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「月とウサギと女の子」(2008/10/02 (木) 19:19:37) の最新版変更点
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さて、こんな素敵な夜には、お話でも。<br /><br /><br /><br />
夜空を眺めていると、ぽっかりと浮かぶまん丸いお月さま。<br /><br />
そこではウサギがお餅をついてる、って言うけれど……ウサギの姿なんて、全然見えない。<br />
そんな事を言って、怒ったふりをしたこと、ありませんか?<br /><br />
でも、それも仕方の無い事。<br /><br />
だってもう、お月さまにウサギは住んでないんだもの。<br /><br /><br />
どうしてウサギは月からいなくなったの?<br />
どうしてウサギは、お餅をついてたの?<br /><br /><br />
今日のお話は、そんなお話。<br /><br /><br />
ずっと、ずっと、昔のお話。<br /><br />
遠い、遠い、誰も知らない場所での出来事。<br /><br /><br /><br /><br />
<br /><br />
ちょうどその頃……誰も彼も、全てのウサギが、素敵な恋のお相手を探して必死になっていました。<br />
それこそ『3月ウサギのように気が狂っている』という言葉の通りに。<br /><br />
そんな、ちょっとおかしなウサギの間でも、特に変なウサギさんが一匹居ました。<br /><br />
彼は、野ウサギのラプラス君。<br /><br />
ラプラス君は、他のウサギとは離れた所で、恋の季節なんてそっちのけで謎の訓練に励んでいました。<br /><br /><br />
得意のジャンプで、ぴょーん、ぴょーん、と高く跳ねたり、宙返りに挑戦してみたり。<br />
他のウサギが昼間っからニャンニャンし始めようが、そんなの無視して跳び続けます。<br /><br />
彼の仲間達は、ラプラスは恋もしないで何をしてるんだ?と疑問に思っていました。<br /><br />
ですが、ラプラス君には、恋愛以上に、何としてでも遂げたい思いがありました。<br /><br />
ただ、その目的は…ウサギにしてはちょっと、いいえ、かなり変でした。<br />
ラプラス君の目標とは……あろう事か、人間の女の子に関する事だったのです。<br /><br /><br />
生まれつきの変態だったラプラス君は、その日も町に一匹で繰り出して……<br />
町の人たちに追いかけられ、シチューにされるか生き延びるかの瀬戸際を、ハァハァと楽しんでいました。<br /><br /><br />
普通の感性の人には全く理解できない、異常な趣味。<br />
良い子はマネしないで下さい。<br />
ラプラス君は特殊な訓練を受けています。<br /><br />
<br /><br />
と…そんな風に、ギリギリのスリルで大興奮のラプラス君でしたが……<br />
ふと通りを見ると、可愛らしい女の子が道を歩いているではありませんか!<br /><br />
若い女の子に追い込まれる事ほど、彼を興奮させるものはありません。<br /><br />
ラプラス君はぴょん、と跳ねて女の子の前に登場し……それから、わざとパッタリ倒れてみせました。<br /><br />
この演技に騙されない人間は、今までいませんでした。<br />
誰もが、今がチャンスとばかりに手を伸ばしてきて……そこから、お楽しみの時間が始まります。<br />
内心ニヤニヤしながらラプラス君は顔を上げて、女の子の様子を見てみました。<br /><br />
ですが……期待に反して、女の子は感情の乏しい右目で自分を見下ろすばかり。<br />
ちっとも捕まえようとしてくれません。<br /><br />
自分を無視して、テクテクと歩いていってしまった女の子の背中を見ながら……<br /><br />
ラプラス君は、あの子に追いかけられたい。むしろ、捕まって虐められたい。<br />
そんな気持ちが湧き上がってくるのを止められませんでした。<br /><br /><br />
その女の子の名前は、薔薇水晶といいます。<br />
彼女は生まれつき片目が弱く……そして、感情の無いかのように育った女の子でした。<br /><br /><br />
それを知ったラプラス君は、その日から薔薇水晶の関心を引くためだけに、特訓を始めた…という訳です。<br /><br /><br />
<br /><br /><br />
そして……ついに、その日が来ました。<br /><br />
野ウサギのラプラス君は、いつもと同じように町まで一匹で行き……<br />
そして、薔薇水晶を発見すると、迷わず彼女の前に飛び出しました。<br /><br />
