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『少女ハ世界ヲ拡張スル』」(2008/08/29 (金) 20:01:52) の最新版変更点

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<p>「VCは客人に茶のひとつも出せないのかしら?」<br /> 「いつからここは喫茶店になったんだ? 茶が飲みたいのならお前の巣に帰れ」<br /> 「ほれ、ジュン。さっさと課長にこいつらのこと説明してくるですよ」<br /> 「ココハドコ ボクハダレ」<br /> 「ねぇ、照明キツすぎなぁい?」<br /> 「・・・うーん。やっぱり国営だけあって豪華だなぁ」<br /> 「・・・スー、うにゅーがやまのよーにあるのよー」<br /> 「貧乏な民間組織と比べるのはアレなのでは」<br /> 「お茶が入りました」<br /> 「え? 私の分は? 私が頼んだはずなのに」<br /> 「淹れて参ります」<br /> 「ダージリンがいいわ」<br /> 「かしこまりました」<br /><br /> chaos<br /> 1 無秩序,大混乱 《★【類語】 ⇒→confusion》.→<br /> 2 [通例 C] (天地創造以前の)混沌(こんとん) (→cosmos).<br /> ギリシャ語「深い淵(ふち)」の意;  chaotic<br /><br /> ~新英和中辞典 第6版 (研究社)より~<br /><br /> 狭い応接間に、えーと・・・いち、に、さん、し・・・私も含め8人がこの部屋に詰め込まれている。<br /> 私、水銀燈。<br /> 読心術を使う『神の為す殺戮(マエストロ)』、ジュン。<br /> 停止の魔法と対人外の結界を弄ぶ少女、翠星石。<br /> 活殺自在の奇剣と不幸体質の持ち主、蒼星石。<br /> 心に白薔薇を飼う幼い子供、雛苺。<br /> 異国の剣、異国の技術を操る異国の者、柏葉。<br /> そして今のところ正体不明のチビ女、真紅。<br /> そして更に正体不明のメイド(?)、薔薇水晶。<br /> ぶっちゃけた話、私にとってはこの部屋、正体不明ばっかりの異空間である。<br /> 半吸血鬼の分際で言えたことではないのだけれど。<br /><br /> 「そいじゃあ、翠星石と蒼星石でこいつの話を聞いといて。僕はこいつら連れて課長のところまで行ってくるわ」<br /> 「ワカッタヨ」<br /> 「・・・さっきので変なところ打っちゃったんだな。可哀想に」<br /> 「グリーンダヨ」<br /> 「もういいよわかったよそれはむしろ翠星石だろ」<br /> 姉が医者でよかったね、蒼星石。<br /> 「ジュン、できるだけ早く帰ってきなさい」<br /> これは真紅の弁である。あんたは黙ってなさいよ。<br /><br /> 「水銀燈」<br /> ジュンが話しかけてくる。<br /> 「真紅が気に入らないか」<br /> 応接間から課長の部屋へ続く廊下をあるく途中。<br /> 「ええ。ちっちゃいくせに偉そうで腹が立つわ」<br /> ジュンが苦笑する。<br /> 「実際のところ、あいつは偉いよ。あいつが所属しているのは、<br />  吸血鬼とか、人外が起こした犯罪に対処する『対人外機動隊』。そしてあいつは機動隊長。<br />  本部に戻ればあいつにも上司はいるが、現場だとあいつがトップだ」<br /> 「え・・・」<br /> 私は絶句する。きっと目もものすごい見開かれているに違いない。<br /> 「じゃ・・・じゃあ、もしかして・・・あいつの方がジュンより偉かったり・・・するの?」<br /> 「まぁ、あいつの方が高給取りではあるね」<br /> 後ろで柏葉が小さく笑う。<br /> 「そんなこと言っちゃって。水銀燈。いいこと教えてあげる。あの子はもともと桜田君の部下でね。<br />  彼女は桜田君がVCに移ったからその後釜に座っているのよ」<br /> 「へぇ」<br /> ん?<br /> つまりもともとジュンがその『対人外云々』の現場のボスをやってたってこと?