「もう絶対に、黙って居なくならないで。それから、隠し事もなしにしてね」<br /> 「……ひとつだけって言ったじゃない」<br /> 「『居なくならないで』が約束。『隠し事なし』は、友人としてのお願いよ」<br /> 「ふぅん? いいのぉ? 私はホントに、疫病神かも知れないわよぉ」<br /> 「そんな……もう、そんなに苛めないで……」<br />  <br /> 眉を曇らせ、真紅は、長い睫毛を伏せた。<br /> そんな彼女の様子に、少しばかり、胸の痛みを覚えたのだろう。<br /> 水銀燈は徐に腰を上げると、ベッドの脇に寄って、俯く真紅の頭を抱き寄せた。<br />  <br /> 「ごめん。私って、ひねくれ者だから」<br /> 「知っているわ。昔から、貴女って、そうだもの。<br />  でも、解ってはいてもね……やはり、悲しい気持ちになるものよ」<br /> 「そうね。お詫びってワケじゃないけど、さっきの話……約束、してあげるわ」<br /> 「本当に?」<br />  <br /> 訊ねながら、真紅は確かなものを求めるように、水銀燈の胸に頭を預けた。<br /> そして、水銀燈は想いに応えるように、ちょっとだけ抱く腕の力を強めた。<br />  <br /> 「ホントよぉ。もう蒸発なんてしないわ。<br />  私は……水銀燈は、気高く生きてゆくための誇りを、取り戻したんだもの」<br /> 「きっと、約束よ」<br />  <br /> 真紅は消え入りそうな声で言って、水銀燈のカーディガンを掴んだ。<br /> 白い指が、更に白くなるほど強く、握りしめた。<br />  <br /> 「うんうん。よかったのよー」<br />  <br /> 2人の優しい抱擁を、微笑ましく思いながら、雛苺は想いを口にしていた。<br />  <br /> 人生とは、変幻自在にして縹渺たる迷宮のようなもの。<br /> そこでは、なまじ常識や教養があるばかりに、混迷し、臆してしまうことがある。<br /> 真紅も、水銀燈も、おそらく誰であっても例外なく、だ。<br /> その時、子供のように泣き喚いたところで、助けてもらえるとは限らない。<br />  <br /> でも、彼女たちなら――<br /> 手を取り合って、歩いてゆける人を見つけた真紅たちならば、もう平気だろう。<br /> どんなに道を間違えても、正しいほうへと向かってゆけるはずだ。<br />  <br />   ――涙の乾いた後には、夢への扉がある。<br />  <br /> いつだったかに聴いた歌のフレーズが、雛苺の胸に谺していた。<br />  <br />  <br />   ~  ~  ~<br />  <br /> もうひとつ、解かなければならない難問が残されている。<br /> 他でもない、柿崎めぐ、の件だ。<br /> 雛苺は、彼女の病室を訪ねるべく、水銀燈と連れ立って歩いていた。<br /> その、途中――<br />  <br /> 「ねえねえ、銀ちゃん。訊いてもいーい?」<br /> 訊いておきながら、雛苺は返事も待たずに続けた。<br />  <br /> 「ばらしーたちに保護されるまで、どこに隠れてたの?<br />  真紅は、銀ちゃんのこと、手を尽くして探したって言ってたわ。<br />  かかりつけの病院にも当たったけど、やっぱり見つけられなかったって。<br />  それに、銀ちゃんのご両親だって、必死になって探したんじゃあ――」<br />  <br /> 「ああ……その話」場所を憚ってか、水銀燈は声を潜めた。<br /> 「私ね――最初は、死のうと思ってたのよ。どこか山奥で、独りっきりで。<br />  だから、余計な荷物なんか、持っていかなかったわ」<br />  <br /> 消えゆこうとする者は、多くの物を持たない。<br /> 愛着のあった物との繋がりを自ら絶つことで、この世への未練も捨てるからだ。<br /> もう要らない世界、もう要らない命――そんな迷妄に囚われたまま。<br />  <br /> 「それで、小銭と『ドクトル・ジバゴ』の小説しか持ってなかったのね」<br /> 「ええ。だけど、山に向かう途中、発作で倒れてね。そのまま意識を失って……<br />  気づいたときには、この有栖川大学病院に、搬送されてたのよ。<br />  それで、病状から治療歴を辿られて、私の身元は早々にバレちゃったわけ」<br />  <br /> 雛苺は、素っ頓狂な声をあげた。薔薇水晶から聞いた話と、違う。<br /> 身寄りがないから、一時的に、槐邸で身柄を預かっていたのではなかったのか?<br /> それを雛苺が訊ねると、水銀燈は、スッと眼を細め、首肯した。<br />  <br /> 「つまりね、こういうことよ――」 <br />  <br />  <br />  <br />   -<a href="http://www9.atwiki.jp/rozenmaidenhumanss/pages/4069.html">to be continued</a>-<br />  <br />  </p>

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