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13.その先に見えるもの」(2008/03/01 (土) 01:12:52) の最新版変更点

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<p>壁一面に広がる巨大な機械を見つめながら、白崎は呟く。<br /> 「Alice…この為に、全ては終わり…しかし…これによって再び全てが始まる…」<br /><br /> そして、誰にも聞きとれない程小さな声で囁く。<br /> 「まるで…昔の時代に紡がれた御伽噺のように…幻想的で、美しい、至高の存在…。<br /> 科学という名の神がその全てを奉げた…究極の装置…」<br /><br /> 機械に施された『Alice』の刻印を撫でる白崎。その目には…異様な輝きが宿っていた…。<br /><br /> 車椅子の男はその様子を気にするでも無く、窓の外を眺め続ける。<br /><br /> 広がる光景は、灼熱の太陽に焼かれた大地。<br /><br /> …そして、その果てしない荒野のどこか。<br /><br /> 人目を避けるように建てられた、一軒の屋敷。<br /><br /> 太陽の光が届かない薄暗い玄関口で…睨みあう6つの瞳…<br /><br /><br /><br /><br /><br />     13.その先に見えるもの<br /><br /><br /><br /><br /> 「全く…チビカナもこんなおチビに出し抜かれるようでは、まだまだですね」<br /> 翠星石がニヤリと不敵な笑みを浮かべたまま、雛苺を睨む。<br /> そして鞄の中から小さな瓶を取り出し…それを金糸雀にヒョイと投げ渡した。<br /> 「ところがどっこい!この薬を飲めば!ひ弱な今までとはバイバイのオサラバですぅ~!!」<br /><br /> 金糸雀は薬の入った瓶を見る。『トンでもノビ~ルZ』と書いてあるが…<br /> 中で揺れる液体は、どう見ても…警戒心を煽る、蛍光緑色をしている。<br /><br /> 金糸雀は顔を引き攣らせながら…とりあえず、翠星石に聞いてみる事にした。<br /> 「…これを飲んだら…どうなるのかしら?」<br /> 翠星石がくるりと向き直り、楽しそうに謎の踊りを披露しながら答える。<br /> 「一瞬で身長がグングン伸びて、『まっするぼでー』が手に入るです!」<br /> 「……」<br /> 「ささ!チビカナ!ぐぐいっと飲んで、ビッグカナになるですよ!」<br /><br /> 金糸雀の脳裏にちょっと…いや、激しく嫌な光景がよぎる。<br />                            ズシーン ズシーン 『カ~シ~ラァァァァ!!』<br />                        怪獣にしか見えない何かが、咆哮と共に世界を滅ぼす!<br /> (お嫁に…行けなくなっちゃうかしら…)<br /><br /> 金糸雀は無言で小瓶を指の隙間から地面に落とした。<br /> グシャァと瓶の砕ける音が聞こえ、安心感が胸に広がる。<br /> (乙女の危機は…脱したかしら!)<br /> 「ごめんなさいかしら落としちゃったかしら」<br /> 「な!?せっかくの秘密兵器が粉々ですぅ!」<br /><br /> ジタバタと騒ぐ翠星石を一旦置いといて、金糸雀は目の前に立つ雛苺を真っ直ぐに見やる。<br /><br /> 翠星石もその空気を察してか…その表情からはいつのも陽気さが一瞬で影を潜めた。<br /><br /> 「さて…冗談はこの位にして…何か策でもあるですか?」<br /> 雛苺に視線を向けたまま…小声で金糸雀に話しかける。<br /><br /> 金糸雀も…雛苺に視線を向けたまま…小さく頷き…足を前に一歩踏み出した…。<br /><br /> 「…雛苺……」<br /> 「カナリア…あなたとは…もっと違う出会い方がしたかったの…もっと違う出会い方なら…」<br /> 小さな、搾り出すような声で、雛苺はそう告げ…ほんの一瞬だけ、視線を伏せた。<br /><br /> その視線が再び金糸雀と交わった時には…雛苺の目から迷いは姿を消している…。<br /><br /> …深い沈黙が辺りを支配した。