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真紅の茶室 其の弐 巴編」(2008/02/18 (月) 00:01:39) の最新版変更点

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<p>ここは京都の外れ、静かな山間にひっそりとたたずむ山荘。<br> 茶室に一人篭り、茶を喫している真紅の姿があった。<br> 上洛を果たした際、真紅は和歌の第一人者・細川藤孝と茶の湯を通じて出会い、意気投合した。<br> 真紅の茶に感じ入った藤孝は、自らの所有していたこの山荘を譲り、別荘として使うように勧めたのである。<br> 無論、合戦に明け暮れる日々の中でここを訪れる暇はほとんどない。<br> しかし忙しい日々の合間を縫ってこの山荘を訪れ、茶の湯を楽しむのは真紅にとってなくてはならない楽しみだった。<br> 紅「戦の後の一杯のお茶……このひとときが一番落ち着くのだわ」<br> 姫路城で水銀燈と茶の湯をともにして以来、真紅は姉妹や家臣を茶の湯に招いて交流を深めたいと考えていた。<br> 紅「こんな素敵な茶室を得られたことだし、そろそろ客人を呼んでもいいのだわ。さて、まずは誰を招こうかしら」<br> <br> 巴「お邪魔します」<br> 紅「よく来てくれたのだわ。さ、お座りなさい」<br> ゆっくりと膝を曲げ、音もたてずに座る巴。<br> 巴の周囲だけ空気が無いのではと思えるほど、それは静かな所作だった。<br> 紅「……」<br> 巴「……」<br> 無言のまま、茶をたてはじめる真紅。<br> それを無言で見つめる巴。<br> 巴「……今貴女の考えてること、当ててみましょうか?」<br> 表情を変えぬまま、巴が沈黙を破った。<br> 巴「『交流の場とはいえ、茶の湯は最低限静かに楽しみたい、そう思って一番作法を心得ていそうな巴を最初に呼んだけれど……<br>    確かにこの子は作法は完璧だけれども、これからどうやって話を進めればよいのかしら。間がもたず、気まずい空気が流れて<br>    しまった時はいったいどうすれば……』……こんな感じじゃない?」<br> 紅「……ときに巴、貴女の『智謀』は幾つだったかしら?」<br> 巴「『71』だったと思うけど?」<br> 紅「どうやら、作者は見積もりを誤ったようね」<br> 巴「恐れ入ります」<br> <br> ○本日の客人:柏葉巴<br> <br> 紅「さ、お茶がはいったわ。どうぞ」<br> 巴「頂きます」<br> 巴は遠慮気味に僅かに音をたてて茶を啜り、茶碗を静かに置いた。<br> 巴「……結構なお手前で」<br> 紅「ああ、やっぱりこれよ。茶を通じて互いの心を通い合わせる……そこには言葉など要らないのだわ」<br> うっとりとしながら「放絵」に頬擦りする真紅を見て、微笑む巴。<br> 巴「そうね。このお茶を飲むと、真紅の心が伝わってくるように思えるわ」<br> 紅「やはり貴女を呼んだのは正解だったのだわ。さっき本心を言い当てられたときは/(^o^)\だったけれど」<br> 巴「そういえば、思い出したわ。折角の機会だから、貴女に相談しようと思っていたことがあるの」<br> 紅「あら、何かしら。私に出来ることなら何でも言って頂戴」<br> 巴「ありがとう。実は、私の刀のことなんだけれど……」<br> 巴が普段愛用している刀は、今は真紅の家人に預けてあって傍らには無い。<br> こうした気遣いひとつとっても、水銀燈とは雲泥の差だと真紅は思うのだった。<br> 巴「名前があったほうがいいかな、って思っているの。水銀燈の『迷鳴』みたいに」<br> 紅「名前は重要なものではないと思うけれど……」<br> 巴「でも名前があった方が戦意も高まるかも、って。『今宵もこの○○が貴様の血を啜りたいと囁いておるぞ……ククク』みたいな」<br> 紅「そ、そう……」<br> 冷たい汗が一筋、真紅の頬を伝って流れ落ちた。<br> 紅「でも確かに、名前があればキャラも立ちやすいという気はするのだわ。……何か銘みたいなものはないの?」<br> 巴「それが無銘なのよね。斬れ味は抜群だから気にしていないけど」<br> 紅「それはそれで何か怖いのだわ……」<br> 巴「貴女や水銀燈のように、原作で何か繋がりのある要素があればいいのだけれど」<br> 紅「あるとすれば『根性入魂棒』くらいのものね」<br> 巴「それは却下」<br> 紅「やっぱり」<br> <br> 巴「真紅、お願い。貴女にこの刀の名付け親になって欲しいの」<br> 紅「私には思い浮かびそうに無いわ……それは本当に必要なことなのかしら。