「「 what a wonderful world 」-5-」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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~ ホワット ア ワンダフル ワールド ~<br>
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♯5.「 赤石 」 -rosa mystica-<br>
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「あなた、何故、宇宙が生まれたと思う」<br>
「宇宙ぅ? それが何か関係あるのぉ? 」<br>
あまりに突拍子も無い質問に、一瞬間の抜けた声で返してしまう。<br>
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「いいから、最後まで聞くのだわ… 」<br>
真紅は紅茶のカップをテーブルに置き、手でその質問を制した。<br>
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― 数時間前 ―<br>
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やっと開放された水銀燈は床にへたり込み、首をさすりながら言った。<br>
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「一体… 何なのよぅ、あいつ…<br>
それに… 言いたくなさそうだから聞かないでいたけど… その石は何なのよ… 」<br>
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真紅は少し険しい表情をした後…<br>
観念したかのようにため息をついた。<br>
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「やれやれだわ… 巻き込んでしまったわけだし、黙っとくわけにもいかないようね…。<br>
とりあえず、帰ってあなたの首の様子を見ましょう。<br>
… 詳しい話はそれからだわ。さ、つかまって… 」<br>
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そう言う真紅に手を引かれ、家に帰った。<br>
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― そして ―<br>
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真紅がゆっくりと話し出した。<br>
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―――――<br>
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公園での出会いから―遡る事、数日。<br>
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「宇宙ですって…?お父様」<br>
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洋館の書斎で、真紅は突然の質問の意味を計りかねていた。<br>
また、いつもの『知的ゲーム』や『言葉遊び』だろうか…。<br>
そう考えたが、父の表情はいつになく真面目だった。<br>
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「そう、宇宙だ。<br>
『無』から『有』は生まれない…。昔はそう考えられていた。<br>
しかし、全くの『無』、『絶対真空』の中でも『素粒子』という小さい粒子が発生する。<br>
『素粒子』はエネルギーになって、突然発生したり、突然消えたりするのだ」<br>
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全く話が見えないながらも、真紅は敬愛する父の話を頷きながら聞いた。<br>
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「引力とか質量も、これが原因らしい。<br>
つまり『無』から『有』は生まれ、そして『無』とは『可能性』だと思うんだよ。<br>
つまり宇宙は、『可能性』から生まれた訳だ」<br>
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そう言い終えると父は、椅子をクルリと回し、机から小さな赤い宝石を取り出し、それを真紅に見せた。<br>
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「とても綺麗なのだわ…お父様、これは何ですの?」<br>
「これは…ローザミスティカという…」<br>
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宝石を真紅の目の高さに合わせたまま、父は続ける。<br>
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「もしも…その『可能性』を『意思』の力で制御できたら…<br>
若い頃の私はそう考え、研究に没頭した。<br>
『現代の錬金術師』などと呼ばれ、有頂天になっていたとしか…今では思えんが。<br>
ともかく、私の研究は成功した。宇宙の『可能性』を、制御する力を生み出したんだ…<br>
そこにきて初めて…私は倫理を失ってる事に気が付いた。<br>
そのような大きな『可能性』は、人の手に余る…そう気が付いた。<br>
私は完成したローザミスティカを砕き…研究所を去った。<br>
当時の私には、精一杯の決断だった…」<br>
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そう言い、真紅の手を取り、そこにローザミスティカを置いた。<br>
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「だが…今にして思う。<br>
あれは、完全に無効化させなければならない。<br>
大きすぎる『可能性』とは…神にのみ許された領域なのだ」<br>
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時計の秒針がやけにうるさい…。<br>
そんな沈黙が漂う。<br>
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「私はローザミスティカを無効化する研究をしなくてはならない。<br>
だから…娘であるお前に手伝って欲しい。<br>
砕かれたローザミスティカの破片を、私の下に集めて欲しい。<br>
信用できる者にしか頼めない事だから…」<br>
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父の決意は、真紅にはよく理解できた。<br>
そして何より、父の期待に答えたい…強く心に思った。<br>
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「お父様…私は必ず期待に答えてみせます」<br>
透き通るような青い瞳を真っ直ぐ向けて、そう答えた。<br>
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―――――<br>
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真紅が全てを語り終えた時、すでに西日が眩しい時間になっていた。<br>
不思議な沈黙が場を支配していた。<br>
真紅がすっかり温くなった紅茶を飲み干す。<br>
カップを置く音がカチャカチャとやけに響いた。<br>
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「これが、私の知ってる全部なのだわ」<br>
「ふぅん…『可能性』ねぇ…」<br>
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「信じてないの?」<br>
真紅の視線が刺さる。<br>
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「歩けた事もあるし、そうゆう訳じゃあないけど…<br>
なぁんとなく…大変な事に首突っ込んじゃったなぁ、って」<br>
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ニヤリと笑う私を見て、真紅はため息をついた。<br>
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「そうね… 巻き込んでしまって、ごめんなさい… 」<br>
やけにしおらしい態度で返してくる。<br>
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「何言ってるのよぉ? 友達じゃなぁい 」<br>
「でも… 危険な目に会わせてしまったのだわ」<br>
見ていてこっちまで辛くなるような表情でふさぎ込む。<br>
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「そぉねぇ… ふふ… 危うく友達に絞め殺される所だったわぁ」<br>
楽しそうにケラケラ笑ってみせる。<br>
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それを見て、真紅はやっといつもの調子を取り戻してくれた。<br>
ほんの少し、嬉しそうに目を細め、空になったカップを口元に運んだ。<br>
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「あら…もう無くなってしまってたのだわ…<br>
あなたも、もう一杯どうかしら…?」<br>
そう言うと、すっかり自分の家のように、スタスタとキッチンに行ってしまった。<br>
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「しぃんく」<br>
紅茶を淹れてる後姿に声をかける。<br>
声に気付き、真紅が振り向く。<br>
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「あなたの淹れる紅茶、美味しいし、好きよぉ?」<br>
「と…当然なのだわ!」<br>
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少し顔を赤らめ、再び背中を向けられてしまった。<br>
水銀燈は暫くの間、その背中を眺めていた。<br>
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「ねぇ、真紅。次も一緒に連れていってよぉ?<br>
もう足手まといにはならないようにするし…<br>
それに… 急にあなたが居なくなると心配するじゃなぁい? 」<br>
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「寂しいの? 」<br>
真紅はいつかそうされたように、意地悪い質問を返してみる。<br>
「んー、ちょっとだけねぇ 」<br>
水銀燈がニヤニヤとこっちを眺めながら答えてきた。<br>
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どうやら、おちょくるのは向こうの方が得意なようだ。<br>
「仕方ないわね… 」<br>
観念したように、そう呟いた。<br>
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♯.5 END<br>
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