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「『メイメイ飼育日記』最終回」(2007/08/20 (月) 00:24:44) の最新版変更点
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<p>『メイメイ飼育日記』最終回<br>
<br>
それはある平日の朝…<br>
銀「むにゃ…ん…ぅ………あぁっ!!」<br>
目を覚ました水銀燈は時計を見るなり大声を上げた。<br>
現在時刻は朝の9時。学校には完全に大遅刻である。<br>
<br>
銀「ちょっとメイメイ!何で起こしてくれなかっ……あっ。」<br>
水銀燈は不満げに声を上げる。しかしそこは誰もいない…<br>
ただ彼女の声だけが虚しく響くだけであった。<br>
<br>
銀「そっか…メイメイはもういないんだった…。」<br>
<br>
<br>
あれから2日…めぐの命と引き換えに粉々に砕け散ったメイメイ。<br>
<br>
彼が命を懸けて救っためぐの体は驚くこと完全に病魔を消し去り、家族や医師たちを驚愕させた。<br>
現在、念のために検査入院をしているめぐだが、退院は時間の問題だそうだ。<br>
<br>
銀「学校……行かなきゃ…」<br>
水銀燈は1人身支度を整えると鞄を手に家を出る。<br>
そして門をくぐる前、庭の一角に足を運ぶ。<br>
<br>
銀「じゃ…行ってくるわね、メイメイ。」<br>
<br>
そこにあるのは真新しい墓標。<br>
あの後、粉々になってしまったメイメイの遺体を拾い集めた水銀燈は彼のために自宅の庭に小さな墓を作ったのだ。<br>
水銀燈はその墓標に手を合わせると、身を翻して学校へと向かった。<br>
<br>
結局学校に着いたのは3限になってからであった。<br>
担当の教師に文句を言われながら席に着いた水銀燈だったが、特に授業を聞くでもなくただ明後日の方向を見つめていた。<br>
<br>
そして昼休み…<br>
薔「銀ちゃん…一緒にお昼……」<br>
銀「ごめんなさい…いらないわぁ。」スッ<br>
薔「あっ…銀ちゃ……」<br>
薔薇水晶の誘いにも乗らず水銀燈は1人教室を出ていってしまった。<br>
<br>
ジ「よっぽど重症みたいだな…」<br>
翠「水銀燈がペットレスなんて…柄にもねぇですのに。」<br>
蒼「翠星石、そんなこと言わないの!」<br>
紅「でも、ずっとあの調子ではよくないのだわ。」<br>
雛「水銀燈が元気ないとヒナも悲しいの…」<br>
金「かしらー…。」<br>
ここ2日間の水銀燈の様子を友人たちは心配そうに見つめる。<br>
薔「……よし!」<br>
その中で、最も水銀燈と仲の良い薔薇水晶は何かを決意したように右目を輝かせた。<br>
<br>
そして放課後…<br>
薔「銀ちゃん…ちょっといい…?」<br>
HRが終わり皆が各自帰路に就く中、薔薇水晶は水銀燈に声をかけた。<br>
銀「何の用…?悪いけど今私は…」<br>
薔「…いいから来て!」<br>
薔薇水晶は有無を言わさず水銀燈の手を掴むとそのまま教室から連れ出した。<br>
<br>
銀「ちょっ、ちょっとぉ!何すんのよぉ!?離しなさぁい!!」<br>
薔「……」<br>
だが薔薇水晶は水銀燈の声など気にもとめずただ無言で彼女を引きずってゆく。<br>
そしてそのまま校門に差しかかったとき、照らし合わせたように黒いリムジンが2人の前で停車した。<br>
<br>
薔「乗って…。」<br>
銀「はぁ?何で私が…」<br>
薔「いいから乗って!」<br>
銀「!?」<br>
<br>
水銀燈に向かって普段なら決して出さない大声を張り上げる薔薇水晶。<br>
その気迫に圧された水銀燈は渋々と車に乗り込んだ。<br>
<br>
薔「白崎…出して。」<br>
白「かしこまりました、お嬢様。」<br>
続いて乗り込んだ薔薇水晶が執事の白崎にそう言うと、車は静かに走り出す。<br>
<br>