さっきも言ったけれど、名前は重要では無い気がするのだわ」<br> おかわりの茶をたてつつ、真紅は言う。<br> 紅「本当に愛情を込めて使っていれば、名前など無くとも心は通うものよ」<br> 巴「でも……例えば貴女のその『放絵』、大切にしているのは名前も含めてのことではないの?」<br> 紅「もちろんよ。けどそれは私が出会った時に既にその名があったから……もしも違う名だったとしたら、その時はその名前を愛していたと思うのだわ」<br> 慈しむような仕草で「放絵」に口をつけ、茶を啜る真紅。<br> 巴「でも、もっと大切にしたい、もっと愛情を注いであげたい……その想いから名を付けるというのは間違ってないと思うの」<br> 紅「確かに、それも真理かもしれないわね」<br> 眼を閉じ、静かに真紅は頷いた。<br> 紅「だとすればなおさら、私が貴女の愛用品に名前を付けることなど出来ない。それはやはり自分で考えるべきことなのだわ」<br> 巴「……そうね。その通りだわ」<br> 茶碗を持ったままうなだれる巴。<br> 巴「私は自分で名前を考えることも出来ない……それはきっと、自分で思うほどにはこの刀を大切にしていないからなんだわ」<br> 紅「そんなことはなくてよ。ただ、貴女は本心では名前を必要と感じていないというだけのこと」<br> 包み込むような眼差しを巴に注ぎながら、真紅は言った。<br> 巴「ゴメンなさい真紅、変な相談しちゃって。でもおかげで、何かすっきりしたように思うわ」<br> 紅「それは良かったのだわ。お役に立てて嬉しい限りよ」<br> 巴「じゃ、そろそろお暇するわ。ご馳走様でした」<br> 紅「またいつでもいらっしゃい。合戦の無い時にね」<br> <br> 巴が辞していった後、虫の声を聞きつつ真紅は物思いに耽っていた。<br> 紅「きっと巴は本当は分かっていたのだわ……何が大切なことのか」<br> 林の間を潜り抜ける風が冷たさを増す。<br> 真紅は静かに格子戸を閉じた。<br> 紅「誰もが本当は心の内に結論を秘めている……でもそれに自信を持てない時、他人に意見を求めたがるものなのだわ」<br> 果たして自分は、巴が欲する結論を導き出せたのだろうか。<br> 真紅がそんなことを考えているうちに辺りは薄闇に包まれようとしていた。<br> 紅「皆の胸の中にはいろんな思いが渦巻いているものなのね</p>
<p>ここは京都の外れ、静かな山間にひっそりとたたずむ山荘。<br> 茶室に一人篭り、茶を喫している真紅の姿があった。<br> 上洛を果たした際、真紅は和歌の第一人者・細川藤孝と茶の湯を通じて出会い、意気投合した。<br> 真紅の茶に感じ入った藤孝は、自らの所有していたこの山荘を譲り、別荘として使うように勧めたのである。<br> 無論、合戦に明け暮れる日々の中でここを訪れる暇はほとんどない。<br> しかし忙しい日々の合間を縫ってこの山荘を訪れ、茶の湯を楽しむのは真紅にとってなくてはならない楽しみだった。<br> 紅「戦の後の一杯のお茶……このひとときが一番落ち着くのだわ」<br> 姫路城で水銀燈と茶の湯をともにして以来、真紅は姉妹や家臣を茶の湯に招いて交流を深めたいと考えていた。<br> 紅「こんな素敵な茶室を得られたことだし、そろそろ客人を呼んでもいいのだわ。さて、まずは誰を招こうかしら」<br> <br> 巴「お邪魔します」<br> 紅「よく来てくれたのだわ。さ、お座りなさい」<br> ゆっくりと膝を曲げ、音もたてずに座る巴。<br> 巴の周囲だけ空気が無いのではと思えるほど、それは静かな所作だった。<br> 紅「……」<br> 巴「……」<br> 無言のまま、茶をたてはじめる真紅。<br> それを無言で見つめる巴。<br> 巴「……今貴女の考えてること、当ててみましょうか?」<br> 表情を変えぬまま、巴が沈黙を破った。<br> 巴「『交流の場とはいえ、茶の湯は最低限静かに楽しみたい、そう思って一番作法を心得ていそうな巴を最初に呼んだけれど……<br>    確かにこの子は作法は完璧だけれども、これからどうやって話を進めればよいのかしら。間がもたず、気まずい空気が流れて<br>    しまった時はいったいどうすれば……』……こんな感じじゃない?」<br> 紅「……ときに巴、貴女の『智謀』は幾つだったかしら?」<br> 巴「『71』だったと思うけど?」<br> 紅「どうやら、作者は見積もりを誤ったようね」<br> 巴「恐れ入ります」<br> <br> ○本日の客人:柏葉巴<br> <br> 紅「さ、お茶がはいったわ。