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MISSION no.2[紅の恐怖、翠の加護]」(2008/06/17 (火) 22:09:37) の最新版変更点

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<p>[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]</p> <p><br /> MISSION no.2[紅の恐怖、翠の加護]</p> <p> </p> <p>「…なんでアナタがここにいるのよぉ……」<br /><br /> 任務を達成し、自分のガレージに帰還するはずだった水銀燈の前に、<br /> かつて死闘を繰り広げ、共に戦ったライバル、真紅が立ちはだかった。<br /><br /> 「アナタは…3年前、『大粛清』の時に…」<br /><br /> 『大粛清』。それは、今では過去の記憶となってしまった特攻兵器「UNKNOWN」の突然の襲来。<br /> しかし、今までの襲撃とは少し様子が違っていた。<br /> 「UNKNOWN」の特徴である、蝗のような形状ではなかった。<br /> 襲ってきた「UNKNOWN」全てが、人型をしていたのだ。<br /> そして、壊滅的な被害を受けたのは、全て大規模な工業地帯であり、無差別な自爆攻撃ではなかった。<br /> その後も度々襲撃はあったが、その時ほどの大規模な攻撃は現在までに行われていない。<br /> そしてその時、真紅と水銀燈は、共にキサラギのトライトン環境開発研究所を防衛していた。<br /> 凄まじい敵の攻撃に、仲間は次々に撃墜され、ついに2人のACも限界を超えた。<br /> その時の水銀燈機は、最新のコアシステムを搭載していたおかげで、コアだけでも脱出・撤退が可能だった。<br /> しかし、真紅機は旧世代のコアシステムだったために、脱出が出来ずに機体ごと爆散してしまった―――。<br /> と、いうのが水銀燈の記憶している限りの事だった。だが目の前には―――。<br /><br /> 「…寝言は寝てから言いなさい、水銀燈。『漆黒の天使』も堕ちたものね」<br /> ――彼女は、確かにそこに存在していた。<br /> 「…随分と言うようになったじゃなぁい、真紅ぅ…。いや、『紅蓮の鬼乙女』さぁん?」<br /> 「…御託を並べている暇はないわ。早く始めましょう――」<br /><br /> 「――私には、時間がないのだわ…!」<br /><br /> 「ホーリエ!ブーストを最大出力!!一気に距離を詰めるのだわ!!」<br /> 『READY!』<br /><br /> 真紅機の背中から、強力なジェットが噴出され、速度をみるみる内に上げていった。<br /> 物凄い速度で接近しながら、肩の拡散ロケット砲をこれでもかと撃ちまくる真紅。<br /> たまらず上空へ退避する水銀燈。それを狙ったかのように、上昇しつつ真下から特殊マシンガンのWH03M、通称「フィンガー」を乱射した。<br /> この特殊マシンガンは、他のマシンガンのようにマガジンを使用せず、弾薬が尽きるまで常時連射できる特性を持つ。<br /> そのため弾切れをおこしやすいが、総合的な火力はグレネード弾を遥かに凌ぐ。<br /><br /> 真紅機の左手から、さかのぼる滝のように襲ってくる弾丸。<br /> それをまともに受けたのでは、どんな装甲もまるで意味を成さない。<br /><br /> 「ぐぅっ!」<br /> 『脚部損傷。駆動部に異常が発生しました』<br /> 「くっ…!腕は落ちていない様ねぇ…!」<br /> 体勢を立て直し、左手のレーザーブレード「WL-MOONLIGHT」で斬りつける水銀燈。<br /> 「甘いのだわっ!」<br /> さらに加速する真紅機。水銀燈機の斬撃は見事に空振りし、真紅機が一瞬で視界から消える。<br /> 今度は真紅機が上空を取り、ロケット砲を雨のように浴びせかける。<br /> もともと命中率の悪いロケットだが、動揺し、固まっている機体にならば当てることは容易い。<br /><br /> 「うぁっ!」