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『きみとぼくと、えがおのオレンジ』~第7話~」(2007/03/18 (日) 15:38:50) の最新版変更点

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<p>「お、おはよ」<br> 「あ、うん……おはよう」<br> 朝、時刻は午前八時半。<br> 大学の最寄駅前で僕と薔薇水晶は出会う。<br> どっちかが来るまでそこで待つ。<br> 俗に言う、『待ち合わせ』。<br> 合流すれば二人で並んで大学に向かう。<br> 話は他愛のないものばかり。<br> 前のように大学の話だけじゃなく、ちょっとしたものという意味で。<br> しかしこの関係、今でも夢のようだと思う。<br> 正直、こんな事になるとは思ってなかった。<br> いや、想像なんて出来たか?<br> 出来るわけないだろ、馬鹿か、僕?<br> でも、幸せと言うべきなんだろう、幸せと思うべきなんだろう。<br> そう、思わないと。</p> <p>何で、義務感なんだ?</p> <p>いや、考えては駄目だ。<br> ようやくこの関係になれたんだ、ありがたいと思わないと。</p> <p><br> 「ジュン……?」<br> 僕の顔を覗き込む薔薇水晶の顔、それが少し怯えてるようでいて。<br> 「ん?」<br> 僕はどうかしたか的な顔をする事に努める。<br> 「……なんでもない」<br> 「そか」<br> 「うん」<br> ぎこちない関係だ、付き合ってるのに。<br> 付き合い始めて2週間、まだ、告白だけの関係。<br> せっかっく告白されたのに僕はその実感を持てない。<br> 変だ、そう思う。<br> いや、そんな訳ないじゃないか、そう思う。<br> どっちなんだ、そう思う。<br> こんがらがった頭、イライラする。<br> けど、顔には出さない。<br> モヤモヤする頭が憎らしい。<br> ぽそぽそと話す薔薇水晶は可愛らしい。<br> てっぺん近くで二つに結んだ髪の毛と後ろに流した長髪が<br> 揺れるたびそう思う。<br> だけど、そんな彼女を奇異の目で見る奴は絶えない。<br> 眼帯をしてるからなんだと言うんだ?</p> <br> <p>怒りの感情が胸の奥で芽生える。<br> ふつふつと、静かに。</p> <p>――ほら、やっぱり好きなんじゃないか。</p> <p>そう思うけど、全肯定できない自分がここにいる。<br> 何が、足りないんだ?<br> 何が、欠けているんだ?<br> モヤモヤしてたまらない。<br> 他愛ない話をしながら、その感情が言葉の端に出ないように気をつける。<br> 正直、疲れる。</p> <p>――せっかく、恋人になれたのに</p> <p>だから、どうしてそう思うんだ。<br> 僕は彼女といて幸せではないと自分で言うつもりか?<br> そうじゃないのか?<br> 違うだろ。<br> ああ、くそ。</p> <br> <p>日差しの強さは既に春から夏よりへと。<br> 少しチリチリと射す日光、大教室へ向かう道の横に立ち並ぶ木々は<br> 衣替えをして新緑に。<br> ただの緑じゃなくて、生まれたばかりの生命力溢れる緑。<br> その中で、なぜか僕達だけが古ぼけたセピア色に見える。<br> 「………」<br> 気づけば薔薇水晶は黙っていた。<br> 「あ、どうかした?」<br> なんでもないと首を振る薔薇水晶。<br> ただ、その顔は何でもない顔じゃない。<br> 悲しい顔だ。<br> さびしい顔だ。<br> 僕のせいだ、また。<br> これで、何回目になるんだろうか。<br> 薔薇水晶の表情が笑顔に変わる。<br> 無理矢理に作った寂しい笑顔だ。<br> 「授業……遅れるよ?」<br> 分かってるけど、僕は分かってない振りをする。<br> 「ああ、そうだな」<br> 彼女を傷つけるから。</p> <br> <p>週末、僕らはデートに出かける。<br> 近くの店をぶらぶらして、ぐるりと一周して、それで終わり。<br> もちろん、途中でご飯を食べて、ゲームセンターに寄ったり。<br> ああ、映画も見た。