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この町大好き!増刊号26」(2008/09/21 (日) 19:26:18) の最新版変更点

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<dl><dd> <div align="left"><br /> 外では雨がしとしとと降り、地面を優しく濡らす。<br /> 部室の窓からそれを眺めていた真紅は、そっと机の上に置いた紅茶のカップを口元へ運んだ。<br /><br /> 残暑もしだいに和らぎ、ちょうど過ごしやすいこの季節。<br /><br /> カップを再び机に置き、真紅はそっと、ため息を吐く。<br /> 「………平和ね…… 」<br /> 心からの思いが、小さな呟きとなって漏れた。<br /> まるで眠るように穏やかな気持ちで、真紅は静かに降る雨を眺めていた。<br /><br /> と…いつもの騒がしさをどこかに忘れてきたように、小さな音を立てて部室の扉が開く。<br /><br /> 「あら、翠星石…… 」<br /> 真紅はそう言い振り返り……それ以上に言葉が続かなかった。<br /><br /> それは、ずぶ濡れの翠星石の姿に気が付いたからではない。<br /> ましてや、そんな翠星石が泣いていたからでもない。<br /><br /> 真紅は無言で立ち上がると……翠星石を部室の外まで押して、それから、扉を内側からピシャリと締めた。<br /><br /><br /> 『拾って下さい』と書かれた、ニャーニャーと鳴く箱を持った翠星石は、いきなり締め出されて立ち尽くす…。<br /> 彼女は知らなかった。<br /><br /> 真紅の苦手なもの………おばけ、暗い所、そして……猫。 <br /><br /><br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号26 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br />   <br /><br /><br /><br /> 「という訳で、可哀想なので里親を探してやる事にしたですよ! 」<br /> 拾った子猫の喉をコロコロと撫でながら、翠星石がそう説明する。<br /><br /><br /> ちなみに、即席のバリケードを作り、篭城戦の構えを見せていた真紅だったが……<br /> 子猫の「にゃぁ」という鳴き声に「ひゃぁ!?」と驚いて、その隙に部室への侵入を許してしまっていた。<br /><br /><br /> そして今はというと……<br /> 「分かったから!さっさとその毛むくじゃらをどこかにやって頂戴!! 」<br /> ヘルメットと角材を装備して、部室の隅でブルブル震えていた。<br /><br /> 「こーんなに可愛いのに怖がるなんて、真紅は変なやつですぅ 」<br /> 翠星石は子猫の頭をワシワシ撫でながら、口をとがらせる。<br /> 「可愛くなんてないわ!猫は人類の敵よ! 」<br /> だんだん涙声になってきた真紅。<br /><br /> 「全く、しょーがねーやつですぅ…… 」<br /> 翠星石はむふーっと息を吐きながらやれやれと首を振り……<br /><br /> 「この翠星石が飼い主を探してきてやるですから、それまでおとなしく待ってろ!ですぅ!! 」<br /> 翠星石はビシィ!と指差しながら子猫に命令をする。<br /> 子猫は理解したのかしてないのか、「にゃぁ」と鳴く。<br /><br /> そして翠星石は頼もしくビッ!と親指を立てながら部屋から走り去り……<br /><br /> 部室の中には、子猫と真紅だけが残された……<br /><br />  <br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 何故、翠星石は里親探しだというのに…子猫を置いていくんだろう?<br /> 真紅はげっそりとしながら、机の陰に身を隠していた。<br /><br /> 「……今更言った所で…仕方の無い事ね。それより……今をどうするかね…… 」<br /> 恐る恐る、机の上でゴロゴロしている猫の様子を窺ってみる。