練習した宙返りで登場し、長い耳をピコピコ動かしたり、腰を激しく振ったりしてみせます。<br /><br />
薔薇水晶は、突然現れ奇行を繰り返すウサギを見て……<br />
何だか気持ち悪いなぁ、と思いましたが、あまり表情は動きません。<br /><br /><br />
そのままスタスタと去ってしまった薔薇水晶と、彼女の背中を見つめるラプラス君。<br /><br /><br />
ラプラス君は、期待した結果にならなかった事にとてもガッカリしました。<br /><br />
ですが、真性の変態であるラプラス君は、薔薇水晶の目に蔑みの感情が少し出てきた事を見逃していませんでした。<br /><br /><br />
今回は失敗だったけど……<br />
それでも、いつかは薔薇水晶も感情豊かな子になるかもしれないぞ。<br /><br />
そんな予感が、沈みかけた心をウキウキさせます。<br /><br />
いつしか感情豊かな女の子になった時には……思いっきり、虐めてもらおう。むしろ踏んでもらおう。<br />
野ウサギのラプラス君は、目をキラキラさせながら、特訓のために引き返していきました。<br /><br /><br />
<br /><br />
それからもラプラス君は、特訓に特訓を重ねます。<br /><br />
新しい技を習得すると、その度に彼は、それを薔薇水晶に見せに行きました。<br />
激しく腰を振ったりしながら、色んなパフォーマンスを繰り広げます。<br /><br /><br />
毎日、毎日、薔薇水晶の目の前には、頭がおかしなウサギが登場しました。<br /><br /><br />
ですが……新たな技なんて、すぐに手詰まりになってしまいます。<br /><br />
困ったラプラス君は、人間側の意見を聞いて、そこから新たなヒントを得ようと考えました。<br /><br />
そうは考えたのですが……いかんせん、人間は自分の事をご飯としか見てくれない。<br />
だって野ウサギだし、それも仕方のない事。<br /><br />
だからラプラス君は、人間に飼われている動物に知恵を借りる事にしました。<br /><br /><br />
最初は非協力的だったペットの皆さんでしたが……<br /><br />
ラプラス君の特技『硬くなる』と『穴を掘る』を見せつけられ、恐怖のあまり協力を申し出る事になりました。<br />
詳細は、とてもじゃありませんが言えません。<br /><br />
<br />
「僕のご主人は、紅茶を飲む時に嬉しそうにしているね 」<br />
犬のくんくんが教えてくれます。<br />
「卵焼きを食べてる時かしら! 」<br />
小鳥のピチカートが、ピヨピヨと言います。<br />
「ごはんを食べてる時が、一番幸せそうですぅ 」<br />
「そうだね。明らかに満面の笑みだもんね 」<br />
子猫のスィドリームとレンピカが、うんうんと頷きます。<br />
「歌を聴いてる時…かしらねぇ…… 」<br />
カラスのメイメイの意見は、この際無視します。<br /><br /><br />
そんな人間と関わりの深い動物達からの意見を聞き……ラプラス君は、ちょっと考えます。<br /><br />
それから、パッと明るい顔をしたかと思うと……クククッ、と怪しく笑い始めました。<br /><br />
「それなら…料理が一番のようですね……ククク……メニューは……<br />
『野ウサギのミートパイ』など、いかがでしょう?………クックック…… 」<br /><br />
それを聞いたペットの皆さんは、目を丸くします。<br />
何って事を言うんだ。頭がおかしいんじゃあないのか。と、ラプラス君に詰め寄ります。<br /><br />
ですが、ラプラス君は真性の変態で、尚且つ、良識の欠けた、いわゆる完全にアウトなウサギです。<br /><br />
いかにも変態丸出しな笑みを浮かべながら、ラプラス君は一匹でさっさと帰ってしまいました。<br /><br /><br />
<br />
そして、その翌日。<br /><br />
『野ウサギのラプラス君』から、『オバケのラプラス君』になった彼は……<br />
楽しそうに、薔薇水晶の家の前に野ウサギのミートパイを置きます。<br /><br />
きっと驚くだろう。<br />
そして、驚いた後は……あまりの美味に、思わず笑みがこぼれるに違いない。<br /><br /><br />
ラプラス君はニヤニヤしながら、天国へと向かいます。<br />
変態は地獄行きと決まっているのですが、そんなルールはどこ吹く風。<br /><br />
空の高いところから、薔薇水晶の様子をニヤニヤと見てました。<br /><br /><br />
と……<br /><br />
何と薔薇水晶は、またしても期待とは裏腹に……<br /><br />
ラプラス君のミートパイを見ながら……ポロポロと涙をこぼし始めました。<br /><br /><br />
