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<p> <br>  <br>  <br>  <br>    ~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~<br> <br>      ♯.9 「 ふたり 」 -an interlude.-<br> <br> <br> <br> <br> 浜辺で拾った少女は…<br> その白衣に付けていたバッヂからすぐに、昔、真紅の父がいた研究所の人間だと分かった。<br> <br> 「とりあえず、出資者でもあるわけだし、翠星石達の所にでも連れて行くのだわ 」<br> そう言うと真紅は、気を失っている少女をヒョイっと肩に担いだ。<br> <br> 「あなた、そんな細い腕でよく持てるわねぇ… 」<br> 水銀燈が、呆れたように横槍を入れてくる。<br> 「あら、重要なのは筋肉じゃあなく、力の流れなのだわ 」<br> 真紅が当たり前のような顔をして答える。<br> <br> 「つまり、分かりやすく言うと ――――― なのだわ。分かった? 」<br> 「んーん。全然 」<br> 真紅は少しため息をつき…<br> 「さっさと行くのだわ 」<br> そう言うと、さっさと行ってしまった。<br> <br> <br> ―――――<br> <br> <br> 「お? 真紅に水銀燈、それに… ってチビカナじゃあねぇですか! 」<br> 屋敷に行くと、翠星石が叫びながら出迎えてくれた。<br> <br> 「てめぇ、寝てないで何があったか説明しやがれですぅ! 」<br> そう言い、いきなり真紅の肩から金糸雀を引き摺り下ろすと、その頬を叩きだした。<br> <br> 小気味よいリズムが、辺りに響いた。<br> <br> …<br> <br> 金糸雀をソファーに横たわらせた時、蒼星石が紅茶を持って部屋に入ってきた。<br> <br> 「驚かせてごめんね。<br> 実はあの後、僕達でローザミスティカを回収しようと、研究所に連絡してみたんだ 」<br> 翠星石が後を続ける。<br> 「そしたらもー、ひっちゃかめっちゃかで、何がなんだか…! 」<br> <br> 蒼星石は興奮している翠星石をたしなめ、続ける。<br> 「で、連絡がつかないから、おかしいと思って様子を見に行ったら… 」<br> 少し落ち着いたのか、翠星石が喋りだした。<br> 「おじじが金にもの言わせて作った研究所が、瓦礫の山になっていたですぅ… 」<br> <br> 「一体、何があったというの… 」<br> 真紅がそう呟いた時、別の声が聞こえた。<br> 「カナが…知ってるかしら… 」<br> <br> その声に、全員が振り向く。<br> 見ると、金糸雀がソファーから首だけを起こしてこっちを見ていた。<br> <br> …<br> <br> 涙ながらに、金糸雀は事の顛末を話した。<br> <br> ― 左目に眼帯をした、薔薇水晶という少女。<br> ― 施設を破壊して進む侵入者。<br> ― ローザミスティカの暴走。<br> ― そして、みっちゃんが … 。<br> <br> 「カナのお家、無くなっちゃったかしら… 」<br> 最後に、寂しそうにそう呟いた。<br> <br> 話してる時こそ涙を流してはいたが、全てを話し終えると、気丈な振る舞いをしてみせる。<br> しかし、その振る舞いは… かえって痛々しい重苦しさを際立たせた。<br> <br> 「新しいエネルギー触媒は魅力的だけど、これはリスクが大きすぎるかしら。<br> 無効化の研究をするという事なら… これはお返しするかしら 」<br> 金糸雀はローザミスティカの小さな結晶を机の上にコトリと置いた。<br> <br> 「とりあえず、これは私が預かっておくのだわ 」<br> 真紅がそう言い机の上のローザミスティカを拾い上げる。<br> <br> 誰もそれに答えない。<br> 口を開くのも躊躇われるような、重い空気。<br> 誰もそれを打ち破る言葉を持ち合わせていなかった。