銀「ちょっとぉ…何のつもりか説明しなさいよぉ。一体どこに行くのぉ…?」<br>
<br>
無理やり連れてこられた水銀燈は不機嫌さをありありと漂わせながら言葉を放つ。<br>
すると薔薇水晶は顔色も変えずその問いに答えた。<br>
薔「…刑務所。」<br>
銀「………は?」<br>
<br>
その言葉に水銀燈は目を点にさせた。<br>
<br>
薔「貴女に…会わせたい人がいるの…。」<br>
銀「はぁ、馬鹿じゃないのぉ?<br>
生憎私にはホモ教師や変態M字に知り合いはいても受刑者に知り合いなんていないわよ。」<br>
<br>
また薔薇水晶の悪い冗談が始まった…。水銀燈は内心でそう思っていたが…<br>
<br>
白「着きました。お嬢様。」<br>
薔「ご苦労…。」<br>
銀「……マジ?」<br>
<br>
数十分のドライブの末、水銀燈が降ろされたのは高いコンクリートの塀がそびえ立つ刑務所の門の前であった。<br>
<br>
薔「じゃ…行こうか……」<br>
銀「あ、ちょっと!待ちなさいよぉ!!」<br>
薔薇水晶は門を開くと1人でズンズンと奥に進んでゆく。<br>
水銀燈もまた、それを追って刑務所の内部へと入って行った。<br>
<br>
そしていくつかの手続きを薔薇水晶がしたかと思うと、水銀燈は透明な板で区切られた狭い部屋へと通された。<br>
<br>
銀「ここは…」<br>
薔「そう…面会室。」<br>
銀「面会室って…だから私に囚人の知り合いなんて……!」<br>
<br>
水銀燈がそう言いかけたそのときであった…<br>
<br>
「お久しぶりですね。お二人様。」<br>
<br>
銀「…え?」<br>
ふいに掛けられた声に水銀燈が目をやる。<br>
するとそこには1人の男性が仕切りの向こうからこちらを見ていた。<br>
水銀燈はその顔に見覚えがあった。<br>
<br>
そこにいたのは忘れもしない、メイメイと初めて会った日、自分にメイメイを薦めたあのペットショップの店長であったのだ。<br>
彼は裏で違法な生物を取引していたらしく、水銀燈がメイメイと暮らし始めた翌日逮捕・連行されたのである。<br>
<br>
店長「貴女がここに来るということは…ゼットンがどうかしたのかな?」<br>
店長は少しやつれた頬に少しの笑みを浮かべて言った。<br>
<br>
銀「…えぇ、ゼットン……メイメイは、先日死んでしまったわぁ。」<br>
水銀燈は目を伏せると申し訳なさそうに呟く。<br>
店長「そう……ですか。」<br>
銀「あの子は…メイメイは……私のために自分の命を使ってくれた……<br>
なのに私はあの子に何も飼い主らしいことをしてやれなかった!怖がってばかりで可愛がろうともしてあげなかった!<br>
なのにあの子は…死ぬ間際、大好きなご主人様って…ありがとうって言ってくれた…こんな…私に…<br>
ぐすっ…こんなことなら…もっとあの子を大事にしてあげるんだった…愛してやるんだった…<br>
うくっ…うぅ…。」<br>
<br>
メイメイのことを話すうちに、いつしか部屋には水銀燈の嗚咽が響いていた。<br>
<br>
店長「…泣くのはお止めなさい。<br>
貴女は立派な飼い主です。貴女が悲しんでいたらゼット……メイメイも悲しみますよ?」<br>
<br>
店長は水銀燈を諭すように優しく言った。<br>
銀「でも…メイメイは…メイメイは…」<br>
店長「よく聞いてください。これから貴女にゼットンの歴史を教えてあげますから…」<br>
銀「ゼットンの……歴史?」<br>
水銀燈は涙で濡れた瞳を店長に向ける。<br>
<br>
店長「はい…以前にも言ったように、ゼットンは宇宙に生息する珍しい生物です。<br>
しかし、そのあまりの強さ故に星々から恐れられ、またある時は戦争で侵略のための生物兵器として利用されてきました。」<br>
銀「生物…兵器?」<br>
店長「えぇ、ゼットンの戦闘能力は貴女もご存知でしょう?<br>
しかもゼットンは貴女が知る姿はまだまだ幼稚園程度の子供です。」<br>
