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灯台の下 【Another story~Spinningwheel and Prompter~】」(2008/01/14 (月) 18:46:40) の最新版変更点

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<p>「さて・・そろそろ頃合いかな・・」<br> 携帯を取り出す。<br> 「────もしもし?翠星石?──で?どうだった?<br>  ──うん、うん、そっか。──よかったね。僕も嬉しい。<br>  ──や、それだけだ。それじゃ、ごゆるりと。<br>  ──ははは、冗談だよ、ゴメンゴメン。──うん。それじゃあね。」<br> 「上手く行ったようですね。」<br> 「あっちはね。」<br> 「あっちは、というと?」<br> 「もう一つの糸車。糸が縺れた糸車。それをほどきに行かなくちゃ。」<br> 「ほう。・・・・貴女も損な役回りですね。」<br> 「もう、慣れてますから。こういう役は、僕だけで十分だ。」<br> 「・・自ら舞台を降りて黒子に徹する、と。」<br> 「そういうことかな。」<br> 「我々も似たようなものですから、よく分かりますよ。」<br> 「そうですか。・・・・では、僕はこれで。今日は本当に助かりました。有難うございます。」<br> 「いえいえ。私も大いに楽しませていただきました。<br>  ・・もう、このカクテルは、作ることは無いでしょう。」<br> 「そうして頂けると有り難いです。それでは、また来ます、兎さん。」<br> 「またのご来店を心よりお待ちしております、黒子さん。」<br> <br> <br> 月が明るい。生暖かい空気が肌を包み込む <br> <br> <br> 「・・・さて、行きますか。」</p> <dl> <dt>------------------------</dt> <dt><br> 巴は、泣いていた。先程のところがまだ熱い。 <br> <br> ──────────────────桜田君。 <br> <br> 疼く。切ない。<br> ─────どうして────どうして──── <br> <br> ・・・ン・・・・ンポーン・・・・・・ピンポーン・・・・・ <br> <br> 「・・はい・・・」<br> 「やあ、巴。僕だよ。」<br> 「・・・蒼星石・・・・」<br> <br> <br> 「・・・・」<br> 「・・・・」<br> 沈黙。蒼星石がその沈黙を破って、<br> 「・・泣いていたのかい?」<br> 「・・・・」<br> 「・・ジュン君、かい?」<br> 「・・・・知ってたの?」<br> 「うん。実はさ、一ヶ月くらい前に聞いたんだ。<br>  ジュン君本人に。翠星石に君とのこと見られたって。」<br> 「えっ?そうだったの?」<br> 「知らなかったの!?」<br> 「ええ・・それであの娘、急に・・てっきり別れただけなのかと・・・」<br> 「全く、つくづくあの人もトラブルメイカーだよ。<br>  それでね、僕は怒ったんだ、彼に。優柔不断だって。<br>  そしたら、彼、君のこと選んだみたい。」 <br> <br> <br> ──────君のこと選んだみたい。<br> その言葉が、重くのし掛かる。 <br> <br> 「・・・違う・・違うの・・・」<br> <br> 激しい慟哭。蒼星石は巴を抱き寄せる。 <br> <br> 「・・・何か、あったんだね。・・・聞かせてくれないかな?」 <br> <br> 蒼星石になら話してもいい、と感じた。まるで自分に語りかけるような気がしたから。<br> 巴は、今日あったことを全て話した。 <br> <br> 「そうだったんた・・・」<br> 「・・・桜田君は、私の事を求めてなどいなかった・・・・・<br>  所詮、彼は私に欠けた偶像を求めていただけ・・・・・」<br> 「・・それは、違うよ。だって、仮にそうなら、わざわざ君と二股掛ける訳がない。」<br> 「それはそうだけど、でも・・」<br> 「それに彼、その時にこう言ったんだ。