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18.Under the same starlight」(2008/04/04 (金) 00:18:00) の最新版変更点

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<p>満天の星空。<br /><br /> 部屋からそっと抜け出して、荒野の中心で眺める。<br /><br /> 町に背を向けて夜空を見上げると、どこまでも広がる煌く星がとても綺麗。<br /><br /> そうしていると…後ろから小さな足音が聞こえた。<br /><br /> 振り向かなくても、誰だか分かる。<br /><br /> 無口で、ちょっと変わってって…とても大切な、たった一人残された家族。<br /><br /> 「…見つかってしわいましたわ」<br /><br /> 背中を向けたまま、声をかける。<br /> 返事は、無い。<br /><br /> でも、きっと…怒ってる訳じゃありませんわよね?<br /><br /> 今度はちゃんと振り返り、そしてちょっと悪戯っぽく声をかける。<br /><br /> 「よかったら、ご一緒しませんこと?可愛いお嬢さん?」<br /><br /><br /><br /><br /> 18.Under the same starlight<br /><br /><br /> 「……また…どこかに行っちゃうのかと思った……」<br /> 薔薇水晶はそう言いながら、雪華綺晶の横に腰掛けた。<br /><br /> 「もう…勝手に出て行ったりしませんわ…」<br /> 伏し目がちに、雪華綺晶が答える。<br /><br /><br /> 暫くの沈黙。<br /> 二人で、夜空を見上げる。<br /> 血の繋がりは無くとも、そこには確実に姉妹としての絆が存在していた。<br /><br /><br /> 雪華綺晶が何気なく、横に座る薔薇水晶に視線を向けると―――<br /> 同じように、何気なく振り返った薔薇水晶と目が合った。<br /><br /> たった一つしか残されてない視線が、ほんの少しの距離を優しく行き交う。<br /><br /> 「…ねえ、ばらしーちゃん…私達が始めて会った時のこと…覚えておいでですか?」<br /> 「……うん…あの頃は…きらきーの事、苦手だった…」<br /> 「ふふ…でも、それを正直に教えてもらえる程、仲良くなれて…本当に私は果報者ですわ」<br /> 雪華綺晶は少し微笑み…そして、再び星空を見上げた。<br /><br /> 「…ばらしーちゃんに会う前の私は…家族に先立たれ、この世でたった一人になって…<br /> ずっと…ずうっと、一人で…本当に孤独で…。でも…そんな時、『お父様』に拾われ…」<br /> 雪華綺晶は、懐かしむように目を細める。<br /> 「…白馬の王子様なんて、信じてた訳ではありませんけど……でも…私には……」<br /></p> <p>そこまで言うと、雪華綺晶は俯き……<br /><br /> 「でも…お父様が突然失踪して…私はせめてお父様を近くに感じたくて、お父様の書斎に篭り…<br /> そして、お父様がAliceの復旧に『技術屋(マエストロ)』として呼ばれた事…<br /> そして、それらの騒動に私たちを巻き込まない為、黙って出て行かれた事を知って…<br /> 気が付いたら、お父様を追いかけて私まで家出してしまいましたわ」<br /><br /> 少し微笑みながらそう告げるが…<br /> 薔薇水晶にはその微笑が強がりにしか見えなかった。<br /><br /> 「うふふ……不思議ですわね…ばらしーちゃんの方が、ずっとやんちゃでお父様に注意されてたのに…<br /> 大人しかった私が、家出するだなんて…」<br /> 「……きらきー…」<br /><br /><br /> 薔薇水晶にも、雪華綺晶の気持ちはよく分かった。<br /><br /> ずっと一人っきりで、それでも精一杯無理して、何とか日々を生きて…<br /> そして、そんな日々の中で突然出会った、大切な誰か。<br /> 自分にとって…例えば、突然、水銀燈が居なくなってしまったら…<br /> そう想像するだけで、薔薇水晶の胸はギュッと締め付けられる。