「第百十二話 JUMとバレンタイン 前編」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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「一つ屋根の下 第百十二話 JUMとバレンタイン 前編」</p>
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本日2月13日深夜。適当に小腹でも空いたので台所へ向かうと、そこには『JUM立ち入り禁止』と<br>
張り紙が貼られていた。仕方なくリビングに行くと、同じようにドアに張り紙が貼られていた。<br>
えーと、これはどういう事なんでしょうかね。僕に兵糧攻めでもしてるのでしょうか。<br>
兵糧攻めするならもっとするべき人があるんじゃなかろうかと思う。誰とは言わないけど、我が家の食費の半分<br>
以上を使っているあの人だ。そんな事考えていると、グゥ~と見事にお腹の虫が食べ物を寄こせと要求<br>
してくる。仕方ないな。ここは、気づかなかったフリでもして、台所へ突入しよう。<br>
そう決意して台所のドアを開くと、それとほぼ同時に僕目掛けて銀色のボウルが飛んでくるのが分かった。<br>
「うぎゃああ!!」<br>
まぁ、分かっただけで避けられる術はないんだけどね。スコーンといい音を立ててボウルは僕のデコに直撃。<br>
「この馬鹿JUM!張り紙が見えなかったですか?読めなかったですかぁ!?」<br>
後ろの倒れた僕の目の前には腰に手を当てて仁王立ちする翠姉ちゃん。何とも言えない迫力がある。<br>
「いやさ、見えたけどお腹空いて何かないかなぁっとね……」<br>
「しゃーねーですねぇ。後でおにぎりでも作ってやるですから、部屋に戻ってやがれです。」<br>
そう言われて僕はスゴスゴと部屋に戻るしかなくなった訳だ。しかしまぁ、何やってるんだろうね。<br>
どうせロクな事じゃないだろうなぁと思いつつ、階段を登っているとキラ姉ちゃんがチョコを食べながら降りてきた。<br>
「ん~……コレは少しいまいちですね。やっぱりさっきのチョコが……いえいえ、まだ種類はありますし。」<br>
一人でブツブツ言いながら両手のチョコを食べている。よっぽど真剣なのか、キラ姉ちゃんは僕に気づく事なく<br>
リビングへ向かっていった。全く、一体なんなんだよ。僕が家の異変について思っていると、これまた奇妙な事に<br>
薔薇姉ちゃんが部屋の前でピンクの長いリボンをグルグル巻いて思案を繰り返しているじゃないか。<br>
矢張りキラ姉ちゃん同様に真剣な顔つきのせいか、僕はどうしても声をかける事を躊躇してしまう。<br>
まぁ、いいか。家に限らず姉ちゃん達が変なのは何時もの事だしな。僕はそう結論を出して大人しく<br>
部屋に引き篭もっていた。ちなみに、おにぎりが来る事は無く、僕は空腹のまま寝床についた。</p>
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次の日、教室に入るとどことなくソワソワした空気が僕を包んだ。そのソワソワ感は男子だけが漂わせている。<br>
いやはや、何だろうねこれは。そんな教室に違和感を感じながらも席に着くと、すでに登校していたべジータが<br>
声をかけてくる。いつも以上に暑苦しい気がする。<br>
「ふっ、JUMよ。今日は気合入ってるぜ。この髪もいつもの五割増しセットしてきたんだ。」<br>
どこがどう五割増しなのか、見た感じさっぱり分からない。<br>
「あ、そう。今日なんかあったっけ?お前の好きな球技大会はこの前終わっただろ?」<br>
そういえば、先日球技大会があった。感想だけ言えば、べジータと担任の暑苦しさ……ってトコだろうか。<br>
「お前な……いいか?今日はヴァーレンタインデュエイだぜ?今日気合入れないで何時入れるんだよ。」<br>
そこで僕はようやく気づいた。そっか、今日はバレンタインなのか。ってことは、昨日の立ち入り禁止令も<br>
姉ちゃん達がチョコレート作ってたのかな。そう思い始めると、帰ったからが俄然楽しみになった。<br>
それはもう、昨日のおにぎりが食べられなかった事なんて気にならないくらいにね。<br>
「そういえば、お前毎年バレンタインはお菓子会社の陰謀だって喚いてなかったっけ。」<br>
「ふっ、それは過去の話よ。高校生になって、一層強く、逞しく、ダンディになった俺に女子高生はメロメロ<br>
メロン記念日ってやつさ。見てろよJUM。お前の何倍もチョコ貰ってやるからな!」<br>
べジータはそう言って僕をズビシと指差してくる。う~ん、僕だって姉ちゃん達を除けば貰えるかなんて<br>
自信はないけどさ。とりあえずべジータには負けたくないな。ベジータと火花を散らしていると、教室のドア<br>
から紙袋を大事そうに抱えた柏葉がやってくるのが見えた。<br>
「あ、おはよう桜田君。」<br>
「おはよう柏葉。今日はヒナ姉ちゃんと一緒じゃないのか?」<br>
一応べジータも挨拶をしていたが、適当にスルーされてたのは内緒だ。柏葉はゴソゴソと紙袋を漁る。<br>
そして、可愛らしくラッピングされた箱を僕の前に差し出してきた。<br>
「これ、チョコレート……桜田君に。」<br>
べジータが何故か受け取ろうとしたので、慌てて言葉を付け足す柏葉。僕はそれを有難く頂戴する事にする。<br>
「ありがとう柏葉。美味しく食べさせてもらうよ。」<br>
僕は柏葉から箱を受け取る。すると柏葉は何故か顔を赤くして言った。<br>
