「この町大好き!増刊号5」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「この町大好き!増刊号5」(2008/07/23 (水) 23:48:38) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
<dl><dd>
<div align="left">
<p><br />
「おお!?見るですよ!今、学校がチラッと見えたですぅ!! 」<br />
電車の4人掛けのボックスシートに腰掛け、窓に噛り付いていた翠星石が嬉しそうにはしゃぐ。<br /><br />
「他の乗客がいないとは言え、騒ぐのはみっともないわよ。翠星石 」<br />
同じように窓に張り付きながらも、真紅は翠星石をたしなめる。<br />
「…全く、二人とも子供ねぇ… 」<br />
窓際の席を取られ、ちょっと拗ねた水銀燈がぼやく。<br />
「はは……でも、僕も今から楽しみだよ 」<br />
今日ばかりは、蒼星石の笑顔も苦笑いじゃあなかった。<br /><br />
学園生活。部活。夏休み。<br />
彼女達は今、合宿という名の旅行の真っ只中。ちなみに顧問の先生は置いてきた。<br /><br />
予算の都合で普通電車。<br />
それでも目的地に近づくにつれ、彼女達の顔にも笑顔が溢れはじめる。<br /><br /><br />
「だが……<br />
この時は、誰も予想だにしてなかった……<br />
まさか…楽しい旅行が『あんな事』になるなんて………ですぅ。…… 」<br /><br /><br />
「……翠星石、妙なナレーションをはさむのは止めて頂戴 」<br />
不吉な事を言いだした翠星石に、真紅がすかさずつっこんだ。 <br /><br /><br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ この町大好き! ☆ 増刊号5 ☆ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />
<br /><br /><br />
「真紅の考えは甘いですよ!<br />
夏。旅行。海。とくれば……遭難。無人島。と続くに決まってるですぅ~! 」<br />
翠星石は座ったまま足をブンブン振り、(何故か)満面の笑みで声を上げた。<br /><br />
「いや…普通は『素敵な恋の思い出』とかじゃあないかな…? 」<br />
「一般的には、そっちよねぇ…… 」<br />
蒼星石と水銀燈が苦笑いを浮かべた。<br /><br />
「私はそんなハレンチな事は姉として許さんですよ!!<br />
蒼星石に近づく悪い虫は、全部この翠星石がコテンパンにしてやるですぅ!! 」<br />
翠星石は横に座った蒼星石の腕をとりながらジタバタする。<br /><br />
「じゃあ、どんな相手なら、お姉さんとして認めてあげるの? 」<br />
向かいに座った真紅が楽しそうに微笑む。<br />
「あらぁ?それは私も聞きたいわねぇ…? 」<br />
真紅の横に座る水銀燈も、ニヤニヤしながら翠星石を見る。<br /><br />
「う~ん……そうですねぇ……こう…優しい感じがする人が良いですぅ。<br />
あと、おちょくり甲斐がある方が、私は楽しいと思うですよ。<br />
で、そんな人と休日二人でのんびりデートとかしたり……その内、どうしてもと頭を下げるなら…<br />
そんな時には翠星石も、しゃーなしで手くらいは繋いでやらん事も……きゃーー! 」<br />
暴走しはじめた脳と夢見がちな瞳。いつの間にか、自分の理想について喋っている翠星石。<br /><br />
「って、何言わせるですか!! 」<br />
少し赤くなった顔で我に返り、翠星石は足をジタバタさせる。<br /><br />
「……翠星石に近づく悪い虫は全部…僕がやっつけないとね… 」<br /><br />
何だか今しがた聞いたようなセリフが、今度は蒼星石の口からボソリと漏れた。<br />
<br />
◆ ◇ ◆<br /><br />
カタン コトン… カタン コトン…<br /><br />
電車はゆっくり、目的地に向かう。<br />
のんびりとした時間の流れる車内には、4人の乗客だけ。<br /><br /><br />
「そう言えばこの前、良いリーフを手に入れたのだわ。<br />
せっかくだし、お茶にしましょうか 」<br />
真紅がそう言い、網棚から鞄を下ろして、そこから魔法瓶を取り出す。<br /><br />
「おお!それは良いですね!こんな時こそ、翠星石の出番ですよ! 」<br />
そう言い翠星石も自分の鞄を下ろし、皆の前でバッと開く。<br /><br />
中には、お菓子がギッシリ詰まっていた。<br /><br />
「…って、翠星石…あなた、着替え持って来てないじゃないのよぉ 」<br />
水銀燈が可哀想な子を見る目を翠星石に向ける。<br />
「……いや…僕の鞄に…無理やり…ね…… 」<br />
蒼星石が遠い目をしていた。<br /><br />
◆ ◇ ◆<br /><br />
カタン コトン… カタン コトン…<br /><br />
電車はゆっくり、目的地へ向かう。<br />
クーラーの効いた車内に居るのは4人だけ。<br />
温かな湯気の上がる紅茶が、冷房で冷えた体に心地よかった。<br />
<br />
<br />
向かい合わせの二人掛けの椅子。<br />
4人がそこで、のんびり過ごす。と……<br /><br />
「そう言えば…確か蒼星石がトランプ持ってきてたですよ! 」<br />
そう叫ぶや否や、翠星石は蒼星石の鞄を勝手に物色し始めた。<br /><br />
「え…いや…確かに持ってきたけど…何で知ってるの?って、何で勝手に僕の鞄開けてるの!? 」<br />