<br /> 『頭部破損。レーダーに一部異常発生』<br /> バランスを崩し、高度を下げていく水銀燈機。地面と接触し、わずかに機体が硬直する。<br /> そして、身動きの取れなくなったその一瞬を、真紅は見逃さなかった。<br /><br /> 「これで終わりなのだわッ!!水銀燈!!!」<br /> そう叫びながら、真紅は右手に装備した射突型ブレード「KIZUNA」を、水銀燈機の腹部に高速で叩き込んだ。<br /><br /> 「が…はぁっ……!」<br /> 『コア損傷。脚部破損。ジェネレータとラジエータの一部に異常発生。熱暴走による装甲板の一部融解発生』<br /><br /> 強烈な衝撃と共に吹っ飛ばされ、地面に激突する水銀燈機。<br /> コックピットであるコアはぎりぎりで外れていたものの、動力のほとんどを削がれ、もはや戦闘続行は不可能であった。<br /> そして、止めを刺そうとする真紅。<br /><br /> 「うぐぅっ…。真紅……。アナタは…」<br /> 「………さようなら、水銀燈――」<br /><br /> ピーッ、ピーッ、ピーッ…<br /><br /> 真紅機に、突然警報が鳴り響く。<br /><br /> ――ブーストの過剰な使用による熱暴走だろうか。それとも、別の――?<br /><br /> 水銀燈が思考していると、真紅は銃を降ろし、こう言った。<br /> 「―――そう、わかったわ、ホーリエ。………残念だけど、『時間』がきてしまったのだわ。<br />  …また会えるといいわね。水銀燈」<br /> そう言うと、真紅は急旋回し、来たときと同じ方向へ撤退していった。<br /><br /><br /> ◇<br /><br /><br /> 「………真紅………アナタは……いったい―――<br />  ―――いえ、それよりも、まず脱出するほうが先ねぇ…」<br /> 幸い、脱出・帰還だけならコックピットの緊急レバーさえ壊れていなければ可能である。<br /> 緊急用のモードに切り替え、ACを破棄して帰還をしようと試みた―――<br /><br /> ―――突然、北東の空から何発ものグレネード弾が降り注ぎ、大地を大きく削いでいく―――!<br /><br /> 「!?一体なんなのよぉ!?<br /><br /><br />  ―――まさか、コレって…!」<br /> レーダーには、1つの敵反応。そして、空には―――。<br /><br /> 「人型の…UNKNOWN………!」<br /><br /> 上空に浮遊していたその兵器。UNKNOWN。<br /> かつて地上の荒廃の原因となったそれは、水銀燈が先ほど制圧した工場を、完膚なきまでに叩き潰そうとする。<br /> グレネード、マシンガン、レーザー…。様々な武装を駆使し、工場施設のみを的確に破壊していく。<br /> その無慈悲なまでに冷徹な攻撃が、忌まわしい記憶を呼び覚ます――。<br /><br /> 「くぅっ…!今日は人生最大の厄日よぉ……!このまま脱出したら間違いなく蜂の巣だわぁ…!<br />  メイメイ!何とかして機体を起こしなさぁい!」<br /> 『了解。………。全てのエネルギーを動力部に移行。完了。武装を全てパージしてください』<br /> 「わかったわぁ…!」<br /> 水銀燈は機体の全ての武装の連結を解除し、身軽になった機体を起こす。<br /> 機体の各所が異常な駆動音を上げるが、それに構っている暇はない。<br /> ジェネレータの出力を上げ、ブーストを高出力で使用できる状態に持っていく。<br /><br /> ―――その時、攻撃中だったそのUNKNOWNが、攻撃の矛先を変えた―――!<br /><br /> 「…どうやら、『戦力』となり得るものは全て破壊しないと気がすまないようねぇ…。<br />  さっさと離脱するわよぉ!メイメイ!最大出力でブーストを使うわぁ!!」<br /> 『了解。ブースト、最大出力』<br /> 機体をブーストで持ち上げ、次の瞬間には最高速度に達する―――!<br /><br /> ―――はずだった。<br /><br /> 次の瞬間、目の前にあったのはUNKNOWNの放ったグレネード弾。