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この町大好き!増刊号15」(2008/08/23 (土) 02:27:27) の最新版変更点

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<dl><dd> <div align="left"> <p><br /> 夏休みも残り少し。<br /><br /> あんなに近かった太陽も、少しだけ遠くに行ってしまったみたい。<br /> そんな、とある一日。<br /> 相変わらず蝉が賑やかに鳴いてるけど、どこか寂しい声に聞こえる。<br /> そんな、とある一日のお話。<br /><br /><br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆  この町大好き! ☆ 増刊号15 ☆  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /><br /><br /> その日、翠星石はお気に入りのケーキ屋さんで、大量のシュークリームを買い込んでご機嫌で歩いていた。<br /><br /> 家に帰ったら、蒼星石にお茶を淹れてもらって、二人で食べよう。<br /> そう想像しただけで、自然と心も弾む。<br /><br /> 「ふ~ん♪ふふ~ん♪ですぅ♪ 」<br /> 正体不明な鼻歌も、思わず漏れてしまった。<br /> と、そんな風にワクワクしながら翠星石が家へと急いでいると……<br /><br /> 横断歩道の近くで、おばあさんが立ち止まっていた。<br /> ちょうど向かう方向も同じだし、翠星石はその横で信号待ちをしながら、その老人の様子を窺ってみると……<br /><br /> 大きな、とは言えない位の量だが…それでもお年寄りにはキツイ。<br /> ちょうどそれ位の荷物を持ったおばあさんが、炎天下にさらされながら一人、信号待ちをしていた。<br />  <br /><br /> (こんなオババが一人だと、危ないですぅ!しゃーなしで手伝ってやるですよ! )<br /> (いやいや、知らない人間と一緒になんて、何が起こるか分からんですぅ!ここは無視ですよ! )<br /> ちょっと迷いながら、翠星石はお婆さんの方をチラチラ窺ってみる。<br /><br /> と…<br /> そんな挙動不審な彼女に気が付き、お婆さんは翠星石の方を見ると…ニッコリと、少しだけ笑って見せた。<br /><br /> 「なぁ!?ななな何か言いたい事が有るならハッキリ言いやがれですぅ! 」<br /> 突然の、予想だにしてなかった反応に翠星石もちょっと慌てる。<br /> ちょっと慌てながらも…それでも、この勢いに任せる決意だけは、瞬時にしてのけた。<br /><br /> 「そんな重そうに荷物持ちながら、余裕かましてる場合じゃないですよ!<br />  下手に余裕見せたせいで後でバテられたらと思うと、目覚めが悪いだけですぅ!<br />  分かったらさっさとその荷物を翠星石に任せるですよ!! 」<br /><br /> 一歩間違えば路上強盗にもなりかねない発言をしながら、翠星石はお婆さんから荷物を取り上げる。<br /> 「偶然にも行く方向が同じだから持ってやるだけですぅ!!<br />  ……ところで、オババはどっちに向かってるですか?」<br /><br /> 発言の順番が何だかおかしな事に気が付いて、お婆さんは苦笑い。<br /><br /> 優しいんだけど、恥ずかしがりな変な子。<br /> お婆さんも、彼女の不器用な好意に甘える事にした。<br /> 「はいはい…ありがとうね。この信号を渡ってから……――― 」<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />  <br /> 「全く、年寄りなら年寄りらしく、素直にしてやがれですぅ!! 」<br /> 捨て台詞を残して走り去った親切な女の子。<br /> 玄関先でその後姿を見送り、おばあさんは家に入ろうとした。