<br /><br /> (…雛苺…カナも…とても残念かしら…)<br /> 静かに、固唾を飲み込む。<br /><br /> 空気が鉛のように重く感じる…<br /><br /> 額に針を近づけたかのような緊張感が全身に広がる…<br /><br /><br /> 不意に雛苺が、その両手に小さな爆弾を掴む――<br /> 同時に翠星石が駆け寄り、金糸雀を抱えて物陰に飛ぶ――<br /><br /> 轟音――<br /><br /><br /> 次の瞬間、二人が先程まで立っていた位置には、巻き起こる粉塵と抉れた床と壁。<br /><br /> 「チビカナ!ぼさっとしてると怪我するですよ!」<br /> 翠星石がそう叫び、金糸雀の額をペシッと叩き、立ち上がろうとし…<br /> その腕を金糸雀に掴まれた。<br /><br /> 「翠星石…やっぱり、戦いは避けられないかしら…。それでも…<br /> 甘いと思うかもしれないけど…雛苺には…怪我をさせたくないかしら…」<br /><br /> すがるような目を向ける金糸雀に、翠星石は鋭い視線を返す。<br /> 「このおチビ!…全く、とんでもないアマちゃん発言ですぅ…!」<br /> 翠星石はわざとらしくため息をつき、金糸雀の頬をキュッと抓る。<br /> そして…<br /> 翠星石は、自らの武器として調合した睡眠薬『スィドリーム』の瓶を鞄から取り出し、握り締める。<br /><br /> 「別にてめぇの意見なんざ聞いちゃあいないですが…<br /> これは、そーゆー戦いがたまたま私の得意な分野なだけですぅ…!」<br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 「私が『スィドリーム』で攻撃するですから、チビカナはサポートを頼んだです!」<br /> そう言うと同時に、物陰から翠星石が飛び出す。<br /> 「任せるかしら!」<br /> 金糸雀が叫び、デリンジャーの引き金を引く。<br /><br /> 小さなパァンという銃声と共に――<br /> ――翠星石の足元に金糸雀の放った弾丸がメリ込む!<br /><br /> 「……」<br /> 「……」<br /> 「てめぇチビカナ…私を殺す気ですか!?」<br /> 「ごごごごめんなさいかしら~!」<br /><br /> さっきまでいた物陰に再び飛び込んで、背後から来た爆風をやり過ごす。<br /><br /> 「チビカナの銃の腕に期待した私がバカだったです!」<br /> 翠星石が金糸雀の頭をポカリと叩く。<br /> そして…警戒しながら物陰から顔を出す。<br /><br /> 雛苺の姿が見えない…。<br /><br /> …発破によって巻き起こった粉塵で、視界は良いとは言い難い。<br /> 抉れた床に、倒れた柱…四散する様々なオブジェ。<br /> 小柄な雛苺なら、十分に姿を隠せる…。<br /><br /> 「…どこかに潜んでるみたいですが…まずいです…あのおチビを見失ったです…」<br /><br /> 金糸雀もちょっとだけ顔を出して状況を確認し――考えを巡らせる。<br />  <br /><br /> ――この状況…有利か不利か。<br /> 互いの位置を探りながら…見つからないように相手を見つける。<br /> 相手は一人、こちらは二人。<br /> 相手の爆弾は衝撃でも十分なダメージになる。<br /> こちらの戦力は…残念ながら、期待できるのは翠星石だけ。<br /> しかも、その『スィドリーム』も直撃でなければ効果は薄い。<br /><br /> 「…この状況は…カナ達には不利かしら…」<br /> そっと翠星石に囁く。<br /> 「だけど、二人でバラバラに行動して…相手を霍乱すれば…チャンスが見つかるかもしれないかしら…!」<br /> 小さく震える拳を、静かに握り締める。<br /> 「動き回るカナを狙って、雛苺が発破を投げた時に…翠星石が『スィドリーム』を叩き込む。<br /> この作戦が…一番効果的かしら…」<br /><br /> 「…チビカナ…オトリになるつもりですか」<br /> 翠星石が目を細めて詰め寄る。<br /><br /> 「…大丈夫かしら。雛苺の腕力では、そんなに速く爆弾を投げられないかしら。<br /> ドジさえしなければ…十分避けれるかしら!」