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「【カナリアが歌うように】 第1回」(2007/04/06 (金) 22:29:44) の最新版変更点
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<p>「いいね、金糸雀。」 <br />
<br />
――わかってるかしら <br />
<br />
「今度こそ」 <br />
<br />
――もう言わないで <br />
<br />
「コンクールで1番に…」 <br />
<br />
――止めてっ <br />
私の心が、壊れてしまうから…… <br />
<br />
「うたをわすれた カナリアは <br />
うしろのやまに すてましょか <br />
いえ いえ それはなりませぬ」 <br />
<br />
<br />
【カナリアが歌うように】 <br />
<dd><br />
1 <br />
<br />
「金糸雀、お前は完璧でなければならない。何もかも」 <br />
<br />
幼い頃、ずっと言われつづけた言葉。 <br />
私はそれがとても怖かったの。 <br />
<br />
愛を囁かれるよりも沢山の"完璧"を求められた。 <br />
私は忠実に"完璧"を演じた。 <br />
<br />
<br />
「金糸雀。お前はなんてすばらしい娘なんだ」 <br />
お父様の抱擁はとても優しく、やわらかだった。 <br />
まるで、私ではなく"完璧"を抱きしめるように。 <br />
<br />
だけど、それでもとっても嬉しかったわ。 <br />
――本当に? <br />
ええ。本当に。 <br />
――それは…真実かしら? <br />
<br />
お父様のくれるいくつもの誉め言葉。 <br />
それは、カナにとって愛の囁きだった。 <br />
<br />
「お父様。また、1位を取れたかしら。それも、大差で勝ったのよ!」 <br />
私の言葉に、笑顔になるお父様。 <br />
これがきっと幸せの在り方だと、信じて疑わなかった。 <br />
―いいえ。 <br />
……疑えなかったの。 <br />
<br />
* <br />
<br />
「金糸雀。貴女、また草笛さんの家に行くの?」 <br />
帰り支度をする私に真紅が声をかける。 <br />
<br />
「ええ。そのつもりかしら」 <br />
私の答えを聞いて、真紅は複雑そうな表情をした。 <br />
何がいけないのかしら。 <br />
みっちゃんはカナを待っていてくれているのに。 <br />
<br />
「貴女が草笛さんを好きなことも、――家に帰りたくないのも分かってるわ。 <br />
でもね、たまには」 <br />
「真紅には関係のないことかしら」 <br />
真紅の言葉を遮って言い放つと、真紅はそれ以上何も言わなかった。 <br />
鞄をつかみ、荒々しく教室を出る。 <br />
途中、水銀燈にぶつかって薔薇水晶に睨まれたけれど、なんとも思わなかった。 <br />
<br />
「今のかなりあ……ちょっと怖かったのよ」 <br />
教室を出るとき聞こえた雛苺の声が耳に残った。 <br />
<br />
私って、いやな子かしら? <br />
少し。本当に、少し。悲しくなった。 <br />
<br />
* <br />
<br />
「ただいまかしら」 <br />
いつものように部屋の中に声をかける。 <br />
今日は残業のない日だから、底抜けに明るい声が返って来るはず。 <br />
<br />
「おっかえりぃー!カナぁ」 <br />
予想通りの声が返ってきて、分かっていたのにホッとする。 <br />
ぎゅうっと抱きしめられ、頬擦り。 <br />
<br />
――ああ、カナ愛されてるかしら。 <br />
<br />
「みっちゃん、ほっぺが摩擦熱でまさちゅーせっちゅかしらぁー」 <br />
<br />
<br />
この場所が、カナの家になってくれればいいのに。 <br />
それは、不可能だとしても。願わずにいられなかった。 <br />
<br />
幸せな時間は、過ぎるのが早すぎるわ。 <br />
カナはもう少し。もっとずっと。この空間に居続けたいのに。 <br />
<br />
</dd></p>