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【ある土曜の日のこと】」(2007/03/15 (木) 21:20:17) の最新版変更点

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<dl> <dd>ある土曜の朝が始まる。<br> <br> インターホンが鳴った。<br> その音は、二階で横になっている少年の耳に届いた。<br> しかし少年は動かない。<br> もう一度インターホンが鳴る。<br> この音もまた、二階で横になっている少年の耳に、しっかりと届いた。<br> しかし少年は、またも動こうとしない。<br> <br> 再びインターホンが、今度は何度も何度も鳴った。<br> 絶え間なく、下品なまでに、インターホンは鳴り続けた。<br> 当然この音も、二階で横になっている少年の耳に届いていた。<br> やはり少年は、動こうとしなかった。<br> <br> インターホンの連射が止み、暫くの沈黙が訪れる。<br> <br> 「くぅおらチビ眼鏡!」<br> 「うわぁ!?」<br> 少年の部屋のドアが蹴破られた。<br> <br> <br></dd> <dd>「僕は今、とっても眠いんだけど」<br> 寝惚け眼を擦り、やがて眼鏡に手を伸ばす。<br> すると大きな欠伸をかき、再び目を擦る。<br> 「毎晩遅くまで、下らないことをしているからですぅ!」<br> 緑のスカートドレスを着た、長い茶髪の少女が、大声を上げて怒る。<br> 少年はその声の大きさに、顔を歪める。<br> ようやく眼鏡をかけて、少年は少女に問う。<br> 「それより、どうやって家の中に入ったんだよ」<br> 「合鍵くらい、私が持っていない訳ないですぅ」<br> 「なっ」<br> 人差し指で鍵を振り回す少女の姿を見て、少年はあんぐり口を開けて絶句した。<br> やがて口をぱくぱく開閉し、言葉を探す。<br> <br> 「何でお前が、僕の家の鍵を持っているんだよ!」<br> 「のりが貸してくれたんですぅ」<br> 思わぬ返答に、少年は面食らった。<br> 「え、な、何でだよ」<br> 少年は、すぐさまその経緯を少女に問うた。<br> 「のりが合宿で居ない間、チビ眼鏡の世話をするようにって。そうのりに頼まれたんですぅ」<br> 少女は椅子に腰をかけ、両足を行儀悪くを遊ばせながら、彼の質問に答えた。<br> 少年はベッドから立ち上がり、少女の前に詰め寄った。<br> 「鍵を持っているのなら、なんで何度もインターホンを押した」<br> 少女は何食わぬ顔をして答える。<br> 「ねぼすけなチビ人間を起こしておくためですぅ。<br> でもチビ人間ときたら、あれだけインターホン押したのに、着替えすら終わらせていないなんてですぅ」<br> 「なっ、早く出て行けよ!」<br> <br> <br> <br></dd> <dd> 着替えを済ませた少年は、階段を下って一階に出た。<br> 洗面台に向かい、顔を洗い終えると、思い出したようにトイレへと向かう。<br> 手早く用を済ませた少年は、食卓に向かった。<br> 「おはよう、ジュンくん」<br> リビングに入ると、キッチンの方から、青い男性服を着た、短い茶髪の少女がやってきた。<br> 先程の少女の、双子の妹である。<br> 「ごめんね、勝手に上がっちゃって。僕は一応止めたんだけどね」<br> そう言って彼女は肩を竦めた。<br> 「蒼星石も着てたんだ」<br> 蒼星石と呼ばれた少女は、両手にトーストを乗せた皿を持っていた。<br> 「待っててね、今作ってるところだから」<br> 蒼星石が食卓に皿を置く様子を眺めていると、またキッチンの方から声をかけられる。<br> 「この翠星石様が、朝食を作ってやってるんですぅ。チビ眼鏡、感謝するですぅ」<br> トントントン……と、包丁とまな板がぶつかる音にまじって、翠星石の声が聞こえた。<br> 「げ、あいつも作るのか。……大丈夫なのか?」<br> 少年はその言葉を聞いて、顔を引きつらせる。<br> それに軽く苦笑を交えて、蒼星石が答える。<br> 「大丈夫だよ、前よりずっと上手くなってるから」<br> 「聞こえてるですよ、チビ眼鏡!」