<br /><br /> 言い終わると同時に、金糸雀は物陰から飛び出す――<br /> 何所からとも無く爆弾が飛来し、背後から爆風が押し寄せ――<br /><br /> 爆風に背中を押されるように、金糸雀は別の物陰に身を滑り込ませた。<br /> 「…危なかったかしら…でも…」<br /> 一人呟く。<br /> 「でも…カナの予想した通り…避けられない事は無いかしら…!」<br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 物陰から顔だけを出し、雛苺を探す…<br /><br /> …恐らく、爆発に紛れながら移動を繰り返しているのだろう。<br /> 先程、爆弾が飛んできた元と思しき地点には、誰も居ない。<br /><br /> ――ここは敵地…このまま雛苺のペースで進められると…ジリ貧は確実かしら…<br /><br /> 先行している水銀燈の戦力は確かに大きいが…撃ち洩らしが居ないとは限らない。<br /> もし、その連中がこちらに駆けつけてきたら…<br /><br /> ――何とか…雛苺の位置を掴むしかないかしら…!<br /><br /> 足元に飛び散る瓦礫に、ガラスや陶器の破片を集めて隠す。<br /><br /> ――この程度の罠にかかるとは思えないけど…何も無いよりはマシかしら<br /><br /> すっと息を吸い込み…そして物陰から飛び出す。<br /> 同時に少し離れた物陰から雛苺が立ち上がり、爆弾を投げながら移動する――<br /><br /> 閃光――<br /> 爆風――<br /><br /> 倒れ込むように、瓦礫の隙間に身を滑り込ませる。<br /><br /> 目と耳を凝らすも…やはり、雛苺の姿はすでに見当たらない…。<br /> 爆発に紛れて移動を繰り返してる、と見て間違い無い。<br /><br /> どうやら…まだ暫くは、このいたちごっこを続けるしかなさそうだ。<br /><br /> 金糸雀は再び、自らをおとりにする為飛び出す。<br /> 先程と同じように、雛苺が発破を投げかけてきて――<br /><br /> 身を守るべく、物陰に跳ぼうとした瞬間――<br /> 陥没する足場に一瞬、動きが止まる――<br /> 見ると、床板に度重なる爆発で亀裂が入り、そこが崩れ…<br /><br /> ――肝心な時に…ドジ踏んだかしら…!<br /><br /> 目の前に閃光と轟音――そして爆発とその破片が――<br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> …<br /><br /> 一体、どれ程の間、気を失ってたのだろう…<br /> いや…まだこうして生きている事を考えると、ほんの一瞬だけだったのだろう。<br /><br /> 金糸雀は自分がまだ生きてる事に気が付き、恐る恐る目を開いた。<br /><br /> そして…<br /> 「そんな…翠星石…!」<br /> 自分に覆いかぶさり、頭から一筋の血を流す翠星石を見た…。<br />  <br /> 翠星石は、明らかに強がりと分かる笑みを浮かべる。<br /> 「てめぇチビカナ…私の前でドジ踏むなんて、良い度胸してやがるです…」<br /><br /> そして、金糸雀の横に倒れるように伏せる。<br /> 「…このままじゃあ、ジリ貧は間違い無いですよ…どうするですか?<br /> 策士を自称するからには、何か考えやがれですぅ…」<br /> 「そんな…急に言われても、思いつかないかしら…」<br /><br /> 小声で会話をしながら、二人は荒れ果てた屋敷内を警戒する。<br /><br /> 荒れ果てた屋敷…?<br /><br /> 金糸雀の脳裏に、ふと疑問が生まれる。<br /><br /> 何故、ここに雛苺がいるのか。<br /> 相手が雇ったから?<br /> 確かにそれはそうだが…違う。もっと根本的な事だ。<br /><br /><br /> 何故、『発破を使う』雛苺がここにいるのか?本来、防衛すべき拠点の中に…?<br /> 普通そんな事をすれば…守るべき屋敷まで、身内の攻撃で破壊されるのは見えている。<br /> この配置は、明らかにおかしい。<br /> 雛苺は…その仲間は、その程度の事に気が付かなかったのだろうか?<br /> …そんな訳が無い。