<br /><br /> 膝を抱え、小さくうつむく雪華綺晶に視線を向ける。<br /><br /> 失くしたはずの雪華綺晶の右目。涙を流す事すら出来ない、白い薔薇飾り。<br /> 薔薇水晶には、それが泣いているように見えた…<br /><br /></p> <p>「………お父様の事…好きだったの…?」<br /> 「あら?それは、ばらしーちゃんも一緒でしょ?」<br /> 「うん……でも……」<br /> 薔薇水晶は、そっと雪華綺晶の髪を撫で…そして、視線を星空に向けた。<br /> 「…きっと……きらきーのは…私とは違う『好き』だと思うよ…?」<br /><br /><br /> 雪華綺晶は、ピクンと肩を震わせ…<br /> そして―――何かを堪えるように、星空を見上げた。<br /><br /><br /> 今にも降ってきそうな星々に、雪華綺晶はうんと手を伸ばす。<br /><br /> 「…今となっては…もう……」<br /><br /> どんなに近くに見えても…星空は、この手に掴むには遠すぎた…―――<br /><br /><br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 白と黒に塗り分けられた、自作のチェスボード。<br /><br /> その前で、金糸雀は本を片手に一人、駒を動かしていた。<br /><br /> 「う~~ん……」<br /> 小さく唸りながら、盤面と本を行ったり来たりする。と……<br /> 「きゃわ!?」<br /> 雛苺が正面に座ってる事に気が付いた。<br /><br /> 「び…びっくりして変な声が出ちゃったかしら……で…雛苺はいつからそこに居たのかしら?」<br /> 「うい、さっきからなのー」<br /><br /> 金糸雀はとりあえず、額の汗をぬぐうような動きをし…<br /> そして、食い入るように盤面を睨みつける雛苺に気が付いた。<br /><br /> 「……うゅ……全然…わからないのよ…」<br /> そう呟き、白と黒のマス目に顔を近づけている。<br /><br /> 「この局面は、カナでも難しいところかしら~」<br /> そう金糸雀が説明すると…<br /> 雛苺は急に、何かを思いついたのか、顔をパッと上げる。<br /> 「だったら!そんな頑張り屋さんのカナリアにプレゼントなのよー!」<br /><br /> そう叫ぶと、一体どこに隠していたのだろう…ピョコンと、一輪の赤い薔薇を取り出した。<br /></p> <p>「そそそんな…カナはチームの頭脳派として、当然の特訓をしてるだけかしら~!?」<br /> ちょっと照れて、慌てる金糸雀。<br /> 「うい!いっつも隠れて頑張ってるカナリアは、すごい努力家だと思うのよー!」<br /> 雛苺は純粋な眼差しで、手にした一輪の花を向けてくる。<br /><br /> 金糸雀は「コホン」と小さく咳払いをして、雛苺の手にした薔薇を受け取ろうとして…<br /> 不意に、そのデコがキランと不適に輝いた。<br /> 「! 良い事を思いついたかしら!ちょっと待つかしら!」<br /> そう言い、キョトンとする雛苺を置いといて、部屋の隅のガラクタの山にダイブする。<br /><br /> 『ガシャーン』と音が聞こえ…<br /> 「これがこうで…これをこうして…」何やらゴニョゴニョ言う声が聞こえ…<br /> 『カーンカーン』と金属を叩く音が響き…<br /><br /> 「――完成かしらっ!」<br /> 一分程して、金糸雀がガラクタの山からひょっこり顔を出した。<br /><br /> そして、服の埃を払い、居住まいを正して、再び雛苺の正面に座り―――<br /> その手には、赤く塗られた金属製の薔薇の造花が握られていた。<br /><br /> 「だったら、カナからは、雛苺にこの花をプレゼントかしら!」<br /><br /> チェスボードを挟み、向かい合った二人が、赤い薔薇を交換しあう。<br /><br /> 「カナリアとは、これからもずっと仲良しさんなのよ?」<br /> 「友情の証ってやつかしら!」<br /><br /><br /></p> <p>「うい!…そうと決まれば…二人で『なんかいなきょくめん』を打破するのよー!」<br /> そう言い、雛苺は再び盤面に視線を向け―――<br /> だが、金糸雀はスクッと立ち上がる。