<br /> 「んまぁ、な」<br /> ジュンが私の心へと、思考へと踏み込む。<br /> 「それじゃあ、ジュンがやたら強いのは、その『対人うんたらかんたら』にいたからなのかしら?」<br /> ジュンは返事をしない。<br /> 「・・・それはまた別の話だよ」<br /> ジュンは一言、そう零した。<br /> 何となく、話しづらい雰囲気。<br /> そしていつの間にやら、私たちは課長室にたどり着いていた。<br /> 「課長は、まぁ、変わり者だから。あんまり言ってること、真に受けないようにな」<br /> ジュンはそういって、課長室の部屋を開いた。<br /><br /> 「やぁやぁやぁやぁ! 桜田君! よく生きて帰ってきてくれたね!<br />  それもこんなにべっぴんさんを連れて! この色男め! そのモテパワーをちょっとだけでも分けて欲しいねぇ!」<br /> 私たちが部屋に入ったとたん、金髪の男が挨拶もなしにまくし立てる。<br /> それをジュンは軽くあしらう。<br /> 「からかわないで下さいよ。それに槐課長には薔薇水晶たちがいるでしょうに」<br /> 「そうだねぇ。ふふふ、可愛だろうウチの薔薇水晶は。一体どう?」<br /> 金髪の男性はふぅ、と溜息をつく。<br /> 「かまいませんよ。メイドが必要になるような場所には住んではいませんから。<br />  あ、でも、あとで一体だけ、できればオーダーメイドで欲しいんですが」<br /> 男性は下品に笑う。<br /> 「ふふふ、桜田君。何に使うんだね。おじさんに言ってご覧」<br /> 「あー、ご心配なく。課長が思っているようなことにゃあ使いませんから」<br /> ジュンはまともに相手にしない。<br /> そう言われるなり、男は微笑んだ。<br /> 「まぁいい。その話はまた後で聞こう。<br />  で、この銀髪の子が水銀燈君、ほくろの子が柏葉君、そっちの小さいのが雛苺ちゃん。<br />  そして・・・雪華綺晶だね。薔薇水晶が一体欲しいというのは、ふむ。そういうわけか」<br /> 「察しが早くて助かります、課長」<br /> 男は、私たち『部外者』に微笑みかける。<br /> 「ようこそ、我らが砦に。私は対人外統合組織、VC部の課長をしている、槐という者だ。よろしく」<br /> 眠りこけている雛苺、雪華綺晶以外、つまり私と柏葉はよそよそしく挨拶をする。<br /> 槐、と名のった男は私と向き合う。<br /> 蒼い瞳からは、先ほどとはうって変わって、深い知性が伺える。<br /> ・・・道化、か。<br /> そしてそれが私を見据える。威圧を受ける。<br /><br /> 「水銀燈君、君はこの桜田君から私に、『部下にしたい』という手紙を貰っている。<br />  私としては、別にどうだって構わない。<br />  一つ付け加えるなら、仕事をする手が増える事は、歓迎こそすれ忌避されるものではないと思っている。<br />  まぁゴタゴタと言ってしまったがね、要は君の意思次第ってことだよ」<br /> 槐氏は、そこで一呼吸置く。<br /> 「ここでVCとして働くか、やっぱりやめておくか」<br /> 鋭い槐氏の眼差しが、ふっと、緩む。<br /> そして、自由にしてくれ、と呟いた。<br /> ・・・ッフ<br /> 愚問。<br /> 何を今更聞いているのだろうか。<br /> 私は家を失った。確かに家は、父親との思い出が詰まった、私の父殺しの罪が充満した、私の財産だった。<br /> けれどそれと同時に私は友を得た。<br /> 私は今、現在進行形で思い出を作っている。友を知り、仲間を知り、同胞を知った。<br /> 私の未来は今、作られているのだ。今。<br /><br /> 進む事に。<br /> どうして疑問など持つことがあるのだろう。<br /> 進むことしか出来ない私は。<br /> 振り返れない私は。<br /> 立ち止まることはできない。<br /><br /> 隣でジュンが噴き出した。<br /> 私はびっくりする。<br /> そうか。<br /> この人は、心が読めるんだった。<br /> 今の思考も全部読まれていたと考えると、泣ける。