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「この町大好き!増刊号10」(2008/08/04 (月) 10:16:04) の最新版変更点
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『夏だから』そんな理由にならない理由で水銀燈の家へ…<br />
とは言っても、彼女はアパートで一人暮らしをしていて、仕送りで生活をしている。<br /><br />
とにかく、そんな水銀燈の家の窓に下がった風鈴を、翠星石はゲッソリと眺めていた。<br /><br />
外から吹き込んでくる生ぬるい風が、チリンと風鈴を鳴らす。全然『涼』を感じない。<br /><br />
真紅はすっかりぬるくなったアイスティーの缶を、それでも手放さない。<br />
蒼星石はうちわで自分と…時々、翠星石にも風を送っている。<br /><br />
あまりに近くて熱い、太陽のコンチクショウ。<br />
それを前に、彼女達は…完全にバテていた。<br /><br />
ただ一人。<br /><br />
水銀燈を除いて。<br /><br /><br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ~ この町大好き! ☆ 増刊号10 ☆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /><br />
<br />
「確かに、今日の暑さは格別ねぇ…… 」<br />
鳴き始めた蝉の声に耳を傾けながら、水銀燈は呟く。<br />
その顔には、少し汗が浮かんではいるものの…どこか、夏の到来を喜んでいるようにも見えた。<br /><br />
「……暑いですぅ……く…クーラーを……… 」<br />
そう呻き、翠星石はリモコンに手を伸ばし ―――<br />
「まだ、早いわぁ。それに、クーラーって電気代高いのよぉ? 」<br />
家主である水銀燈の言葉に撃墜された。<br /><br />
「随分、所帯じみた発言ね… 」<br />
真紅が小さく呟く。<br />
「……何よぉ……エコロジー、って言いなさいよぉ… 」<br />
図星だったのか、水銀燈は拗ねたようにそっぽを向いて呟き返す。<br /><br /><br />
実際、水銀燈は、所帯じみた理由でクーラーをあまり使わず…<br />
お陰で、夏の暑さにはかなり慣れていた。<br /><br />
だが…<br /><br />
そんな事情を知らない部員たちの脳裏には、一つの疑問が小さな確信を伴い、過ぎった。<br /><br />
『ひょっとして…その服の下には、何か風通しの良くなる秘密でもあるのでは…? 』<br /><br />
全員の視線が(本能的に)水銀燈のお腹に集まる。<br />
きっと、風通しが良い理由が有るとするなら…ここだ、と。<br />
<br /><br />
周囲から、自分のお腹に向けられる視線に気が付いた水銀燈は…<br /><br />
何となく…理由は分からないけれど、ムカついた。<br />
理由が分からないという事は、きっと本能なんだろう。<br /><br />
本能の導くまま拳を固めた水銀燈は、ゆらりと闘気を漂わせながら、ゆっくり立ち上がる……<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
数分後……<br /><br />
まるで『派手な乱闘』が起こったみたいに荒れ果てた部屋を、<br />
『派手な乱闘』をしたばかりのような格好で、彼女たちは仲良く掃除していた。<br /><br />
ここで一体、何が起こったのか…それは、本人たちしか知らない……<br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br />
「………最悪… 」<br />
ドンヨリとした表情で水銀燈が呟く。<br />
せっかく皆が来るからと掃除だってしたのに、その結果がコレ。<br />
友達間違えたかな?と思う。<br /><br />
そんな水銀燈を見て、「正直すまんかった」と翠星石たちは心の中で言ったとか言わなかったとか……<br /><br />
でも、やってしまった事は仕方が無い。<br />
問題は、それからどうするか。<br />
<br /><br />
「とりあえず……どうしようか…? 」<br />
翠星石と真紅に視線を向ける蒼星石。<br />
「皆で美味しいご飯でも作ってやるのはどうですかね? 」<br />
懲りてないのか、相変わらずの調子で提案する翠星石。<br />
「なるほど、食べ物で釣ろうという作戦ね。名案だと思うわ 」<br />
言いにくい事をズバッと言う真紅。<br /><br />
「…という訳で、それで良いかしら、水銀燈 」<br />
真紅は振り返って、部屋の隅で拗ねている水銀燈に尋ねた。<br /><br />
「……好きにしなさいよぉ… 」<br />
水銀燈は水銀燈で、完全にへそを曲げて、ぷいっと顔を逸らせる。<br /><br /><br />
とりあえず、事は決まった。<br /><br />
翠星石たちは早速、ご飯を作る材料を……<br />
「っと!水銀燈は休んでるが良いですぅ!ここは泥舟に乗ったつもりで、安心して待ってやがれですぅ!! 」<br />