<br /> 「雛苺!脳のリフレッシュも、策士にとっては大事な仕事かしら!」<br /><br /> 「うゆ?」<br /> 「つまりこんな素敵な夜は、二人でお散歩するかしら!」<br /> 「うい!りょーかいなのよ!」<br /> 金糸雀のテンションにつられて、雛苺のテンションも上がり…<br /><br /> 「そうと決まれば!お外に突撃かしら~!」<br /> 「とつげきなのよー!!」<br /><br /><br /><br /><br /></p> <p>―※―※―※―※―<br /><br /> アジトの屋上で、翠星石と蒼星石が夜空を眺めていた。<br /><br /> いや、実際に夜空を眺めていたのは蒼星石で…<br /> 翠星石はそんな蒼星石の横顔をチラチラと見ている。<br /><br /> (ぅぅ~…何だか、急に元の蒼星石に戻ったと思ったら、やけに積極的になってるですよ…<br /> いや、それが嫌という訳ではないんですが…でも、少し恥ずかしいですぅ…<br /> でも、それも嫌という訳では…って!何なんですか!この状況は!!<br /> そうです!仲良し姉妹がのんびり夜風に当ってるだけです!!それ以上の意味は無いです!!)<br /><br /> 距離ができたように感じれば、切なくなって、相手に近づこうとするが…<br /> そんな時不意に、相手から距離を詰められると…何だか戸惑ってしまう。<br /><br /> まさにそんな状況の翠星石は、そわそわと視線を泳がせていた。<br /><br /> だが…<br /> そんな姉の様子に気付かず、蒼星石は幸せそうな…穏やかな表情で星空を眺めている。<br /><br /> そして…<br /><br /> 「あれ?…あそこに居るのって…薔薇水晶達かな?」<br /> 下のほうを指差し、そう聞いてきた。<br /><br /> 蒼星石が示す先には…なるほど、岩場に座る二つの人影と…それに接近している小さな二人組。<br /><br /> 「…それと、チビカナとチビチビですぅ」<br /> こんな時間に何をしているのやら…最も、他人の事を言えた義理ではないが。<br /></p> <p>「ふふ…何だか楽しそうだね。…僕達も行ってみようか?」<br /> そう言い、蒼星石は翠星石の手を握り―――<br /><br /> 「ひゃう!?」<br /> 未だに少しまごついていた翠星石は、咄嗟に手を引っ込めてしまった。<br /> 「…翠星石?」<br /> 蒼星石が、とても切なそうな表情で小さく声をかける。<br /><br /><br /> …決して、嫌な訳ではない。<br /> ただ、いきなりの出来事に、少し驚いてしまっただけだ。<br /><br /> 突然の蒼星石の行動と、咄嗟に自分が返した反応で、頭の中がグルグルとする。<br /><br /> (…でも……そんな寂しそうな顔をするのは…反則ですぅ…)<br /> とっても寂しそうにしている蒼星石の顔を見ていると、何だか翠星石も悲しくなってきた。<br /><br /><br /> 翠星石は、少し緊張しながら…それでも、蒼星石の手をとり――<br /> そして、握った蒼星石の手を引き寄せる。<br /><br /> 「…そんな…寂しそうな顔するなです……」<br /> 「……うん…」<br /> 「…心配しなくても翠星石は…ずっと蒼星石と一緒ですよ…」<br /> 「……うん…ありがとう…」<br /><br /> 煌く星空の下で、身を寄せ合いながら、そっと囁く。<br /></p> <p>「…って!てめぇは!な~に姉妹で『良いフインキ』作ろうとしてるですか!」<br /> 翠星石は身を離し、いつもの調子でそう言う。<br /> 「それを言うなら『雰囲気』だよ?」<br /> 蒼星石も、ちょっと楽しそうに答える。<br /><br /> 「!? わ…わざと間違えただけですよ!!」<br /> 「ふふ…そういう事にしとくよ」<br /> 「なぁ!?信じてないですか!…もう蒼星石なんて知らんです~」<br /> 翠星石は楽しそうに微笑んだまま、階段を駆け下りる。<br /> 「待ってよ翠星石!」<br /> 同じように微笑んだ蒼星石が、その後を追いかけていった―――<br /><br /><br /><br /><br /></p> <p>―※―※―※―※―<br /><br /> 「…あらぁ?