<br /> まぁいい。<br /> とりあえず言っておこう。<br /> 「勿論です。是非、ここで働かせてください」<br /> きっと私は。<br /> 満面の笑みをたたえて。<br /> そう言っていた事だろう。<br /> ジュンも、私の新しい上司、『槐課長』も微笑んでいた。<br /> 一方。左斜め後ろのほくろは、無表情だった。<br /><br /> 「それじゃあ、お前は戻っていてくれ。後は柏葉の話があるから」<br /> ジュンはそういって、私を部屋から締め出した。<br /> 勢いよく、さっき自分が出て行ったばかりのドアが閉まる。<br /> あまりいい気分はしないものね。<br /> ここにくるまでは緊張していて、よく周りを見れていなかったが、<br /> うん、なかなかに凝った装飾だわね。燭台や、カーペットも、よく掃除されている。<br /> 薔薇水晶。<br /> やはり『あれ』が、ここの雑務を執り行っているのだろうか。<br /> 私はこの施設に入ってから、3回、『あれ』を見た。<br /> 1,2回目は廊下ですれ違った際に、3回目は私たちに飲み物を運んできたときに。<br /> 3回目は、正直どうでもいい。<br /> 問題は1,2回目である。<br /> 一直線の廊下。<br /> そこで、『同じ方向から来る』彼女を、2回見たのだ。<br /> あんな芸当、カラクリ屋敷か、双子(以上)かなんかでないと、説明できない。<br /> 催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ 断じてない。<br /> もっと恐ろしいものの 片鱗を味わった気分だった。<br /> そして先ほどのジュンと、槐課長の二人の会話を思い出す。<br /><br /> 『そうだねぇ。ふふふ、可愛いと思うだろうウチの薔薇水晶は。一体どう?』<br /><br /> 『かまいませんよ。メイドが必要になるような場所には住んではいませんから。<br />  あ、でも、あとで一体だけ、できれば特注で欲しいんですが』<br /><br /> ・・・一体?<br /> 彼らは、やはり『あれ』を人として数えてはいなかった。<br /> ならばあれは。あれは。あれは一体。<br /> 「何なのかしらぁ、『薔薇水晶』って」<br /> 私は物思いに耽っていて、気がつかなかった。<br /> 私の眼前に迫っていた影に。<br /> 噂をすれば、影が立つ。<br /> 「ひぃっっっ!!」<br /> 「私のこと ききたい?」<br /> 眼帯、紫がかった髪の毛。メイド服。<br /> 予想通り、抑揚のまったくない、合成音声のような声。<br /> 薔薇水晶がそこにいた。<br /><br /><br /> 第二十夜ニ続ク<br /><br /><br /> 不定期連載蛇足な補足コーナー「男たちの挽歌」<br /><br /> ジ「よーやく! 二人目の男性キャラです」<br /> 槐「フヒヒwwwwサーセンwwwwwwww」<br /> ジ「このSSの槐課長は、たぶんこんな感じになると思います」<br /> 槐「酷い言いようだね桜田君。君はいつのまにそんなに偉くなったのかな」<br /> ジ「やだなぁ課長。ちょっとからかっただけですよ。真に受けるなんて、大人気ない」<br /> 槐「あそう? そーだったのね。ゴメンネー。全く出番なかったもんでさー」<br /> ジ「たぶんここの(トビセカの)槐さん、このスレの槐さんの中でも一番ジャンクに近いと思います」<br /> 槐「それでも仕事はちゃんとするがね」<br /> ジ「はい、そこはいいところだと思いますよ」<br /> 槐「実は実戦だって行けるのだ。『人形遣い(ドールマスター)』と呼ばれてブイブイ言わしてたあの頃・・・。<br />   今となってはもう全て過去のこと・・・。今は事務職と薔薇水晶こそが恋人さ」<br /> ジ「薔薇水晶は娘でしょう。それと、機会があったら、活躍させられると思いますよ」<br /> 槐「ゑー。正直働きたくねーよ私は」<br /> ジ「逃げちゃダメだ」<br /> 槐「気持ち悪い」<br /> ジ「あなたが言うか」<br /><br /><br /> 終</p>