<br> <br> 暫くの時間が流れ…<br> 翠星石が突然立ち上がり、喋りだした。<br> <br> 「ってことは、チビカナは暫くここに泊まっていくといいですぅ!<br> そうと決まれば、今日は皆で鍋でも食べるです! 」<br> <br> 誰かが返事をする間も無く、喋り続ける。<br> <br> 「となると、早速準備をするです!<br> 私と蒼星石はお野菜を調達するですから、真紅と水銀燈はお肉を買ってくるです!<br> チビカナは… 適当にしやがれ!ですぅ! 」<br> <br> 一息にそう叫ぶと、戸惑う蒼星石の手を引っ張り、部屋の出口に向かう。<br> <br> 「翠星石… ありがとうかしら… 」<br> 金糸雀が、うつむきながら小さな声で言った。<br> <br> 背後から聞こえる声に振り向きもせず、翠星石は答える。<br> 「だ… 誰もオマエの心配なんかしてねぇです! 」<br> <br> 翠星石は、ぶっきらぼうにそう答えると、さっさと部屋から出て行ってしまった。<br> <br> <br> ―――――<br> <br> <br> 「ヒーッヒッヒ… 私達の糧となる為に、その実を大いに結ぶがいいですぅ…<br> ヒーッヒッヒッヒ… 」<br> 妖しげな笑いをしながら、翠星石が野菜に水をやる。<br> <br> すると、野菜は見る見るうちに育ち、収穫の頃合となる。<br> 蒼星石はそんな姉を苦笑いしながら生暖かく見つめる。<br> <br> 「翠星石… もうちょっと普通に水をやったらどうかな? 」<br> 「なーに言ってるですか。 話しかけた方が、植物はよく育つんですよ 」<br> 「でもそれじゃあ、野菜も気持ちよく育ってくれないんじゃあないかな 」<br> 「大丈夫ですぅ! 翠星石のお水は、愛情たっぷりの栄養満点ですぅ~ 」<br> <br> 翠星石が育てた野菜を、蒼星石が収穫する。<br> カゴが一杯になったところで、蒼星石が声をかける。<br> <br> 「もう、こんなものでいいんじゃあないかな。少し休憩しようよ 」<br> そう言い、庭のベンチに腰掛ける。<br> <br> その横に翠星石もちょこんと腰掛ける。<br> <br> 2人で暫くの間、庭を眺める。<br> <br> 蒼星石が翠星石の肩に頭をもたれかける。<br> <br> 「君は… やっぱり、優しいね。それに… とっても強い。<br> 僕は、金糸雀に何て声をかければいいのか分からなかった… ううん、今でも分からない… 」<br> <br> 翠星石は、蒼星石の頭を優しくなでる。<br> <br> 「それは違うですよ。 私が何かできるのは、蒼星石。あなたが一緒に居てくれるからです。<br> あきれたり、怒ったりもしますが、それでも蒼星石は一緒に居てくれるです。<br> あなたが一緒に居てくれるから、私は安心して、やりたい事ができるんですぅ 」<br> <br> 蒼星石はもたれかかったまま目を閉じ、少し微笑む。<br> <br> 「いっつも、これくらい素直だったらいいんだけどね 」<br> 「な~に言ってるですか。私はいつも、本音で体当たりしてるですぅ 」<br> <br> 蒼星石は少し、嬉しそうな顔をする。<br> <br> 「ねぇ… もう少し、こうしててもいいかな? 」<br> <br> 答える代わりに、頭を蒼星石にもたれかける。<br> <br> 暖かな日差しの中いつの間にか、2人で同じ夢を見た。<br> <br> <br> ―――――<br> <br> <br> スーパーで、カートを押す真紅の周りを水銀燈はクルクルと駆け回る。<br> <br> 「スーパーって、ホント色んな物があるのねぇ。<br> 自分でお買い物なんてした事が無いから、新鮮だわぁ… 」<br> そう言いながら、小さく収納した羽を、子犬の尻尾のようにパタパタさせる。<br> <br> 「水銀燈、少しは落ち着くのだわ。全く…<br> ほら、迷子にならないように気をつけるのだわ 」<br> 「はぁい 」<br> <br> 相変わらず、楽しそうに駆け回る水銀燈を見て、真紅は少し目を細める。<br> (まるで、お母さんになったような気分なのだわ。)