いくら頭がおかしいウサギとはいえ、自分の為に芸を見せてくれたウサギが、ミートパイに……<br /><br />
そんな物を見せられて、泣かない女の子は居ません。<br /><br /><br />
当たり前の事に今更気が付いたラプラス君。<br />
どうやら取り返しの付かない事をしてしまったようです……と悩むけれど……本当に、取り返しがつきません。<br />
<br /><br />
魂だけのラプラス君は、ぐんぐんと空に吸い込まれてしまいます。<br /><br /><br />
もう、豆粒くらいにまで小さくなった地上では、薔薇水晶が泣きながらミートパイのお墓を作っています。<br /><br /><br />
何とかして彼女の涙を止めてあげたいけれど……引っ張られる力が強くって、地上にも戻れそうにありません。<br /><br /><br />
ならば、と、変態的な思考で彼は考えました。<br /><br /><br />
引っ張られる力に抵抗せず……むしろ、あえて空に上っていきます。<br /><br />
そして、そのまま勢いをつけて………<br /><br />
ビューン、と天国を突き抜けて、さらに高く飛び……何と、月までたどり着いてしまったのです!<br /><br /><br />
それからラプラス君は、月で一生懸命にお餅を作ります。<br /><br />
寝る事も休む事も忘れて、お餅をつきます。<br /><br />
あまりにペッタンペッタンとお餅をつくので、月の地面はボコボコになってしまいました。<br /><br />
それでもラプラス君は、お餅を作り続けます。<br /><br /><br />
そして、月一面にいっぱい出来たお餅を……<br />
ラプラス君は(何故か恍惚の表情を浮かべながら)全身に塗りたくりました。<br /><br />
それはまるで、モゾモゾと動く、巨大なお餅。<br />
<br /><br /><br />
お餅に埋もれて、ラプラス君なのか何なのかよく分からないそれは……キッと、遥かな地球を睨み付けます。<br /><br />
「クックック……やはりショーは……こう……派手でなくてはいけませんね……!! 」<br /><br />
ニヤリと笑みを浮かべると……芸の為に鍛えた脚力の全てを振り絞り、地球に向けてジャンプをしました。<br /><br /><br />
グングンと近づく地球。<br /><br />
大気圏突入の際に生じる空気の壁や摩擦熱は、身に纏ったお餅で和らげます。<br /><br />
「ククク……ブラボォ!!ブラボォ!! 」<br /><br />
オバケになっても頭がイカレてるラプラス君は、衝撃を全身で感じながらも歓喜の声を上げてます。<br /><br /><br />
熱で真っ赤に燃えた巨大なお餅が、地球に向けて降下をしました。<br /><br />
やがて、そのお餅は地面に落ちましたが……その衝撃ですら、お餅は全て吸収してくれました。<br /><br /><br />
こうして無事に地球に帰ってきたラプラス君は、早速、ミートパイのお墓を掘り返し……<br /><br />
そこで、やっぱり取り返しがつかない事を思い出しました。 <br /><br />
元の体に戻ろうと思ったけど……目の前にあるのは、野ウサギのミートパイ。<br /><br /><br />
いっその事…動くミートパイなんてもの素敵かもしれませんね。<br />
そんな風に、実に気持ちの悪い事をサラッと考えるラプラス君。<br />
<br /><br />
はてさて、どうしたものでしょう……<br />
ちょっとだけ悩みながら、やっぱりミートパイに入ろうとした時です。<br /><br />
ラプラス君は、ミートパイのお墓に……寂しくないようにと供えられている、ウサギの人形を発見しました。<br /><br />
これだ!<br />
そう叫ぶと、迷わずラプラス君は、その人形の中に入っていきました。 <br /><br /><br /><br /><br /><br />
そして……<br /><br />
翌日、薔薇水晶がミートパイのお墓に花を添えに行くと……<br /><br />
突然、お墓の影からウサギの人形が飛び出してきたかと思うと、その人形は妙な動きを始めます。<br />
耳をピコピコ動かしたり、クルリと宙返りしてみせたり、激しく腰を振ったり……<br /><br /><br />
薔薇水晶は、悲しんで損した、といった表情で、その人形をちょっとだけ蹴飛ばします。<br /><br /><br />
どこか嬉しそうな悲鳴を人形が上げ……<br />
薔薇水晶にはそれがあまりにもシュール過ぎて……思わず、ちょっとだけ笑ってしまいましたとさ。<br /><br /><br /><br /><br /><br />
めでたし、めでたし。 <br /><br /><br />
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