<p>「VCは客人に茶のひとつも出せないのかしら?」<br /> 「いつからここは喫茶店になったんだ? 茶が飲みたいのならお前の巣に帰れ」<br /> 「ほれ、ジュン。さっさと課長にこいつらのこと説明してくるですよ」<br /> 「ココハドコ ボクハダレ」<br /> 「ねぇ、照明キツすぎなぁい?」<br /> 「・・・うーん。やっぱり国営だけあって豪華だなぁ」<br /> 「・・・スー、うにゅーがやまのよーにあるのよー」<br /> 「貧乏な民間組織と比べるのはアレなのでは」<br /> 「お茶が入りました」<br /> 「え? 私の分は? 私が頼んだはずなのに」<br /> 「淹れて参ります」<br /> 「ダージリンがいいわ」<br /> 「かしこまりました」<br /><br /> chaos<br /> 1 無秩序,大混乱 《★【類語】 ⇒→confusion》.→<br /> 2 [通例 C] (天地創造以前の)混沌(こんとん) (→cosmos).<br /> ギリシャ語「深い淵(ふち)」の意;  chaotic<br /><br /> ~新英和中辞典 第6版 (研究社)より~<br /><br /> 狭い応接間に、えーと・・・いち、に、さん、し・・・私も含め8人がこの部屋に詰め込まれている。<br /> 私、水銀燈。<br /> 読心術を使う『神の為す殺戮(マエストロ)』、ジュン。<br /> 停止の魔法と対人外の結界を弄ぶ少女、翠星石。<br /> 活殺自在の奇剣と不幸体質の持ち主、蒼星石。<br /> 心に白薔薇を飼う幼い子供、雛苺。<br /> 異国の剣、異国の技術を操る異国の者、柏葉。<br /> そして今のところ正体不明のチビ女、真紅。<br /> そして更に正体不明のメイド(?)、薔薇水晶。<br /> ぶっちゃけた話、私にとってはこの部屋、正体不明ばっかりの異空間である。<br /> 半吸血鬼の分際で言えたことではないのだけれど。<br /><br /> 「そいじゃあ、翠星石と蒼星石でこいつの話を聞いといて。僕はこいつら連れて課長のところまで行ってくるわ」<br /> 「ワカッタヨ」<br /> 「・・・さっきので変なところ打っちゃったんだな。可哀想に」<br /> 「グリーンダヨ」<br /> 「もういいよわかったよそれはむしろ翠星石だろ」<br /> 姉が医者でよかったね、蒼星石。<br /> 「ジュン、できるだけ早く帰ってきなさい」<br /> これは真紅の弁である。あんたは黙ってなさいよ。<br /><br /> 「水銀燈」<br /> ジュンが話しかけてくる。<br /> 「真紅が気に入らないか」<br /> 応接間から課長の部屋へ続く廊下をあるく途中。<br /> 「ええ。ちっちゃいくせに偉そうで腹が立つわ」<br /> ジュンが苦笑する。<br /> 「実際のところ、あいつは偉いよ。あいつが所属しているのは、<br />  吸血鬼とか、人外が起こした犯罪に対処する『対人外機動隊』。そしてあいつは機動隊長。<br />  本部に戻ればあいつにも上司はいるが、現場だとあいつがトップだ」<br /> 「え・・・」<br /> 私は絶句する。きっと目もものすごい見開かれているに違いない。<br /> 「じゃ・・・じゃあ、もしかして・・・あいつの方がジュンより偉かったり・・・するの?」<br /> 「まぁ、あいつの方が高給取りではあるね」<br /> 後ろで柏葉が小さく笑う。<br /> 「そんなこと言っちゃって。水銀燈。いいこと教えてあげる。あの子はもともと桜田君の部下でね。<br />  彼女は桜田君がVCに移ったからその後釜に座っているのよ」<br /> 「へぇ」<br /> ん?<br /> つまりもともとジュンがその『対人外云々』の現場のボスをやってたってこと?<br /> 「んまぁ、な」<br /> ジュンが私の心へと、思考へと踏み込む。<br /> 「それじゃあ、ジュンがやたら強いのは、その『対人うんたらかんたら』にいたからなのかしら?」<br /> ジュンは返事をしない。