君のことも昔から好きだったって。<br>  静かな中にある柔らかい優しさに惹かれた、って。<br>  不覚にも、何故か僕もちょっとドキッとしちゃった。」 <br> 「そんなことを・・・・」<br> 「彼は、ちゃんと君を君として見ていた。大丈夫、安心して。だから、ね?」<br> 「うん・・うん・・・・」 <br> <br> 顔を上げる巴。 <br> <br> 「もう、大丈夫。・・よかった、その事が聞けて。<br>  ・・あの人は、私の事を求めていてくれた・・・」 <br> <br> 途端に蒼星石の表情が曇る。どこか悲しげだ。 <br> <br> 「・・どうしたの、蒼星石?」<br> 「・・やっぱり、君にはこの事を話しておくべきみたいだ。」<br> 「・・・・」<br> 「彼が君と付き合おうと決めたのはね、君の告白を断りきれなかったからだって。<br>  ・・・・君が壊れてしまいそうだったからだって・・・・」<br> 「・・・・そう。じゃあ、彼は同情という愛で私と・・・・」 <br> <br> 目頭が熱い。駄目だ。泣いちゃ駄目だ。必死に泣かまいと堪える。<br> 蒼星石は目に涙を浮かべている。 <br> <br> 「・・・・何で、貴女が泣いてるの?」<br> 「・・・・泣いて、良いんだよ?無理する必要なんか無い。」<br> 「・・・別に、泣きたくなんか──」 <br> <br> と、急に視界が真っ暗になる。暖かい。 <br> <br> 「・・嘘。言ったでしょ、君と僕は似てるって。<br>  君のことなんか手に取るように分かるんだ。だから、泣いていいよ、思いっきり。」 <br> <br> 暖かい。鼓動が聞こえる。あ、もう駄目だ─────── <br> <br> 「・・・うん、今度こそ、もう大丈夫。」 <br> <br> 顔を上げる巴。その顔はとても清々しかった。 <br> <br> 「そう。・・それじゃ、ジュン君に電話しよっか?」<br> 「・・えっ、何で───ううん、分かったわ。」 <br> <br> 携帯の電話帳を開く。彼に電話する前に、やるべきことがある。<br> 彼のメモリーの登録名の「ジュン」を「桜田君」に戻す。準備完了。 <br> <br> プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。ガチャ。 <br> <br> 『・・・・もしもし。』<br> 「遅すぎ。もっと早くでなさい。」<br> 『・・・・』 <br> <br> 無言の彼。その間に、伝えたい想いを言葉に紡ぐ。 <br> <br> 「・・桜田君。ありがとう。」<br> 『えっ・・・・』<br> 「一ヶ月。とても短かったけど、貴方の隣に居れて、とても幸せだった。<br>  本当にありがとう。後悔はしていないわ。」<br> 『────ま、待て!早まるな!』<br> 「・・・・・・・・・・・・へ?」 <br> <br> 思わず素っ頓狂な声をあげる。 <br> <br> 『い、今どこだ?すぐに向かうからな!』<br> 「・・・・・・・・・ぷっ。くくくっ。あっはははは。」 <br> <br> 隣でやり取りを聞いていた蒼星石も笑い出す。 <br> <br> <br> 『・・・・・・・・・・へ?』 <br> <br> 今度は彼が素っ頓狂な声をあげる。 <br> <br> 「・・・桜田君。私、メンヘルじゃ無いんだけど。自殺なんかするわけないじゃん。」<br> 『・・・・・・へっ?・・あ、な、何だよ!驚かせやがって!』<br> 「人をメンヘル呼ばわりするなんて、最低ね。桜田君。」<br> 『なっ・・・・』<br> 「うん。最低だね、ジュン君。」<br> 『そっ、蒼星石!?何で君がいるんだ?』<br> 「最低なジュン君には秘密だよ。」 <br> <br> 笑い出す巴。 <br> <br> 『クソッ、何だよ人を散々馬鹿にしやがって!一体何で電話してきたんだよ─────<br> ちょっと、何の話ですかぁ?』<br> 「あ、翠星石?実はね、かくかくしかじかで・・・・」 <br> <br> 蒼星石が今の出来事を面白おかしく説明する。バカ笑いする翠星石。 <br> <br> 『イーッヒッヒヒヒ!馬鹿ですぅ!ジュンは世界一の大馬鹿者です!<br>  ・・・ククッ、腹痛てぇですよ!<br>  ─────ちょっと、いい加減返せよ。もしもし、一体何の用だ?』 <br> 「あ、ジュン君?ちょっと待ってね。今、巴に変わるから。<br>  ───もしもし。・・あのね、桜田君。<br>  もし良かったら、これからも友達としてお付き合い出来ないかな?・・・・」<br> 『えっ・・・・』<br> 「ダメ、かな・・」<br> 『いや、俺は全然・・・・・・・本当にいいのか?』<br> 「うん!」 <br> <br> 自分でも驚くほど爽やかな返事だった。 <br> <br> 『・・・・うっ・・ありがとう・・』<br> 「泣かないの!男でしょ?」<br> 『・・でも・・・僕は君を・・』<br> 「だから、良いって言ってるじゃない。・・あんまりしつこいとウザいよ?」 <br> <br> そう言って、蒼星石にウインクする巴。 <br> <br> 「・・うん。ウザいよジュン君。」<br> 『なっ・・・・わ、分かったよ。・・それじゃ、これからもよろしく。』<br> 「うん、よろしくお願いします。桜田君、翠星石にも替わってくれない?」<br> 『ああ、分かった。<br> ──もしもし。巴、ですか?』<br> 「うん。・・・・ゴメンね、桜田君を奪うような真似して。」<br> 『そんな事・・・・微塵も思って・・・・ねぇですよぉ・・・』<br> 「・・そう。ありがとう。」<br> 『・・巴。これからも翠星石と友達でいてくれるですか?』<br> 「・・・・勿論よ。ずうっと、友達。」<br> 『はいですぅ。ずっと、友達ですよ?』<br> 「うん・・・・ねぇ、もう一度桜田君に替わってもらえる?<br> ────もしもし。私から一つ、お願いがあるんだけど。」 <br> 『・・何だ?』<br> 「・・・あの娘が、いつ尋ねられても、<br>  心から幸せだって言えるように、全身全霊をかけること。」<br> 『・・・・ああ、分かった。約束する。』<br> 「良かった。それが聞けて安心した。・・それじゃ、そろそろ切るね。」<br> 『ああ・・おやすみ。<br> オヤスミですぅ。』<br> 「お休みなさい。 <br>  ・・・・ふぅ。疲れた。久しぶりだわ、こんなに長く喋ったの。」 <br> 「ふふっ。君自身も少しずつ変わり始めてきたんだよ。<br>  勿論、良い方向にね。<br>  それじゃ、僕も帰るかな。」<br> 「泊まっていけば?」<br> 「ありがとう。でもいいよ、翠星石の部屋を借りるから。」<br> 「わかった。・・今日は本当にありがとう。」<br> 「どういたしまして。それじゃ。」<br> 「うん、じゃあね。」 <br> <br> ------------------------<br> <br> 翠星石の部屋に着く。合鍵を使って、中に入る。 <br> <br> 「ふぅ・・・・」 <br> <br> リビングで一息つく。 <br> <br> 「あれで、良かったんだよね。・・・・」 <br> <br> 正直、本当の事を話していない部分もある。罪悪感に苛まれる。<br> 「ううん。あれで、良かったんだ。黒子の役目はしっかり果たした。<br>  ─────恋、か。僕だって、昔から────」 <br> <br> いや、止そう。その感情は封印したんだ。姉に、自分の想いまで託したはずだ。<br> ふと、カレンダーに目を遣る。今日の日付が空欄だ。<br> 『仲直り記念日』とメモ欄に書いておく。 <br> <br> ───────恋、か。<br> 気にならない人が居ないわけでもない。<br> その人は自分の事を変な呼び名で呼び、事ある毎に自分のところへ話し掛けに来る。<br> 鬱陶しい以外の何物でもなかったが、<br> その純粋でひた向きな感情には好感が持てるのだった。 <br> <br> ───次は、僕の番かな。一度舞台から姿を消した黒子なのに?<br> また舞台に上がらせて貰えるだろうか?<br> ・・・ううん、きっと大丈夫だ。<br> あんなに心優しい演者さん達なら、きっと暖かく迎え入れてくれるだろう。<br> <br> 次の舞台に様々な想いを馳せながら、蒼星石は眠りについた。<br></dt> </dl>