<br /> ぐらつく機体の制御に全神経を傾けていた水銀燈には、それを回避する術はなかった。<br /> 正面からまともにグレネードを喰らい、再度吹っ飛ばされる水銀燈機。<br /> 辛うじて踏みとどまるものの、UNKNOWNは既に第二射の体勢に入っていた。<br /> メイメイが告げるエラーメッセージが、水銀燈をさらに絶望に叩き落す。<br /><br /> 『頭部破損。右腕損傷。出力低下。ジェネレータ、完全に沈黙。メインシステムダウン。保護モード、起動しません』<br /> 「…ここまでかもねぇ………」<br /><br /><br /><br /> 『水銀燈!頭下げてろです!!』<br /> 不意に通信が入る。その直後、機体の頭部スレスレを、巨大な閃光が通り抜けていった。<br /> その光がUNKNOWNの胸部辺りに直撃し、凄まじい爆発音と共にUNKNOWNが吹っ飛んでいく。<br /> そして、水銀燈とUNKNOWNの間に、エメラルドグリーンの機体が割って入る。<br /> 「…その甲高い声…。翠星石ねぇ…!」<br /> 「その通りですぅ!翠星石がきたからにはぁ、もうあんなイナゴモドキに好き勝手などさせないのですぅ!」<br /> しかし、装甲が損壊してはいるものの、UNKNOWNは全く行動に支障をきたしていない様子で立ち上がる。<br /> 「…と、言いてーところですが…。あいつは予想以上のバケモンですぅ…」<br /><br /> 先ほど翠星石が放ったのは、数ある武装の中でもトップクラスの攻撃力を持つ大口径レーザーキャノン、「CR-WBW98LX」。<br /> MTはもちろん、並のACがこれを喰らえば、装甲が剥げるだけでは済まない威力。<br /> しかし、目の前の人型イナゴモドキは、それを物ともせずに立ち上がってきた。<br /> 「あれを喰らって立ち上がるとは見上げた根性ですぅ…。<br />  ―――ですがぁ!」<br /><br /> 「翠星石はてめーなんぞに負ける気はさらさらねぇです!!!」<br /> 翠星石はそう言うと、機体内部に搭載された追加兵装、インサイドを開放した。<br /> 出てきたのは………「I01M-URCHIN」。吸着地雷である。<br /> 「そらそらそらそらぁ!!ですぅ!!」<br /> 普通の使用法としては、接近する敵機に対し、カウンターの意味でばら撒く。<br /> もしくは、敵機の周りに撒き、行動を制限するという用途が一般的である。<br /> そして翠星石は………どちらでもなかった。<br /> 吸着地雷を連続で発射し、全てをUNKNOWNに取り付けたのである。<br /><br /> 「そこから一歩でも動けばぁ………ボンッ!ですぅ!<br />  しかぁし!翠星石はてめーに歩かせようなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇですぅ!!」<br /> そして、機体側面に取り付けられた補助兵装、エクステンションを起動させた。<br /> 起動したのは、緊急用エネルギーパック「JIREN」。<br /> それにより、レーザーキャノンの発射により減少したエネルギーを、一瞬で回復させる。<br /> 「こいつでてめーのドタマぶっ飛ばしてやるですぅ!!!」<br /> 先ほどのレーザーキャノンを、再びUNKNOWNに直撃させる。<br /> 地雷の爆発も相まって、さすがに倒れこむUNKNOWN。<br /> 「まだまだですぅ!!!」<br /> そしてもう一度、JIRENを起動させる。<br /> その直後、レーザーキャノンを叩き込む。<br /> さらにJIRENを起動させる。<br /> さらにレーザーキャノンを叩き込む。<br /><br /> ―――そして、爆煙が収まった時、そこにあったのはバラバラのジャンクとなったUNKNOWNであった。<br /><br /><br /> 「どーです!参ったですかぁっ!!」<br /> 「(ここまでバラバラになると、同情の念すら沸いてくるわぁ…)」<br /> 勝ち誇る翠星石と、少しばかり恐怖を覚えた水銀燈。<br /><br /> 「さぁて、そろそろ帰ろうかしらねぇ…」ピピピッ「…え?」