<br /><br /> そして玄関を開けると……<br /> 近所の学園で校長先生をしている夫が、ちょうど家を出ようとしている所だった。 <br /><br /> ◇ ◇ ◇<br /><br /> 今日は、ある教師の処遇に関する会議…。<br /> いつに無く重い気持ちで、柴崎元治は学園へと向かう準備をしていた。<br /><br /> 家を出ようと玄関に向かい、沈んだ気持ちで靴を履いていると…妻のマツが帰って来た。<br /> 何でも、親切な女の子が荷物を持ってくれたから、予定より早く帰ってこれたらしい。<br /><br /> 嬉しそうにそう言う妻の話を聞く内に、何だか元治の気分も良くなってきた。<br /> 「案外、この世の中も捨てたもんじゃあないのお… 」<br /> 少し微笑みながら、会議の為に元治は学園へと向かった。<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 『校長室』と書かれた、重苦しい扉。<br /> その前で、めぐは「あぁ…今、心臓止まらないかな…」と、ぼんやり考えていた。<br /><br /> 生徒(水銀燈)に対する、過剰なスキンシップ。<br /> 授業中でも容赦無く倒れる虚弱体質。<br /> 生徒には好評だが、内容の暴走した授業。<br /><br /> それが学園のお偉いさん達にバレて…処分を言い渡される結果。つまり、今へと繋がっていた。 <br /><br /> 「減給かな……停職かな……それとも……ふふふ……クビ…?<br />  あーあ……死にたいなー…」<br /> 虚ろな瞳で、ブツブツと呟く。<br /><br /> でも、いつまでもトリップしてても仕方ないので…いっその事、早く楽になろう。<br /> そう考え、めぐは焦点のズレた目のまま、校長室の扉を開いた……<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 「クビになるかも…」<br /> めぐにそう相談された水銀燈は、気が気じゃなかった。<br /><br /> 寝ても覚めても、落ち着かない。<br /> 正直、変人ばっかり学園の教師陣の中でも、ひときわ目立つ変人・柿崎めぐ。<br /> いっつも自分にちょっかいをかけてくる困った相手ではあるが…<br /> 水銀燈はその実、めぐの事は嫌いじゃなかった。<br /><br /> そんなめぐの、今後を左右する会議。<br /> それが今日だと聞いた水銀燈は……正直、オロオロするばかりだった。<br /><br /> 結果が出次第、すぐにめぐから連絡が来る。<br /> そう分かってはいても…待つ時間は無限に感じるほど長い。<br /><br /><br /> と、そんな待ち時間の終わりを告げる着信が!!<br />   <br /><br /> 水銀燈は大急ぎで電話を取ろうとして…<br /> でも、待っていたとバレるのは恥ずかしいから、あえてちょっとだけ待って……<br /><br />  プルル… プルルル……<br /><br /> 着信音を聞きながら、吸って吐いての深呼吸。<br /> そして…<br /> 「もしもしぃ?どうしたのよぉ…? 」<br /> そっけない感じの声を心がけながら、電話に出た。<br /><br /> 『聞いて水銀燈!大丈夫だったわ!!クビも停職も減給も無しだって!やったわ!! 』<br /> 「ふぅん……そう……」<br /> 『何でかしらないけど、柴崎校長、やけにご機嫌でね?今回だけは見逃してくれるって!』<br /> 「…あの校長がねぇ……?」<br /> 『とりあえず、詳しい話もしたいし、今からでも出て来れない? 』<br /> 「…別にいいけど……コーヒー位は奢りなさいよぉ? 」<br /> 水銀燈は、ほんの短い言葉で答えただけだった。<br /><br /> というより、これ以上喋ったらボロが出る。<br /> 本当は嬉しくって仕方が無いのだけど……ここで一緒にはしゃぐのはマズイ。<br /> それこそ、今後の関係を大きく左右する事になりかねない。<br /><br /> 完全にパワーバランスがめぐ寄りに傾いてる事にも気が付かず、<br /> 水銀燈は小さく飛び跳ねながら、興味無さそうな声を出し続けていた。