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《―――――――――――――――》」(2007/12/03 (月) 20:48:22) の最新版変更点

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<p>学校が終わってから少し経った、青い空と白い雲の色が変わる頃。<br> 私は小さな、今は人気のない公園で、人を、悪友を待っていた。<br> 悪友は珍しく指定した時間から少し遅れている―10分程だが。<br> 根が真面目な彼女だけに、少し心配し…――真正面から聞こえてくる凛とした声に、安心感を覚えた。<br> <br> 「いきなり呼び出して、何の用――水銀燈?」<br> 「約束の時間に遅れておいて謝罪の一つもなし?礼儀がなってないわねぇ――真紅ぅ」<br> 「『約束』って言うのは、一方的に押し付けるものではないと思うけど。しかも、『菓し状』」<br> 「ぐ、いきなり精神攻撃とはやってくれるわねぇ、おチビさぁん」<br> <br> そう言えば――悪友は今日、学級委員会があったな、とちらりと頭の中で後悔する。<br> 律儀な彼女はわざわざ走ってきてくれた――隠してはいるが、肩が揺れている。<br> どれだけ遅れ様が、私は待っていると言うのに。<br> もっとも、それを踏まえた上で、彼女は駆けてきたのだろうが。<br> <br> 「私は幼稚な間違いを指摘しただけよ。――それと、私の背は同年代女子の平均的身長なのだわ」<br> 「あらぁ、勘違いしないで頂だぁい。私が言っているのは、その絶壁の事よぉ」<br> 「――随分言ってくれるじゃない。………それよりも、用件は?」<br> 「随分言わせてもらうわよぉ――だって、用件は………」<br> <br> 悪態をつく私に、彼女は冷静に対処する。<br> それは、何時もの日常、何でもない遣り取り――そして、大切な私達の時間。<br> だから、一瞬、口ごもってしまった。<br> 私の『用件』が、私達の時間を、遣り取りを、日常を壊してしまうと思ったから。<br> <br> 「用件はぁ、彼の事。もしくは、貴女の想い人の事」<br> 「聞く必要はない様に思うけど。――付け加えるなら、貴女の想い人の事、ね」<br> 「あるわよぉ」<br> 「そう」 <br> <br> お互いに短い言葉で切り、真正面に向かいあって視線を絡ませる。<br> 悪友の青色の瞳を見て、思う――あぁ、なんと凛々しく、可憐で、美しいのだろう。<br> 何時ぞや冗談交じりにそう伝えたら、手痛い返しを食らった――『貴女の瞳の事?』。<br> ――私と悪友は、同時に次の言葉を吐き出した。お互いに、毅然と。<br> <br> 「私は、水銀燈は『彼』が好きよぉ」<br> 「私は、真紅は『彼』が好きなのだわ」<br> 「――く、ふふふ、あははははははっっっっ、止めておきなさいよぉ、おチビさぁんっ」<br> 「――気が合うわね、同じ事を言おうとしていたわ。勝てないゲームはするもんじゃないわよ?」<br> <br> どうして、私は彼女と同じ人を好きになってしまったのだろう。<br> どうして、彼女は私と同じ人を好きになってしまったのだろう。<br> 私達は、お互いを罵倒し、罵り、嘲った。<br> 言葉が胸を刺す…そんな綺麗なモノじゃない――是は、言葉の殴り合いだ。<br> <br> 「――引く気はないのねぇ、紅茶中毒?」<br> 「――折れた方がいいと思うけど、乳酸菌ジャンキー?」<br> 「だったら、――」<br> 「――仕方がないのだわ」<br> <br> 口を閉じ、右手を振り上げる私と悪友。<br> 同時に振りかぶり、――直後、乾いた音が静かな公園に響き渡った。<br> ―――パァァァンッ―――<br> 私達はお互いの顔を一瞬だけ見てしまい…交差する――手と手を強く交わした痛みを感じながら。<br> <br> 「さようなら、私の大切な大切な大好きな、悪友―水銀燈」<br> 「また逢いましょぉ、私の大事な大事な大好きな、親友。――幸運を」<br> 「――祈るのだわ。貴女に」<br> 「――幸多からん事を――真紅」<br> <br> 振り向く事なく、背中合わせの様な格好で言葉だけをやり取りし合う。<br> 私も彼女も、今の自分の顔は見られたくないし、互いに見たいとも思わない。<br> ――誰が見たがると言うのだ。<br> 親愛なる友人『だった』者の泣き顔など。<br> <br> 私は痛みを受け入れた。<br> 『失恋』と言う名の、別の痛みを拒否する為に。<br> きっと、其方を受け入れれば、彼女とも相反する事はなかっただろう。<br> 何時か何所かでお互いを慰めあえたのだろう。<br> <br> 彼女は痛みを受け入れた。<br> 共に切磋琢磨する、相手を待つ、楽しいゲームにする――そういう受け入れ方もあるだろう。<br> だけど、私と彼女はそれらを選択しなかった――それだけの事。<br> だから、私達は最後の言葉を交わした後、無言でその場を後にした――泣き崩れない為に。<br> <br> 乙女以前の二人は痛みを受け入れ――。<br> 私と彼女は痛みを乗り越える為に――。<br> 私達は、振り返る事なく前進する――。<br> そう、つまり――<br> <br> 五つめ:《かくて少女は痛みと共に進み行く》<br> <br> ―――――《かくて少女は痛みと共に進み行く》 END</p>

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