<br /> 少し精度の落ちたレーダーに目をやる水銀燈。そこにはやはり敵反応。<br /> なんと、5km程先からUNKNOWNと思われる機体が多数接近中だった。<br /> しかも、レーダーのディスプレイを埋め尽くすほどの。<br /> 「翠星石ぃ!悦に入ってる暇はないわぁ!UNKNOWNの大編隊が接近中よぉ!!」<br /> 「何を言うですか。バカな事言うもんじゃないで―――<br />  ―――ひぇええ!?本当ですぅ!!」<br /> 「だから言ったでしょぉ…」<br /> 「一刻も早く離脱するですよ!ちょっと手足をもぐですが、コンパクトにするためですから勘弁するですぅ!」<br /> そう言うと、翠星石はレーザーブレードでコアと両手足を切り離した。<br /><br /> 「スィドリーム!オーバードブーストですぅ!」<br /> 『BEREIT!』<br /> 「え?今なんて言っ―――んごぇっ!!」<br /> 「全速前進ですぅ!!」<br /> オーバードブースト―――通称OB。機体のエネルギーを大量に消費する代わり、絶大な推進力を得る特殊機能である。<br /> 構造が単純なため、多くのコアに搭載されているが、使用時には大きなGがかかるのが難点である。<br /> それにより、使用中はよほどの熟達者でない限り、移動が直線にほぼ固定されてしまう。<br /> ちなみに翠星石のAC「ヤーデシュテルン」に搭載されているコアは、発熱量が低く、長時間の使用が出来る「CO4-ATLAS」である。<br /><br /> 「OB使うなら早めに言いなさぁい!このおばぁかさぁぁぁああん!!!」<br /> 「しゃべってると舌噛むですよ!水銀燈!」<br /> 「OBなんて、絶対に使うもんですかああああぁぁぁぁぁ……………」<br /> 風のように飛び去る翠星石機の腕の中、絶叫する水銀燈。<br /><br /><br /> 「(でも、来てくれて助かったわぁ…。ありがとう、翠星石――)<br />  ――うごぁっ!!」<br /> 「大丈夫ですぅ!方向をちょっと修正しただけですよ!」<br /> 「前言撤回よぉ!!全然大丈夫じゃないわぁ!!!」<br /><br /><br /> To be continued...</p>
<p>[ARMORED CORE BATTLE OF ROSE]<br /><br /><br /> MISSION no.2[紅の恐怖、翠の加護]<br /><br /><br /><br /> 「…なんでアナタがここにいるのよぉ……」<br /><br /> 任務を達成し、自分のガレージに帰還するはずだった水銀燈の前に、<br /> かつて死闘を繰り広げ、共に戦ったライバル、真紅が立ちはだかった。<br /><br /> 「アナタは…3年前、『大粛清』の時に…」<br /><br /> 『大粛清』。それは、今では過去の記憶となってしまった特攻兵器「UNKNOWN」の突然の襲来。<br /> しかし、今までの襲撃とは少し様子が違っていた。<br /> 「UNKNOWN」の特徴である、蝗のような形状ではなかった。<br /> 襲ってきた「UNKNOWN」全てが、人型をしていたのだ。<br /> そして、壊滅的な被害を受けたのは、全て大規模な工業地帯であり、無差別な自爆攻撃ではなかった。<br /> その後も度々襲撃はあったが、その時ほどの大規模な攻撃は現在までに行われていない。<br /> そしてその時、真紅と水銀燈は、共にキサラギのトライトン環境開発研究所を防衛していた。<br /> 凄まじい敵の攻撃に、仲間は次々に撃墜され、ついに2人のACも限界を超えた。<br /> その時の水銀燈機は、最新のコアシステムを搭載していたおかげで、コアだけでも脱出・撤退が可能だった。<br /> しかし、真紅機は旧世代のコアシステムだったために、脱出が出来ずに機体ごと爆散してしまった―――。<br /> と、いうのが水銀燈の記憶している限りの事だった。だが目の前には―――。<br /><br /> 「…寝言は寝てから言いなさい、水銀燈。『漆黒の天使』も堕ちたものね」<br /> ――彼女は、確かにそこに存在していた。<br /> 「…随分と言うようになったじゃなぁい、真紅ぅ…。