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男だと思ってた 後編」(2008/03/12 (水) 05:36:39) の最新版変更点

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<p>ザワザワ<br /> 「えーマジキモイんですけどー」「ちょwwwおまwww」<br />   ザワザワ<br /> 「男なのにお姫様のドレスのデザインってww」「桜田君ってちょっとキモイ趣味してるよね…」<br /><br /> 女子達が僕をバカにする声が何所からともなく聞こえる…<br /><br /> …分かってる…これは幻聴だ…<br /> 分かってる…<br /> けど…<br /> 気分が悪い…<br /><br /><br /> 「…ジュン君…?」<br /><br /> 蒼星石の声で我に返る。<br /><br /> …僕は…一体…<br /><br /> そう思い、駅前に備え付けられた時計を見る。<br /> どうやら…ほんの一瞬だけ、ボーっとなっていただけみたいだ。<br /><br /> オーケェー…落ち着け僕…こんな時こそ、クールな判断をだな…<br /> そう…クールな判断を…<br /> クールな…<br /> …<br /> ……<br /> ――――zzz…<br /> …!?<br /> 目覚めよ僕!目覚めよ桜田ジュン!! <br /><br /> 軽いパニックになりながらも、平静を装い蒼星石に声をかける。<br /> 「え…いや…その…あれだよ…いつもと服装が全然違うからさ…だから…その…あれだ…」<br /><br /> オーケー、オーケー。いつも通り、ごく自然な会話だ。<br /> 実にフランクな、イタリア人も真っ青な位にスムーズに言葉を紡げてるね。<br /><br /> そんな僕の思いを他所に、蒼星石は少し恥ずかしそうにスカートを弄る。<br /> 「…いっつも学校では花壇さわるからズボン穿いてるし…やっぱり…似合わないかな…?」<br /><br /> …いや、マジで冷静になろう。<br /> …<br /> とりあえず…彼…いや、彼女か。蒼星石は女の子だった。<br /> 確かに、男が花壇って珍しいとは思ってたけどねー<br /> いや!そんな事より!<br /> この窮地をどうするか!?<br /> 頭の中で緊急会議が開催される。<br /> …<br /> ――素直に、ちゃぁんと言ってあげなさいよぉ。<br /> ――そんな事したら、蒼星石が傷つくだけなのだわ!<br /> ――ここで問題が起これば、後で翠星石、ひいては他の女子が黙ってないかしら!?<br /> ――うにゅー<br /> ――……とりあえず…頑張ろう…<br /> ――貴方なら…大丈夫ですわ<br /> …<br /> よし!…ここは無難に行こう!それがベスト!それが最も日本人的発想!<br /><br /> 「い…いや…その…少し驚いたけど…その…に…似合ってると…思う…よ…」<br /><br /> 何とか搾り出すように、そう答える事が出来た。<br /><br /> …偉いぞ僕!確実に過去のトラウマを踏み越えつつある証拠だ!<br /><br /> 「ホント?…ふふ…そう言ってもらえると嬉しいな」<br /> 蒼星石はキラッキラの笑顔でそう言い、楽しそうに続ける。<br /> 「映画までまだ時間有るし、ちょっとお茶でも飲もうよ!」<br /><br /> 「ハヒィ!?」<br /> 「え?」<br /> 「!…いや、ウン!そうしようか!」<br /> 咄嗟に出た裏声を、何とか誤魔化す。<br /> やっぱり全然トラウマ消えてねーじゃん僕。<br /> …<br /> いや、頼むから誤魔化せててくれ…。<br /><br /> とりあえず…二人で映画館の近くにあった喫茶店「Alice」に入る事にした。<br /><br /> …アリスっていっても、低い声で『You are king of kings』なんて呟く歌が流れてたりはしない。<br /> でも…僕もただの男に帰りたいです…<br /> 女性恐怖症なんて無い、ただの男に…ライラライラライラライラライ…♪<br /> …<br /> ハッ!?…僕は一体何を考えてたんだ!?<br /> これは明らかに世代が違うじゃないか!<br /><br /> 「僕は紅茶とケーキを。…ジュン君は?」<br /> 蒼星石の声で我に返る。<br /> 「え!そうだな!僕は……紅茶を」<br /> とりあえず、まとまらない思考回路を必死に働かせて、何とかその場を凌ぐ。<br /><br /> 出てきた紅茶を飲みながら、蒼星石と他愛の無い会話をする。<br />  <br /> 「僕、小さい頃とかよく男の子に間違われて…<br /> だからかな?特別な日以外は、あんまりスカートとか…恥ずかしくって…」<br /> 頬を少し赤く染め、節目がちにそう言う。