<br> <br> 「ねぇ、真紅ぅ。向こうのおやつコーナー見てくるわぁ 」<br> 「おやつは500円までにするのだわ 」<br> 「ふふ… なんだか、遠足みたいねぇ 」<br> 今にも飛んで行きそうな勢いで、水銀燈が小さな羽をパタパタさせた。<br> <br> 軽やかな足取りで走る水銀燈を、真紅は温かく見送った。<br> <br> そして ― 何気なく横を見た瞬間、動きが止まる。<br> <br> 「こ…これは…ッ!! 」<br> <br> …<br> <br> 両手一杯にお菓子を持ち、水銀燈が戻って来ると ――<br> 真紅が胸を押さえながら、何かの商品に見入っていた。<br> <br> (何をみてるのかしらぁ? )<br> そう思い、横からヒョイっと覗き見る。<br> … そうだね。プロテインだね。<br> <br> 「… 」<br> 「ハァハァ… 」<br> 「ねぇ、真紅ぅ 」<br> 「ハァハァ… 」<br> 「これは、バストアップじゃあなくて、ビルドアップよぉ…? 」<br> 「!! 」<br> <br> 真紅が顔を赤らめ、振り返る。<br> <br> 「ち…違うのだわ!! 私はただ、武の道を極めんとして…!! 」<br> 「嫌よぉ… そんな筋肉質な女の子 」<br> 「た… 確かにそうなのだわ… 」<br> <br> 真紅が元気なくうなだれる。<br> その様子をみて、水銀燈は苦笑いをして…<br> <br> 「ねぇ。真紅も一緒におやつ買いましょうよぉ 」<br> <br> そう言い、真紅の手を引っ張って行った。<br> <br> <br> ―――――<br> <br> <br> 「チビカナ! 私達の育てた野菜も、もっと食いやがれですぅ! 」<br> 「翠星石こそ、さっきからお肉しか食べてないかしら!? 」<br> 「ほらほら2人とも… まだまだ残ってるから落ち着いて 」<br> 「ふぅ~。食べ過ぎて、胸が苦しいわぁ… 」<br> 「水銀燈… 今の一言で、私も胸が苦しいのだわ… 」<br> <br> 炬燵で5人が鍋を囲む。<br> <br> 終わらないドンチャン騒ぎ。<br> <br> それでも…夜が更けるにつれ、少しずつ静かになっていった。<br> <br> <br> 翠星石と金糸雀は、いつの間にか炬燵で寝ていた。<br> <br> 「こんな所で寝てると風邪ひくよ? 」<br> 蒼星石がそう言い翠星石を揺するが、ムニャムニャという返事があっただけだった。<br> 「全く… 」<br> 翠星石の寝顔に、少し顔をほころばせて呟く。<br> <br> 「ついでに紅茶でも淹れてくるよ 」<br> そう言い、蒼星石は空になった鍋を片付けに行った。<br> <br> <br> 起きているのは、真紅と水銀燈のみ。<br> <br> 水銀燈は眠る金糸雀を眺め、ポツリと呟いた。<br> 「本当は… 泣き出したいくらい辛いんでしょうにねぇ… 」<br> <br> 真紅は、泣き出しそうな程悲しい顔をしている水銀燈の手に、そっと自分の手を重ねた。<br> 「ええ… でも、この悲しみはこの子自身で乗り越えなければならないのだわ…。<br> 私達に出来る事は… この子が迷ったとき、傍に居てあげる事だけ… 」<br> <br> 二人して、暫く金糸雀の寝顔を見つめた。<br> <br> 「でも…僕には、大事な人が居なくなった時、こんな風に健気でいる自信は無いな… 」<br> <br> 声に振り向くと、いつの間にか蒼星石が紅茶を持って帰ってきてた。<br> <br> 「あら、だったらあなたが守ってあげればいいだけの話なのだわ 」<br> 真紅は眠る翠星石に視線を移し、そう答えた。<br> <br> 蒼星石は一瞬、内心を見透かされたかのように驚き ―<br> 「そうだね 」<br> と言い、微笑んだ。<br>  <br>  <br>  <br>  <br>  <br>  <br>                       ♯.9 END<br>  </p>

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