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第百十六話 JUMと卒業式」(2007/03/02 (金) 00:18:08) の最新版変更点

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<p>「一つ屋根の下 第百十六話 JUMと卒業式」</p> <br> <br> <p> すっかり春の陽気の踊る三月一日。僕達の通うアリス学園高等学校では、卒業式が行われようとしていた。<br> 普段なら、全く関係ないしダルイ……ってのが心境だけど、今日はそんな事は無い。何故ならば、銀姉ちゃんに<br> カナ姉ちゃん。そして、めぐ先輩が遂に高校を卒業するからだ。<br> 「この学校とも今日でお別れかぁ……何だか少し感慨深いわねぇ。」<br> 「うん、色々な事があったかしら。嬉しい事も悲しい事も……」<br> 僕は校舎をゆっくり見ながら歩く二人の側で同じようにゆっくり歩いていた。暖冬なんだし、いっそ桜が咲いても<br> いいんじゃないかなぁなんて思ったけど、流石にそうもいかないようで。<br> ふと、銀姉ちゃんを見ると心なしか目に涙を浮かべ、目を拭っている。やっぱり、思うところがあるんだろうか。<br> 「泣いてるの?銀姉ちゃん。」<br> 「……泣いてなんかいないわぁ……私ぃ、花粉症だものぉ。」<br> さいでしたか。でも、銀姉ちゃんが花粉症なんて話は聞いた事がない。もしかしたら照れ隠しなんじゃないかなぁ<br> なんて思ったけど、それを追求するほど僕だって野暮じゃない。<br> 「あ、水銀燈と金糸雀~。もうすぐ式が始まるよ~。」<br> 僕等が中庭辺りを歩いていると、前方からめぐ先輩がやって来た。多分、ふらついている僕等を探しに来てくれた<br> んだろう。銀姉ちゃんは再び目をゴシゴシと擦ると相変わらず余裕を浮かべた顔でめぐ先輩と向き合った。<br> 「分かったわぁ。じゃあ、行きましょうかぁ。」<br> 「あ、水銀燈泣いてた?泣いてたでしょ?花粉症なんて言い訳はなしね~。水銀燈が健康体なのは知ってる<br> し。いやぁ~、可愛いなぁ銀たんはぁ~。」<br> 「な、泣いてなんかないわよぉ!それに銀たんって何よめぐぅ!」<br> 「二人ともそのへんにしないと、式に遅れちゃうかしら。」<br> 言い合う二人を諌めるようにカナ姉ちゃんが式場へ先導する。さて、僕も会場に行きますかね。<br> 一生に一度の二人の旅立ちの日を見に……ね。</p> <br> <p><br> 「JUM、遅いですよ。もう少し遅かったら締め出されたトコですぅ。」<br> 式場には、自主参加の在校生が多数集まっていた。僕達姉弟も当然集まって椅子に座っている。<br> 「ごめんごめん、二人がギリギリまで学校見たいって言うからさぁ。」<br> 「全く、学校なんて式が終わればいつでも見れると言うのに。」<br> 真紅姉ちゃんが呆れたように溜息を吐く。でも、僕はそれは少し違うんじゃないかって思う。だって、二人は<br> この式が終わり、卒業証書を貰えば名実ともに卒業生……って事だ。つまり、あくまで高校生として校内を見て<br> おきたかったんじゃないかなってね。そんな事を思っていると司会の先生がマイクを手に取るのが見える。<br> 「大変長らくお待たせ致しました。それでは、アリス学園高等学校の卒業式を行います。卒業生、入場。」<br> 先生の言葉と共に、割れんばかりの拍手が式場に沸き起こる。その拍手と共に卒業生が入場する。<br> 3-Aを筆頭に次々と入場してくる卒業生。3-Bの女子の最後にはカナ姉ちゃんが少し緊張した<br> 顔で歩いている。続いて3-C、Dと来て最後に3-Eが入場してくる。<br> 列の最初の辺りにめぐ先輩。そして最後尾に銀姉ちゃんが歩いている。花粉症は治ったのか、さっきまでの<br> 涙目とは変わって相変わらず飄々としている。