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「《背中合わせ》」(2007/11/02 (金) 04:18:02) の最新版変更点
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<p>《背中合わせ》<br>
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私は今日、失恋をした。<br>
その事実に気づいた時、まず訪れたのは笑いたくなる衝動。<br>
自分でも可笑しな話だと思う。<br>
だけど、実際には、私は彼と、彼の傍にいる彼女に曖昧に微笑む事しかできなかった。<br>
<br>
私は今日、初めて恋していた事を知った。<br>
彼らに歪に微笑みかける自分を、冷めた自身が見つめている。<br>
その笑みが歪な訳がない―己の表情程度、幾らでも操れる。<br>
だから、それを歪と感じたのは、心と体が一致していない事を悟ってしまったから。<br>
<br>
私は今日、初めての恋が、失恋に終わった事を知った。<br>
終わるまで自覚していなかった想いを、失恋と謳えるのだろうか。<br>
誰もいない夕闇が落ちた公園で、温かい缶の紅茶を飲みながら、ぼぅっと考える。<br>
どうでもい事を考えていないと、どうにもならない感情に飲み込まれてしまう。<br>
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馬鹿らしい思索に耽っていると、背後に人の気配を感じた。<br>
無遠慮なその気配の持ち主は、私が何事か発する前に、背後に腰を下ろす。<br>
気配の主に注意しようと振り返りそうになるが―その無遠慮さと合わさった髪とで、<br>
「誰か」という最大の懸念が予想できたので、放っておく。<br>
<br>
「―なぁに、感傷に浸ってるのよぉ。似合わなぁい」<br>
「うるさいのだわ。―これ位の事、放っておいて頂戴」<br>
「放っておけないわよぉ。貴女が逃げ帰った後、あの二人に言い訳するのに必死だったんだからぁ」<br>
「ほんとに無遠慮…。言葉に容赦がないわね」<br>
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顔を合わせないままで、軽口を叩き合う。<br>
確かに、二人の前に彼女を置き去りにしたのは謝罪の余地があったが、今のやり取りで消失した。<br>
もっとも、と口を開きながら、別の事を考える。<br>
彼女は謝罪なんか求めていないだろうが、と。<br>
<br>
「でぇ、なんでまた、こんな所にいるのよ?」<br>
「別に。―ただ、なんとなく、足が向いたのよ」<br>
「ふぅん、………嘘ばっかり」<br>
「……理由に思い当たるんなら、端から聞かないで頂戴」<br>
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想像上、嘲るような表情で言ってのける彼女に、毒づいた言葉を返す。<br>
―此処は、私と彼の思い出の場所。<br>
劇的な事があった訳ではない…ただ、よく一緒に遊んだ場所というだけ。<br>
だけど、その事実だけで、私にとって掛け替えのない所となっている。<br>
<br>
「―ともかく。戯言を続けるつもりなら帰って頂戴。私は――」<br>
「――1人であまぁい思い出に浸って、めそめそするから?つまんなぁい…」<br>
「――すいぎん―っ!」<br>
「――私も、混ぜなさいよぉ」<br>
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上半身を回して振り返るつもりだったが、私よりも背の高い彼女がもたれ掛かってきたので、<br>
勢いが削がれる。<br>
―あぁ、そうか。<br>
私は、漸く、この無遠慮な悪友の真意に気づいた―彼女の、微かに震える声を聞いて。<br>
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「――いつから?因みに、私は………随分前からだと思うわ」<br>
「曖昧ねぇ。私なんて、今にして思えば、一目惚れだった気がするわぁ」<br>
「その割には、アプローチが足りてないんじゃない?」<br>
「その通りだと思うけど、貴女にだけは言われたくないわねぇ」<br>
<br>
振り向く事なく、言葉だけをやり取りし合う。<br>
私も彼女も、今の自分の顔は見られたくないし、互いに見たいとも思わない。<br>
―誰が見たがると言うのだ。<br>
親愛なる友人の泣き顔など。<br>
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「そう言えば、確か一年前、三人で勉強会した時の事、覚えているかしら?」<br>
「んー、実力テストの時?―あぁ、彼の家にお招きされたのよねぇ」<br>
「そうそう。―私は、私だけが呼ばれてると思って、結構めかしこんだんだけど…」<br>
「ぷ、あはは、やっぱりそうだったんだぁ。――私もよぉ」<br>
<br>
思い出は尽きない。<br>
代わる代わる、私と彼女は「そう言えば」と話を切り出す。<br>
その度に、当時の自らを振り返り、けらけらと笑いあう。<br>
――頬に、涙を伝わらせながら。<br>
<br>
「初恋は実らないって、本当だったのね」<br>
「そんなの、実らせる努力をしなかった昔の負け犬のいい訳よぉ」<br>
「……言ってて、胸が痛くない?」<br>
「……今のは結構ずきずききたわぁ……」<br>
<br>
過ぎ去った、甘く楽しい思い出を語り。<br>
目の前にある、苦く切ない現実を迎え入れよう。<br>
相変わらず、一つのベンチで背中合わせの私と彼女は、<br>
笑いながら泣きながら、そう思った。<br>
<br>
(nのフィールド@休憩所・緊急投下用スレ>>251、及び本スレ【君の為に】【歌う】>>364に<br>
イメージイラストを頂いております(後者は前者の転載)。<br>
感謝!)</p>