<br /><br /> 子猫は、冷たい雨から逃れられて嬉しいのか、にゃーにゃー言いながらゴロゴロしていたが……<br /> 真紅の姿を発見すると……机から飛び降り…何と、近づいてきたではないか!<br /><br /> 「きゃっ!?こ…来ないで! 」<br /> ガタン!と立ち上がると真紅は悲鳴を上げながら部室の中を逃げ惑う。<br /><br /> 子猫は…真紅のツインテールが、走ると同時にピコピコ揺れるのを見逃さなかった!<br /> 小さいながらに、そこは猫の本能。<br /> こんなに楽しげに動く何かを追いかけない訳が無い。<br /><br /> という訳で……<br /> 机を囲んでグルグル走る、子猫と真紅。<br /><br /><br /> 「だ…誰か!翠星石!早く帰ってきなさい! 」<br /> 無駄とは知りつつも、真紅は叫ぶ。だんだん泣きそうになってきた……<br /><br /> ◇ ◇ ◇<br />  <br /> 涙を浮かべながら、部室の中を逃げ惑う美少女と、それを狙う毛むくじゃらの野獣(真紅視点) <br /><br />  <br /> このまま、もし、捕まるような事になれば……<br /> ねこが苦手な真紅にとって、それは想像するのも恐ろしい事態だった。<br /><br /> 何とかして……この猫の興味を他所へと……<br /><br /> 逃げ惑いながら真紅は考える。<br /> そして……走りながらそれをパシッと掴むと、逃げる方向とは逆を目掛けて、それを投げた。<br /> 同時に、叫ぶように言い放つ。<br /><br /> 「ほら!黒板消しよ!楽しい楽しい黒板消しが飛んでいったのだわ!!ほら、追いかけなさい!! 」<br /><br /> どうして彼女は、猫が黒板消しを追いかけると思ったのだろう?<br /> それ程までに、真紅の精神は追い詰められていた。<br /><br /> だが、チョークの粉がいっぱい付いた黒板消しと、楽しそうにピコピコ動く髪の毛。<br /> どちらを猫が狙うかは……一目瞭然。<br /><br /> キャーキャー叫ぶ真紅は、相変わらず子猫に追いかけられながら教室の中を逃げ惑い続ける……<br /><br /> ◇ ◇ ◇<br /><br /> 「はぁ……はぁ…… 」<br /> 全力で逃げ続け、徐々に息切れしだした真紅。<br /><br /> このままでは……捕まるのも時間の問題。<br /> 心底、猫が苦手な真紅にとっては…猫にじゃれつかれるという事は、何より恐ろしい事だった…。<br /><br /> 息はきれるし、恐怖でパニックになる一歩手前。<br /> 足も思うように動いてくれなくなってきた…。<br /><br /> もう……逃げ切れない……!?<br /> 深い絶望と悲しみが心に広がってゆき……<br /><br /> その時、真紅はある物を見つけた! <br /><br /> それは自分の鞄につけている、小さな、10センチ程の『探偵犬くんくん』のマスコット人形。<br /><br /> 猫は犬を怖がるはず……<br /> 真紅はそう考え、鞄から小さな人形を取り外すと、まるで悪霊退散のお札でも掲げるようにそれを突き出した。<br /> 「助けて!くんくん! 」<br /><br /> すると……その願いが天に届いたのか……<br /> 子猫は真紅の髪からくんくん人形へと狙いを変えると、パシッ!っとその手から人形を奪っていった!<br /><br /><br /> 「た…助かったの……? 」<br /> 真紅は呟きながら、へなへなと力無くその場にへたり込んだ…。<br /><br /> くんくん人形を咥えながら、嬉しそうに「にゃー」と鳴く子猫。<br /> お気に入りの人形が、猫によってベトベトにされるのを見て泣く真紅。<br /> 前足でパシパシ人形を叩く子猫。<br /><br /> ◇ ◇ ◇<br /><br /> 「ありがとう……くんくん…あなたの勇気は忘れないわ…… 」<br /> うるうると涙を流しながら、子猫のオモチャにされている人形へと、真紅は感謝の言葉を述べた。<br /><br /> そして……ずいぶんと走り回ったせいで、喉が渇いてきた事を思い出した。<br /><br /> 真紅は猫を十分に警戒しながら自分の席へ戻り……カップを掴む。<br /> それから、部室の隅に置かれたロッカーまで行き、紅茶のティーパックを手に入れる。