さて、卒業生が席に着くと再び司会の先生がマイクを持つ。<br> 「それでは、ただいまより卒業式を行います。一同……礼ッ!」<br> その声の元、全生徒がゆっくりと頭を下げる。そんな厳格な雰囲気の中、銀姉ちゃんとカナ姉ちゃんの卒業式<br> が始まった。先ずはお決まりの校長の話である。まぁ、長いだけのどうでもいい話なのでパス。<br> さらに、教育委員会とか、知事の話もパス。送辞と答辞も面倒だからパス。まぁ、話だけだしね。<br> そんな訳で、ついに式は終盤。卒業証書授与まで辿り着いたのだった。</p> <br> <p><br> 以前姉ちゃん達に聞いた話ではあるけど、我が校は何と卒業証書は一人一人手渡しで行われるらしい。<br> つまり、式で一番時間がかかる行事なのだ。でも、卒業生としては嬉しい事じゃないかなって思う。<br> 自分が確かに卒業すると言う実感。それを一人一人感じられると思う。そんな訳で、3-Aの男子一番の<br> 相川とって先輩から授与されていく。卒業らしいゆっくりと、しかし切ないBGMをバックに次々と証書が授与<br> されていく。3-Aが終わり、3-Bの女子の最後……カナ姉ちゃんが小さな体を動かして壇上へ。<br> 「金糸雀緊張してるね。手と足が一緒に出てるよ。」<br> 蒼姉ちゃんの言うとおり、カナ姉ちゃん手と足が同時に出ていた。緊張してるんだろうなぁ。<br> 「ローゼン 金糸雀」<br> 「は、はひっ!」<br> カナ姉ちゃんはピーンと背中を伸ばして返事をする。校長先生は少し微笑んで証書を渡す。<br> カナ姉ちゃんは校長から証書を手渡されて一礼。そして、大きな証書をその体一杯で抱きしめるように胸に<br> 持つと、緊張が解けたのか普通に歩いて壇上を降りていく。<br> その後、3-Cと3-Dの授与も終わり3-Eへ。<br> 「柿崎 めぐ」<br> 「はい……」<br> 流石はお嬢なめぐ先輩と言うべきだろうか。馴れたような優雅で華麗な動作でめぐ先輩を証書を受け取る。<br> 校長に一礼して、緊張も何もあったようなモノじゃない余裕さで壇上を降りていく。そして……<br> 「ローゼン 水銀燈」<br> 「はい。」<br> その長く美しい白銀の髪を揺らして銀姉ちゃんが壇上へ。校長と向かい合うと一礼をして証書を貰う。<br> そして銀姉ちゃんはクルッと振り向くと来賓へ一礼。先生へ一礼。そして、大きく僕等在校生へ一礼をすると<br> ゆっくりと壇上を降りていった。次の生徒は居ない。銀姉ちゃんで最後だったからね。<br> 「以上、200名。」<br> 銀姉ちゃんのクラスの担任の先生の声が聞こえる。これで、長い長い卒業証書授与が終わりを告げた。</p> <br> <p><br> 「続きまして、卒業の歌……伴奏は、音楽部の部長です。」<br> 司会に紹介された音楽部の部長……って事はカナ姉ちゃんの後輩かな?その女の子が一礼をするとピアノ<br> の椅子の座り一息をつく。そして、鍵盤を叩き始めると美しい旋律が式場を包みだした。<br> ♪白い光の中に 山なみはもえて はるかな空の果てまでも 君は飛び立つ♪<br> 「旅立ちの日に」だったっけな。今では定番の卒業ソングだ。学校によっては、卒業ソングは歌謡曲から<br> 選ばれたりするらしいけど、僕はこういう歌のほうが好きだな。<br> ♪今(今)別れの時 飛び立とう 未来信じて 弾む(弾む)若い 力(力)信じて この広い 大空に♪<br> ふと、僕は合唱っていいなぁんて的外れな事を思ってしまう。でも……本当にそう思うほど卒業生の<br> 合唱は聞いていて綺麗な歌声だった。思わず聞き入ってしまうほどに。少し隣を見れば、薔薇姉ちゃんは<br> 目を瞑って首を上下にゆっくり動かしてリズムを取っている。キラ姉ちゃんは小声で歌っているほどだ。<br> いつも疑問に思っていた。何で卒業の時に歌なんだろうかって。