銀「え…えぇっ!?」<br>
<br>
店長「あれは第3形態…『甲殻態』と呼ばれるものの前期です。<br>
その後、脱皮を繰り返して60m程に成長したゼットンは第4形態の『繭状態』を経て、『完全態』へと変態するのです。<br>
そうなれば、例え核兵器を持ってしてもゼットンを止めることは不可能になります。」<br>
銀「か…核兵器でもって……」<br>
店長「それだけゼットンの力は強大だということです。<br>
…ですが、多くがそうなる前に廃棄されたそうですね。」<br>
銀「廃棄って…殺されたってこと?」<br>
<br>
水銀燈は店長の話に驚愕の声を上げる。<br>
<br>
店長「えぇ、ゼットンは知能も高いですし、強大過ぎる力はやがて自らにも災いとなると考えられましたからね。」<br>
銀「そんな…散々利用させられた挙げ句、用済みになったらポイッてわけぇ…?」<br>
店長「…そうなりますね。」<br>
銀「そんな…あんまりだわぁ。」<br>
その事実に水銀燈は暗い顔で俯いた。<br>
<br>
店長「ええ、ですが…それでもゼットンは誰かに従い続けるんですよ。」<br>
銀「…え?」<br>
店長「ゼットンはね…最強であるが故に孤独なんです。<br>
恐れられ、疎まれ、誰からも避けられてきた…だから常に誰かの愛情に飢えているんです。<br>
だからこそ自分を必要としてくれる誰かの為なら、例えそれが悪人だとしてもどこまでも付き従う。<br>
ゼットンとはそういう生き物なんです。」<br>
<br>
銀「……」<br>
水銀燈は無言のまま店長の言葉のひとつひとつを深く心に刻みながら聞いていた。<br>
だがそのとき、扉を開けて看守が部屋に入ってきた。<br>
看守「そろそろ面会終了です。」<br>
店長「あ、はい。では……」<br>
看守の言葉に店長は静かに立ち上がると部屋を後にしようとする。<br>
<br>
銀「あ…あの!」<br>
店長「…何か?」<br>
思わず水銀燈は出ていこうとする彼を呼び止めた。<br>
銀「あの…私、メイメイのこと、忘れません。<br>
だから…メイメイに会わせてくれて、ありがとうございました!」<br>
<br>
それは自分とメイメイを引き合わせてくれた店長への御礼の言葉であった。<br>
店長はそれに小さく笑うと看守に連れられ水銀燈の前から姿を消した。<br>
<br>
<br>
そして再び薔薇水晶の車に乗った水銀燈はそのまま自宅へと送られ帰宅した。<br>
<br>
銀「じゃあ、ありがとうねぇ、薔薇水晶。」<br>
薔「うぅん…それよりも…」<br>
銀「わかってるわよぉ。いつまでもウジウジしてたらメイメイに笑われるもんねぇ。」<br>
薔「あっ……うん♪」<br>
銀「それじゃ、ご機嫌よう。」<br>
薔「うん…また明日。じゃあね……。」<br>
<br>
<br>
水銀燈は去ってゆく薔薇水晶の車を見送ると家の門をくぐる。<br>
そして玄関に向かう前にメイメイの墓へ向かった。<br>
<br>
だが……<br>
<br>
銀「何これぇ…?」<br>
水銀燈は目の前の光景に唖然とした。<br>
なんと、メイメイの墓が何者かに掘り返されていたのだ。<br>
銀「誰がこんなことを…」<br>
犯人は近所の野良犬か何かだろうか。<br>
憤りを感じながら水銀燈が膝を地面に付ける。<br>
しかし、そのとき水銀燈はあることに気が付いた。<br>
<br>
銀「…え?これって…」<br>
驚くことにその穴は外から掘られたものではなく、むしろ内側から掘り返されたようであったのだ。<br>
それはあたかも死体が自ら這い出たかのように…<br>
<br>
銀「…まさか!」<br>
水銀燈は慌てて立ち上がると一目散に自室を目指した。<br>
そして玄関を開け、階段を駆け上がり、目の前の扉を勢いよく開く。<br>
<br>
銀「メイメイ!」<br>
<br>
もしかしたらそこにはいつものようにメイメイがいるかもしれない。<br>