食材を買いに、水銀燈以外の3人で出かける事に。<br /><br />
誰も『泥舟』発言には触れなかった。<br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />
<br />
「それにしても、この3人だと何か足りない感じですぅ 」<br />
先頭をテクテク歩きながら、翠星石が言う。<br /><br />
「確かに、いっつも4人一緒だしね 」<br />
「そうね…。あの蒸し暑い部屋で一人待ってる水銀燈の為にも、早く買い物を済ませてしまうのだわ 」<br /><br />
そんな会話をしながら、炎天下を3人はテクテク歩く。<br /><br />
蝉がミンミンと鳴く声が、精神面から暑さを助長させる…。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
その頃、水銀燈は…!<br /><br />
「……私は、我慢できるわよぉ…でもぉ…ほら…あの子達は暑さに弱いし…… 」<br />
一人でブツブツ言いながら、リモコンを握り締めていた。そして…―――<br />
『ピッ!』<br />
クーラーをつけた。<br /><br />
「やっぱり、皆が来る日は…これ位、問題無いわよねぇ…? 」<br />
節電の誓いは無かった事にして、クーラーの前に陣取る。<br /><br />
「あぁ……涼しいわぁ…… 」<br />
冷風を浴びながら、気持ちよさげに目を細めていた。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br />
<br />
ゆらゆらと熱さで歪むアスファルトを眺めながら、翠星石達は呆然としていた。<br /><br />
目の前には、バスの時刻表。<br /><br />
「…30分位…待たないといけないみたいだね…… 」<br />
「……これでは歩いた方が早そうね… 」<br />
「………はいですぅ…… 」<br /><br />
ギラギラと眩しい太陽を避けるように、日陰を選んで翠星石達は歩き出す……<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
その頃、水銀燈は…!<br /><br />
いつぞや入手したくんくん人形を抱きながら、床をゴロゴロしていた。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
「水銀燈が居ないと調子が狂うですね。こんな時の為に…実はこっそり練習してたですよ。<br />
おまえら、ちょっと見てるですぅ! 」<br />
そう言い翠星石は、クネクネ歩いて…チラッと振り返り、変な猫なで声を上げた。<br />
「ニューサンキン摂ってるぅですかぁ? 」<br /><br />
「……す…翠星石…? 」<br />
「…とうとう暑さで脳がやられてしまったのね… 」<br />
正体不明、謎の行動を突然見せ付けられた蒼星石と真紅は、顔を引き攣らせながら呟いた。<br /><br />
「なっ…!失礼な!水銀燈のモノマネですよ!見て分からんですか!! 」<br />
翠星石は再び、クネクネ歩きながら「ニューサンキン摂ってるぅ?」を繰り返す。<br />
<br />
<br />
「……全然似てないよ 」<br />
「第一、水銀燈はそんな気持ちの悪い動きはしないのだわ 」<br /><br />
「むきー!言いたい放題言いやがってですぅ! 」<br />
そんな風にジタバタと暴れだした翠星石をたしなめながら、真紅は心強い笑顔を浮かべた。<br />
「良い事、翠星石。…この私が見本を見せてあげるわ 」<br /><br />
そう言うと、真紅はスタスタと二人の前を歩き…ピタリと立ち止まると、ゆっくり振り返った。<br />
「乳酸菌とぉるのだわぁ? 」<br /><br />
「これっぽっちも似てないですぅ… 」<br />
「完全に原型を留めてないね… 」<br /><br />
「………そ…そう…… 」<br />
小さく呟いた真紅の目には、太陽の光が眩しく…そっと、目元を隠した。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
その頃、水銀燈は…!<br /><br />
「へくしょん!…うぅ…少し冷えすぎたわねぇ… 」<br />
クーラーのリモコンを操作していた。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
酷熱のアスファルトを歩き続け、やっとの事でスーパーまで辿り着いた翠星石御一行。<br />
<br /><br />
棚に並んだ食材の選別をしている翠星石に、真紅が声をかけた。<br />
「そう言えば、翠星石…あなた、料理は出来るの? 」<br />
「当然ですぅ~! 」<br />
さらりと答える翠星石。<br /><br />
翠星石は…休日などに、趣味でお菓子作りをしていて…<br />
そのお陰で、大体の料理は作れる程の腕にまで到っていた。<br /><br />
それはさておき…<br />
真紅はちょっと戸惑った表情で、今度は蒼星石に尋ねてみた。<br />
帰って来た答えは「翠星石程じゃないけど、僕も得意だよ」という言葉。<br />