<br /> 「だから…ジュン君が似合ってる、って言ってくれて…すごく嬉しかったんだ…」<br /><br /> なるほど!つまり、最初の僕の選択は正しかった!そういう事か!<br /> そして…この陣形…これは…<br /> これはそう…まるで『デート』みたいじゃないか!!<br /> だとしたら!<br /> 何故、三択の選択肢が何所にも出てこないんだ!?<br /> 『本当のデートは三択じゃないらしい…』たしかそんな噂を聞いたことはあるが…<br /> …それが本当なら…僕はどうしたら良いんだ!?<br /><br /> 「…え…いや…でも…ほら!ホントによく似合ってるからさ!うん!いやホントに!」<br /> …オーケー…いつも通りを心掛けるんだ…平常心だ…明鏡止水の心でだな…<br /> 宇宙だ…宇宙を感じるんだ…僕が世界で世界が僕なんだ…<br /> いいぞ…いい感じだ…フフフ…<br /> …時が…時が見える…!<br /><br /> 「……?どうしたんだいジュン君?…ボーっとして」<br /> 蒼星石の一言で、僕は白昼夢から目覚める。<br /> 「ハ?…いや!その…ねぇ?」<br /> 「??」<br /><br /> そんな他愛の無い会話をする。<br /> …いや…頼むから会話として成立しててくれ…。<br /><br /> 「あ!…いや…ほら…そろそろ、アレだ…映画館にアレした方が…」<br /> アレって何だ。あんまり指示語ばっかり使っていると、バカだと思われるぞ。<br />  <br /> でも、そんなぎこちない会話でも、何とか蒼星石には通じたみたいだ。<br /> 「そうだね。そろそろ映画館に行っとこうか」<br /><br /> …<br /><br /> 映画館のトイレの洗面台で、僕はバシャバシャと顔を洗う。<br /><br /> 一人になると、さっきまでどれだけ自分が冷静さを欠いていたのかがよく分かる。<br /> そして…<br /> 鏡を見ながら、心の中で呟く。<br /><br /> …大丈夫…大丈夫さ…<br /> 昨日まではあんなに仲良く話してたじゃないか…<br /> 今日はその…たまたまいつもと格好が違うだけで…蒼星石自信は何も変わってはいない…<br /> だから…きっと大丈夫。<br /><br /> 自分の顔をパンっと叩き、気合を入れる。<br /> そしてトイレから戻り…蒼星石の姿を見た瞬間…<br /> やっぱり、手の平から汗が滲み出てくる感覚。<br /><br /> 蒼星石は…格好以外はいつもと何も変わってない。<br /> いつもと違うのは…傍から見たら、僕なのだろう。<br /><br /> 蒼星石の笑顔が、眩しく僕の心を抉る。<br /> …今まで勘違いしていた自分。寄せていた信頼を一方的に穢した自分。<br /> そんな自分自身が情けなくなり…<br /> だが、心に刻まれた女性に対する恐怖心はそれ以上に強く…<br /> 結局僕は、どこか曖昧な会話と、意味も無く泳ぐ視線でしか蒼星石に応えられなかった。<br />  <br /> 映画が上映されてる間も…<br /> 僕は不用意な接触を恐れて、手は常に膝の上。<br /> そして…<br /> 何が怖いのか…<br /> 決して蒼星石の方を見る事は無かった。<br /><br /> 映画も終わり、帰りの電車の中…<br /> 蒼星石は手すりにもたれかかり、しずかにまどろんでいる。<br /><br /> 僕はその蒼星石を見て思う。<br /><br /> 学校で会った時より…ずっとはしゃいでたから、きっと疲れたんだろうな…<br /> 僕も…今日はかなり頑張ったから…少し疲れたな…<br /><br /> うとうとと消え落ちそうな意識の中で…考える。<br /><br /> 何で僕は…こんなに頑張ってたんだろう…?<br /> きっと…<br /> 蒼星石に向けてた信頼が…蒼星石が女の子だからっていう理由で壊れるのが嫌だったんだ…<br /> …やっぱり女の人は苦手だけど…<br /> 僕は男とか女とかじゃなくて…きっと同じ人間として蒼星石が………<br /><br /> ――――<br /><br /> いつの間にか溶けるように消えていた意識が、駅に到着したアナウンスで覚醒する。<br /><br /> 「ジュン君…着いたよ?起きて…」<br /> いつの間にか目を覚ましていた蒼星石が、僕にそう声をかける。<br /><br /> どうやら僕は、蒼星石より早く起きる事のできない星の下にあるようだ。 <br /><br /> 二人で電車から降り、夕日に照らされた街を並んで歩く。<br /><br /> 不意に蒼星石が呟くように…消え入りそうな声で告げてくる。<br /> 「…やっぱり…僕と一緒でも、楽しくなんてないよね…」<br /> 「え…?」<br /> 突然の内容に…何も気の利いた答えが返せず、僕はただその場に立ち止まった。