<br> だけど、僕らが心の底から笑い合えた事はない。<br> 彼女の微笑みもあの時以来一度も見ていない。<br> 笑いはする、だけど、なぜか虚しい。<br> 他愛のない話はする。<br> はしゃぐ事もある。<br> キスは1回。<br> だけど、それ以上は一向に。<br> プラトニック?違う。<br> それ以降に進まないだけ。<br> 現状維持、それだけで満足している。<br> 本当に満足しているのか?<br> 肯定できない。<br> 気づけば夕方、僕は薔薇水晶を家の近くまで見送る。<br> 彼女の家には踏み込まない。<br> 彼女のプライバシーに触れない。<br> 怖いから。<br> デートはこれで5回目。</p> <br> <p> キャンパス内、僕らはほとんどの時間を一緒に過ごす。<br> 一緒に食堂で時間を潰して、図書館で時間を潰して。<br> ベジータや笹塚がいるときは一緒にだべって。<br> 水銀燈がいる時は色々悪戯をされたり。<br> 授業が一緒のときは出来る限り近い席。<br> だけど、隣同士には座らない。<br> ベジータや笹塚、水銀燈がいる時も、いない時も。<br> 奇妙だと思う。<br> だけど、コレくらいの距離で良いと思っている。<br> お互い馴れ合わないように。<br> 馴れ合ってしまうのが怖い?<br> 怖いのか?<br> 付き合って、深い仲になるのが?<br> それとも、もっと別の何か?</p> <p>まだ、引きずっているのか?</p> <p>いや、まさか。<br> もう、あの頃とは違う。<br> だけど。</p> <br> <p>平坦で抑揚のない二人の時間。<br> 電車の中で、デートで、大学で、食堂で。<br> 互いに過ごす時間はそんなに短いと言うわけではない。<br> だと言うのに、全てが予定調和で変わり映えがない。<br> 薔薇水晶は話をしてくれる。<br> 無理矢理にでもお互いの距離を縮めようと。<br> 僕も努力する。<br> 何かしらの話をしようとする。<br> けど、何かがすれ違っている。<br> いつしか、二人は黙ってしまう。<br> 喋っているより沈黙の方が長い。<br> それでも無理矢理に時間を作る。<br> メール、電話、メッセンジャー、情報機器を駆使して。<br> それなのに、遠い。<br> 沈黙が勝ってしまう。<br> 「ねえ、ジュン」<br> いつだったか、こんな会話があった。<br> 「私といて……楽しい?」<br> 「うん、そりゃ」<br> 「そう……」</p> <br> <p>「うん、薔薇水晶はカノジョだし、楽しいよ」<br> 努める、楽しそうな振りをする。<br> 「そっか……」<br> 悲しそうな表情。<br> 「ジュン?」<br> 「何?」<br> 「手……繋いで、良い?」<br> 「ああ」<br> スっと手を出す。<br> 「……」<br> カノジョの手が重ねられる。<br> 冷たくて、小さい、華奢な指。<br> 僕達は何処かの道を歩いていて、歩幅をあわせていて。<br> だけど、心の歩幅とでも言うのか、それは一緒じゃなかった気がする。<br> バラバラだった、それが酷くむかついた。<br> 自分が情けないのか、何も分からなくなっていた。<br> 僕は彼女を好きなのか?<br> そんな感情さえも希薄になりつつあった。<br> 僕は何も分からなくなっていた。</p> <p><br> いつからだろうか、こんな風になったのは。<br> 僕は彼女を好きだと思っていたのに。<br> だけど、その感覚が今は思い出せない。<br> 本当に僕は彼女を?<br> 違ったんじゃないのか?<br> 何を理由にして彼女を?<br> いや、彼女はどうだ?<br> 『好きな振り』をしているだけでは?<br> 本当に好きだと思うのか?<br> 心の中では、彼女も……</p> <p>まさか</p> <p>あの時とは違う。<br> あの時とは違う。<br> だけど、否定はできない。<br> 頭の中がモヤモヤする。<br> ああ、くそ。<br> ああ、畜生。<br> 終わってしまいたい、僕は思ってしまった。</p>

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