全員集合ねぇ…」<br /> 水銀燈が散歩をしてると、岩場で談笑している皆に出会った。<br /><br /> 「水銀燈こそ、こんな時間に散歩だなんて、珍しいね?」<br /> 翠星石の隣をしっかりキープしている蒼星石が、そう尋ねてくる。<br /><br /> 「ちょっと、寝付けなくてね…ぶらぶらしてた、って訳よぉ」<br /> 適当に、そう答えた。<br /><br /> (言える訳ないわぁ…『寝てたら、隣の部屋からちびっ子の騒ぐ声で目が覚めて…<br /> 気分転換に屋上に行ったら誰かがイチャイチャしてたので、仕方なく外に出てました』だなんて…<br /> …言える訳ないわぁ…)<br /><br /> 水銀燈は、少しどんよりする。<br /> 自分の周りには、変な奴しか居ないのかと。<br /><br /> 眼帯姉妹は、何を考えてるのか分からないし…<br /> 双子は最近…特に妹の方が、シスコンっぷりに拍車がかかってる。<br /> ちびっ子達は…子供に常識を求めるというのも、どうかと思う。<br /><br /><br /> 水銀燈は、ばれないように小さくため息をつき…<br /> そして、適当な岩に腰掛けた。<br /> (でも…このメンバーが気に入ってる時点で…私も相当な変わり者ねぇ…)<br /> そう思うと、少し笑みが零れてきた。<br /><br /></p> <p>暫くの間、夜の荒野に吹く風をBGMに会話を楽しむ―――。<br /><br /><br /> 「! そうです!良い事思いついたですよ!」<br /> 翠星石が話の合間に突然、そう声を上げた。<br /><br /> 「ちょっとの間、そのまま待ってやがれです!」<br /> そう言うと、異常な速さでアジトの中に戻り―――<br /> そして、異常な速さで再び帰ってきた。<br /><br /> 「こんな夜は何か歌うですよ!」<br /> そう言い手に持つのは、一つのクラシックギター。<br /><br /> そして翠星石は、ちょうど良い高さの岩に腰掛け足を組む。<br /> 得意満面の表情で、膝の上にギターを乗せ…<br /><br /> 「…と…ところで…誰か…ギター弾ける奴は居ないんですか…?」<br /><br /> 期待の眼差しを向けていた全員が、同時にため息をつくのが聞こえた。<br /><br /> そして…<br /> 「しょうがないわねぇ…ほら、貸してみなさぁい…」<br /> 水銀燈がそう言い、立ち上がる。<br /> 翠星石は水銀燈にギターを渡すと、そそくさと近くの岩場に腰掛けた。<br /><br /></p> <p>「へえ…水銀燈とクラシックギターだなんて…変わった取り合わせもあるもんだね」<br /> 蒼星石は、珍しい光景に思わず声を上げる。<br /><br /> 雛苺が期待の目を、キラキラ輝かせながら向けてくる。<br /><br /> 「……銀ちゃんは…何をやっても素敵なんだよ…?」<br /> 薔薇水晶が何故か誇らしげにそう言う。<br /><br /> 雪華綺晶はそんな薔薇水晶に、苦笑いを向けている。<br /><br /> 「…この一曲しか知らないんだから…あんまり期待しないでよぉ?」<br /> 水銀燈はそう言い、岩に腰掛ける。<br /> ポケットから煙草を取り出し、その先に火をつける。<br /><br /> 「何ていう歌なのかしら?」<br /> 金糸雀が、ギターを構えた水銀燈に質問してきた。<br /><br /> 水銀燈は少し目を瞑り…そして満天の星空を眺めた。<br /><br /> 「…さぁ…忘れちゃったわぁ…」<br /><br /><br /><br /> ―――嘘だ。<br /><br /> 忘れる訳が無い。<br /> だが、結局この歌の名前を教えてもらう日は来なかった。<br /> それだけ。<br /><br /></p> <p>火をつけたばかりの煙草。水銀燈はそれを、横に置き…<br /><br /> 空に吸い込まれるように上る、一本の煙を見上げながら、静かに弦を弾く――――<br /><br /><br /> 「――からたちの――とげは痛いよ――<br /> ――青い――青い――…」<br /><br /><br /> ―――忘れる訳がない。<br /><br /> 荒野に飛び出した日の事―――<br /><br /> そして―――<br /><br /> そこで過ごした、かけがえの無い日々――――<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> ⇒ see you next Wilds!<br /></p>