いや、『紅蓮の鬼乙女』さぁん?」<br /> 「…御託を並べている暇はないわ。早く始めましょう――」<br /><br /> 「――私には、時間がないのだわ…!」<br /><br /> 「ホーリエ!ブーストを最大出力!!一気に距離を詰めるのだわ!!」<br /> 『READY!』<br /><br /> 真紅機の背中から、強力なジェットが噴出され、速度をみるみる内に上げていった。<br /> 物凄い速度で接近しながら、肩の拡散ロケット砲をこれでもかと撃ちまくる真紅。<br /> たまらず上空へ退避する水銀燈。それを狙ったかのように、上昇しつつ真下から特殊マシンガンのWH03M、通称「フィンガー」を乱射した。<br /> この特殊マシンガンは、他のマシンガンのようにマガジンを使用せず、弾薬が尽きるまで常時連射できる特性を持つ。<br /> そのため弾切れをおこしやすいが、総合的な火力はグレネード弾を遥かに凌ぐ。<br /><br /> 真紅機の左手から、さかのぼる滝のように襲ってくる弾丸。<br /> それをまともに受けたのでは、どんな装甲もまるで意味を成さない。<br /><br /> 「ぐぅっ!」<br /> 『脚部損傷。駆動部に異常が発生しました』<br /> 「くっ…!腕は落ちていない様ねぇ…!」<br /> 体勢を立て直し、左手のレーザーブレード「WL-MOONLIGHT」で斬りつける水銀燈。<br /> 「甘いのだわっ!」<br /> さらに加速する真紅機。水銀燈機の斬撃は見事に空振りし、真紅機が一瞬で視界から消える。<br /> 今度は真紅機が上空を取り、ロケット砲を雨のように浴びせかける。<br /> もともと命中率の悪いロケットだが、動揺し、固まっている機体にならば当てることは容易い。<br /><br /> 「うぁっ!」<br /> 『頭部破損。レーダーに一部異常発生』<br /> バランスを崩し、高度を下げていく水銀燈機。地面と接触し、わずかに機体が硬直する。<br /> そして、身動きの取れなくなったその一瞬を、真紅は見逃さなかった。<br /><br /> 「これで終わりなのだわッ!!水銀燈!!!」<br /> そう叫びながら、真紅は右手に装備した射突型ブレード「KIZUNA」を、水銀燈機の腹部に高速で叩き込んだ。<br /><br /> 「が…はぁっ……!」<br /> 『コア損傷。脚部破損。ジェネレータとラジエータの一部に異常発生。熱暴走による装甲板の一部融解発生』<br /><br /> 強烈な衝撃と共に吹っ飛ばされ、地面に激突する水銀燈機。<br /> コックピットであるコアはぎりぎりで外れていたものの、動力のほとんどを削がれ、もはや戦闘続行は不可能であった。<br /> そして、止めを刺そうとする真紅。<br /><br /> 「うぐぅっ…。真紅……。アナタは…」<br /> 「………さようなら、水銀燈――」<br /><br /> ピーッ、ピーッ、ピーッ…<br /><br /> 真紅機に、突然警報が鳴り響く。<br /><br /> ――ブーストの過剰な使用による熱暴走だろうか。それとも、別の――?<br /><br /> 水銀燈が思考していると、真紅は銃を降ろし、こう言った。<br /> 「―――そう、わかったわ、ホーリエ。………残念だけど、『時間』がきてしまったのだわ。<br />  …また会えるといいわね。水銀燈」<br /> そう言うと、真紅は急旋回し、来たときと同じ方向へ撤退していった。<br /><br /><br /> ◇<br /><br /><br /> 「………真紅………アナタは……いったい―――<br />  ―――いえ、それよりも、まず脱出するほうが先ねぇ…」<br /> 幸い、脱出・帰還だけならコックピットの緊急レバーさえ壊れていなければ可能である。<br /> 緊急用のモードに切り替え、ACを破棄して帰還をしようと試みた―――<br /><br /> ―――突然、北東の空から何発ものグレネード弾が降り注ぎ、大地を大きく削いでいく―――!<br /><br /> 「!?一体なんなのよぉ!?<br /><br /><br />  ―――まさか、コレって…!」