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「第四話 『NECESSARY』」(2007/08/06 (月) 01:25:22) の最新版変更点
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無給でも構わないから、側仕えさせて欲しいだなんて。<br>
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コリンヌは、そんなつもりで雪華綺晶を保護した訳ではなかった。<br>
出会いがあまりにも唐突すぎて、思わず、雰囲気に流されただけ。<br>
本当に、ただ、それだけのことだった。<br>
<br>
<br>
「……ダメよ、そんなの。なにを言い出すの?」<br>
<br>
シャワーを止めたコリンヌは、バスタオルを胸に巻くと、<br>
バスタブに身を浸したままの雪華綺晶に、あがるよう促した。<br>
けれど、雪華綺晶は子供みたいにイヤイヤをして、立とうとしない。<br>
<br>
はてさて、困ったものだ。意外に、つむじ曲がりな一面があるらしい。<br>
コリンヌは、雪華綺晶の濡れた肩に両手を添えて、ぐっと顔を近付けた。<br>
<br>
「お友だちを困らせるなんて、いけないわ。そうでしょう?」<br>
「……私なんかに付きまとわれたら、あなたは迷惑?」<br>
「そういうことじゃなくって――」<br>
<br>
どうも、お互いの意地が、真っ向ぶつかり合っている。これでは埒が開かない。<br>
潤んだ瞳で、真っすぐに見つめ返してくる雪華綺晶の真摯さにも絆されて、<br>
コリンヌは「わかったわ」と、雪華綺晶の頬を優しく撫で上げた。<br>
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「お風呂から出たら、お父様に訊いてあげる」<br>
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第四話 『NECESSARY』<br>
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それからはもう現金なもので、雪華綺晶はシャワーをひと浴びするや、<br>
独りでさっさと着替えまで済ませてしまった。<br>
途絶えることのない微笑みが、機嫌の良さを如実に物語っている。<br>
<br>
「ちゃんと、髪を乾かさないとダメよ。ちょっと待ってて」<br>
「はぁい」<br>
<br>
雪華綺晶は、右眼を覆う白薔薇の眼帯を玩びながら、素直に返事をする。<br>
そんな彼女の様子を、コリンヌは困り顔で眺めていた。<br>
<br>
入浴するというのに、雪華綺晶はペンダントと眼帯を外したがらなかった。<br>
これを外すくらいなら、お風呂になんか入らないと我を張るものだから、<br>
とうとうコリンヌの方が折れて、現在に至っている。<br>
<br>
「右眼のところも、ちゃんとタオルで拭いたのかしら?」<br>
「拭きましたわ~」<br>
<br>
雛苺とはまた違う明るさで戯ける雪華綺晶は、とても可愛らしい。<br>
まるで、天使。コリンヌの唇にも、自然と笑みが広がった。<br>
<br>
「さあ……服を着たら、次は身だしなみね。わたしのお部屋に、いらっしゃい。<br>
髪をブラッシングして、リボンで結ってあげるわ」<br>
<br>
言って、彼女は雪華綺晶の背に腕を回した。<br>
そっと抱き寄せれば、生乾きの髪からシャンプーのいい香りが、ふわり……。<br>
<br>
「本当にステキよ、貴女。嫉妬しちゃうくらいにね」<br>
<br>
コリンヌは満足げに頷いて、雪華綺晶の耳元で、惜しみなく褒めそやした。<br>
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~ ~ ~<br>
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部屋に戻って、丹念に髪を梳った後――<br>
コリンヌは色とりどりのリボンを持ち出して、雪華綺晶の前に並べた。<br>
長さは、ほぼ均一。幅は、広いものから紐状のものまで、揃っている。<br>