<br> バン、と大きな音を立て振り向いた双子の姉が、少年に向かって吠えた。<br> <br> <br> <br></dd> <dd>「へえ……まあ食えるようにはなったじゃん」<br> 食卓に並んで並んだトーストとサラダ、ハムエッグを口にした少年が、彼なりの称賛の言葉を言った。<br> 「まだまだこんなもんじゃねえですぅ!」<br> 胸を張って、その言葉に答える翠星石。<br> そして、その様子を微笑ましげに眺める蒼星石。<br> 三人の朝食は、のんびりと行われた。<br> <br> 朝食を終えて、食器洗いも済み、三人はリビングで話をしていた。<br> 「え、泊まるの?」<br> 「なんですか、不満でもあるですか」<br> またしても急な話に、少年は驚きを隠せなかった。<br> 「お昼ご飯や夕ご飯も、僕たちが作るから安心して」<br> 「翠星石と蒼星石のご飯を毎日食べられるなんて、チビ眼鏡は幸せ者ですぅ」<br> 「いや、そういう問題じゃなくて……」<br> 少年の言葉はインターホンによって遮られた。<br> 「きっと真紅たちが遊びに来たですぅ」<br> 翠星石の予想は当たり、少年が玄関の扉を開けると、そこには3人の少女の姿があった。<br> 少年は顔を引きつらせて笑った。<br> 「遊びに来てあげたわ、ジュン。上がるわよ」<br> 「上がるわよ、じゃないよ……」<br> がっくりと肩を落とした少年の横を、三人の少女達が通り過ぎていった。<br> <br> <br></dd> <dd>「ホント、皆して暇なんだなぁ」<br> 先程同じ台詞を、少年は一階に居るその皆に向かって言った。<br> 「あなただって同じでしょ」<br> 「チビ眼鏡ほど暇な奴はいねぇですぅ」<br> そして、散々に言い返されてしまった。<br> 「ボクだって一応、色々とやりたいことがあったんだけどなぁ」<br> そうぼやいて、一人自室のベッドに腰をかける少年。<br> 窓の外を眺めながら、少年はそのまま独り言を続ける。<br> 「大体何が楽しくて、皆して僕の家に来るんだろう」<br> 幼稚園や、小学生だった頃ならいざ知らず、今の少年少女達は高校生である。<br> 「そういう歳でもないと思うんだけどなあ……」<br> 談笑を楽しむ少女達がいる一階から、こっそりと避難をした少年。<br> 今は、ベッドに仰向けになって倒れて、のんびりと小説に読んでいた。<br> 一階から聞こえるバイオリンの音に、聞こえないフリをして。<br> <br> それから程無くして、少年の部屋の扉を、軽く叩く音が聞こえた。<br> それも少年は聞こえないフリをすると、扉は勝手に開かれた。<br> 「シカトなんて酷いなあ、ジュンくん」<br> 困ったように笑いながら、彼の部屋に入ってきたのは蒼星石だった。<br> 読んでいた本を傍に置き、少年は上体をゆっくりと起こした。<br> 「何の用?」<br> 彼女の言葉は軽く受け流し、少年は質問をした。<br> 「そろそろお昼だよ、下に来て」<br> 少女がそう言い、少年は立ち上がる。<br> <br> <br> <br></dd> <dd> 昼食を終えた少年少女たちは、リビングでテレビを見ていた。<br> 「くんくん! ああ、危ないわ! 後ろよ、後ろにっ!」<br> 「くんくんうしろなのー! うしろにいるのー!」<br> 「志村、後ろー!」<br> 「くんくん絶体絶命なのかしら~!」<br> 「全く……こんなアニメのどこが面白いんですぅ」<br> 「性悪、僕の腕を強く握り過ぎだ。痛い」<br> 「今誰か、知らない人の声が混じっていたような気が……」<br> 彼らが見ているものは、有名な人形劇「くんくん探偵」の劇場版DVD。<br> 四年前の夏頃に放映されたものだ。<br> 約二名ほどを除いて、全員テレビ画面を食い入るように見詰めていた。<br> 「いくつになっても、みんな好きなんだなぁ。このくんくん探偵」<br> 熱心にテレビ画面を見詰めていない少年が、思わずぼやいた。<br> 「こ、こんなアニメ、翠星石はなんともないですぅ!」<br> 少年のぼやきを聞いて、翠星石は慌てて取り繕った。<br> しかし、テレビ画面を注視しつつ、少年の腕を握る彼女の手は、一層強くなっていく。<br> <br> 「ん? どうした、蒼星石」<br> ふと、彼女から強い視線を感じて、少年は思わず訊ねてしまった。