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「《二人だけの合唱会》」(2007/11/02 (金) 04:24:06) の最新版変更点
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<p>《二人だけの合唱会》<br>
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私は悩んでいた。<br>
最近、彼と彼女が一緒にいるのをよく見かける。<br>
私だって、子どもじゃない―それが友達感覚のモノか、もう少し先の感覚のモノかの見極めはつく。<br>
見極めはついたのだが…では、自身の胸のぐにゃりとした不快感をどうすればいいのだろう。<br>
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私は困っている。<br>
いつも一緒にいる友達と、忘れ物を教室に取りに行き―目撃したのは、彼と彼女のキスシーン。<br>
何もこんな所でしなくても…等と、入口で観察していたら、友達がぱっと駆け出して行った。<br>
慌てふためく彼と彼女に「ごゆっくり」と冷静に告げ、友達を追う―得体の知れぬ不快感を覚えながら。<br>
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私は哀しむだろう。<br>
自身の事ではなく、友達の事で。<br>
感情表現の乏しい私と違い、友人は賑やかで明るい気持ちを振りまく。<br>
その彼女が、今浮かべていた表情は哀しみ―そんな彼女を見続ける事は、悲しい。<br>
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友達を追いながら、ふと思う。<br>
彼女に追い付いたとして、私に何が出来るんだろう。<br>
自身の事すら理解できない私に、誰かの心情を理解し、声をかける事などおこがましくはないだろうか。<br>
心の声とは裏腹に、疾走する体は、彼女の居場所―音楽室についてしまった。<br>
<br>
「―金糸雀、……えと、その………」<br>
「ぅ……ぐす………―薔薇水晶……?」<br>
「うん。………何か、出来る事、ある………?」<br>
「ぅ、ひぅ…く……、ごめん、なさい。今は、一人に……ぐす……」<br>
<br>
ヤだ――言葉には出さないが、一瞬で却下する。<br>
とは言え、先程の自問にぶち当たる―私に何が出来る?<br>
脳内のデータベースを漁ってみるも、出てくるのは慰めに使えない無駄に熱い台詞ばかり。<br>
『だぁからお前は阿呆なのだぁ』―うん、使えない。畜生。<br>
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「……一人にはできない、……したくない」<br>
「ぅ、ぅ……ありが、とう。……でも、ぐす、カナはだいじょう……」<br>
「―『大丈夫』なんて戯言は聞き入れない。……傍に、いさせて……」<br>
「だめ、かしら……こんな、かお、誰にも、見せたく…ぅぁ…ないもの…」<br>
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初めて言い渡される、拒絶の言葉―先程と似た不快感が、私の中に芽生えた。<br>
音を立てず、背を向け静かに哀しみの感情を吐露する友達に近づく。<br>
彼女は私の接近に気付かない。<br>
私は彼女の真後ろに膝をつく格好で座り、彼女の肩に手をかけ―ぐぃと此方に引き寄せる。<br>
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「やっぱり、泣いてる。………許せない。金糸雀は、友達」<br>
「――ば、ばらすいしょうっ!?………貴女だって―」<br>
「大切な、大切な友達。泣かせる人は、誰だって………え?」<br>
「――貴女だって、泣いているかしら………ほら………」<br>
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私を振りほどこうとしていた手を、私の頬にあて――水滴を拭う。<br>
気付かなかった…私も、彼女と同じ様に涙を流していたのか。<br>
だとすれば、先程感じた不快感も、…………彼女と同じもの?<br>
心は理解していないが、体は反応していたようだ。<br>
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「……金糸雀、どうして、私は泣いているの?」<br>
「どうして……って、カナにはわから…―」<br>
「そう…。―さっきからずっと胸がモヤモヤしてるのと、関係あるのかな…」<br>
「そっか………やっぱり、貴女も、なのね。だったら、そのモヤモヤ、カナと一緒よ…」<br>
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そう言う彼女に浮かぶのは、愛しさと切なさがごっちゃになった様な、複雑な微笑み。<br>
何がどう『やっぱり』なのか、私にはわからない。<br>
でも、彼女と一緒…というならば、このもやもやも悪くない。<br>
瞳に涙を溜めたままの彼女の愛らしい額に、自らの額をこつんと合わせる。<br>
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「――金糸雀と一緒なのは、嬉しい」<br>
「ん――こんな気持ちで嬉しいのはどうかと思うけれど…」<br>
「……じゃあ、どうすれば…なくなるの?」<br>
「……なくすのは難しいと思う。けれど、薄める事は出来るかしら…」<br>
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そう言うと、彼女は目を瞑り、――大きく口を開き、涙を再び流し始めた。<br>
哀しい嘆きと、切ない水滴を、滔々と曝け出す。<br>
あぁ、そうか――私も、彼女に習い、声と涙を弾けさせる。<br>
心のしこりを薄める為に―胸のもやもやを洗い流す為に。<br>
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「――ねぇ、金糸雀」<br>
「……なぁに、薔薇水晶」<br>
「私達の泣いている原因ってなぁに?」<br>
「…まだわかっていなかったのね。――どうしてかしら…カナも、泣いている内に、忘れちゃった」<br>
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私達は、嗚咽と共に切れ切れの会話を交わす。<br>
だけど、お互いの言葉は時々不鮮明になる。―今この場では言葉自体の意味は余りないが。<br>
私と彼女はこの苦く切ない不快感を薄める為に、空が赤から黒に変わるまで―<br>
――延々と二人だけの合唱会を続けた。</p>