<br>
「両耳の上あたりで、結ってあげる。貴女って、どんな色が好きなのかしら」<br>
「私は…………えぇとぉ……そうですわねぇ」<br>
<br>
暫し、並べられたリボンの上を彷徨っていた雪華綺晶の指先が、ひたと止まる。<br>
「……これ。この色が良いです」<br>
<br>
彼女が選んだのは、幅の狭い、紅いリボンだった。<br>
清純な白に、鮮烈な紅。もっと落ち着いた、おとなしい色を選ぶかと思いきや、<br>
なかなかどうして、自己顕示が強い性格らしい。<br>
<br>
「雪華綺晶って、赤系の色が好きなの? どうして?」<br>
「理由を訊ねられると、困ってしまいますけど…………変、でしょうか?」<br>
<br>
正対象の色というものは、大概において、互いを最も引き立て合う。<br>
無垢なイメージの雪華綺晶が、毒々しい深紅(あるいは漆黒)のドレスを纏ったら――<br>
きっと男女の区別なく、多くの者を虜にすることだろう。<br>
コリンヌは「いいえ」と頭を振って、雪華綺晶の髪を一房、手に取った。<br>
<br>
「とても、いい感性よ。貴女に彩りを添えるなら、原色こそが相応しく思えるわ。<br>
少しくらい派手な色じゃないと、貴女の美貌に負けてしまうもの」<br>
「そんな……照れてしまいますわ。私なんて――」<br>
「もっと自信を持ちなさい。貴女は、わたしの知る限りにおいて、誰より美しいわ」<br>
<br>
ありがとう。雪華綺晶は、蚊の鳴くような声で呟き、頬を染める。<br>
本当に可愛い。コリンヌは、その上気した桃色の頬に、親愛のキスをした。<br>
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~ ~ ~<br>
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<br>
――さて。件の相談に対する、コリンヌの父親の返事は、どうだったのか……。<br>
<br>
その答えは、雪華綺晶の表情が物語っていた。<br>
コリンヌに寄り添い、しなやかに細腕を絡める彼女の顔には、満面の笑み。<br>
屋敷の庭園を歩く二人の足取りも、どこか軽やかだ。<br>
紅、黄、白――庭園には、色も鮮やかな薔薇が咲き誇って、芳香を漂わせていた。<br>
<br>
「うふふ……。まさか、あんなにアッサリお許しいただけるなんて」<br>
「ホント言うと、わたしも意外だったわ」<br>
<br>
どれほど美しかろうと、雪華綺晶は真夜中の山中で拾った、素性の知れない娘。<br>
そんな怪しい者を、タダ働きとはいえ、愛娘の側に仕えさせるだなんて――<br>
常識では考えにくい。猛反対されることは勿論、追い出せと言われることすら、<br>
コリンヌは覚悟していた。その時には、雪華綺晶を連れて家を出よう……とも。<br>
<br>
「でも、良かった。わたしたち、まだ、お友だちでいられるのよね」<br>
「ダメです、公私混同なんて。私たちはもう対等ではなく、主従なのですわ」<br>
「イヤぁね。変なところで、堅苦しいなんて」<br>
<br>
ぷっと噴き出したコリンヌは、少しトゲに苦戦しながら、手元の白薔薇を手折った。<br>
それを、雪華綺晶の髪を結ったリボンに、つと刺し添える。左右に、一輪ずつ。<br>
<br>
「立場なんて、関係ないの。ずっと……わたしのお友だちで居てね。ずっとよ」<br>
「はい、マスター」<br>
「もぉ……ダメよ。名前で呼んでちょうだい。ふたりっきりの時だけは、ね?」<br>
「解りましたわ。コリンヌ」<br>
<br>
よろしい。ご褒美とばかりに、コリンヌは雪華綺晶を、優しく抱擁した。<br>
石鹸とシャンプーと、薔薇の芳香が、繭のように二人を包み込んでいった。<br>
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<hr>
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<br>
第四話 終<br>
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【3行予告?!】<br>