<p>満天の星空。<br /><br /> 部屋からそっと抜け出して、荒野の中心で眺める。<br /><br /> 町に背を向けて夜空を見上げると、どこまでも広がる煌く星がとても綺麗。<br /><br /> そうしていると…後ろから小さな足音が聞こえた。<br /><br /> 振り向かなくても、誰だか分かる。<br /><br /> 無口で、ちょっと変わってって…とても大切な、たった一人残された家族。<br /><br /> 「…見つかってしまいましたわ」<br /><br /> 背中を向けたまま、声をかける。<br /> 返事は、無い。<br /><br /> でも、きっと…怒ってる訳じゃありませんわよね?<br /><br /> 今度はちゃんと振り返り、そしてちょっと悪戯っぽく声をかける。<br /><br /> 「よかったら、ご一緒しませんこと?可愛いお嬢さん?」<br /><br /><br /><br /><br /> 18.Under the same starlight<br /><br /><br /> 「……また…どこかに行っちゃうのかと思った……」<br /> 薔薇水晶はそう言いながら、雪華綺晶の横に腰掛けた。<br /><br /> 「もう…勝手に出て行ったりしませんわ…」<br /> 伏し目がちに、雪華綺晶が答える。<br /><br /><br /> 暫くの沈黙。<br /> 二人で、夜空を見上げる。<br /> 血の繋がりは無くとも、そこには確実に姉妹としての絆が存在していた。<br /><br /><br /> 雪華綺晶が何気なく、横に座る薔薇水晶に視線を向けると―――<br /> 同じように、何気なく振り返った薔薇水晶と目が合った。<br /><br /> たった一つしか残されてない視線が、ほんの少しの距離を優しく行き交う。<br /><br /> 「…ねえ、ばらしーちゃん…私達が始めて会った時のこと…覚えておいでですか?」<br /> 「……うん…あの頃は…きらきーの事、苦手だった…」<br /> 「ふふ…でも、それを正直に教えてもらえる程、仲良くなれて…本当に私は果報者ですわ」<br /> 雪華綺晶は少し微笑み…そして、再び星空を見上げた。<br /><br /> 「…ばらしーちゃんに会う前の私は…家族に先立たれ、この世でたった一人になって…<br /> ずっと…ずうっと、一人で…本当に孤独で…。でも…そんな時、『お父様』に拾われ…」<br /> 雪華綺晶は、懐かしむように目を細める。<br /> 「…白馬の王子様なんて、信じてた訳ではありませんけど……でも…私には……」</p> <p>そこまで言うと、雪華綺晶は俯き……<br /><br /> 「でも…お父様が突然失踪して…私はせめてお父様を近くに感じたくて、お父様の書斎に篭り…<br /> そして、お父様がAliceの復旧に『技術屋(マエストロ)』として呼ばれた事…<br /> そして、それらの騒動に私たちを巻き込まない為、黙って出て行かれた事を知って…<br /> 気が付いたら、お父様を追いかけて私まで家出してしまいましたわ」<br /><br /> 少し微笑みながらそう告げるが…<br /> 薔薇水晶にはその微笑が強がりにしか見えなかった。<br /><br /> 「うふふ……不思議ですわね…ばらしーちゃんの方が、ずっとやんちゃでお父様に注意されてたのに…<br /> 大人しかった私が、家出するだなんて…」<br /> 「……きらきー…」<br /><br /><br /> 薔薇水晶にも、雪華綺晶の気持ちはよく分かった。<br /><br /> ずっと一人っきりで、それでも精一杯無理して、何とか日々を生きて…<br /> そして、そんな日々の中で突然出会った、大切な誰か。<br /> 自分にとって…例えば、突然、水銀燈が居なくなってしまったら…<br /> そう想像するだけで、薔薇水晶の胸はギュッと締め付けられる。<br /><br /> 膝を抱え、小さくうつむく雪華綺晶に視線を向ける。