<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />   <br /> その日は、真紅にとって意外な出会いの日だった。<br /><br /> 何の予定も無かったので、一日中家で読書をするつもりだったが……<br /> 残り少ない夏休み。<br /> ちょっとした気まぐれで、町へと向かう事にした。<br /><br /> そして、お気に入りの紅茶専門店に行き紅茶を飲み…<br /> ついでに茶葉も買って帰ろうかと迷ったが、買い置きがまだまだ有る事を思い出し、そのまま店を後にした。<br /><br /> そのまま帰ろうかと思った瞬間―――<br /><br /> 「こ…これは…!! 」<br /> 駅前のゲームセンターのクレーンゲームの景品になってる、特大くんくん人形を見つけた!<br /><br /> 迷わず走りより、財布の中の硬貨をクレーンゲームの台に叩き込む!<br /> 「くんくん!今助けるわ!! 」<br /> 何だか、変な世界に浸りながら、真紅が叫ぶ。<br /><br /> 失敗する。叫ぶ。硬貨を入れる。叫ぶ。失敗する……。<br /> あまりの悲惨さに、せめてアドバイスでも…と近寄ってきた店員に、真紅は両替を命じる。<br /> つぎ込む。失敗する。まだまだつぎ込む……。<br /><br /> 「何故なの!?どうして取れないのよ!…何か裏があるに違いないわ!! 」<br /> そう言い、クレーンゲームの台を叩き始めて…<br /><br /> 真紅は店から退場させられた…。<br />   <br /><br /> 「…くんくん…… 」<br /> 通りから寂しそうに、出入り禁止になったゲームセンターを見つめる真紅。<br /> そのままトボトボと…<br /> 何の収穫も無いのでは寂しすぎる。せめて、茶葉でも買って帰ろうかと、再び歩き出した…。<br /><br /> ◇ ◇ ◇<br /><br /> お気に入りの紅茶の葉。<br /> それを買い、真紅は今度こそ帰るために駅前へと向かった。<br /> ゲームセンターの方向は…悲しすぎるから、見ないようにして。<br /><br /> そうして歩く内に、真紅は背後から声をかけられた。<br /> 「あらぁ?そのブサイクな顔は真紅じゃなぁい… 」<br /> 普段なら、振り向きざまに一撃入れてやりたい所だけど…流石に今日は、そんな元気も湧いてこない。<br /> 「……相変わらず失礼ね、水銀燈……」<br /> 小さな声で答えながら、真紅は振り返り…やけにご機嫌な表情の水銀燈に気が付いた。<br /><br /> 「どうしたのよぉ真紅ぅ…えらく落ち込んでるじゃなぁい? 」<br /> そう言う水銀燈は、今にも飛んでいきそうな位に晴れ晴れとした表情。<br /><br /> (正直、今の心境でこの水銀燈の相手をする気にはなれないわね… )<br /> 真紅はため息をつき、駅前のゲームセンター…そこに置かれている人形を無意識に見つめながら、答えた。<br /> 「あなたには関係ない事なのだわ… 」<br /><br /> その仕草に、水銀燈もピンと来たのだろう。<br /> 「ふふふ…」と笑うと、そのままゲームセンターへ入り……<br /> 数分もせぬ内に、特大くんくん人形を抱きかかえながら出てきた。<br />   <br /><br /> 「ねぇ、真紅…あなた、これが欲しかったんでしょぉ…?……うふふふ… 」<br /> 「…ええ、そうよ。悪い? 」<br /> 相変わらず、何があったのか楽しそうな水銀燈と、とことん不愉快そうな表情の真紅。<br /><br /> 「……だったらコレ、あなたにあげてもいいわよぉ………<br />  ……なんて、言うと思ったかしらぁ? 」<br /> 水銀燈はニヤニヤしながら挑発的に言葉を投げかけてくる。<br /><br /> 明らかに、おちょくられてる。<br /> そう感じた真紅は、プイっと顔を背けながら、不機嫌そうに返した。<br /> 「思わないわね。あなたが私にくんくん人形をくれる可能性なんて、これっぽっちも期待できないのだわ 」<br /><br /> そして…その答えに、水銀燈は嬉しそうに目を細めた。