きっと蒼星石の事だ…多大な謙遜が入っている事だろう…。<br /><br />
真紅は内心、焦った。<br /><br />
と、そんな真紅の気も知らず…蒼星石が逆に聞き返してきた!<br />
「それで真紅。君はどうなんだい? 」<br /><br />
「ひぇえ!?ええ!も、もちろん、ととと得意なのだわ! 」<br />
ちょっと声が裏返ったけど、大丈夫。今の私は最高に落ち着いている。<br />
自分にそう言い聞かせながら、真紅は続ける。<br />
「い、家でもお父様の為に色々…創ったりしてるわ! 」<br /><br />
「へえ、そうなんだ。何をよく作るんだい? 」<br />
無邪気な笑顔で蒼星石は尋ねてくる。悪意が無いだけに、なおさら厄介だ。<br /><br />
「そそそそれは………………冷やっこ…? 」<br />
<br /><br />
【冷やっこの作り方】<br />
1.トウフを皿に乗せる。<br />
2.醤油をかける。<br />
3.終了。<br /><br /><br />
空調の効いたはずのスーパーの店内にも関わらず、真紅の顔からは汗が流れ出る。<br />
流石の蒼星石も「まずい事きいちゃったなぁ」と思った。<br /><br /><br />
その頃翠星石は、試食コーナーのおばちゃんの目を盗んで、試食品をパクパク食べていた。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
その頃、水銀燈は…!<br /><br />
「……退屈ねぇ… 」<br />
ワイドショーを見ながらぼやいてた。<br /><br />
◇ ◇ ◇<br /><br />
両手に買い物袋を下げた蒼星石。<br />
「料理は任せるから、これ位はしてあげるわ」と言って小さな袋を一つ持った真紅。<br />
自分用のお菓子の袋を大事そうに抱えた翠星石が、スーパーの自動ドアから出てきた。<br /><br />
と…<br />
『ブロロ…ブゥーーーン』<br />
狙ってたとしか思えないタイミングで、目の前からバスが走り出した。<br />
<br /><br />
ああ、帰りも歩いて行くしかないかな。と蒼星石が考えた瞬間…!<br /><br />
「ほぁぁあー!!!待ちやがれですぅ!!このトンチキ!停まりやがれですぅ!! 」<br />
奇声を上げながらバスの後ろを猛然と追いかける翠星石。<br />
他人のフリをし始める真紅と蒼星石。<br /><br />
「てめーが翠星石を置いて行くなんざ10万年早いですぅ! 」<br />
翠星石は叫びながら、バスの後ろを走り続ける。<br />
「むきー!!聞こえてよーが聞こえてまいが、さっさと停まりやがれですぅ!! 」<br /><br />
バスと翠星石は、そのまま見えなくなるまで走り続けた。<br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br />
水銀燈が完全に暇をもてあまし、意味も無く携帯を眺めたりしていると……<br /><br />
『ピーンポーン』<br />
やっとこさ、翠星石達が帰って来たチャイムが聞こえた。<br /><br />
退屈で困っていたと悟られぬように、わざと時間をかけて玄関まで行く水銀燈。<br />
「はいはぁい♪ 」<br />
そう言いながら扉を開くと……<br /><br />
「た…ただいま…ですぅ… 」<br />
そこにはぜーぜー肩で息をしながら、滝のように汗を流している翠星石の姿が!<br />
<br /><br />
「ちょっとぉ…どうしたのよぉ、その格好…。それに真紅達は? 」<br /><br />
水銀燈の質問に答える前に、翠星石はそのままトタトタと部屋に上がり…<br />
クーラーの効いた部屋の真ん中で、コロンと横になった。<br />
「ふぃ~…翠星石は一人で走って帰ってきたから、知らんですぅ…… 」<br /><br />
それだけを言い残すと、翠星石は疲れたのか、そのままスヤスヤとお昼寝タイムに突入した。<br /><br /><br />
勝手に他人の部屋で昼寝を始めた翠星石。<br />
その姿を眺めながら…水銀燈はため息をついた。<br /><br />
確かに、翠星石を始め、真紅も蒼星石も、妙な連中だけど…それでも…<br />
この子達と一緒に居ると、退屈だけはしない。<br />
ほんの少しだけ、それが素敵な事にも思えた。<br /><br />
水銀燈はちょっと思いついて、キッチンへと向かう。<br />
ヤカンに火を入れ、普段はあまり飲まない紅茶の葉を取り出す。<br /><br />
この炎天下を歩いているあの子達に、部屋に来るなり熱々の紅茶を淹れてあげよう。<br />
すまし顔で飲んでみせるだろうか?それとも、熱さに顔をしかめるだろうか?<br /><br />
それを想像してみるのも、また楽しかった。<br /><br />
そうこうしている内に、お湯が沸いた音と、チャイムの音が部屋の中に響き渡る。<br />
水銀燈は、悪戯心の赴くままに笑顔を浮かべ、扉を開いた。 <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />
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