<br /> 「・・・それはまた別の話だよ」<br /> ジュンは一言、そう零した。<br /> 何となく、話しづらい雰囲気。<br /> そしていつの間にやら、私たちは課長室にたどり着いていた。<br /> 「課長は、まぁ、変わり者だから。あんまり言ってること、真に受けないようにな」<br /> ジュンはそういって、課長室の部屋を開いた。<br /><br /> 「やぁやぁやぁやぁ! 桜田君! よく生きて帰ってきてくれたね!<br />  それもこんなにべっぴんさんを連れて! この色男め! そのモテパワーをちょっとだけでも分けて欲しいねぇ!」<br /> 私たちが部屋に入ったとたん、金髪の男が挨拶もなしにまくし立てる。<br /> それをジュンは軽くあしらう。<br /> 「からかわないで下さいよ。それに槐課長には薔薇水晶たちがいるでしょうに」<br /> 「そうだねぇ。ふふふ、可愛だろうウチの薔薇水晶は。一体どう?」<br /> 金髪の男性はふぅ、と溜息をつく。<br /> 「かまいませんよ。メイドが必要になるような場所には住んではいませんから。<br />  あ、でも、あとで一体だけ、できればオーダーメイドで欲しいんですが」<br /> 男性は下品に笑う。<br /> 「ふふふ、桜田君。何に使うんだね。おじさんに言ってご覧」<br /> 「あー、ご心配なく。課長が思っているようなことにゃあ使いませんから」<br /> ジュンはまともに相手にしない。<br /> そう言われるなり、男は微笑んだ。<br /> 「まぁいい。その話はまた後で聞こう。<br />  で、この銀髪の子が水銀燈君、ほくろの子が柏葉君、そっちの小さいのが雛苺ちゃん。<br />  そして・・・雪華綺晶だね。薔薇水晶が一体欲しいというのは、ふむ。そういうわけか」<br /> 「察しが早くて助かります、課長」<br /> 男は、私たち『部外者』に微笑みかける。<br /> 「ようこそ、我らが砦に。私は対人外統合組織、VC部の課長をしている、槐という者だ。よろしく」<br /> 眠りこけている雛苺、雪華綺晶以外、つまり私と柏葉はよそよそしく挨拶をする。<br /> 槐、と名のった男は私と向き合う。<br /> 蒼い瞳からは、先ほどとはうって変わって、深い知性が伺える。<br /> ・・・道化、か。<br /> そしてそれが私を見据える。威圧を受ける。<br /><br /> 「水銀燈君、君はこの桜田君から私に、『部下にしたい』という手紙を貰っている。<br />  私としては、別にどうだって構わない。<br />  一つ付け加えるなら、仕事をする手が増える事は、歓迎こそすれ忌避されるものではないと思っている。<br />  まぁゴタゴタと言ってしまったがね、要は君の意思次第ってことだよ」<br /> 槐氏は、そこで一呼吸置く。<br /> 「ここでVCとして働くか、やっぱりやめておくか」<br /> 鋭い槐氏の眼差しが、ふっと、緩む。<br /> そして、自由にしてくれ、と呟いた。<br /> ・・・ッフ<br /> 愚問。<br /> 何を今更聞いているのだろうか。<br /> 私は家を失った。確かに家は、父親との思い出が詰まった、私の父殺しの罪が充満した、私の財産だった。<br /> けれどそれと同時に私は友を得た。<br /> 私は今、現在進行形で思い出を作っている。友を知り、仲間を知り、同胞を知った。<br /> 私の未来は今、作られているのだ。今。<br /><br /> 進む事に。<br /> どうして疑問など持つことがあるのだろう。<br /> 進むことしか出来ない私は。<br /> 振り返れない私は。<br /> 立ち止まることはできない。<br /><br /> 隣でジュンが噴き出した。<br /> 私はびっくりする。<br /> そうか。<br /> この人は、心が読めるんだった。<br /> 今の思考も全部読まれていたと考えると、泣ける。<br /> まぁいい。<br /> とりあえず言っておこう。<br /> 「勿論です。是非、ここで働かせてください」<br /> きっと私は。<br /> 満面の笑みをたたえて。<br /> そう言っていた事だろう。