<br /> 「ふふふ……そうよねぇ…?<br />  でもね……私がいつも、あなたの思い通りの行動すると思ったら…大間違いよぉ 」<br /> そう言うと水銀燈は、抱えていたくんくん人形を真紅に押し付ける。<br /> そしてそのまま、相変わらずご機嫌な表情を浮かべどこかに行ってしまった…。<br /><br /> 「……あの子……熱でもあるのかしら…… 」<br /> 念願のくんくん人形を抱きかかえた真紅は…怪訝そうな表情を浮かべ、小さく呟いた…。<br /><br /><br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 蒼星石は家にお茶がない事に気が付いて、町まで買い物に来ていた。<br /> 何でも、翠星石が『美味しいもの』を買ってくるからお茶を用意しようと思ったのだが…<br /><br /> 勝手に和菓子を想像していた蒼星石は…<br /> 「とりあえず…緑茶でいいかな? 」そう考え、お茶の葉っぱを買って帰っていた。<br />   <br /><br /> その帰り道…<br /> 向こう側から、大きな人形を抱え、幸せそうな表情をした真紅と出くわした。<br /><br /><br /> 「あら蒼星石、お買い物? 」<br /> 夢見るように幸せそうな表情で、真紅が声をかけてくる。<br /> 「うん。翠星石がお菓子を買ってくるから、そのお茶を買いにね 」<br /> 蒼星石はそう答え、緑茶の入った袋を持ち上げる。<br /><br /> 「緑茶も良いけど、紅茶も素敵よ?<br />  そうよ!翠星石がスコーンを焼いたりした時に、これを飲んでみるといいわ。<br />  きっとあなたも、紅茶の魅力に気が付くのだわ! 」<br /> そう言った真紅が蒼星石に、紅茶の葉が入った袋を渡す。<br /><br /> 「え、でも…そんなの悪いよ… 」<br /> 蒼星石は遠慮するが、真紅は譲らない。<br /> 「気にしなくって良いのよ。私は家にも買い置きが…それこそ、山のようにあるわ。<br />  このまま持って帰っても、置き場所に困るだけよ 」<br /> そのまま押し切って、真紅は蒼星石に紅茶の袋を手渡した。<br /><br /> 「……置き場所も無いって……じゃあ、なんで買ったりしたんだい? 」<br /> ちょっと戸惑った表情の蒼星石が、真紅にそう尋ねてみる。<br /> 「さあ?どうしてだったかしらね…? 」<br /> 真紅は嬉しそうに人形を抱きかかえたまま、帰っていく。<br /><br /> 「……何があったんだろう…? 」<br /> その背中を見送りながら、蒼星石が小さく呟いた……。<br /><br />   <br /> ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /> 「ささっ!早く蒼星石も座りやがれですぅ! 」<br /><br /> 机の上にシュークリームの入った箱を広げながら、翠星石が元気いっぱい声を上げる。<br /> 蒼星石は心の中で真紅に感謝しながら、紅茶の入ったポットをテーブルに置いた。<br /><br /> 二人でシュークリームを食べながら、幸せのひと時、ティータイム。<br /><br /> ふと、蒼星石は思いつき、翠星石に聞いてみた。<br /> 「ねえ翠星石…今日、何か変な事なかった? 」<br /> 「はて?…う~ん……これといって無いですねぇ。どうかしたですか?蒼星石 」<br /> 「いや、ね……この紅茶、真紅がくれたものなんだ 」<br /> 「ほー。珍しい事もあるですね 」<br /><br /> 二人でシュークリームをもしゃもしゃ食べる。<br /> 合間に、紅茶を一口。<br /><br /> 何でか知らないけど、とっても幸せな味がした。 <br /><br /><br /><br /><br /><br />      </p> </div> </dd> </dl>

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