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「この町大好き！vol.4」(2008/06/24 (火) 22:30:53) の最新版変更点
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『もしゃ……もしゃ……』<br />
新聞部の部室から、何とも言えない音がする。<br /><br />
『もしゃ……もしゃ……』<br />
窓の外に降る雨は、梅雨の最期のあがきと言わんばかりの大雨。<br /><br />
『もしゃ……もしゃ……』<br />
真紅が新たな煎餅に手を伸ばす。<br /><br />
『もしゃ……もしゃ……』<br />
湿気で歯ごたえの無くなった煎餅を囲む４人の少女。<br /><br />
『もしゃ……もしゃ……』<br />
誰がどう好意的に解釈しても、異様な光景。<br /><br />
『もしゃ……もしゃ……』<br />
くぐもった咀嚼音以外、何の会話も聞こえない。<br /><br /><br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ～ この町大好き！ vol.4 ～ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br /><br /><br />
「いい加減にして頂戴！ 」<br />
最初にキレたのは、真紅だった。<br /><br />
<br /><br />
真紅は立ち上がり、机の上に置かれた煎餅の山を指し示した。<br />
「何が悲しくって、こんなお葬式みたいな雰囲気でお菓子を食べる事になったの！？ 」<br /><br />
「…それもこれも…この雨のせいですぅ… 」<br />
どんより顔で翠星石が煎餅をもしゃもしゃ食べる。<br /><br />
そう。<br />
誰のせいでもない。<br /><br />
全ては梅雨という名の魔物が成せる業だった。<br /><br />
「…そうね…ごめんなさい。取り乱したわ… 」<br />
真紅はそう言い、再び煎餅に手を伸ばした。<br /><br /><br />
食べ物を捨てる訳にもいかず…かといって、このまま置いていてはカビてしまう。<br />
仕方無しに、全員でふにゃふにゃした煎餅を（おなかの中に）処分しよう…<br /><br />
それが本日の新聞部の活動だった。<br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />
<br />
「…流石にこれは…しんどいね… 」<br />
いつもクールな蒼星石も、減る気配の見えない煎餅を前にゲッソリした。<br /><br />
「…もう、お腹一杯よぉ… 」<br />
水銀燈もしんどそうにため息を漏らした。<br /><br />
「認めたくないものね…若さ故の過ちは… 」<br />
食べ過ぎた真紅は椅子にもたれかかり、虚ろな目をしている。<br /><br /><br />
部員一同、満身創痍なのは誰の目にも明らかだった。<br /><br />
翠星石は…<br />
部長として苦肉の決断を迫られる。<br /><br />
このまま作戦（食事）を続けて、見えない勝機に賭けるか…それとも……<br /><br />
やがて…<br />
翠星石は静かに席を立ち、煎餅が大量に詰まった箱を手に取った。<br />
「…私に…考えがあるですよ…。こんな時は… 」<br />
静かな声で、全員の注目を集める。<br /><br />
「……丸投げですぅ！！ 」<br />
それは、人として最悪だ。<br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />
<br />
と、いう訳で。<br /><br />
翠星石たち新聞部は、とある別の部の活動場所までやってきた。<br /><br />
「ここの放送部の連中がコンテストに出場する、と聞いたですぅ。<br />
その彼女達にインタビューを行い…そして、『お礼』として煎餅を渡してやるですよ！ 」<br /><br />
何やら、人として大切な事を忘れ去っている翠星石の発言。<br />
だが…彼女には考えが有った。<br /><br />
勢い良く放送部の扉を開け放つと、そこには―――<br /><br /><br />
鉄の胃袋。悪食の神。雪華綺晶の姿が！<br /><br />
あと、薔薇水晶も。<br /><br /><br />
翠星石は二人に近づくと、早速インタビューの交渉を始めた。<br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br /><br />
とりあえず、お昼の放送の収録現場の見学は許可してもらえた。<br />
アポ無しで突撃してそこまで出来れば、まあ上出来だろう。<br /><br />
そして……<br />
<br /><br />
～～～～～<br /><br />
「皆さん、こんにちは。お昼の放送の時間です。<br />
本日は皆さんから受けた音楽のリクエストと、邦楽トップチャートをお届けしますわ 」<br />
「……… 」<br />
「ええ。お送りするのは、私、雪華綺晶と 」<br />
「……… 」<br />
「はい。ちょっと無口なばらしーちゃんの二人です。<br />
それでは、先ずはお便りを。え…っと、『匿名希望なのだわ』さんからの相談、ですわね 」<br />
「……… 」<br />
「早速、読んでみますわ。…えー…『私は胸が無いせいで不人気と――― 」<br /><br />
～～～～～ <br /><br /><br />
「…薔薇水晶、全く喋ってないね… 」<br />
「マイクの電源が切れてるんじゃないのぉ？ 」<br />
「いいえ…彼女、全く口を開いてないのだわ…！ 」<br />
「…あれでよく、放送として成立するですぅ… 」 <br /><br /><br />
～～～～～<br /><br />
「―――…という訳で、今週のトップ４までが出揃いましたわ。気になる１位は、何でしょうね？ 」<br />
「……… 」<br />
「ふふふ…そうですわね。その他にも新曲のリリースが沢山ありましたし、楽しみですわ 」<br />
「……… 」<br />
「あら？もう、そんなお時間ですの？<br />
それでは気になるトップ３の発表の前に、皆さんからのリクエストを。<br />
え…っと、ペンネーム『スィドリーム』さん。本名、翠星石さんからのリクエストで―――― 」<br /><br />
～～～～～<br /><br />
<br />
「な…！？アイツ今、ペンネームが書いてあるのに本名まで読んだですぅ！！ 」<br />
「そうかしらぁ？ 」<br />
「気のせいよ 」<br />
「聞き間違いじゃないかな？ 」 <br /><br /><br />
～～～～～<br /><br />
「―――…が、今週の１位でしたわ。少し意外でしたわね 」<br />
「……… 」<br />
「ええ。それでは、そろそろお別れの時間ですわ。本日お送り致しましたのは、私、雪華綺晶と 」<br />
「……… 」<br />
「ちょっぴり恥ずかしがり屋なばらしーちゃんでした 」<br /><br />
～～～～～ <br /><br /><br />
「…ねえ、誰か…薔薇水晶が喋った所、見た子いるぅ…？ 」<br />
「残念ながら…彼女は一切喋ってなかったね… 」<br />
「…これは…意外な事実が判明したのだわ… 」<br />
「ちょ！？アイツ私の事、本名で呼んでたですよね！？ 」 <br /><br /><br /><br />
◆ ◇ ◆ ◇ ◆<br /><br />
<br /><br />
その後、翠星石はお礼にと煎餅の山を雪華綺晶と薔薇水晶に渡し…<br /><br />
それから彼女達が放送部を後にするまでの５分足らずの時間で、いつの間にか煎餅は消えていた。<br /><br />
新聞部の面々は、どこか背中に空寒いものを感じながら、放送部を後にした…。<br /><br /><br />
そして…翌日。<br /><br />
彼女達は…因果応報というのか、湿気た煎餅を食べ過ぎたせいで全員、お腹を壊して学校を休んだ。<br />
でも雪華綺晶は無事だった。<br /><br /><br /><br />
そして、その日の学園は…<br /><br />
新聞部達が欠席した学園は……<br /><br />
本っっっっっ当に！久々に！平和だった。 <br /><br /><br /><br /><br /><br /><br />
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