<br /> レーダーには、1つの敵反応。そして、空には―――。<br /><br /> 「人型の…UNKNOWN………!」<br /><br /> 上空に浮遊していたその兵器。UNKNOWN。<br /> かつて地上の荒廃の原因となったそれは、水銀燈が先ほど制圧した工場を、完膚なきまでに叩き潰そうとする。<br /> グレネード、マシンガン、レーザー…。様々な武装を駆使し、工場施設のみを的確に破壊していく。<br /> その無慈悲なまでに冷徹な攻撃が、忌まわしい記憶を呼び覚ます――。<br /><br /> 「くぅっ…!今日は人生最大の厄日よぉ……!このまま脱出したら間違いなく蜂の巣だわぁ…!<br />  メイメイ!何とかして機体を起こしなさぁい!」<br /> 『了解。………。全てのエネルギーを動力部に移行。完了。武装を全てパージしてください』<br /> 「わかったわぁ…!」<br /> 水銀燈は機体の全ての武装の連結を解除し、身軽になった機体を起こす。<br /> 機体の各所が異常な駆動音を上げるが、それに構っている暇はない。<br /> ジェネレータの出力を上げ、ブーストを高出力で使用できる状態に持っていく。<br /><br /> ―――その時、攻撃中だったそのUNKNOWNが、攻撃の矛先を変えた―――!<br /><br /> 「…どうやら、『戦力』となり得るものは全て破壊しないと気がすまないようねぇ…。<br />  さっさと離脱するわよぉ!メイメイ!最大出力でブーストを使うわぁ!!」<br /> 『了解。ブースト、最大出力』<br /> 機体をブーストで持ち上げ、次の瞬間には最高速度に達する―――!<br /><br /> ―――はずだった。<br /><br /> 次の瞬間、目の前にあったのはUNKNOWNの放ったグレネード弾。<br /> ぐらつく機体の制御に全神経を傾けていた水銀燈には、それを回避する術はなかった。<br /> 正面からまともにグレネードを喰らい、再度吹っ飛ばされる水銀燈機。<br /> 辛うじて踏みとどまるものの、UNKNOWNは既に第二射の体勢に入っていた。<br /> メイメイが告げるエラーメッセージが、水銀燈をさらに絶望に叩き落す。<br /><br /> 『頭部破損。右腕損傷。出力低下。ジェネレータ、完全に沈黙。メインシステムダウン。保護モード、起動しません』<br /> 「…ここまでかもねぇ………」<br /><br /><br /><br /> 『水銀燈!頭下げてろです!!』<br /> 不意に通信が入る。その直後、機体の頭部スレスレを、巨大な閃光が通り抜けていった。<br /> その光がUNKNOWNの胸部辺りに直撃し、凄まじい爆発音と共にUNKNOWNが吹っ飛んでいく。<br /> そして、水銀燈とUNKNOWNの間に、エメラルドグリーンの機体が割って入る。<br /> 「…その甲高い声…。翠星石ねぇ…!」<br /> 「その通りですぅ!翠星石がきたからにはぁ、もうあんなイナゴモドキに好き勝手などさせないのですぅ!」<br /> しかし、装甲が損壊してはいるものの、UNKNOWNは全く行動に支障をきたしていない様子で立ち上がる。<br /> 「…と、言いてーところですが…。あいつは予想以上のバケモンですぅ…」<br /><br /> 先ほど翠星石が放ったのは、数ある武装の中でもトップクラスの攻撃力を持つ大口径レーザーキャノン、「CR-WBW98LX」。<br /> MTはもちろん、並のACがこれを喰らえば、装甲が剥げるだけでは済まない威力。<br /> しかし、目の前の人型イナゴモドキは、それを物ともせずに立ち上がってきた。<br /> 「あれを喰らって立ち上がるとは見上げた根性ですぅ…。<br />  ―――ですがぁ!」<br /><br /> 「翠星石はてめーなんぞに負ける気はさらさらねぇです!!!」<br /> 翠星石はそう言うと、機体内部に搭載された追加兵装、インサイドを開放した。<br /> 出てきたのは………「I01M-URCHIN」。吸着地雷である。<br /> 「そらそらそらそらぁ!!ですぅ!!」<br /> 普通の使用法としては、接近する敵機に対し、カウンターの意味でばら撒く。