<br /> そして……<br /> 最後の難関。<br /> ポットまでの道のりには……子猫が立ちふさがっていた。 <br /><br /><br /> どうするか。<br /> 真紅は一瞬、悩む。 <br /><br /> 猫は今、くんくん探偵の人形にご執心。きっと、私には近づいてこないだろう…。<br /> それに……この真紅が、猫に引けを取るだなんて……認める訳にはいかない…! <br /><br /> プライドの高さゆえに、彼女は覚悟を決め足を進ませた……<br /><br /> 決して猫の方は見ないように、足音を立てないように、真紅はそっとポットへ向かう。<br /> 子猫がじっとこっちを見ている気がするけど……それは気のせいよ、と自分に言い聞かせる。<br /><br /> そうして、やっとの思いでポットまで真紅は辿り着き……そして、ティーパックの包みをピリッと開けた。<br /><br /> ヒモが付いたパックが、ゆらゆらと揺れながら紅茶のカップに入っていき……<br /> その瞬間、またしても楽しげに動くものを発見した子猫は「にゃっ」と鳴きながら真紅に再び飛び掛った!<br /><br /> ――― 避けられない!?<br /><br /> 真紅は突然の事に、一瞬反応が遅れ……だが、猫にじゃれつかれる覚悟を決めるのだけは嫌だった。<br /> まるで雷光が如くの素早さで真紅は手を伸ばすと、黒板消しを一つ、握り締める。<br /><br /> これだけは嫌だったけど……猫に抱きつかれるよりは……<br /><br /> 真紅はほんの短い時間で決意を固めると……<br /> その黒板消しを両手で、思いっきりパーンと叩いた!<br /><br /> モクモクとチョークの粉が舞い……<br /> その独特の匂いを嫌がって、子猫は真紅から離れる。そして……<br /> 目の前でそんな事をした真紅は……<br /> 「………けほっ…… 」<br /> チョークまみれになった。<br />  <br /> ◇ ◇ ◇<br /><br /> ポットもカップも自分の顔も、どこもかしこもチョークまみれ。<br /><br /> 「ぅぅ……猫なんて……猫なんて…… 」<br /> 真紅は半泣きで呟きながら、とりあえず顔を拭く為のタオルでも取りにとロッカーへ向かう。<br /><br /> 顔にもチョークの粉が付いているので、あまり目も開けられない。<br /> 壁に手をつきながら、真紅は部室の後ろの方まで移動する。<br /><br /> 手探りでロッカーを探し、目を瞑ったままロッカーを開け、中に入っていたタオルで顔を拭く。<br /><br /><br /> と……<br /> 「いやー、無事見つかって何よりですぅ!これも翠星石の人望のなせるワザですかね! 」<br /> ちょうどそのタイミングで、翠星石が帰って来た。<br /><br /> タオルで顔をゴシゴシしてから、真紅は文句の一つでも言ってやろうかと顔を上げ……自分の過ちに気付いた。<br /><br /> タオルだと思っていたのは、実は体操服で……<br /> 自分のロッカーだと思っていたのは、実は水銀燈のロッカーで……<br /><br /> つまり……<br /> どう見ても、水銀燈の体操服の匂いを嗅いでいたようにしか見えない状況で……<br /><br /> それに気が付いた翠星石が、ヒクッと顔を引き攣らせる。<br /> 「え……いや…その……お楽しみ中に………お…お邪魔したですぅ! 」<br /><br /> そう言い、翠星石は脱兎の如くの勢いで廊下を走り去る!<br /><br /> 「違うの!全部……全部、この猫のせいで……! 」<br /> 真紅は叫ぶも…その声は届かない……。<br /><br /><br /> 「違うの…違うのよ…… 」<br /> あまりにも酷い状況に、真紅は水銀燈の体操服を片手に呆然と呟く。 <br /><br /><br /> そして……やっぱり、猫は敵ね。そう、心に刻み付けた。 <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />      </div> </dd> </dl>

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