心の中でそんなありもしない期待を抱いていた水銀燈であったが、そこに広がっていたのは誰もいない自分の部屋であった。<br>
<br>
銀「はぁ、はぁ……ふっ、そりゃそうよねぇ…私、馬ッ鹿みたぁい。」<br>
水銀燈は自嘲気味に溜め息を吐くとそのまま床に座り込んだ。<br>
だがそのときであった…<br>
<br>
--キィン…<br>
<br>
水銀燈の視界の片隅で何かが光った。<br>
銀「…え?」<br>
ふいに水銀燈は視線を横に移す。<br>
そこは自分の机の上であった。<br>
銀「今…何かが…」<br>
立ち上がる水銀燈。そしてそのまま机へと歩み寄る。<br>
するとそこには…<br>
<br>
銀「何…これぇ?」<br>
水銀燈の目の前な紫色の不思議な光を放つ小さな球体があった。<br>
水銀燈が恐る恐るそれを手に取ると…<br>
<br>
--キィン……キィン!<br>
<br>
銀「!?」<br>
なんと、それはより一層の輝きを放ち始めたのだ。<br>
銀「まさか……メイメイ!?メイメイなの!?」<br>
水銀燈は思わず叫んだ。<br>
すると球体は頷くかのように激しい煌めきを見せた。<br>
銀「やっぱりぃ…メイメイなのねぇ……メイメイ。」<br>
メイメイが帰ってきた。形はどうであれ水銀燈にはそれだけで十分であった。<br>
銀「メイメイぃ…。」<br>
水銀燈は涙を流しながらそのか弱い球体を胸に抱きしめる。<br>
<br>
銀「でも、一体どうして…?」<br>
すると、その球体…メイメイはひとりでにフワリと飛び上がる。その様子はあたかも御伽噺の精霊のようであった。<br>
そしてメイメイはそのまま本棚の前で体をチカチカと光らせた。<br>
<br>
銀「ここに何かあるのぉ?」<br>
メイメイに導かれるまま水銀燈は本棚に近寄る。<br>
そこには以前しまった『ゼットン飼育マニュアル』が保管されていた。<br>
<br>
銀「…これぇ?」<br>
水銀燈の問いに チカチカと光るメイメイ。<br>
水銀燈は久々にそれを手に取るとパラパラとめくり始める。<br>
以前は僅かに目を通すだけだったが、そのうち水銀燈はその最後のページに辿り着いた。<br>
<br>
銀「なになに…………………ええぇっ!?」<br>
そこに書かれていた記述を読んだ水銀燈は驚きの声を上げた。<br>
それはこうだ…<br>
<br>
『【もしゼットンが死んでしまったら】<br>
万が一、ゼットンが死んでしまってもすぐに諦めないでください。<br>
ごく稀ですが、ゼットンは死の瞬間に残った最後の力の一部を自らの核に移すことがあります。<br>
もしそうなった場合、また卵からのやり直しとなりますが時間をかけると再びゼットンは蘇生します。<br>
そのときは、次は死なせないようにしっかり愛情を注いであげてください。』<br>
<br>
それを読んだ水銀燈はふぅっと溜め息をつくと苦笑いをしながらメイメイに目をやった。<br>
銀「全く、とんだ悲しみ損だったようねぇ…<br>
ま、あんたがそんな簡単に死ぬタマじゃないか。」<br>
憎まれ口を叩いたつもりだが、その表情はとても穏やかだ。<br>
<br>
銀「しょうがないわねぇ…。私も一応あんたの飼い主だし…<br>
またあんたが元に戻るまで面倒見てあげるわぁ。」<br>
<br>
するとメイメイはどこか不満げにフルフルと水銀燈の周りを飛んでみせる。<br>
銀「わ、わかったわよぉ。元に戻っても一緒にいたげるからぁ!」<br>
<br>
すると今度は満足げに体を光らせるメイメイ。<br>
<br>
<br>
メイメイが元通りになるまでどのくらいかかるかは誰も知らない。<br>
だが、新たな出発を始めた水銀燈の心はとても晴れやかであった。<br>
<br>
この様子だと、メイメイが再び騒動を巻き起こす日はそう遠くないのかもしれない……。<br>
<br>
<br>
END<br>
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