ちょっと慌てる蒼星石の声は「見つけたですぅ~!」という翠星石の声にかき消された。<br /><br />
…という訳で、ボックス席でトランプ遊び。ゲームはオーソドックスに、『ババ抜き』<br /><br />
暫く、キャッキャとゲームは続き…そして、終盤に差し掛かった。<br /><br />
翠星石は、二枚だけ残ったカードを水銀燈に向け…ニヤリとしながら、足を組む。<br />
「さ…て。水銀燈…もし私が…『右のカードがジョーカー』と言ったら…信じるですか…? 」<br /><br />
「……さぁ?……どうかしらねぇ……? 」<br />
水銀燈も、そんな翠星石に挑むように笑みを浮かべる。<br />
(翠星石の性格を考えると……彼女は…絶対に、正直に言ったりしない……だったら…! )<br />
そして水銀燈は…自分の考えを信じ、『左』のカードに手を伸ばした…。<br /><br />
翠星石の手から一枚のカードを取り…水銀燈はそれを手元に引き寄せた。<br />
そして、そのカードの柄を確認しようとした瞬間―――!<br /><br />
「ヒッヒッヒ……これを見るですぅ… 」<br />
翠星石はそう言いながら、残った一枚のカードの柄を…ハートが3コ散りばめられたカードの柄を見せてきた!<br />
<br />
「嘘でしょぉ!? 」<br />
自らの予想が外れた事に驚きの声を上げながら、水銀燈が引き寄せた一枚の絵を確認する。<br /><br />
……普通にジョーカーなんかじゃあなく、スペードのA。<br />
「………え? 」<br />
素っ頓狂な声を上げる水銀燈。<br /><br />
「ジョーカーなんて始めから持ってないですぅ!<br />
いやー、ハッタリに引っかかって本気で考える水銀燈の顔、そりゃあ見ものでしたよ!! 」<br />
お腹を抱えて転げまわる翠星石。<br /><br />
数分後…<br /><br />
綺麗に箱にしまわれたトランプを、頭の上にタンコブが出来た翠星石が鞄に戻していた。<br /><br />
◆ ◇ ◆<br /><br />
カタン コトン… カタン コトン…<br /><br />
4人以外、誰も居ない車内。<br />
優しく揺れるリズムに合わせて、静かな寝息だけが聞こえてきた。<br /><br /><br />
コトン、と電車が揺れ、その拍子に真紅は目を覚ます。<br /><br />
隣に座る水銀燈も、斜め向かいの蒼星石も、座りながらスヤスヤとお昼寝中。<br />
年齢より随分幼く見えるあどけない二人の寝顔に、真紅は思わず目を細める。<br /><br />
そして、向かいに座り、流れ行く景色を見つめている翠星石に気が付いた。 <br /><br />
<br />
彼女の目は、どこか遠い所を見つめるようで…真紅は思わず、声をかけた。<br /><br />
「どうしたの、翠星石。考え事? 」<br /><br />
真紅の言葉に翠星石は肩をピクッと反応させ…そして、窓の外を見つめたまま答えた。<br /><br />
「…いや……ちょうど今、忍者を飛ばしてる所ですぅ…… 」<br />
「忍者? 」<br />
「そうです。忍者ですぅ。こう…流れる町の、ビルの上を…ピョーン、ピョーンと……<br />
テレビゲームみたいで、案外これが楽しいんですよ? 」<br />
じっと景色を見つめたまま、翠星石が答える。<br /><br />
「そう…… 」<br />
悩み事でもあるのかしら?そう考えていた自分の空回りっぷりが恥ずかしい。<br />
真紅は短く答えると、翠星石と同じように窓の外の景色へと視線を向けた。<br /><br />
過ぎ去る景色を見つめる真紅の目には……<br />
ビルの上をピョーン、ピョーンと渡る『くんくん探偵』の姿が見えたり見えなかったり……<br /><br />
◆ ◇ ◆<br />
<br />
カタン コトン… カタン コトン…<br /><br />
電車はゆっくり進み。やがて郊外へ。<br />
見える景色も、ビルから民家へ。そして、山へと変わっていく。<br /><br />
<br />
「むにゃ……むにゃ……もう食べれんですぅ……………ハッ!? 」<br />
いつの間にかまどろんでいた翠星石は、自分の寝言でビクッと目を覚ました。<br /><br />
正直、こんな寝言を聞かれていたらと思うと…恥ずかしい。<br />
モジモジしながら上目遣いに皆の様子を見てみると…全員、窓の外の景色に釘付けだった。<br /><br />
はて?何かあるんですかね?<br />
翠星石もつられて窓の外へと視線を移すと……<br /><br />
どこまでも広がる、空の青。<br />
それを映して静かに揺れる、水の青。<br /><br />
これは……<br />
「海ですぅ!! 」<br />
一気にテンションが上がる。<br />
</p>
<div align="left"> <br />
翠星石は揺れる電車の中で思いっきり立ち上がった。<br />
「真紅!!浮き輪の準備をするですよ!! 」<br />
「落ち着きなさい、翠星石。まだ早すぎるのだわ 」<br /><br />
「水銀燈!!早速、水着に着替えるですよ!! 」<br />
「……何で電車の中で着替えなくちゃいけないのよぉ… 」<br /><br />
「蒼星石!!さっさと準備するですぅ!早くしないと、海が逃げるかもしれねーですよ!? 」<br />
「いや…それは無いと思うよ? 」<br /><br /><br />
電車の中で、少女の叫びとそれをたしなめる声だけが楽しげに響く。<br /><br /><br />
旅行はまだ、始まったばかり。 <br /><br /><br /><br /><br /><br />
</div>
</div>
</dd>
</dl>