<p>「さて・・そろそろ頃合いかな・・」<br> 携帯を取り出す。<br> 「────もしもし?翠星石?──で?どうだった?<br>  ──うん、うん、そっか。──よかったね。僕も嬉しい。<br>  ──や、それだけだ。それじゃ、ごゆるりと。<br>  ──ははは、冗談だよ、ゴメンゴメン。──うん。それじゃあね。」<br> 「上手く行ったようですね。」<br> 「あっちはね。」<br> 「あっちは、というと?」<br> 「もう一つの糸車。糸が縺れた糸車。それをほどきに行かなくちゃ。」<br> 「ほう。・・・・貴女も損な役回りですね。」<br> 「もう、慣れてますから。こういう役は、僕だけで十分だ。」<br> 「・・自ら舞台を降りて黒子に徹する、と。」<br> 「そういうことかな。」<br> 「我々も似たようなものですから、よく分かりますよ。」<br> 「そうですか。・・・・では、僕はこれで。今日は本当に助かりました。有難うございます。」<br> 「いえいえ。私も大いに楽しませていただきました。<br>  ・・もう、このカクテルは、作ることは無いでしょう。」<br> 「そうして頂けると有り難いです。それでは、また来ます、兎さん。」<br> 「またのご来店を心よりお待ちしております、黒子さん。」<br> <br> <br> 月が明るい。生暖かい空気が肌を包み込む <br> <br> <br> 「・・・さて、行きますか。」<br> <br> <br> <br> -----------------------<br> <br> <br> 巴は、泣いていた。先程のところがまだ熱い。 <br> <br> ──────────────────桜田君。 <br> <br> 疼く。切ない。<br> ─────どうして────どうして──── <br> <br> ・・・ン・・・・ンポーン・・・・・・ピンポーン・・・・・ <br> <br> 「・・はい・・・」<br> 「やあ、巴。僕だよ。」<br> 「・・・蒼星石・・・・」<br> <br> <br> 「・・・・」<br> 「・・・・」<br> 沈黙。蒼星石がその沈黙を破って、<br> 「・・泣いていたのかい?」<br> 「・・・・」<br> 「・・ジュン君、かい?」<br> 「・・・・知ってたの?」<br> 「うん。実はさ、一ヶ月くらい前に聞いたんだ。<br>  ジュン君本人に。翠星石に君とのこと見られたって。」<br> 「えっ?そうだったの?」<br> 「知らなかったの!?」<br> 「ええ・・それであの娘、急に・・てっきり別れただけなのかと・・・」<br> 「全く、つくづくあの人もトラブルメイカーだよ。<br>  それでね、僕は怒ったんだ、彼に。優柔不断だって。<br>  そしたら、彼、君のこと選んだみたい。」 <br> <br> <br> ──────君のこと選んだみたい。<br> その言葉が、重くのし掛かる。 <br> <br> 「・・・違う・・違うの・・・」<br> <br> 激しい慟哭。蒼星石は巴を抱き寄せる。 <br> <br> 「・・・何か、あったんだね。・・・聞かせてくれないかな?」 <br> <br> 蒼星石になら話してもいい、と感じた。まるで自分に語りかけるような気がしたから。<br> 巴は、今日あったことを全て話した。 <br> <br> 「そうだったんた・・・」<br> 「・・・桜田君は、私の事を求めてなどいなかった・・・・・<br>  所詮、彼は私に欠けた偶像を求めていただけ・・・・・」<br> 「・・それは、違うよ。だって、仮にそうなら、わざわざ君と二股掛ける訳がない。」<br> 「それはそうだけど、でも・・」<br> 「それに彼、その時にこう言ったんだ。君のことも昔から好きだったって。<br>  静かな中にある柔らかい優しさに惹かれた、って。<br>  不覚にも、何故か僕もちょっとドキッとしちゃった。」 <br> 「そんなことを・・・・」<br> 「彼は、ちゃんと君を君として見ていた。