<br /><br /> 失くしたはずの雪華綺晶の右目。涙を流す事すら出来ない、白い薔薇飾り。<br /> 薔薇水晶には、それが泣いているように見えた…</p> <p>「………お父様の事…好きだったの…?」<br /> 「あら?それは、ばらしーちゃんも一緒でしょ?」<br /> 「うん……でも……」<br /> 薔薇水晶は、そっと雪華綺晶の髪を撫で…そして、視線を星空に向けた。<br /> 「…きっと……きらきーのは…私とは違う『好き』だと思うよ…?」<br /><br /><br /> 雪華綺晶は、ピクンと肩を震わせ…<br /> そして―――何かを堪えるように、星空を見上げた。<br /><br /><br /> 今にも降ってきそうな星々に、雪華綺晶はうんと手を伸ばす。<br /><br /> 「…今となっては…もう……」<br /><br /> どんなに近くに見えても…星空は、この手に掴むには遠すぎた…―――<br /><br /><br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 白と黒に塗り分けられた、自作のチェスボード。<br /><br /> その前で、金糸雀は本を片手に一人、駒を動かしていた。<br /><br /> 「う~~ん……」<br /> 小さく唸りながら、盤面と本を行ったり来たりする。と……<br /> 「きゃわ!?」<br /> 雛苺が正面に座ってる事に気が付いた。<br /><br /> 「び…びっくりして変な声が出ちゃったかしら……で…雛苺はいつからそこに居たのかしら?」<br /> 「うい、さっきからなのー」<br /><br /> 金糸雀はとりあえず、額の汗をぬぐうような動きをし…<br /> そして、食い入るように盤面を睨みつける雛苺に気が付いた。<br /><br /> 「……うゅ……全然…わからないのよ…」<br /> そう呟き、白と黒のマス目に顔を近づけている。<br /><br /> 「この局面は、カナでも難しいところかしら~」<br /> そう金糸雀が説明すると…<br /> 雛苺は急に、何かを思いついたのか、顔をパッと上げる。<br /> 「だったら!そんな頑張り屋さんのカナリアにプレゼントなのよー!」<br /><br /> そう叫ぶと、一体どこに隠していたのだろう…ピョコンと、一輪の赤い薔薇を取り出した。</p> <p>「そそそんな…カナはチームの頭脳派として、当然の特訓をしてるだけかしら~!?」<br /> ちょっと照れて、慌てる金糸雀。<br /> 「うい!いっつも隠れて頑張ってるカナリアは、すごい努力家だと思うのよー!」<br /> 雛苺は純粋な眼差しで、手にした一輪の花を向けてくる。<br /><br /> 金糸雀は「コホン」と小さく咳払いをして、雛苺の手にした薔薇を受け取ろうとして…<br /> 不意に、そのデコがキランと不適に輝いた。<br /> 「! 良い事を思いついたかしら!ちょっと待つかしら!」<br /> そう言い、キョトンとする雛苺を置いといて、部屋の隅のガラクタの山にダイブする。<br /><br /> 『ガシャーン』と音が聞こえ…<br /> 「これがこうで…これをこうして…」何やらゴニョゴニョ言う声が聞こえ…<br /> 『カーンカーン』と金属を叩く音が響き…<br /><br /> 「――完成かしらっ!」<br /> 一分程して、金糸雀がガラクタの山からひょっこり顔を出した。<br /><br /> そして、服の埃を払い、居住まいを正して、再び雛苺の正面に座り―――<br /> その手には、赤く塗られた金属製の薔薇の造花が握られていた。<br /><br /> 「だったら、カナからは、雛苺にこの花をプレゼントかしら!」<br /><br /> チェスボードを挟み、向かい合った二人が、赤い薔薇を交換しあう。<br /><br /> 「カナリアとは、これからもずっと仲良しさんなのよ?」<br /> 「友情の証ってやつかしら!」</p> <p>「うい!…そうと決まれば…二人で『なんかいなきょくめん』を打破するのよー!」<br /> そう言い、雛苺は再び盤面に視線を向け―――<br /> だが、金糸雀はスクッと立ち上がる。<br /> 「雛苺!脳のリフレッシュも、策士にとっては大事な仕事かしら!」<br /><br /> 「うゆ?」