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きっと、何年たっても……こうして、変わらぬ気持ちで――<br>
貴方への想いを込めて、貴方への手紙をしたためた、あの夜。<br>
時が経って、便箋は黄ばみ、文字は掠れようとも……私の想いは、色褪せない。<br>
<br>
次回、幕間1 『恋文』<br>
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<br />
無給でも構わないから、側仕えさせて欲しいだなんて。<br /><br />
コリンヌは、そんなつもりで雪華綺晶を保護した訳ではなかった。<br />
出会いがあまりにも唐突すぎて、思わず、雰囲気に流されただけ。<br />
本当に、ただ、それだけのことだった。<br /><br /><br />
「……ダメよ、そんなの。なにを言い出すの?」<br /><br />
シャワーを止めたコリンヌは、バスタオルを胸に巻くと、<br />
バスタブに身を浸したままの雪華綺晶に、あがるよう促した。<br />
けれど、雪華綺晶は子供みたいにイヤイヤをして、立とうとしない。<br /><br />
はてさて、困ったものだ。意外に、つむじ曲がりな一面があるらしい。<br />
コリンヌは、雪華綺晶の濡れた肩に両手を添えて、ぐっと顔を近付けた。<br /><br />
「お友だちを困らせるなんて、いけないわ。そうでしょう?」<br />
「……私なんかに付きまとわれたら、あなたは迷惑?」<br />
「そういうことじゃなくって――」<br /><br />
どうも、お互いの意地が、真っ向ぶつかり合っている。これでは埒が開かない。<br />
潤んだ瞳で、真っすぐに見つめ返してくる雪華綺晶の真摯さにも絆されて、<br />
コリンヌは「わかったわ」と、雪華綺晶の頬を優しく撫で上げた。<br /><br />
「お風呂から出たら、お父様に訊いてあげる」<br /><br /><br /><br />
第四話 『NECESSARY』<br /><br /><br /><br />
それからはもう現金なもので、雪華綺晶はシャワーをひと浴びするや、<br />
独りでさっさと着替えまで済ませてしまった。<br />
途絶えることのない微笑みが、機嫌の良さを如実に物語っている。<br /><br />
「ちゃんと、髪を乾かさないとダメよ。ちょっと待ってて」<br />
「はぁい」<br /><br />
雪華綺晶は、右眼を覆う白薔薇の眼帯を玩びながら、素直に返事をする。<br />
そんな彼女の様子を、コリンヌは困り顔で眺めていた。<br /><br />
入浴するというのに、雪華綺晶はペンダントと眼帯を外したがらなかった。<br />
これを外すくらいなら、お風呂になんか入らないと我を張るものだから、<br />
とうとうコリンヌの方が折れて、現在に至っている。<br /><br />
「右眼のところも、ちゃんとタオルで拭いたのかしら?」<br />
「拭きましたわ~」<br /><br />
雛苺とはまた違う明るさで戯ける雪華綺晶は、とても可愛らしい。<br />
まるで、天使。コリンヌの唇にも、自然と笑みが広がった。<br /><br />
「さあ……服を着たら、次は身だしなみね。わたしのお部屋に、いらっしゃい。<br />
髪をブラッシングして、リボンで結ってあげるわ」<br /><br />
言って、彼女は雪華綺晶の背に腕を回した。<br />
そっと抱き寄せれば、生乾きの髪からシャンプーのいい香りが、ふわり……。<br /><br />
「本当にステキよ、貴女。嫉妬しちゃうくらいにね」<br /><br />
コリンヌは満足げに頷いて、雪華綺晶の耳元で、惜しみなく褒めそやした。<br /><br /><br />
~ ~ ~<br /><br /><br />
部屋に戻って、丹念に髪を梳った後――<br />
コリンヌは色とりどりのリボンを持ち出して、雪華綺晶の前に並べた。<br />
長さは、ほぼ均一。幅は、広いものから紐状のものまで、揃っている。<br /><br />
「両耳の上あたりで、結ってあげる。貴女って、どんな色が好きなのかしら」<br />
「私は…………えぇとぉ……そうですわねぇ」<br /><br />
