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《不文律》」(2007/11/25 (日) 02:55:24) の最新版変更点

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<p>《不文律》<br> <br> <br> 新鮮で冷たい空気が美味しい、晴れた朝。<br> 食卓に並ぶのはトースト、サラダ、ヨーグルトに温めた牛乳。<br> ボクはもぐもぐと、姉はぱくぱくと平らげていく。<br> 微かな咀嚼音だけが聞こえるこの場で、ボクは考える――さて、どうやって切り出していこうか。<br> <br> 「………?どうかしたですか、蒼星石?」<br> 「え、あ、いや………ちょっとね」<br> 「お前ぇがパン屑くっつけてまで、考え事とは珍しいですねぇ」<br> 「ん…………ありがと」<br> <br> テーブルの向こう側から身を乗り出し、ボクの口端を指でなぞる姉。<br> ………姉はボクを補い、ボクは姉を補完する。<br> ボク達はいつもそうしてきた―そうしてきている。<br> お互いに口に出した事はないけど、いや、口にした事がないからこそ、不文律なんだろう。<br> <br> 「あむあむ………うぁぁ、口の中に麦と草の味わいがぁぁ………!」<br> 「そりゃまぁ、どっちかずつじゃないと味が混ざっちゃうよ。はい、牛乳」<br> 「んくんく、ぷはぁっ!――って、今度は膜が!膜が翠星石の口を支配するですぅ!」<br> 「ヤだよねぇ、アレ。――ちょっと、動かないでね」<br> <br> 先程のお返しとばかりに、姉の唇を指で拭う――流石に、それを口に入れる事はしないけど。<br> 指を布巾で軽く拭い、口直しにトーストを齧っている姉をじっと見る。<br> 騒がしく、けたたましく、意地っ張りで、我儘な。<br> 愛らしく、可愛らしく、寂しがり屋で、泣き虫な。<br> <br> 「………なに、人の顔見てにやけてるですか」<br> 「微笑んでるつもりなんだけどね。―翠星石は可愛いなぁって」<br> 「………可笑しなものでも入ってるですか、お前ぇの飯には」<br> 「じゃあ、君のにも入ってるんだね。作って並べたの、ボクだし」<br> <br> あぁ言えばこう言う…と呆れ顔の姉に、お互いさまでしょ、と返すボク。<br> いつもの朝食の風景、いつものけんけんはっしなやりとり。<br> 言葉なんて考えなくてもスラスラ出てくる。<br> だけど――今から姉に伝える言葉は、どうやって導き出そうか。<br> <br> 「――だぁから!ご飯の時間にそういう仏頂面は止めるですよ!」<br> 「考え事してるだけだから、気にしないで」<br> 「………ったく。大体、双子なんですから、お前ぇが考えてる事くらいわかってるってもんですよ」<br> 「へぇ、そうなの?それは意外だね」<br> <br> 気抜けした相槌を返し、再び思考に入り込む。<br> 姉が何事か文句をまくし立てているが、とりあえず放置。<br> ――ストレートに言った方がいいのかな、それとも変化球にした方が…?――<br> 頭を抱えたくなるが、姉のワザとらしい咳払いに、ボクは視線をあちらに向けざるを得なくなった。<br> <br> 「――大方、悩んでも考えても、どーしよーもない事に無駄な時間を使ってるに決まってますぅ」<br> 「………外れてないけど、随分な言い草だね。じゃあ、具体的には?」<br> 「ふふん、偶には仕返しですぅ。そうですねぇ――――具体的には――<br> ――お前ぇが誰を好きで、私が誰を好きか…で、どうですか」<br> <br> ………姉の言葉に、眼を丸くする。<br> 彼女の『具体的』な答えは、正にボクが考えていたソレだったから。<br> だとすれば………姉は、更にその先の考えも分かっているんだろうか。<br> 驚愕するボクをよそに、彼女は何でもない事の様に、事もなげに告げる。<br> <br> 「言っておきますが。――認めてしまった以上は、一歩も引く気はありませんからね」<br> 「………………何を認めたか、言ってほしいんだけど」<br> 「言わせるなですよ。――是ばっかりは、二人で半分こって訳にもいきませんし、ね。蒼星石」<br> 「ふふ、わけちゃったら『チビのチビ』になっちゃうもんね。―本気でお相手するよ、翠星石」<br> <br> お互いの名で言葉を締めくくり、ボク達は確認し合う。<br> ボクの考えの先は、ボクの想い―姉が認めた事は、彼女の想い。<br> 今まで、ボク達は何でも半分に分けてきた。<br> だけど、今、僕達が抱える想いは、想いの先は、半分にできない。だから、確認し合う―お互いの恋敵を。<br> <br> 姉は笑みを浮かべる――愛らしく、可愛らしく、不敵な。<br> ソレは恐らく、想いの制限を解除した笑み、――彼女本来の笑み。<br> ゾクリとする――勝てるか、この人に。――翠星石に。<br> 想いを『何でもない事の様に』認め、遠慮を排除した彼女は、とても素敵な女性に見えた。―――だけど。<br> <br> ボクは笑みを浮かべる――漂漂として、凛々しく、不敵な。<br> だけど――ボクとて、手をこまねいて見ているだけにはしない。<br> 彼女にはない、ボクにだけある魅力が、ある筈だ。<br> ――それを教えてくれた『彼』に、姉に遠慮なくぶつけていこう。<br> <br> ボクと姉は同時に噴き出す。姉はお腹に手を当て、ボクは口に拳をあてがい。<br> お互いの笑い声を耳にしながら、ボクは思う。<br> 姉は是から、今よりももっと素敵な女性になっていくだろう。<br> ――そして、恐らくは、ボクも。恋敵になろうとも、ボク達の不文律は崩れないのだから。</p>

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