<br /> もしくは、敵機の周りに撒き、行動を制限するという用途が一般的である。<br /> そして翠星石は………どちらでもなかった。<br /> 吸着地雷を連続で発射し、全てをUNKNOWNに取り付けたのである。<br /><br /> 「そこから一歩でも動けばぁ………ボンッ!ですぅ!<br />  しかぁし!翠星石はてめーに歩かせようなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇですぅ!!」<br /> そして、機体側面に取り付けられた補助兵装、エクステンションを起動させた。<br /> 起動したのは、緊急用エネルギーパック「JIREN」。<br /> それにより、レーザーキャノンの発射により減少したエネルギーを、一瞬で回復させる。<br /> 「こいつでてめーのドタマぶっ飛ばしてやるですぅ!!!」<br /> 先ほどのレーザーキャノンを、再びUNKNOWNに直撃させる。<br /> 地雷の爆発も相まって、さすがに倒れこむUNKNOWN。<br /> 「まだまだですぅ!!!」<br /> そしてもう一度、JIRENを起動させる。<br /> その直後、レーザーキャノンを叩き込む。<br /> さらにJIRENを起動させる。<br /> さらにレーザーキャノンを叩き込む。<br /><br /> ―――そして、爆煙が収まった時、そこにあったのはバラバラのジャンクとなったUNKNOWNであった。<br /><br /><br /> 「どーです!参ったですかぁっ!!」<br /> 「(ここまでバラバラになると、同情の念すら沸いてくるわぁ…)」<br /> 勝ち誇る翠星石と、少しばかり恐怖を覚えた水銀燈。<br /><br /> 「さぁて、そろそろ帰ろうかしらねぇ…」ピピピッ「…え?」<br /> 少し精度の落ちたレーダーに目をやる水銀燈。そこにはやはり敵反応。<br /> なんと、5km程先からUNKNOWNと思われる機体が多数接近中だった。<br /> しかも、レーダーのディスプレイを埋め尽くすほどの。<br /> 「翠星石ぃ!悦に入ってる暇はないわぁ!UNKNOWNの大編隊が接近中よぉ!!」<br /> 「何を言うですか。バカな事言うもんじゃないで―――<br />  ―――ひぇええ!?本当ですぅ!!」<br /> 「だから言ったでしょぉ…」<br /> 「一刻も早く離脱するですよ!ちょっと手足をもぐですが、コンパクトにするためですから勘弁するですぅ!」<br /> そう言うと、翠星石はレーザーブレードでコアと両手足を切り離した。<br /><br /> 「スィドリーム!オーバードブーストですぅ!」<br /> 『BEREIT!』<br /> 「え?今なんて言っ―――んごぇっ!!」<br /> 「全速前進ですぅ!!」<br /> オーバードブースト―――通称OB。機体のエネルギーを大量に消費する代わり、絶大な推進力を得る特殊機能である。<br /> 構造が単純なため、多くのコアに搭載されているが、使用時には大きなGがかかるのが難点である。<br /> それにより、使用中はよほどの熟達者でない限り、移動が直線にほぼ固定されてしまう。<br /> ちなみに翠星石のAC「ヤーデシュテルン」に搭載されているコアは、発熱量が低く、長時間の使用が出来る「CO4-ATLAS」である。<br /><br /> 「OB使うなら早めに言いなさぁい!このおばぁかさぁぁぁああん!!!」<br /> 「しゃべってると舌噛むですよ!水銀燈!」<br /> 「OBなんて、絶対に使うもんですかああああぁぁぁぁぁ……………」<br /> 風のように飛び去る翠星石機の腕の中、絶叫する水銀燈。<br /><br /><br /> 「(でも、来てくれて助かったわぁ…。ありがとう、翠星石――)<br />  ――うごぁっ!!」<br /> 「大丈夫ですぅ!方向をちょっと修正しただけですよ!」<br /> 「前言撤回よぉ!!全然大丈夫じゃないわぁ!!!」<br /><br /><br /> To be continued...</p>

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