<br /> ジュンも、私の新しい上司、『槐課長』も微笑んでいた。<br /> 一方。左斜め後ろのほくろは、無表情だった。<br /><br /> 「それじゃあ、お前は戻っていてくれ。後は柏葉の話があるから」<br /> ジュンはそういって、私を部屋から締め出した。<br /> 勢いよく、さっき自分が出て行ったばかりのドアが閉まる。<br /> あまりいい気分はしないものね。<br /> ここにくるまでは緊張していて、よく周りを見れていなかったが、<br /> うん、なかなかに凝った装飾だわね。燭台や、カーペットも、よく掃除されている。<br /> 薔薇水晶。<br /> やはり『あれ』が、ここの雑務を執り行っているのだろうか。<br /> 私はこの施設に入ってから、3回、『あれ』を見た。<br /> 1,2回目は廊下ですれ違った際に、3回目は私たちに飲み物を運んできたときに。<br /> 3回目は、正直どうでもいい。<br /> 問題は1,2回目である。<br /> 一直線の廊下。<br /> そこで、『同じ方向から来る』彼女を、2回見たのだ。<br /> あんな芸当、カラクリ屋敷か、双子(以上)かなんかでないと、説明できない。<br /> 催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ 断じてない。<br /> もっと恐ろしいものの 片鱗を味わった気分だった。<br /> そして先ほどのジュンと、槐課長の二人の会話を思い出す。<br /><br /> 『そうだねぇ。ふふふ、可愛いと思うだろうウチの薔薇水晶は。一体どう?』<br /><br /> 『かまいませんよ。メイドが必要になるような場所には住んではいませんから。<br />  あ、でも、あとで一体だけ、できれば特注で欲しいんですが』<br /><br /> ・・・一体?<br /> 彼らは、やはり『あれ』を人として数えてはいなかった。<br /> ならばあれは。あれは。あれは一体。<br /> 「何なのかしらぁ、『薔薇水晶』って」<br /> 私は物思いに耽っていて、気がつかなかった。<br /> 私の眼前に迫っていた影に。<br /> 噂をすれば、影が立つ。<br /> 「ひぃっっっ!!」<br /> 「私のこと ききたい?」<br /> 眼帯、紫がかった髪の毛。メイド服。<br /> 予想通り、抑揚のまったくない、合成音声のような声。<br /> 薔薇水晶がそこにいた。<br /> そしてまるで笑おうとしているかのように、口元を歪めた。<br /><br /><br /> 第二十夜ニ続ク<br /><br /><br /> 不定期連載蛇足な補足コーナー「男たちの挽歌」<br /><br /> ジ「よーやく! 二人目の男性キャラです」<br /> 槐「フヒヒwwwwサーセンwwwwwwww」<br /> ジ「このSSの槐課長は、たぶんこんな感じになると思います」<br /> 槐「酷い言いようだね桜田君。君はいつのまにそんなに偉くなったのかな」<br /> ジ「やだなぁ課長。ちょっとからかっただけですよ。真に受けるなんて、大人気ない」<br /> 槐「あそう? そーだったのね。ゴメンネー。全く出番なかったもんでさー」<br /> ジ「たぶんここの(トビセカの)槐さん、このスレの槐さんの中でも一番ジャンクに近いと思います」<br /> 槐「それでも仕事はちゃんとするがね」<br /> ジ「はい、そこはいいところだと思いますよ」<br /> 槐「実は実戦だって行けるのだ。『人形遣い(ドールマスター)』と呼ばれてブイブイ言わしてたあの頃・・・。<br />   今となってはもう全て過去のこと・・・。今は事務職と薔薇水晶こそが恋人さ」<br /> ジ「薔薇水晶は娘でしょう。それと、機会があったら、活躍させられると思いますよ」<br /> 槐「ゑー。正直働きたくねーよ私は」<br /> ジ「逃げちゃダメだ」<br /> 槐「気持ち悪い」<br /> ジ「あなたが言うか」<br /><br /><br /> 終</p>

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