<br /> 「つまりこんな素敵な夜は、二人でお散歩するかしら!」<br /> 「うい!りょーかいなのよ!」<br /> 金糸雀のテンションにつられて、雛苺のテンションも上がり…<br /><br /> 「そうと決まれば!お外に突撃かしら~!」<br /> 「とつげきなのよー!!」</p> <p>―※―※―※―※―<br /><br /> アジトの屋上で、翠星石と蒼星石が夜空を眺めていた。<br /><br /> いや、実際に夜空を眺めていたのは蒼星石で…<br /> 翠星石はそんな蒼星石の横顔をチラチラと見ている。<br /><br /> (ぅぅ~…何だか、急に元の蒼星石に戻ったと思ったら、やけに積極的になってるですよ…<br /> いや、それが嫌という訳ではないんですが…でも、少し恥ずかしいですぅ…<br /> でも、それも嫌という訳では…って!何なんですか!この状況は!!<br /> そうです!仲良し姉妹がのんびり夜風に当ってるだけです!!それ以上の意味は無いです!!)<br /><br /> 距離ができたように感じれば、切なくなって、相手に近づこうとするが…<br /> そんな時不意に、相手から距離を詰められると…何だか戸惑ってしまう。<br /><br /> まさにそんな状況の翠星石は、そわそわと視線を泳がせていた。<br /><br /> だが…<br /> そんな姉の様子に気付かず、蒼星石は幸せそうな…穏やかな表情で星空を眺めている。<br /><br /> そして…<br /><br /> 「あれ?…あそこに居るのって…薔薇水晶達かな?」<br /> 下のほうを指差し、そう聞いてきた。<br /><br /> 蒼星石が示す先には…なるほど、岩場に座る二つの人影と…それに接近している小さな二人組。<br /><br /> 「…それと、チビカナとチビチビですぅ」<br /> こんな時間に何をしているのやら…最も、他人の事を言えた義理ではないが。</p> <p>「ふふ…何だか楽しそうだね。…僕達も行ってみようか?」<br /> そう言い、蒼星石は翠星石の手を握り―――<br /><br /> 「ひゃう!?」<br /> 未だに少しまごついていた翠星石は、咄嗟に手を引っ込めてしまった。<br /> 「…翠星石?」<br /> 蒼星石が、とても切なそうな表情で小さく声をかける。<br /><br /><br /> …決して、嫌な訳ではない。<br /> ただ、いきなりの出来事に、少し驚いてしまっただけだ。<br /><br /> 突然の蒼星石の行動と、咄嗟に自分が返した反応で、頭の中がグルグルとする。<br /><br /> (…でも……そんな寂しそうな顔をするのは…反則ですぅ…)<br /> とっても寂しそうにしている蒼星石の顔を見ていると、何だか翠星石も悲しくなってきた。<br /><br /><br /> 翠星石は、少し緊張しながら…それでも、蒼星石の手をとり――<br /> そして、握った蒼星石の手を引き寄せる。<br /><br /> 「…そんな…寂しそうな顔するなです……」<br /> 「……うん…」<br /> 「…心配しなくても翠星石は…ずっと蒼星石と一緒ですよ…」<br /> 「……うん…ありがとう…」<br /><br /> 煌く星空の下で、身を寄せ合いながら、そっと囁く。</p> <p>「…って!てめぇは!な~に姉妹で『良いフインキ』作ろうとしてるですか!」<br /> 翠星石は身を離し、いつもの調子でそう言う。<br /> 「それを言うなら『雰囲気』だよ?」<br /> 蒼星石も、ちょっと楽しそうに答える。<br /><br /> 「!? わ…わざと間違えただけですよ!!」<br /> 「ふふ…そういう事にしとくよ」<br /> 「なぁ!?信じてないですか!…もう蒼星石なんて知らんです~」<br /> 翠星石は楽しそうに微笑んだまま、階段を駆け下りる。<br /> 「待ってよ翠星石!」<br /> 同じように微笑んだ蒼星石が、その後を追いかけていった―――</p> <p>―※―※―※―※―<br /><br /> 「…あらぁ?全員集合ねぇ…」<br /> 水銀燈が散歩をしてると、岩場で談笑している皆に出会った。<br /><br /> 「水銀燈こそ、こんな時間に散歩だなんて、珍しいね?」<br /> 翠星石の隣をしっかりキープしている蒼星石が、そう尋ねてくる。