大丈夫、安心して。だから、ね?」<br> 「うん・・うん・・・・」 <br> <br> 顔を上げる巴。 <br> <br> 「もう、大丈夫。・・よかった、その事が聞けて。<br>  ・・あの人は、私の事を求めていてくれた・・・」 <br> <br> 途端に蒼星石の表情が曇る。どこか悲しげだ。 <br> <br> 「・・どうしたの、蒼星石?」<br> 「・・やっぱり、君にはこの事を話しておくべきみたいだ。」<br> 「・・・・」<br> 「彼が君と付き合おうと決めたのはね、君の告白を断りきれなかったからだって。<br>  ・・・・君が壊れてしまいそうだったからだって・・・・」<br> 「・・・・そう。じゃあ、彼は同情という愛で私と・・・・」 <br> <br> 目頭が熱い。駄目だ。泣いちゃ駄目だ。必死に泣かまいと堪える。<br> 蒼星石は目に涙を浮かべている。 <br> <br> 「・・・・何で、貴女が泣いてるの?」<br> 「・・・・泣いて、良いんだよ?無理する必要なんか無い。」<br> 「・・・別に、泣きたくなんか──」 <br> <br> と、急に視界が真っ暗になる。暖かい。 <br> <br> 「・・嘘。言ったでしょ、君と僕は似てるって。<br>  君のことなんか手に取るように分かるんだ。だから、泣いていいよ、思いっきり。」 <br> <br> 暖かい。鼓動が聞こえる。あ、もう駄目だ─────── <br> <br> 「・・・うん、今度こそ、もう大丈夫。」 <br> <br> 顔を上げる巴。その顔はとても清々しかった。 <br> <br> 「そう。・・それじゃ、ジュン君に電話しよっか?」<br> 「・・えっ、何で───ううん、分かったわ。」 <br> <br> 携帯の電話帳を開く。彼に電話する前に、やるべきことがある。<br> 彼のメモリーの登録名の「ジュン」を「桜田君」に戻す。準備完了。 <br> <br> プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。プルルルル。ガチャ。 <br> <br> 『・・・・もしもし。』<br> 「遅すぎ。もっと早くでなさい。」<br> 『・・・・』 <br> <br> 無言の彼。その間に、伝えたい想いを言葉に紡ぐ。 <br> <br> 「・・桜田君。ありがとう。」<br> 『えっ・・・・』<br> 「一ヶ月。とても短かったけど、貴方の隣に居れて、とても幸せだった。<br>  本当にありがとう。後悔はしていないわ。」<br> 『────ま、待て!早まるな!』<br> 「・・・・・・・・・・・・へ?」 <br> <br> 思わず素っ頓狂な声をあげる。 <br> <br> 『い、今どこだ?すぐに向かうからな!』<br> 「・・・・・・・・・ぷっ。くくくっ。あっはははは。」 <br> <br> 隣でやり取りを聞いていた蒼星石も笑い出す。 <br> <br> <br> 『・・・・・・・・・・へ?』 <br> <br> 今度は彼が素っ頓狂な声をあげる。 <br> <br> 「・・・桜田君。私、メンヘルじゃ無いんだけど。自殺なんかするわけないじゃん。」<br> 『・・・・・・へっ?・・あ、な、何だよ!驚かせやがって!』<br> 「人をメンヘル呼ばわりするなんて、最低ね。桜田君。」<br> 『なっ・・・・』<br> 「うん。最低だね、ジュン君。」<br> 『そっ、蒼星石!?何で君がいるんだ?』<br> 「最低なジュン君には秘密だよ。」 <br> <br> 笑い出す巴。 <br> <br> 『クソッ、何だよ人を散々馬鹿にしやがって!一体何で電話してきたんだよ─────<br> ちょっと、何の話ですかぁ?』<br> 「あ、翠星石?実はね、かくかくしかじかで・・・・」 <br> <br> 蒼星石が今の出来事を面白おかしく説明する。バカ笑いする翠星石。 <br> <br> 『イーッヒッヒヒヒ!馬鹿ですぅ!ジュンは世界一の大馬鹿者です!<br>  ・・・ククッ、腹痛てぇですよ!<br>  ─────ちょっと、いい加減返せよ。もしもし、一体何の用だ?』 <br> 「あ、ジュン君?