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「お江戸(風味)メイデン」(2007/08/31 (金) 01:30:18) の最新版変更点
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<p>ではマジェ・スイ支援でも…<br>
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お江戸(風味)メイデン<br>
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『あうっ』<br>
栗色の髪を身の丈ほどまで伸ばした女の子が、まさにその髪の毛を自分で踏んですっ転ぶ。<br>
べちんと音を立てて、女の子はおでこを地面へと打ちつける。<br>
それぞれの速さで歩んでいた人々も、一様に彼女に目をむけ、止まる。<br>
うう、何そんなにジロジロみてるですか。そんなにわたしが転んだのがおもしれぇですか。<br>
そう言いたくもなるけれど、おでこの痛みと、大多数の他人からの視線に、彼女は押しつぶされる。<br>
何事もなかったかのように、立ち上がり、また歩き出そうとする女の子。<br>
そこに、手が差し伸べられた。<br>
『大丈夫?』<br>
その視線の先には、メガネをかけた男の子が立っていた。<br>
『おでこ、すりむいてるね』<br>
『べ、別に痛くもなんともねぇですし、気にすんじゃねぇです。とっととどっか行っちまえ、です』<br>
『でも、涙が出てるよ』<br>
『こ、これは土が目に入っただけですぅ!』<br>
『なら顔も洗わなきゃね』<br>
男の子は少し強引に女の子の手を引っ張ってゆく。<br>
それに引きずられるかたちで、もう一度…<br>
『ぷぎゃ』<br>
『ご、ごめん』<br>
女の子はまたすっ転ぶ。今度は髪を踏んだのではないではあるが。 <br>
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『ど、どしたの?』<br>
『おめぇがあんまり引っ張るから…あーッ、ぞうりの鼻緒が切れちまったです!』<br>
『ご、ごめん。でもこれならすぐ直せるから。貸して』<br>
『え?』<br>
女の子が返事をする前に男の子は彼女のぞうりを剥ぎ取る。そして返事をする前に直してしまったのだ。<br>
『もう、直っちまったですか?』<br>
『うん。慣れてるからね』<br>
『おめぇ見かけによらずすげぇ奴ですね』<br>
『ぼくん家は呉服屋なんだ。だからよく縫い物とかするんだ』<br>
『とっても綺麗になってるです。おばばより上手です』<br>
『それは嬉しいな。それじゃ、行こう』<br>
『どこにですか?』<br>
『ぼくん家。すぐそこだから、薬塗って顔洗うくらいならできるよ』<br>
女の子はこの申し出を断ろうと思ったが、それはとてもできなかった。<br>
それは、彼が優しく、柔らかく微笑んだから。そんな彼に彼女は興味を持ったから。<br>
『しゃーねーです。鼻緒も切られちまったし、お詫びくらいさせてやるです』<br>
『そうするといいよ』<br>
そして、彼はもう一度笑った。<br>
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辺りはいつの間にか、夕日で薄赤に染まっている。<br>
二人は長い時間を、男の子の家で過ごしたことには気付いていない。<br>
『…また、遊びに来てもいいですか?』<br>
『うん。いつでもまた、遊びにきてよ』<br>
『ありがとです。それじゃ、また。―――――くん』<br>
『じゃあね、翠星石ちゃん』<br>
そして女の子が、再びこの家に遊びに来たとき、既に男の子はこの家には居なかった。<br>
理由は聞かなかった。どうせ自分にできることは何もないのだから。<br>
目から溢れる涙を、きっとあの日、目に入った土の所為だと自分に言い聞かせながら、家路についた。<br>
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「翠星石、起きて」<br>
夢を、見ていたらしい。<br>
遠い昔の、懐かしく愛しい夢を。<br>
妹に揺り起こされて、かつての女の子は目を覚ます。<br>
彼女は、すらりと背筋の伸び、凛とした雰囲気を漂わせる、美しい女性へと成長していた。<br>
そんな彼女も…<br>
「今日は将来の旦那さんと顔合わせなんでしょ? お化粧しなきゃだよ」<br>
嫁入りの準備をしているところだった。<br>
なんであんな夢を見てしまったのだろう。こんな日に。<br>
思い出してしまう。あれが私の最初で最後の恋だったってことに。<br>
私に言い寄ってきた男性は多くいた。でも全部蹴っ飛ばしてやったら、二度と顔を見せなかった。<br>
今さらながら、なぜそんなことをしたのだろうか、と思う。<br>
幼い何も知らない頃の相手を思ってやったのだろうか?<br>
…名前も覚えていないような相手のために? この私が? 馬鹿馬鹿しい。<br>
ほんっとうに、馬鹿馬鹿しい、わよね。そんな相手のためにだなんて。<br>
私は妹に尋ねる。<br>
「えー…っと、何でしたっけ? 相手の名前」<br>
ため息をつきながら、妹は答える。<br>
「そんなんでいいの? ほんとに。桜田ジュンさんだよ、桜田ジュン」<br>
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…カチリ<br>
どこかで、歯車が噛み合ったような音が聞こえた。</p>