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奇しき薔薇寮の乙女 第六話 前編」(2008/08/18 (月) 03:54:45) の最新版変更点

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第六話 前編 「あーもー、わっかんない! 本当にやっていけるのかしら」 そもそも、なんだって高校でこんな勉強をせにゃいけないのか。 もっと専門的っていうか、大学レベルでないと分からないと思う。 それを高校でやらせるなんて、数学の担任は無茶を言いすぎかしら。 でも、コレさえクリアすれば点数稼ぎにはなるし。 「それにしても、ヒナは一体なにを騒いでいるのかしら?」 なんだか大喜びしてるみたい。 さっきまであんなに泣いていたのに。 それはもうホラーばりな雰囲気真っ盛りで。 途中で諦めて部屋に戻ったのはいいのだけれど、あそこまで感情反転されると、それはそれで怖いかしら。 いやー、それにしても、 「休憩よ休憩! ちっとも進まないかしら!」 憎々しい 脂肪も多くて 肉々しい。 あの数学教師は、何か恨みでもあるのかと。 メトボリックをシンドロームさせている最悪な塊、なんとかしなきゃいけないわ。 今度ヒマになったら、あとで鉄パイプでも腹にブチ込んで脂肪を排出させてやる。 「休憩を入れたらヒマになっちゃった。何かしようかしら?」 調べ物ついでに、蒼星石のパソコンを借りるのもいいか。 でも、蒼星石はめったに貸してくれないし。 どうしたもんかしら。 勉強はストップ。 お腹はほどほど八分目で、夜食用の卵はナシ。 ばらしーたちがやってるみたいなゲームはどうもやりなれない。 ステルスは、実際に行って初めて楽しさを得ればいい。 ならどうするか。 そもそも、考え事が好きなのは自負している。 ああ、なるほど。 どうすればいいかを考えて、ヒマを潰せばそれでいい。 「うーん、蒼星石のマネごとをしてみるのもいいかしら」 遠いようで意外に近い。 原理や行動はまったく別で、そのあり方だけが似ている私たち。 さて、逸れる前に定めよう。 ジメジメした暑苦しい夜にふさわしい思考。 多分な熱気と余計な湿気。 暑苦しさを回避するための、この日本での常套手段。 自らの感覚を狂わせて、勘違いを自ら起こす自明の理。 そう、その手段は溢れていて、意外にも、私の故郷にもあった気がする。 世界共通の、日本独特の粘っこい嗜好手段。 「怪談かしら!」 ………………。 その、カナだって怖いのは嫌いだけど。 ああ、もう。 ご飯の前に翠星石に見せられたあの変な映像が頭をよぎる。 それに、適当な捏造怪談はおろか、ありふれた怖い話もつまらない。 かと言って、さてどうしようかしら。 いきなりみんなを集めて開催しても、正直引かれるだけな気がする。 カナ以外はみんな雑談部屋にいるみたいだけど。 アクティブに動かなきゃ結果なんて出ないけれど、うーんうーん。 「アクティブ、アクティブ……。もっとこう、行動的な怖い話……なんかないもんかしら」 基本的に、聴き手側は受動的だ。 こう、参加者全員が能動的になれれば、面白い気がする。 最たるものが肝試しだし。 それも、怖いのを分かっててやっているから、多少なり冷めるのかしら。 「あ、そうか……!」 なら、不意打ちで怖がらせればいい。 今はみんな、平和に過ごしているハズ。 誰かが言った。 現実に突如として非現実が頭をもたげて、それを理解するのに時間がかかる、と。 確かに、理解するのに時間はかかる。 けど、理解はせずとも恐怖は襲う。 恐ろしいまでの情報量を必要する人間にとって、不確かで不明な情報だけが降りかかるのは、たまらなく恐怖だ。 後ろから突然に大声をかけられると驚くそれのように。 ふふふ、燃えてきました諸葛 金糸雀。 自称するその名に恥じぬよう、明瞭に不明瞭を、確かな不確かを、乙女たちに提供しましょう……! ◆ さて、まずは下準備が重要。 考えなしにコトを起こしても、最後の最後で興ざめする。 まずはそれとなく、談話室で使えるものがないかチェックチェック。 食休みを兼ねたこの時間なら、別にカナが入っていっても問題なし。 階段を降り、少しの廊下を歩いて、談話室のドアに手をかけたところで、 「でも、ヘンに動いてバレるのは問題かしら。ちょっと回り道だけど、先に別の場所を……」 引き返す。 ドアは開けていないから、きっと大丈夫かしら。 ノブを少し回したけれど、そんなコトは問題じゃない。 