<br> 「ううん。なんでもないよ、ジュンくん」<br> 少女はそう言って、顔をテレビ画面に戻した。<br> 少女の横顔は、穏やかに微笑んでいたが、少年はその微笑に、なにか引っかかるものを感じた。<br> <br> 「きゃーっ! 怖いですぅ!」<br> 「腕が痛い痛い痛い痛い痛い!」<br> 「ふふふふふ……」<br> <br> <br> <br></dd> <dd> それからDVDを見終えた少女達は、暗くなる前に家へと帰った。<br> 双子達が作った、豪勢な夕食を平らげた少年は、今は自室で一人で居た。<br> <br> 「翠星石のやつ、いつの間にあんなに料理が上手になったんだ?」<br> さきほどの夕食を思い浮かべながら、少年は再び驚きを言葉にしていた。<br> 明日の朝食にも期待を寄せつつ、ベッドの上で、食べ過ぎたお腹を撫でていた。<br> 「でも、残したら明日からは作ってやらない、なんてちょっと酷いよ」<br> 彼も流石に、彼女たちの作ったご馳走の山を、全て平らげることは難しかったようだ。<br> 「チビ眼鏡! 風呂が空いたですぅ! さっさと入りやがれですぅ!」<br> 扉越しに大声をかけられた。声は双子の姉のもの。<br> 少年は返事をして、ベッドから腰を上げた。<br> ドアの前まで来て、ノブに手をかける。<br> ふと、何故自分が自分の家の風呂に入るのを、急かされなければならないのかを疑問に思った。<br> 直ぐに、疑問に思っても仕方が無いことに気がつき、ドアを開いた。<br> ドアを開けると、そこにはまだ翠星石が立っていた。<br> 寝巻き姿の彼女を見て、一瞬動揺してしまったが、直ぐに冷静さを取り戻す。<br> あまり余計なことは考えないように、少年は意識した。<br> 「どうしたんだ、翠星石?」<br> 少年が訊ねると<br> 「べ、別に邪まなことは考えてねえですぅ!」<br> と、顔を真っ赤にして階段を下っていった。<br> 少年は訳がわからず、暫くその場に立ち尽くしていたが、やがて彼もゆっくりと階段を下っていった。<br> 妹は、姉のそんな様子を、呆れた風に眺めていた。<br> <br> <br> <br></dd> <dd>「ジュンくん、遠慮はいらないよ」<br> 「この翠星石が、特別に言ってやってるんですぅ! 感謝するですぅ!」<br> 「誰がそんな申し出を承るかーっ!」<br> その後、風呂を上がった少年は、彼の部屋に入り込もうとする双子を、用意した部屋に追いやって、<br> ようやく安息の時を得た。<br> <br> また明日も、姉が帰ってくる明後日も、このような調子で過ごすのだろうか。<br> そんな風に思うと、喜びや期待と共に、幾らかの疲れが込み上げてくる。<br> 「今日は何事もなく一日が終わったけど、明日はどうなるかわからないしな……」<br> 苦笑を浮かべて、ベッドの上に大の字になる少年。<br> 眼鏡を外し、ぼんやりと天井を眺めると、次第に眠気が襲ってくる。<br> 「今日はもう寝ちゃうか……」<br> 毛布を被り、横になる。<br> 「これからが、本当の地獄だ……!」<br> 「ハッ、今王子の気配が……うぅ~ん、眠い……」<br> そのまま少年の意識は、深い眠りの中に消えていってしまった。<br> <br> それから程無くして、二つの影が怪しげに目を光らせ、少年の部屋に忍び入った。<br> その後、少年がどうなったかは、三人だけの知るところとなる。<br> <br> やがて、窓の外。<br> 電柱の天辺に立ち、高笑いを上げる三人目が、闇の中に姿を暗ました。<br> 「カカロット、お前がNo.1だ……!」<br> <br> <br></dd> <dd>「なんだそこの君! 怪しいぞ、泥棒か!」<br> 「違う、ベジータ様だ!」<br> <br> こうして、ある土曜の夜が終わる。<br> <br> <br> <br> 【ある土曜の日のこと】<br> <br> おしまい<br> <br> <br></dd> <dd><br></dd> <dd> <p><br></p> <p><br></p> </dd> </dl>

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