ちょっと待ってね。今、巴に変わるから。<br>  ───もしもし。・・あのね、桜田君。<br>  もし良かったら、これからも友達としてお付き合い出来ないかな?・・・・」<br> 『えっ・・・・』<br> 「ダメ、かな・・」<br> 『いや、俺は全然・・・・・・・本当にいいのか?』<br> 「うん!」 <br> <br> 自分でも驚くほど爽やかな返事だった。 <br> <br> 『・・・・うっ・・ありがとう・・』<br> 「泣かないの!男でしょ?」<br> 『・・でも・・・僕は君を・・』<br> 「だから、良いって言ってるじゃない。・・あんまりしつこいとウザいよ?」 <br> <br> そう言って、蒼星石にウインクする巴。 <br> <br> 「・・うん。ウザいよジュン君。」<br> 『なっ・・・・わ、分かったよ。・・それじゃ、これからもよろしく。』<br> 「うん、よろしくお願いします。桜田君、翠星石にも替わってくれない?」<br> 『ああ、分かった。<br> ──もしもし。巴、ですか?』<br> 「うん。・・・・ゴメンね、桜田君を奪うような真似して。」<br> 『そんな事・・・・微塵も思って・・・・ねぇですよぉ・・・』<br> 「・・そう。ありがとう。」<br> 『・・巴。これからも翠星石と友達でいてくれるですか?』<br> 「・・・・勿論よ。ずうっと、友達。」<br> 『はいですぅ。ずっと、友達ですよ?』<br> 「うん・・・・ねぇ、もう一度桜田君に替わってもらえる?<br> ────もしもし。私から一つ、お願いがあるんだけど。」 <br> 『・・何だ?』<br> 「・・・あの娘が、いつ尋ねられても、<br>  心から幸せだって言えるように、全身全霊をかけること。」<br> 『・・・・ああ、分かった。約束する。』<br> 「良かった。それが聞けて安心した。・・それじゃ、そろそろ切るね。」<br> 『ああ・・おやすみ。<br> オヤスミですぅ。』<br> 「お休みなさい。 <br>  ・・・・ふぅ。疲れた。久しぶりだわ、こんなに長く喋ったの。」 <br> 「ふふっ。君自身も少しずつ変わり始めてきたんだよ。<br>  勿論、良い方向にね。<br>  それじゃ、僕も帰るかな。」<br> 「泊まっていけば?」<br> 「ありがとう。でもいいよ、翠星石の部屋を借りるから。」<br> 「わかった。・・今日は本当にありがとう。」<br> 「どういたしまして。それじゃ。」<br> 「うん、じゃあね。」 <br> <br> ------------------------<br> <br> 翠星石の部屋に着く。合鍵を使って、中に入る。 <br> <br> 「ふぅ・・・・」 <br> <br> リビングで一息つく。 <br> <br> 「あれで、良かったんだよね。・・・・」 <br> <br> 正直、本当の事を話していない部分もある。罪悪感に苛まれる。<br> 「ううん。あれで、良かったんだ。黒子の役目はしっかり果たした。<br>  ─────恋、か。僕だって、昔から────」 <br> <br> いや、止そう。その感情は封印したんだ。姉に、自分の想いまで託したはずだ。<br> ふと、カレンダーに目を遣る。今日の日付が空欄だ。<br> 『仲直り記念日』とメモ欄に書いておく。 <br> <br> ───────恋、か。<br> 気にならない人が居ないわけでもない。<br> その人は自分の事を変な呼び名で呼び、事ある毎に自分のところへ話し掛けに来る。<br> 鬱陶しい以外の何物でもなかったが、<br> その純粋でひた向きな感情には好感が持てるのだった。 <br> <br> ───次は、僕の番かな。一度舞台から姿を消した黒子なのに?<br> また舞台に上がらせて貰えるだろうか?<br> ・・・ううん、きっと大丈夫だ。<br> あんなに心優しい演者さん達なら、きっと暖かく迎え入れてくれるだろう。<br> <br> 次の舞台に様々な想いを馳せながら、蒼星石は眠りについた。</p>

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