暫し、並べられたリボンの上を彷徨っていた雪華綺晶の指先が、ひたと止まる。<br />
「……これ。この色が良いです」<br /><br />
彼女が選んだのは、幅の狭い、紅いリボンだった。<br />
清純な白に、鮮烈な紅。もっと落ち着いた、おとなしい色を選ぶかと思いきや、<br />
なかなかどうして、自己顕示が強い性格らしい。<br /><br />
「雪華綺晶って、赤系の色が好きなの? どうして?」<br />
「理由を訊ねられると、困ってしまいますけど…………変、でしょうか?」<br /><br />
正対照の色というものは、大概において、互いを最も引き立て合う。<br />
無垢なイメージの雪華綺晶が、毒々しい深紅(あるいは漆黒)のドレスを纏ったら――<br />
きっと男女の区別なく、多くの者を虜にすることだろう。<br />
コリンヌは「いいえ」と頭を振って、雪華綺晶の髪を一房、手に取った。<br /><br />
「とても、いい感性よ。貴女に彩りを添えるなら、原色こそが相応しく思えるわ。<br />
少しくらい派手な色じゃないと、貴女の美貌に負けてしまうもの」<br />
「そんな……照れてしまいますわ。私なんて――」<br />
「もっと自信を持ちなさい。貴女は、わたしの知る限りにおいて、誰より美しいわ」<br /><br />
ありがとう。雪華綺晶は、蚊の鳴くような声で呟き、頬を染める。<br />
本当に可愛い。コリンヌは、その上気した桃色の頬に、親愛のキスをした。<br /><br /><br />
~ ~ ~<br /><br /><br />
――さて。件の相談に対する、コリンヌの父親の返事は、どうだったのか……。<br /><br />
その答えは、雪華綺晶の表情が物語っていた。<br />
コリンヌに寄り添い、しなやかに細腕を絡める彼女の顔には、満面の笑み。<br />
屋敷の庭園を歩く二人の足取りも、どこか軽やかだ。<br />
紅、黄、白――庭園には、色も鮮やかな薔薇が咲き誇って、芳香を漂わせていた。<br /><br />
「うふふ……。まさか、あんなにアッサリお許しいただけるなんて」<br />
「ホント言うと、わたしも意外だったわ」<br /><br />
どれほど美しかろうと、雪華綺晶は真夜中の山中で拾った、素性の知れない娘。<br />
そんな怪しい者を、タダ働きとはいえ、愛娘の側に仕えさせるだなんて――<br />
常識では考えにくい。猛反対されることは勿論、追い出せと言われることすら、<br />
コリンヌは覚悟していた。その時には、雪華綺晶を連れて家を出よう……とも。<br /><br />
「でも、良かった。わたしたち、まだ、お友だちでいられるのよね」<br />
「ダメです、公私混同なんて。私たちはもう対等ではなく、主従なのですわ」<br />
「イヤぁね。変なところで、堅苦しいなんて」<br /><br />
ぷっと噴き出したコリンヌは、少しトゲに苦戦しながら、手元の白薔薇を手折った。<br />
それを、雪華綺晶の髪を結ったリボンに、つと刺し添える。左右に、一輪ずつ。<br /><br />
「立場なんて、関係ないの。ずっと……わたしのお友だちで居てね。ずっとよ」<br />
「はい、マスター」<br />
「もぉ……ダメよ。名前で呼んでちょうだい。ふたりっきりの時だけは、ね?」<br />
「解りましたわ。コリンヌ」<br /><br />
よろしい。ご褒美とばかりに、コリンヌは雪華綺晶を、優しく抱擁した。<br />
石鹸とシャンプーと、薔薇の芳香が、繭のように二人を包み込んでいった。<br />
<br />
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<hr />
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<br />
第四話 終<br /><br /><br />
【3行予告?!】<br /><br />
きっと、何年たっても……こうして、変わらぬ気持ちで――<br />
貴方への想いを込めて、貴方への手紙をしたためた、あの夜。<br />
時が経って、便箋は黄ばみ、文字は掠れようとも……私の想いは、色褪せない。<br /><br />
次回、幕間1 『恋文』<br />