<br /><br /> 金糸雀は頭の中で、パズルのピースが揃っていくのを感じる。<br /> だが、まだ決定的な部分は見つからない。<br /><br /> 確実に破壊されつつある屋敷に視線を巡らせる。<br /><br /> この依頼の発端となった二人の保安官。巴とオディールの言葉が脳内で再生される。<br /> 『人質の保護。そして――屋敷の破壊…』<br /><br /> 雪華綺晶も雛苺も、護衛の任を無視するかのように、先へと進む水銀燈達には目もくれなかった…。<br /> 何故か…?<br /> 巴とオディールは、私達を信用しきらず、何かは分からないが…とにかく、何かを隠していた。<br /> 何故か…?<br /><br /> 「内通者…」<br /> 金糸雀が呟く。<br /> 「確証は無いけど…可能性は高いかしら…」<br /><br /> …迷ってる時間は無い。<br /> 時間が経てば経つほど…状況は不利な方に傾いていく…。<br /><br /> 金糸雀は警戒心を煽らないよう…ゆっくりと、静かに、声を上げる。<br /><br /> 「雛苺…もう…分かったから、止めるかしら…」<br /><br /><br /> ―※―※―※―※―<br /><br /><br /> 「あなた達は、巴とオディールを使って…カナ達をスケープゴートにするつもりかしら…!」<br /><br /> 姿の見えない雛苺にかまをかける。<br /> 相手が乗ってくるか否か。…いや、確実に乗ってくる。<br /> 雪華綺晶と違い、こちらに出会ってから闘う決意を固めた雛苺。<br /> そういった雛苺だからこそ…必ず、何らかの答えを返してくる。<br /> 自分の予想を信じて、声をかけ続ける。<br /><br /> 「襲撃者達は撃退する事が出来た…けど、屋敷の崩壊で人質の安否はうやむやに…。<br /> こうして、内通者にかかる疑いを少しでも軽くすると同時に、うやむやの内に人質も確保。<br /> その為に用意された演劇…これは…茶番かしら!」<br /><br /> 金糸雀の声が叫びと言って良いほど大きくなった瞬間――雛苺が立ち上がる。<br /><br /> 「言うのはダメなのー!カナリアのイジワルー!」<br /><br /> 涙を目に溜め、手にした発破を大きく振りかぶる――<br /><br /> だが、その発破が投げられるより一瞬早く――<br /> 雛苺の足元で、瓶の割れる高い音が響く。<br /><br /> 気が付けば、金糸雀のすぐ横に翠星石が立っている。<br /> いつになく真面目な表情の翠星石は、雛苺に視線を向けたまま言う。<br /><br /> 「…位置さえ掴めば、こっちのものですよ。<br /> 私の『スィドリーム』を一呼吸でも吸えば…たちまち意識はブラックアウトですぅ!」<br /><br /> 雛苺は手で自分の口元を覆うが…その程度では空気に混ざったスィドリームを防ぐことは出来ない。<br /><br /> そして…雛苺もそれに気が付き…揺れる意識の中で…<br /><br /> 自分の足元に、発破を投げつけた――!<br /><br /> 爆風で薬が飛散し――<br /> 雛苺自身も弾き飛ばされる――<br /><br /> 「なぁ!?なんて無茶するですか!?」<br /> 予想外の行動に翠星石は奇声を上げながら、同じく予想外の事に凍りついた金糸雀を抱えて物陰に跳ぶ。<br /><br /> 爆風が止んだのを感じ、物陰から顔を出すと…<br /> 廊下の先…雛苺が片足を引き摺りながら闇に消えていく…。<br /><br /> 「…追いかけるです…。チビカナの読み通りなら…水銀燈が危険です…!」<br /> 翠星石はそう言うと同時に、金糸雀の襟を掴んで立ち上がらせる。<br /><br /> 「…雛苺が…あんな幼い子が、ここまでする程の何か…って事かしら…」<br /> 視界を覆っていた煙も徐々に晴れ、壊れた壁から光が差し込む。<br /> それでも…金糸雀は未だ見通せない薄暗い廊下に一抹の不安を感じる。<br /><br /> その先に、雛苺達の真意が在ると信じて足を進める。<br /><br /><br /> 目指すは屋敷の深淵―――</p>

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