180度方向反転、T字路を左に向き直し、室内勝手口と化している台所へのドアを開く。 右手に外への勝手口、左にもうひとつの台所への入り口確認。 カナの目標はあくまでもレフト。 冗談抜きで、夏の夜、外に出て夕涼みなんてしたくない。 怪虫Gがウロついてるのを、カナは知ってるのかしら。 さてさて、何か使えるものはあるかしらー。 ◇ 「ね、ねえ? あそこのドア、さっき勝手に動かなかった?」 真紅は、見てはいけないものを見たような、その名とは対照的な青色を顔中に浮かべている。 暖炉を右手に、二階へと続く階段へのドアを正面左側に捉えるように座っている真紅。 彼女は、確かに本を読んでいた。 が、真紅自身、かなり目端の利くほうである。 意識は文字に集中していながら、意識の外では、前方を扇型に視界に入れていた。 ありえない。 真紅は基本、目に見えぬものは信じない。 しかし、意識の外で捉えたそれは、確かに動いていた。 今は誰もそこにいない。 なのに、談話室と階段とを隔てるそのドアのノブは、ひとりでに動いた。 信じないし、信じたくないからこそ、真紅は他の人間に問う。 勝手にドアが動かなかったか、と。 「さァ、見てないな。ずっと薔薇水晶のゲーム見てたし」 「うん、僕もジュン君と一緒。真紅の気のせいじゃないかな?」 「そ、そうかしら。ええ、そうよね」 「あっははは、真紅ったら怖いのぉ? ダッサぁい」 「黙りなさい」 ちなみに、水銀燈は別のソファーに移動し、雛苺と一緒に本を読んでいた。 雛苺は「りぼん」を、水銀燈は×××関連を。 先ほどの騒ぎで疲れたのか、雛苺の頭は大漁丸という名の船を乗せて、こっくりこっくりしている。 あの悶着の後にも色々あったのだが、それは今ここで語るべきコトではない。 雛苺は水銀燈に体を預け、まどろんでいた。 真紅をバカにしたときも声量を抑えていたのは、そのためである。 「うーん、真紅さんの見間違いじゃないですか? 本の読み過ぎで、目が疲れたのですよ、きっと」 細い白指を顎に当て、雪華綺晶が返す。 きょとん、という表現がまさにこのためにあるような、そんな仕草。 直後、ジュンと目が合って顔を真っ赤にしたのはただの余談であり、それを見た水銀燈の目が鋭くなったのも、余談である。 その後、その場にいたほぼ全員が真紅の問いを否定する。 「やっぱり、気のせいよね」 「そーそー、真紅は妙に神経質だからなー。気にしすぎなんだ」 ジュンがそう言って、この話を終わらせようとしたその瞬間であった。 「いやああぁぁあああ!!」 本日二度目の、奇しき薔薇寮での大絶叫である。 さすがに、コレは気のせいで済ませてはいけない事態。 全員の目が開き、 全員の腰が上がり、 全員の足が悲鳴の場所へ向かい、 全員が目の前の光景を疑った。 「す、翠星石!?」 まっ先に倒れている翠星石のそばへ寄ったのは、双子の妹である蒼星石である。 翠星石は意識を半喪失しているのか、目を開きながら、仰向けに倒れていた。 驚愕が、全員の胸を貫通する。 ◇ 「っくりしたかしらァ……」 何もあそこまで驚くことはないと思うかしら。 カナは、ただノドが渇いたから冷蔵庫を開けようとしただけなのに。 そりゃ、確かに黙って近づいたのは悪かったけど。 冷蔵庫に手を伸ばしただけなのに。 びっくりして慌てて出てきちゃったから、飲み物も取れなかったし。 さて、気を取り直して談話室へ。 キィィ。 「って、あれ? なんで誰もいないのかしら?」 半分ほどしか開けてないけど、誰の気配もない。 あ、そうか。 さっきの翠星石の大声で、みんな駆け付けたのかしら。 「あ、さっきのがカナの仕業だって知られたら大変かしら! アリバイ工作しないと!」 とと、とりあえず、さも部屋から急いで駆け付けた風に、談話室から台所に行けば大丈夫かしら。 うー、もうアクティブ怪談なんてやってる場合じゃない。 一応は成功したとも言えるワケだし。 今のは翠星石だから良かったものの、コレがもし……。 考えたくもないかしら! 自分のでさえいっぱいいっぱいなのに、こんな時に斬刻刑なんて冗談じゃないかしら。 とにかく、今はアリバイのために急いで台所に行かないと。 ああもう、このドアちょっと重いかしら! や、やっと開い、 ガシャア! 今の、音は? カナは、確実に何もしていないのに。 音が、どうして、あんな。 「に、二階から聞こえてくるのかしら……?」 ◇

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