でも、上手く言えないけど感じた気がする。<br> 歌って……いいなぁってね。<br> 僕がそう思っているうちに、歌が終わり二曲目に入る。こちらも定番の中の定番だろう。<br> ♪仰げば尊し わが師の恩 教えの庭にも 早幾年♪<br> 「仰げば尊し」だな。これは僕も中学の卒業式で歌った覚えがある。<br> ♪思えばいととし この年月 今こそ分かれ目 いざさらば♪<br> 実際、言葉遣いが古くて意味が分からない所もある。それでも、僕は最後の歌詞だけでも充分な気もする。<br> いつかは、人は旅立ち分かれる。その分かれ目は今……だから今はさようなら……<br> 付け加えるなら、今はさようならだけど……また会おう……って所だろうか。<br> 二曲目も終わり、卒業生の退場にうつる。今度は入場の時を遥かに上回る大きな拍手が卒業生を包む。<br> 僕も両手が晴れ上がるほどに叩いている。本当に本当に、200人の卒業生のみなさん。<br> おめでとう御座います。</p> <br> <p><br> 「お疲れぇ~。さ、写真でも撮りましょ、写真~。」<br> 式が終わり、中庭で待機していた僕等に、卒業証書の入った筒を片手に銀姉ちゃんとカナ姉ちゃん。そしてめぐ<br> 先輩がやってきた。三人ともカメラやらデジカメやらを片手になんだか楽しそうだ。<br> 「何だかハイだね、三人とも。」<br> 「まぁねぇ。湿っぽい式は終わったしぃ~。やっぱこれは楽しまないとねぇ。あ、JUM写真撮りましょォ~♪」<br> 銀姉ちゃんはそう言うと僕の腕に腕を絡ませてピースをする。カシャリとカメラのシャッター音が聞こえる。<br> そんな感じで入れ替わりに写真を撮っていると、思い出したように薔薇姉ちゃんが言った。<br> 「そういえば……この学校は伝説ないよね……卒業式の日に伝説の樹の下で結ばれたり、伝説の鐘が<br> 祝福してくれたり、伝説の坂があったり……そういうの、あるのが常識……」<br> 薔薇姉ちゃんの常識はギャルゲーの世界じゃないんでしょうか?<br> 「ん~、だったら作っちゃえばいいのよぉ。そうねぇ……」<br> 銀姉ちゃんがう~んと考えて、ポンと手を叩く。そして僕の手を引くと中庭にある「アリス像」の前で僕の手を<br> ギュッと握った。ちなみに、アリス像というのは、ある意味我が校の象徴とも言える完全無欠の少女の像らしい。<br> 「こんなのはどうかしらぁ?卒業式の日に、このアリス像の前で告白……じゃあ温いわねぇ。キスをした二人は<br> 永遠に結ばれるって言うのはぁ。もちろん、どちらかが卒業生の時のみ有効♪」<br> 「はぁ?そもそもさ、伝説なんてそう簡単に作れる物じゃないし……」<br> でも、銀姉ちゃんは僕の反論なんて聞く訳もなく……姉妹やめぐ先輩の前で、僕にキスをした。<br> 「んんっ……えへへ~、いいじゃないのぉ。だったら、私達が伝説になればいいのよぉ。私とJUMがずっとずっと<br> 一緒に居れば、この伝説は成就って事になるでしょぉ?」<br> つまり……銀姉ちゃんは自ら伝説の証人になろうって言うのだろうか。それはそれで、何だか恥かしいんだけど。<br> 「水銀燈だけズルイかしら!カナだって伝説になるんだから……JUM!」<br> そう言ってカナ姉ちゃんは僕に飛びついてキスをしてくる。ああ、なんなんだよもう……<br> でも、でも……銀姉ちゃんもカナ姉ちゃんも学校は卒業しても変わらない。ずっと一緒だ。今までと同じで。<br> だったら……悔しいけど銀姉ちゃんが即興で作った伝説に乗るのも悪くない。きっと僕も、その伝説が真実<br> になる事を望んでるから。キスをした二人は永遠に結ばれる……そんな伝説を、ね。<br> ともかく……めぐ先輩。カナ姉ちゃん。銀姉ちゃん。本当に、卒業おめでとう。<br> END</p>

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