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赤い表紙の本の話」(2007/05/06 (日) 02:28:25) の最新版変更点

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<p><br />    赤い表紙の本の話<br /> <br /> 「その本、面白いのぉ?」<br />  先ほどから頬杖をついて、つまらなそうに此方を眺めていた水銀燈は、やはり退屈そうに尋ねてくる。<br /> 「私には、面白く感じられるわ。貴女がどう感じるかはわからないけれど」<br />  あっさりと言い放つと、彼女は目をぱちくりとさせて「つれないわねぇ」と笑った。<br />  その声があまりにも優しかったから。私は顔を上げて彼女の顔を見つめた。<br /> 「何よ?」<br />  と、声をあげる水銀燈はなんだか照れたような表情をしていた。<br /> <br /> 「どうして?」<br />  だから、疑問だった。<br /> 「どうして、そんな表情が出来るの?」<br /> <br />  強いて言えば、羨ましかった。さらに言うなら怖かったのだと思う。<br />  何がなのか、それがわからないのがもどかしかった。<br /> 「だって、これが私だもの」<br />  と、臆面も無く言う水銀燈は、きっと私よりずっと大人なのかもしれない。<br /> <br />  いつも幼稚なことばかりしているのに、彼女の周りにはよく人が集まった。<br />  下心がある連中もいたのかもしれないけれど、それでも、私には輝いて見えた。<br />  いつも、最初に頼られるのは私なのに、最後は彼女の元へ離れてしまう。<br />  雛苺や翠星石も、気付けばこの子と一緒にいることが多い。<br />  それがどうしてなのか、私にはわからない。<br /> <br /> 「どうかした?」<br />  覗き込むようにして、上目遣いに私を見る水銀燈。<br />  ん? と微笑を浮かべる彼女は、まるで「悩みなら聞くわよ」とでも言っているみたいだった。<br /> 「何でも無いわ」<br />  素っ気無く返事をすると、水銀燈は「ええ?」と素っ頓狂な声をあげて笑う。<br /> <br />  ――ああ、そうか。<br />  あの子達は、彼女のこの表情に惹かれたのかもしれない。<br />  作られたものではない、自然な表情。コロコロと変わるその顔が、仕草が。<br />  包み込むような安心を与えてくれるのだわ。<br /> 「……かなわないわね」<br /> <br /> 「なにがぁ?」<br />  そう言った水銀燈は、驚いた表情で私を見つめていた。<br /> 「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」<br />  尋ねると、水銀燈はカラカラと声をあげて笑った。<br /> 「しんくぅ……貴女もそんな表情することがあるのねぇ」<br />  彼女の言っている意味は、よくわからなかった。<br /> <br /> 「私、貴女の無愛想な顔も笑った顔も好きだけど、驚いた時の顔が1番好きだわ。間抜けなんだものぉ」<br />  笑いながら彼女は言った。<br /> 「こんなに笑わせてくれるの、真紅だけよぉ」<br />  それは心底楽しそうで、つられるように私も笑った。<br /> <br />  私は、自分で思っているより愛されてるのかもしれない。<br />  誰かにとって、安心できる存在の彼女もまた、私で安心してくれてるのだとしたら……<br /> <br /> 「それは、光栄だわ」<br />  私たちはしばらく、二人で笑い続けた。</p>

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