<br /><br /> 「だってジュン君…何だか今日一日、すごく無理してた感じだし…やっぱり…僕と居ても…」<br /> 蒼星石が今にも泣き出しそうな声でそう言ってくる。<br /><br /> その言葉は…その声は、僕の心を茨のように締め付けてくる。<br /> ――違う――<br /> そう伝えたいが…その言葉が出てこない。<br /><br /> まるで心臓が飛び出して別の何かになったかのような…<br /> 体中の血が全て逆流したかのような…<br /> そんな感覚が全身に広がる…。<br /><br /> 僕は…精一杯の力を足に込め、地面を踏みしめ…<br /> そして、力の限りを尽くして…やっと出た小さな声で答えた…。<br /><br /> 「僕は…昔色々あって…女の人が苦手なんだ…。<br /> 苦手って言うより…怖い、って言った方が正確かな…」<br /><br /> 蒼星石は、語る僕の表情の全てを読み取ろうとするように…真っ直ぐ僕に視線を向けてくる。<br /><br /> 「最初僕は…蒼星石の事…男だと思ってたんだ…本当にごめん…<br /> だから…その…女の子だって知って…どうすれば良いのか分からなくなったんだ…」 <br /><br /> 僕は真っ直ぐこっちを見る蒼星石と視線を合わせる。<br /> 自分の心臓が早鐘のように激しく鳴る音が聞こえる。<br /><br /> 「だけど…僕は…始まりは僕の勘違いだったけど…<br /> 蒼星石という人と会えた事を…その…大事にしたい…そう思ったんだ…」<br /><br /> そして広がる、暫くの沈黙…<br /><br /> 蒼星石が僕に近づき…そして…<br /><br /> 僕の頬を張る音が、夕焼けに照らされた街に小さく響いた。<br /><br /> 蒼星石が目元に涙を溜め…<br /> それでも精一杯に悪戯っぽく微笑んでみせる。<br /> 「…ひどいなぁジュン君…でも…これでおあいこだよ…?」<br /><br /><br /> 「え…あ…うん…」<br /> やっぱり僕は、こんな時には間抜けな答えしか返せない。<br /> それでも…<br /> 僕はこの日…初めて心から蒼星石の顔をちゃんと見れた気がした。<br /><br /> いつの間にか夕日も、そのほとんどが地平線に消えかけている。<br /><br /> 僕らは並んで…家路に着く。<br /><br /> こんな時…どうすれば良いんだろう…<br /> 考えるが、答えは見つからない。<br /><br /> 考えて分からないなら…素直に思ったまま行動する事にした。<br /><br /> 隣を歩く蒼星石の手に、そっと自分の手を重ねてみる…。<br /><br /> なけなしの勇気を振り絞って…<br /> でも、やっぱり体に染み付いたものの力は強く…咄嗟に僕はその手を放してしまった。<br /><br /> 再び沈黙が広がり…<br /> 二人の靴の音だけが、まるで世界に存在する全てのように響く。<br /><br /> 僕は…静かに、沈む夕日を眺めていた。<br /><br /> 不意に、腕に違和感を感じる。<br /><br /> 視線を自分の手に落とす。<br /><br /> それは…<br /> 僕の服の袖を掴む蒼星石の手。<br /><br /> 心臓が痛い位にドキドキする。<br /> 手の平から蛇口をひねったみたいに汗が出てくる。<br /> でも…<br /> 不思議と…気持ちが悪くはならない。<br /><br /> むしろ…落ち着かない気持ちと落ち着いた心。<br /> そんなアンバランスな感じがして…何故だか心地良い。<br /><br /> 僕は、僕の服の袖を掴む蒼星石と二人で…夕日の中を歩いて行った。<br /><br />  <br /><br /> …<br /><br /><br /><br /> 月日は流れ、季節は巡る<br /><br /><br /><br /> …<br /><br /><br /> たまの休日。<br /> 僕はいつもよりゆっくりした時間に目を覚まし…<br /> そしてリビングに行き、今日は家に誰も居ない事を思い出した。<br /><br /> 遅めの朝食の後、窓から空を眺める。<br /> 良い天気だ…。<br /><br /> 僕はふと思い立って、洗濯をする事にした。<br /><br /> 庭に出て、洗濯物を干していく。<br /><br /> 僕の服は…どれも袖の部分だけが、見事なまでに伸びきっている。<br /><br /> 僕はそれを見て苦笑いをし…<br /> そしてあれ以来、二人の合言葉のようになっているフレーズを口にする。<br /><br /><br /> 「髪の毛短いし、青いズボン穿いてるし、絶対、男だと思ってた…」</p>

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