<br /><br /> 「ちょっと、寝付けなくてね…ぶらぶらしてた、って訳よぉ」<br /> 適当に、そう答えた。<br /><br /> (言える訳ないわぁ…『寝てたら、隣の部屋からちびっ子の騒ぐ声で目が覚めて…<br /> 気分転換に屋上に行ったら誰かがイチャイチャしてたので、仕方なく外に出てました』だなんて…<br /> …言える訳ないわぁ…)<br /><br /> 水銀燈は、少しどんよりする。<br /> 自分の周りには、変な奴しか居ないのかと。<br /><br /> 眼帯姉妹は、何を考えてるのか分からないし…<br /> 双子は最近…特に妹の方が、シスコンっぷりに拍車がかかってる。<br /> ちびっ子達は…子供に常識を求めるというのも、どうかと思う。<br /><br /><br /> 水銀燈は、ばれないように小さくため息をつき…<br /> そして、適当な岩に腰掛けた。<br /> (でも…このメンバーが気に入ってる時点で…私も相当な変わり者ねぇ…)<br /> そう思うと、少し笑みが零れてきた。</p> <p>暫くの間、夜の荒野に吹く風をBGMに会話を楽しむ―――。<br /><br /><br /> 「! そうです!良い事思いついたですよ!」<br /> 翠星石が話の合間に突然、そう声を上げた。<br /><br /> 「ちょっとの間、そのまま待ってやがれです!」<br /> そう言うと、異常な速さでアジトの中に戻り―――<br /> そして、異常な速さで再び帰ってきた。<br /><br /> 「こんな夜は何か歌うですよ!」<br /> そう言い手に持つのは、一つのクラシックギター。<br /><br /> そして翠星石は、ちょうど良い高さの岩に腰掛け足を組む。<br /> 得意満面の表情で、膝の上にギターを乗せ…<br /><br /> 「…と…ところで…誰か…ギター弾ける奴は居ないんですか…?」<br /><br /> 期待の眼差しを向けていた全員が、同時にため息をつくのが聞こえた。<br /><br /> そして…<br /> 「しょうがないわねぇ…ほら、貸してみなさぁい…」<br /> 水銀燈がそう言い、立ち上がる。<br /> 翠星石は水銀燈にギターを渡すと、そそくさと近くの岩場に腰掛けた。</p> <p>「へえ…水銀燈とクラシックギターだなんて…変わった取り合わせもあるもんだね」<br /> 蒼星石は、珍しい光景に思わず声を上げる。<br /><br /> 雛苺が期待の目を、キラキラ輝かせながら向けてくる。<br /><br /> 「……銀ちゃんは…何をやっても素敵なんだよ…?」<br /> 薔薇水晶が何故か誇らしげにそう言う。<br /><br /> 雪華綺晶はそんな薔薇水晶に、苦笑いを向けている。<br /><br /> 「…この一曲しか知らないんだから…あんまり期待しないでよぉ?」<br /> 水銀燈はそう言い、岩に腰掛ける。<br /> ポケットから煙草を取り出し、その先に火をつける。<br /><br /> 「何ていう歌なのかしら?」<br /> 金糸雀が、ギターを構えた水銀燈に質問してきた。<br /><br /> 水銀燈は少し目を瞑り…そして満天の星空を眺めた。<br /><br /> 「…さぁ…忘れちゃったわぁ…」<br /><br /><br /><br /> ―――嘘だ。<br /><br /> 忘れる訳が無い。<br /> だが、結局この歌の名前を教えてもらう日は来なかった。<br /> それだけ。</p> <p>火をつけたばかりの煙草。水銀燈はそれを、横に置き…<br /><br /> 空に吸い込まれるように上る、一本の煙を見上げながら、静かに弦を弾く――――<br /><br /><br /> 「――からたちの――とげは痛いよ――<br /> ――青い――青い――…」<br /><br /><br /> ―――忘れる訳がない。<br /><br /> 荒野に飛び出した日の事―――<br /><br /> そして―――<br /><br /> そこで過ごした、かけがえの無い日々――――<br /><br /><br /><br /><br /><br /><br /> ⇒ see you next Wilds!</p>

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