「か、勘違いしないでよね。ぎ、義理なんだからねっ。絶対絶対本命なんかじゃないんだからっ!」<br>
「ん?ああ、分かってるよ。でも義理でも嬉しいからさ。有難う。」<br>
うん、やっぱり女の子からチョコ貰えるなら義理でも嬉しい。男なんてそんなもんさ。<br>
「え、あ、うん……ツンデレ萌えかと思ったけど……違うのかな……」<br>
何やらポソポソと呟いていたけど、とりあえず気にしないでおこうと思う。</p>
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「あ、そうだ桜田君。はい、これ義理チョコ。」<br>
そう言って市販のチョコを僕は桑田さんから受け取った。お、白いダース。<br>
「はは、ありがとう桑田さん。有難く貰うよ。」<br>
「うん、気にしないでいいよ。さって、ちょっと配ってこようかな。じゃあね~。」<br>
桑田さんはそう言って大き目の紙袋を持って席を立ち上がった。文字通り、配るんだろうな。<br>
「く、桑田嬢~!俺にもぷりぃぃぃぃぃぃずうううう!!!」<br>
「ああ、ごめんごめん。じゃあ五円チョコね。」<br>
ベジータは桑田さんにすがるように五円チョコを恵んでもらっていた。う~ん、ひょっとして僕当たり?<br>
「桑ぴーの本命はJUMがじゃないから安心できる……」<br>
その光景を見ていた薔薇姉ちゃんが言う。ああ、やっぱり文字通り義理だったんだ。期待はしてなかったけどね。<br>
「それに……私は桑ぴーの本命知ってるから……知りたい?JUMの知ってる人だよ……」<br>
「僕の知ってる人って……ベジータか?いや、あいつはさっきそこで五円チョコだったしな。」<br>
う~んと頭を捻る。どうにも思いあたりそうな人の顔は出てこない。まさか、梅岡って事もないだろう。<br>
「分からない?桑ぴーの本命は……蒼星石……」<br>
「へぇ~、なるほど蒼姉ちゃんかぁ……って、何だってぇええええええ!?」<br>
思わぬカミングアウトに僕は驚く。いや、これはぶったまげる。そういえば、一学期に蒼姉ちゃんに告白まがい<br>
したのは覚えてるけど、本当にそっちの御人なんだろうか。<br>
「えーと、俗に言う友チョコってやつでもなくて?」<br>
「蒼星石は多分、そう受け取ると思う……でも、桑ぴーは結構マジ……」<br>
「マジですか……」<br>
この場合僕はどっちの味方をするべきなんでしょうか。姉か、クラスメイトか。まぁ、どう考えても蒼姉ちゃんだな。<br>
「JUM……愛のカタチは人それぞれなのだよ……人生色々、男も色々。女だって色々島倉千○子……」<br>
そんなものなのかなぁなんて、僕は結構本気で思ってしまった。でもまぁ……<br>
「やぁ、みんな!担任の梅岡だよ!!先生、チョコは大歓迎しちゃうよ!特に、男子からのは熱烈さ!」<br>
アイツだけは、僕は認めることが出来ないと思う。</p>
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さて、放課後。帰るかなぁっと席を立つ。ちなみに、薔薇姉ちゃんは速攻で家に帰っていった。「急いで準備<br>
しないと……」とか言ってたけど、何か大掛かりな準備するんだろうか。そう思ってると、一際元気な声が<br>
僕を呼んだ。この人に会うといつも思う。医学って偉大なんだなぁってね。<br>
「やっ、JUM君。チョコレートあげに来たよ。」<br>
めぐ先輩がなんだか高級そうなチョコの箱をプラプラと手に持っている。<br>
「あ、有難う御座います、めぐ先輩。」<br>
「ん、いいよいいよ。まぁ、私のチョコなんてこれからJUM君が家に帰ってからのメインディッシュに比べれば<br>
ゲロみたいな物だしね~。」<br>
自分のチョコをゲロ呼ばわりしますか。流石はめぐ先輩ってトコか。そんなこんなでめぐ先輩と別れると、<br>
入れ替わりのようにべジータがやってきた。しかも、何故か自信満々だ。<br>
「よう、何個チョコ貰った?……三個か。いやぁ、わりぃなJUM。俺お前の十倍は貰っちまったぜ!」<br>
む……何だか鼻につく言い方だ。まさか、本当にコイツの時代が来てるのか?そんな馬鹿なことが……<br>
「へぇ……じゃあ見せてくれよ。そのチョコをさ。随分手軽みたいじゃないか。」<br>
「え……ほ、本当に見せるのか?」<br>
「当たり前だろ。口だけなら僕だって百個とでも言えるしな。」<br>
僕がズイとベジータを追い詰める。すると、ベジータは決心したように一個の箱を取り出し、中身をぶちまけた。<br>
「見ろ!!一個、二個、三個……」<br>
ベジータはその箱のチョコ……マポロかな?それを一個ずつ数え始めた。僕は何だか見ていて痛々しくなる。<br>
「三十五……ふっ、思いのほかあっただろ……桑田嬢のを入れれば三十六だぜ!」<br>
もう哀れと言っても言い足りないくらいだ。とりあえず、僕はベジータの肩をポンと叩いて奴の横を通り過ぎた。<br>
「分かったから。お前の勝ちでいいから。お前頑張ったよ。だから、もうゴールしちゃいな。」<br>
「うううっ……くそう!!バレンタインなんてお菓子会社の政略か、野球の監督なんだよおおお!!」<br>
絶叫。うん、それでこそべジータだな。とりあえず僕はそんなべジータを放置して帰路に着く。<br>
さて、姉ちゃん達はどんなチョコ用意してくれてるんだろうな。そんな期待を胸に抱き……<br>
またどんな破天荒な事してくれるのか不安になりつつ僕は家に帰るのだった。<br>
END<br></p>