どうぞ」<br> 巴「頂きます」<br> 巴は遠慮気味に僅かに音をたてて茶を啜り、茶碗を静かに置いた。<br> 巴「……結構なお手前で」<br> 紅「ああ、やっぱりこれよ。茶を通じて互いの心を通い合わせる……そこには言葉など要らないのだわ」<br> うっとりとしながら「放絵」に頬擦りする真紅を見て、微笑む巴。<br> 巴「そうね。このお茶を飲むと、真紅の心が伝わってくるように思えるわ」<br> 紅「やはり貴女を呼んだのは正解だったのだわ。さっき本心を言い当てられたときは/(^o^)\だったけれど」<br> 巴「そういえば、思い出したわ。折角の機会だから、貴女に相談しようと思っていたことがあるの」<br> 紅「あら、何かしら。私に出来ることなら何でも言って頂戴」<br> 巴「ありがとう。実は、私の刀のことなんだけれど……」<br> 巴が普段愛用している刀は、今は真紅の家人に預けてあって傍らには無い。<br> こうした気遣いひとつとっても、水銀燈とは雲泥の差だと真紅は思うのだった。<br> 巴「名前があったほうがいいかな、って思っているの。水銀燈の『迷鳴』みたいに」<br> 紅「名前は重要なものではないと思うけれど……」<br> 巴「でも名前があった方が戦意も高まるかも、って。『今宵もこの○○が貴様の血を啜りたいと囁いておるぞ……ククク』みたいな」<br> 紅「そ、そう……」<br> 冷たい汗が一筋、真紅の頬を伝って流れ落ちた。<br> 紅「でも確かに、名前があればキャラも立ちやすいという気はするのだわ。……何か銘みたいなものはないの?」<br> 巴「それが無銘なのよね。斬れ味は抜群だから気にしていないけど」<br> 紅「それはそれで何か怖いのだわ……」<br> 巴「貴女や水銀燈のように、原作で何か繋がりのある要素があればいいのだけれど」<br> 紅「あるとすれば『根性入魂棒』くらいのものね」<br> 巴「それは却下」<br> 紅「やっぱり」<br> <br> 巴「真紅、お願い。貴女にこの刀の名付け親になって欲しいの」<br> 紅「私には思い浮かびそうに無いわ……それは本当に必要なことなのかしら。さっきも言ったけれど、名前は重要では無い気がするのだわ」<br> おかわりの茶をたてつつ、真紅は言う。<br> 紅「本当に愛情を込めて使っていれば、名前など無くとも心は通うものよ」<br> 巴「でも……例えば貴女のその『放絵』、大切にしているのは名前も含めてのことではないの?」<br> 紅「もちろんよ。けどそれは私が出会った時に既にその名があったから……もしも違う名だったとしたら、その時はその名前を愛していたと思うのだわ」<br> 慈しむような仕草で「放絵」に口をつけ、茶を啜る真紅。<br> 巴「でも、もっと大切にしたい、もっと愛情を注いであげたい……その想いから名を付けるというのは間違ってないと思うの」<br> 紅「確かに、それも真理かもしれないわね」<br> 眼を閉じ、静かに真紅は頷いた。<br> 紅「だとすればなおさら、私が貴女の愛用品に名前を付けることなど出来ない。それはやはり自分で考えるべきことなのだわ」<br> 巴「……そうね。その通りだわ」<br> 茶碗を持ったままうなだれる巴。<br> 巴「私は自分で名前を考えることも出来ない……それはきっと、自分で思うほどにはこの刀を大切にしていないからなんだわ」<br> 紅「そんなことはなくてよ。ただ、貴女は本心では名前を必要と感じていないというだけのこと」<br> 包み込むような眼差しを巴に注ぎながら、真紅は言った。<br> 巴「ゴメンなさい真紅、変な相談しちゃって。でもおかげで、何かすっきりしたように思うわ」<br> 紅「それは良かったのだわ。お役に立てて嬉しい限りよ」<br> 巴「じゃ、そろそろお暇するわ。ご馳走様でした」<br> 紅「またいつでもいらっしゃい。合戦の無い時にね」<br> <br> 巴が辞していった後、虫の声を聞きつつ真紅は物思いに耽っていた。<br> 紅「きっと巴は本当は分かっていたのだわ……何が大切なことのか」<br> 林の間を潜り抜ける風が冷たさを増す。<br> 真紅は静かに格子戸を閉じた。<br> 紅「誰もが本当は心の内に結論を秘めている……でもそれに自信を持てない時、他人に意見を求めたがるものなのだわ」<br> 果たして自分は、巴が欲する結論を導き出せたのだろうか。<br> 真紅がそんなことを考えているうちに辺りは薄闇に包まれようとしていた。<br> 紅「皆の胸の中にはいろんな思いが渦巻いているものなのね……次は誰を招こうかしら」</p>

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